1. プロローグスタート:勧誘は突然に
他の作品が完結してませんけど、新連載開始。
うん、無責任だね。
でも、思いついたら所が無いね。
一般的な生まれ変わり転生物だよね?
「やはり、君も異世界転生者のようだね。
善哉、善哉」
「は?」
僕は困惑していた。
目の前の人物の言葉に。
そりゃ、僕は変わっていると村の人間によく言われる。
双子の妹と比べると、自分が変な子供だということは自分でも判っている。
だけど、それは僕が魔法の素質を持っているせいだと思っていた。
「ああ、このことは他の誰にも言わないから、心配しなくてもいいよ」
「あの、領主様、転生者って何でしょうか?」
僕は尋ねる。正直、ビビっている。何しろ相手は大貴族。
それも、王国創生以来最大の成り上がり者と呼ばれる人物なのだ。
外観からはそんな印象を受けない。
中肉中背の30歳半ばの男。
深みを帯びた青い瞳と、純粋な黒色の髪。黒色の髪は王国では少数派だけど、他にいないわけでもない。僕もそうだし。
顔だちも整っている。
貴族的にというには、少々野生的だけど。
着ている服は、生地は上質であるが豪奢なものでは無い。この村ではともかく、街にいけば普通に見かけるような物だろう。
でも、領主様は只者では無い。
何しろ、最下級の貴族である騎士爵家の三男として生まれながら辺境伯という侯爵位に並ぶ地位にまで出世した男。
冒険者として実績を重ね、遂には古竜殺しをやってのけた稀代の大魔法使い。
さらに、失われた迷宮と呼ばれた古代遺跡の制覇を成しとげた時代の麒麟児。
しかも、辺境伯として与えられた広大な王国最西端の無管理区を領地として与えられ、開拓に成功し、今まで注目されていない作物を育てさせて、新たな名産物や料理を生み出して領地を大発展させてきた名領主でもある。
その名は、クレハ・リ・トウゲン辺境伯。
ちなみに、僕の住んでいる村も領主様が開拓した土地に作られた開拓村だ。
つまり、彼は村の農家の4男坊の僕にとって遥か雲の上の人物で、つまり、僕ごときが本来直接話せるような方ではないのである。
「ふむ、やはり記憶までは無いか。知識は所々ある、と。
君ならいい魔法使いになれそうだね。
私みたいに」
「領主様は、魔法使いの事を転生者と呼ばれているのでしょうか?」
「そういう訳じゃないけどね。
一つずつ説明してあげてもいいけど、私も時間が無いんだ。
執務をさぼってきたから、そろそろ妻達が追いかけてくるし」
「え?」
「家令のセバスも来たら、この村が戦場になるしね」
「え?」
「酷い話だと思わないかい。私のささやかな趣味を邪魔するんだから」
「えーと・・・」
僕は返答に困る。
「お仕事は大切だと思います」
「おや、君もそんな事を言うのかい。全く、酷い世の中だ」
領主さまは肩を竦めた。
そして、顔を顰める。
「思ったより早かったな。それじゃ、用件だけ伝える。
教会小屋の卒業日に迎えを寄越すから、すぐに私の城館に来ること。
君の家には、村長を経由して話を伝えることにする。
ちなみに、これ、領主としての命令だから強制ね」
領主様は、実にいい笑顔でそう言うと、部屋の窓を開いた。
そして言う。
『では、レオ君。再会を楽しみにしているよ。またね』
それは、僕が生まれてから他人から聞いたことのない言語。
日本語で領主様はそう言った。
そのまま領主様は、窓から飛び出した。
さすがは大魔法使い。空を飛んでいる。
それは僕が初めて見た高度な魔法。
でも僕は、それに感動するよりも領主様の最期の言葉にずっと大きな衝撃を受けていたのだった。
「そうか、よかったな。レオも領主様のお役に立つんだぞ」
「そうね、わたしたちの分もご恩返しするのよ」
両親。
故郷で極貧生活をしているところを、領主様の領民募集に参加して辺境の開拓村に移住。
今までとは打って変わった快適な生活を送れるようになったため、熱烈な領主様の支持者になった二人は、ためらいなく領主様の命令を受け入れた。
というより、後押しした。
さすが領主様教の崇拝者。
「ちぇ、レオばっかりずるいぞ。俺だって領主様の騎士になりたいのに
コネ作って、俺も兵士として呼んでくれよ」
「お前じゃ、どう頑張っても平兵士だ。でも、支度金は助かる。俺、来年結婚だし。
最初から田んぼ買って、ハナに楽させてやれるなあ」
脳筋な三男はコネ狙い、次男は領主様から渡される支度金を当てにする気満々。
ちなみに長男は既に独立して、家には居ない。
「えー、おにいちゃん。いなくなっちゃうの。やだー」
「バカ、レオはこれから稼げる男になるんだから、いいモンたくさん買ってくれるぞ」
「そうなの? じゃあ、お土産期待してるー」
唯一、引き留めたそうだった双子の妹のミオは、あっさりと物欲に負けた。
村長から領主の命令を伝えられた僕の家族は、あっさりと命令を受け入れた。
「いやあ、レオ君には村の運営を手伝ってほしかったのじゃがなあ。
領主様からの要望なら仕方ないのう」
村長の爺さんも当然反対しない。
こうして、僕が領主様の所に行くことは確定となった。
「教会小屋の卒業日だと、あと一月じゃ。
この村じゃ、領都に行けるのはレオ1人じゃからな。
名誉なことじゃよ」
「僕はかなり不安なんですけど」
「レオ坊はしっかりしとるからの。皆、安心じゃ。
こんなちっちゃな頃から、いや、今でもまだちっこいかのう。
とにかく、しっかりしとった。
生まれた時は、ミオちゃんは大声で泣いとったのに、リオ坊ときたら泣き声も碌にたてなんだからの。あの時は死産じゃったかと大慌てしたもんじゃ。
乳の飲みが悪くて、うちの婆さんにまで心配かけてたが。
それ以外は、ものすごくしっかりしとったしの」
その後、僕は詳しい事情を村長に尋ねようとした。
でも、出てくるのは僕の過去の話。
正直恥ずかしいので止めてほしい。
あの頃の僕は非常に照れ屋だったんだから。
そして、僕は生まれた直後からの記憶があるので、その頃の事を言われると羞恥を覚える。
他の子供や妹には、そんな頃なんて憶えていないって言われてショックを受けたものだった。
「他の悪ガキ共と違って、やんちゃ悪さをするでもなし、我儘をいう事も無し。
しかも、二つの時に魔法の兆しも見せたしの」
「今でも扇風機代りにしか使えないけど」
「扇風機ってなんじゃ?」
「あ、えーと、団扇みたいなものです」
「いきなり、変な事を言うのも変わらぬの」
またやってしまった。
僕は昔から皆の知らない言葉を言ってしまう事がある。
理由がわからないけど、何故か不意に脳裏に言葉が浮かぶ時があるんだ。
そんな言葉を口にだすと、周囲は、お前は一体何を言っているんだ? って顔になる。
「教会小屋に通う前に、数の計算もできてたし、天才児じゃと思っておったら、やはり領主様の目に止まったのじゃな」
まあ、教会小屋はそれが目的じゃしな。と呟く村長。
教会小屋とは、領主様が始めた制度で6歳から全ての子供に読み書き計算などを教えるための場所だ。
領主様の領地内にある全ての村と町に教会小屋は建てられている。
教会小屋に通うのは3年間弱。
領主様からの命令で、そこに子供を通わせることは領民の義務になっている。
通学させないなら、最悪、領地追放という重い刑が待っているのだ。
これは王国内の他領では存在しない制度らしい。
そして、その中で見込があると思われた人間は、卒業後、領主様の領地経営に携わるために更なる教育を受けるようになる。
教会小屋の先生曰く、「文官と魔法使いは育てないと無理、兵士は勝手に生えてくる」
本来は、領主様の言った言葉らしい。
閑話休題。
「結局、僕はどうなるんですか?」
「レオ坊はのう、魔法使いになるための教育を受けることになるようじゃな。
しかも、領都の領館でじゃ。
よかったのう、エリートコースじゃ。出世したら村孝行をお願いするかの」
「でも、他にも魔法使いになるための教育を受ける人もいるじゃない。ほら、3軒隣のレイちゃんとか。5年前のタロさんとか」
「あの子たちは、領館ではなくて門街の方で教育をうけておる。他の子の数も多い。
レオ坊が選ばれたのは、もっと少数での教育コースじゃ。
聞く所によると、毎年数人しか受けられないという難関じゃな」
「僕の魔法程度で、そんなところに行って大丈夫なの?」
「きちんとした教育を受けるまで、魔法なんぞ使い物にならんよ。
レオ坊なら心配ないじゃろ」
村長さんは笑顔のままだ。本当に心配などしてないらしい。
産まれてから今までの間で、そんなに信用される事してたかな?
僕、まだ9歳なんだけど。
「ほら、これが領主様の召喚状じゃ。内容をよく読んでおくんじゃな」
村長に渡された1通の手紙。
綺麗で丈夫な紙に書かれている。
この紙も、領主様が考案して作らせた領地の特産物の一つだ。
そこに書かれていた内容は、僕にとって悪いことはなかった。
領都での生活は全て、領主様が保証してくれる。
そして、5年間、魔法使いとして教育を受ける。
その間は、領館所属となるため、給料まで出る。
教育終了後は、条件さえ満たせば好きに生活しても良い。
生活の心配なしで魔法使いとしての高等教育を受けさせてくれる上に、お金まで貰え、更に、将来は自分の好きにしてもいいって・・・条件が良すぎて怖い。
「村長さん、旨い話には裏があるっていいますよね?」
「レオ坊は、いろんな諺も知っておるのう。
なに、領主様がなされることじゃ。心配など無いわい。
それともレオ坊は、嫌なのかな?」
「・・・断る理由はないです」
これだけの好条件を蹴るような将来のビジョンがあるわけじゃないし。
しかも、相手はこの領地の最高権力者の領主様。
直接顔を会せて勧誘までされているのに、断るなんてできる筈がない。
「じゃろう。感情的に家族の元を離れるのが嫌だって子もいるがの。
リオ坊はそういう事に左右されぬわな」
「家族が嫌いって訳じゃないですよ」
「わかっとる、わかっとる。そういう事を言いたいわけじゃないわい」
村長さんは僕の頭を撫でる。
「なにせ、この村が出来てから一番の天才児・神童じゃからな」
「二十歳すぎたら只の人にならないよう頑張ります」
こうして僕は領主様の元に行く事を決意したのだった。
初めて、最初からストックがあるので、しばらくは連日更新!!
予約更新ってやつかな?
失敗しないかどうか不安ですけど。