禿は禿らしく禿げてなさい
これは、どこにでもいるようなある家族のお話。
※初投稿です。至らぬ点が多々ありますので指摘などありましたらお願いします。
俺の父は禿だ。それを隠すためにスキンヘッドにしている。
先日、父がやけに嬉しそうに帰ってきた。理由を尋ねると、
「母さんには内緒だぞ。・・・・実はな、育毛剤を買ったんだ。」
と返ってきた。どうやら高価なものらしい。
「これで禿とはおさらばだ!」
俺は父の小さな夢を応援しようと思った。
しかし、その夢が叶うことはなかった。
「あなた、これは何?」
数日後、仕事から帰ってきた父に母が尋ねた。
「そ、それは・・・・」
母が手に持っていたのは父の育毛剤だった。
「洗面台にあったわよ?」
どうしてそんなところにと思ったが、家中の掃除をする母に物を隠すのは難しい。変な場所に隠すと逆に怪しまれてしまうのだ。ちなみに俺のエロ本は隠し場所の定番ベッドの下に入れていたが気付かれてしまい、処分されるかと思いきや、「どうせあんたの部屋に女子なんて遊びに来てくれないでしょ。」と堂々と本棚に置かれることになった。俺だってモテる日が来るかも知れないだろ!・・・・いつかは解らないけど。しまった、話が逸れてしまった。とりあえず、父は木を隠すなら森の中という感覚で育毛剤を洗面台に置いたのだろう。
しかしそこは、母が一枚上手だった。
「これ、育毛剤って書いてあるんだけど?」
「・・・・・そうだ。」
父が観念したかのように頷いた。
「どうして買ったの?」
「髪が欲しかったんだ。」
「なんで? 今のままで良いじゃない。」
「ハゲって言われるのが嫌なんだよ!」
ついに父がキレた。
「お前にはわかんないだろ、俺の苦しみなんて! 俺のこの髪はスキンヘッドだっつうのに。嫌がらせか!」
「どうせ貴方禿でしょ?」
「俺のは天辺だけなんだよ! 側面は剃ってるからあいつらの言ってるハゲじゃねぇんだよ!」
なんか父がハゲについて語っている。そんなにハゲ嫌か。まあ、俺も嫌だけど。
「いい加減にして! 禿は禿らしく禿げてなさい! 金をそんなことに使うな!」
母の剣幕に父はたじろぐ。
「貴方はその頭の方が良いのよ! スキンヘッドがとても似合ってるの。無理に髪を伸ばそうなんてしない方が良いわ。」
「お・・・おう?」
頷きながらも父は疑問符を浮かべる。
「貴方の髪はいつも私が剃っているでしょ? 他の人達には妻に剃ってもらっているって自慢したらいいんじゃない? この頭は愛の証と言わんばかりに。なんなら、私に無理矢理剃られていることにしてもいいわ。」
「・・・・わかった。」
「そう、わかればいいのよ。」
こうして、父はスキンヘッドに戻ったのだった。
父は今仕事場で、
「このリア充が!」
とよく言われるらしい。・・・・父の仕事場の連中がモテなさ過ぎではないか? 四十代の父にそれを言うというのはおかしい気がする。俺は絶対そうなりたくない。何がとは言わないが、頑張ろうと決意した。
あの時何故母があんなに父の育毛を拒否したのか気になった俺が尋ねると、母は俺に古いアルバムを差し出してきた。そのアルバムを開いてみるとそこには、
「・・・・もしかしてこの人が?」
「そうよ。わかったでしょ?」
この世には、知らなくていいことが在る。それを改めて思い知らされた瞬間だった。
「ねぇ、俺もこんな風になるのかな?」
恐る恐る聞いてみると、母はにっこり笑った。
「大丈夫、貴方の髪はちゃんと私の遺伝子を引き継いでいるわ。」
「よかったぁ。」
安心する俺に、母は水をさした。
「それに、万が一そうなってもスキンヘッドにすればいいでしょ?」
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。
しばらくはこんな感じの短編を書いていこうと思いますので宜しくお願いします。