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「バイトクビになったの二回目! 」
ビールジョッキを片手に、僕は高山の鼓膜が破れんばかりに叫んだ。
「お疲れさん。そしておかえりニート。」
高山は片方の耳を塞ぎながらも、嫌な顔一つせず話を聞いてくれている。
「山瀬くん君はね、仕事は速いんだけど、目つきがちょっと。」
特徴的な店長だから容易に真似が出来る。顎を撫でながら話す姿は本当に憎たらしい。鏡の前で真似すると、写っているのは自分なのにイライラする。
「目つきでクビになったの? 」
高山は僕の目を一度見ると、納得したようにイカゲソにかぶり付いている。
「そうそう。お客様が怖がるからってさ。面接の時に言って欲しかったけどね。」
高山はまぁね、と言いながらビールのお代わりを店員に伝えている。真面目に働いていたからこそ、店長の言葉はずっしりと僕の中に沈んでいた。眼鏡はダサいし、コンタクトは怖いと言って、眉間に皺を寄せ、目を細めて子ども時代を過ごしたせいか、今でも時々やってしまう。確かに店員がそんな顔をしていたら、お客さんも怖いかもしれない。
「何かいいバイトないかな。接客業じゃないやつ。」
また怖がられると言われてクビにされたらたまったものじゃない。
「就職するつもりはないのか。」
高山はそう言って笑いながら、鞄の中をガサゴソと漁っている。
「今の所ないかな。フリーターって気楽だし。」
高校を卒業してから、正社員として二年程働いたが、毎日いなくなりたいと思っていた。仕事に追われ、理不尽に上司に怒鳴られ、大学に進学した同級生を見る度に、就職したことを後悔した。辞める時も何度も怒鳴られ嫌な目で見られたが、もう会うことはないのだと、仕事場に来ることはないのだと思うと、辞表を出すのは全く苦ではなかった。
そして今、フリーターの気楽さを知ってしまった僕は、もうあの息苦しい職場に戻ろうという気も、自信もなかった。
「ほら、良い感じの仕事何個かリストアップしといた。」
そう言いながら見せてきたノートには、職種、店名、仕事内容、時給などがこと細かに書かれている。
「相変わらずすごいな。」
高山は、雑誌やネットの求人情報をまとめるのが趣味らしい。高校生の時、いいバイトが見つからず何度か世話になっていた。
「交通整理、引越しに郵便の投函……」
接客業を除くと仕事はかなり限られる。
「あ、これが俺のオススメね。」
高山はノートの一番下に書かれたデパートの清掃業を指差した。そこには、開店中のフロアの簡易清掃、閉店後の――勤務時間九時〜九時、シフト制と書かれている。
「ねぇ、これ勤務時間は二十四時間 ってこと? 」
ふと疑問に思い高山に問いかける。デパートの清掃で二十四時間制なんて聞いたことがない。ましてや、このデパートの開店時間は九時〜二十三時のはずだ。
「あぁ、そうだよ。そのデパートは 清掃業に力を入れていてさ、閉店後も清掃スタッフが残って、全フロアピカピカにしてから開店するんだよね。」
「へぇ。珍しいね。」
サービス業なのだから、清掃に力を入れているのは普通なのかもしれない。しかしデパートで二十四時間制は聞いたことがない。
「なんでオススメなの?」
清掃に力を入れているのは分かるけれど、それがオススメするほどの理由になるのだろうか。
「ここだけの話、清掃業に力を入れすぎて、デパートの中での清掃スタッフの位置がかなり高くなっているんだよ。店長でさえ、清掃スタッフのリーダーには頭が上がらない。バイトでも売り場のマネージャーは逆らえないんだ。もちろんそんなことは知られていないし、清掃業ってことで応募も少ない。面白くない? 」
「そんなことあんの!? 」
口の横に手を立てひそひそ声で話していた高山に対し、興奮した僕は無意識に声を荒げていた。周りで飲んでいたお客さんも何事かとこちらを見ている。高山はすみませんと周りに謝りながら、
「かなり掘り出し物だと思う。とりあえず面接だけでもさ。」
と言いながら目つきには気をつけろと肩を叩いてきた。高山はまだ飲み足らないのか店員に笑顔で注文をしている。明日にでも電話してみよう。そう思いながら、酔いが回り始めた高山をどう家に帰すか考えていた。




