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試される大地  作者: 石達
第3章 戦乱期
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On-the-Job training(OJT)2

ロシア人のおっちゃんから貰った自家製の酒飲んでたら、酔っぱらって更新できなかったよ……

(自家製酒はロシア人のおっちゃんがロシア国内で勝手に作ったモノであり、作者は日本国の法律には一切違反しておりません。完全なるシロです)

ペレイラの方針がヘルガより示されはしたが、それからは暫くはある意味で平穏な日々だった。


ヘルガに営業ノルマが強制されたものの、さすがに某太陽熱温水器の営業の如く、強引な押し売りをする訳にもいかない。

その為、結局は飛び込み営業自体も他の教育計画との調整が図られ、定時までの空いた時間をすべて充てるだけに落ち着いた。

そのスケジュールは、基本的に午前中はソフィア達にしごかれて銃器の扱いを体に染みこませ、夜は酌とともに船に乗り込んだコネリー爺さんに魔術の特訓を受け(ペレイラ達は、その時になって初めて知ったが、コネリーさんは平時の魔術で食い詰めて礼文まで行ったが、戦闘用魔術はなかなかの使い手だった)、午後とその他の空いた時間は、飛び込み営業という名目で、周りの商船を回っていたのだ。

だが、休憩時間を含む全ての時間を慣れないの教育に充てられる…… それは彼女にとっては非常にストレスのたまるモノだった。


そもそも所、いきなり契約を取ろうと飛び込んだところで、彼女の訪問販売に対し、基本はお断りが殆どだ。

だが、一部例外に資金的な余裕のある商人が色々と護衛のオプション契約をしてくれるのだが、それがまた問題のある相手であった。


「どーも。最新のライフルや護衛契約はいかがですか?(レイプ目」


「ぐふふ…… ねーちゃん、また来たな。

話ならなんぼでも聞いたるで。ちょっと部屋に上がっていこか。

酒でも飲みつつ、ようけ説明してくれや。

まぁ、説明だけじゃなく、ちょっとおっちゃんとスケベしてくれたらナンボでも契約してやってもええんやで? ぐぁっははっは!!」


「いやーだー…… 社長さんったら、冗談ばっかり上手ですね♪(くっ……もう限界……)」


全くの遠慮なしに尻尾の付け根だの腰だのに手を回してくるのをペレイラは相手の手のひらをつねって防御する。

だが、相手はそれも織り込み済みでセクハラしてくるので、全く持って懲りた様子はない。

どうにも相手は水商売の嬢を相手にしている感覚でやっているようだ。

だが、ペレイラが嫌悪感に任せて相手をぶっ叩きたい衝動に駆られても、現状で契約をくれるのはエロ商人のみ……彼女のストレスゲージはマッハで溜まっていくのであった。


だが、そんな日常において彼女にも癒しというのは少なからず存在する。

エロ商人にセクハラを受け、小口の契約を取った彼女は、その後何隻かの商船を回って徒労感を蓄積したのち、一隻の船にグエンとともに降り立った。

そこは彼女にとって癒しの空間。

貧乏人の集まりの巡礼船では契約獲得など無理な話ではあるが、そうと割り切ってしまえば全く肩の力を入れる必要のない空間であった。

そんな癒しの空間にペレイラが来ると、すでに顔見知りとなった巡礼者の子供が彼女に向かって駆けよってきた。


「こんにちはー」


「あ、ドラゴンのおねぇちゃんだ!」


ペレイラはその頭を撫でながら、巡礼船のリーダーである老人に頭を会釈をしながらテンプレになりつつある言葉を口にする。


「今日も会社の案内できたんですけど……」


だが、そんな彼女のテンプレと化した挨拶に、老人は無下に扱うでもなく笑って答えた。


「あんたも大変だな。

何度も言うようで悪いが、巡礼を終えたわしらにはもう金は無いよ」


既に何度も繰り返されたこのやり取り。

ペレイラの方も最初に銃器カタログ本を置かせてもらって以降、それ以上の勧誘は無理だと諦め、それ以上の言葉を続けなかった。


「そうですかー。

じゃぁしょうがないですねー。

とりあえず、お菓子が手に入ったんでお茶しませんか?」


そういって手さげのカバンからゴソゴソと飴等の甘味を取り出すペレイラに、巡礼船の子供たちからの歓声があがった。


「ほう。随分といっぱいあるが、今日は一体どうしたんだい?」


「さっき営業で回った商船で貰ったんです。

どうにも鉄成金の商会の船だそうで……あのエロオヤジ、すっごい下品で助平でカスな顔してる割に気前が良いのが逆に腹立つ……」


「鉄成金か……」


「他にもこの船団には服成金や茶成金とか、あと銀行家の自家用船もありました。

キィーフ本国は没落した人もいっぱいいましたが、儲けてる人は儲けてるんですねぇ……

なんでも、北海道から導入した電子取引が普及したおかげで、ああいう人たちに大陸の銀行家が湯水のごとくお金を貸してくれるそうですよ。

私の実家には誰も貸してくれなかったのに世の中不公平ですよね」


ペレイラの言う通り、現在の世界情勢では大変貌を遂げる産業についていけず、ペレイラのように没落した者がいる一方で、時流に乗った又はしかるべき投資をした者には莫大な富が集まっていた。

北海道から制限付きながらも挿入された技術は、各国の産業に近代化をもたらし、その成長スピードはばらつきがあるものの、早い所では00年代の中国もかくやといった具合だ。

そして、それを実質的に加速させているのが電子通貨とシステムごと輸入した電子口座管理の存在だ。

現物を必要とせず、紙よりも正確性に優れ、光の速さで決済を可能にする……

それらは、その利便性から、北海道との取引に必須な円だけではなく、国外の通貨にも広がりを見せいた。

富の流通の舞台を現物や紙の上から情報の上にと移す電子商取引。その少なくない影響は、各国のマネーの総流通量に直結した。

今、この世界の大多数の人間が、流通する資金の総量はと問われれば、それは各国の鋳造した貨幣の総量だと思うだろう。

だが、それは真実ではない。

中世的な金融システムから脱却し、金兌換紙幣や證券なども流通しつつあるこの世界において、世の中に出回るお金のうち、そのほとんどを作っているのは国ではなく銀行家である。

銀行家は預金者から預かった金をローンとして客に貸し出す。

だが、預金者が一斉に引き出さなければ払戻金が足りなくなる等の問題は起きないため、銀行家は預金額を超えた額をローンとして貸し出している。

預金額と貸し出したローンの差。

この差額は、銀行が債権という資産にして作り出したマネーなのだ。

その量は法的な規制がなければ原資の何倍でも作り出せる……それも無尽蔵に。

そして、そんな銀行家の信用創造に対し、必要な対策を打っている国家は多くはない。

抑制策として貸出限度額を中央銀行への預金で拘束する制度などがあるが、道東の助言を多く聞き入れ預金の10倍程度で収めたゴートルムを除くと、サッポロの影響の強いエルヴィスでも20倍であり、その他の国などは青天井であった。

銀行家により各国の殖産興業に潤沢に供給される資金。

システムの破たん経験がない以上、各国はその麻薬の使用をやめられないのだ。

そして、その結果が、ペレイラの言うような多くの成金の誕生である。


「あんな無駄な契約で浪費するお金があるんなら、私の実家が何度助かったことか……」


ペレイラはそんな現実が気に入らないのかブツブツと一人文句を言いながらお茶を啜る。


「まぁそう不平を言ったところでどうにもならんよ」


「それもそうですけど……」


不満を言っても何も解決しない。

だが、あれだけの浪費を見せつけられると愚痴も言いたくなる。

だが、そんなペレイラに対し、老人は悟ったように言葉を続けた。


「煩悩を捨て、一心に祈りなされ。

さすれば道が開けるかもしれん」


そういって老人は手を合わせて何かに向かって祈り始める。

それは金銭への執着など何も意味など無いかの如くであったが、その光景を見てペレイラは眉を顰めつつ一つの疑問を口にした。


「祈る……といってもイグニス様じゃないんですよね?」


この老人は一体何に対して祈っているのか、その詳しい所はペレイラも未だ知らない。

そもそもの所、この巡礼船は東から西へ向かう。

これが往路であれば、ペレイラは何の疑問も持たなかった。

田舎から教皇庁に巡礼しに行くのであろうと思えたからだ。

だが、この巡礼船は復路を航行している。

教皇庁とは真逆の方向に巡礼に行き、そして戻ってきたのだ。

これが意味する所は、まず間違いなくイグニスの信徒ではなく異教徒だ。


「まぁ異なる神ではある……だが、そうだと知って嬢ちゃんはどうする?

竜人が熱心なイグニス教徒という訳でもあるまい」


魔術という神秘の力を使いうのにイグニス教という媒介のいる人族と違い、精霊魔法を使い、精霊を信仰する種族でイグニス教徒は非常に少ない。

老人の言うとおり竜人との血が混ざるペレイラは、文化的な面で慣れ親しむ以上には信仰心は厚くは無かった。


「私は魔術学校に行ったこともあり基本はイグニス教徒です。

まぁ、見てのとおり竜人の血も混ざってますので熱心ではないです」


「亜人はイグニス教では差別対象じゃからの。

信仰を捨てる気は?」


「信仰を捨てたのがバレると破門になります。

そうなれば、教皇庁でやった魔術の契約の儀式自体を無効にされて魔術が使えなくなりますので……

ちょっと……都合が悪いです」


破門され魔術が使えなくなるデメリットを考えれば、ペレイラにとって信仰を捨てる利点は無い。

熱心ではないとはいえ、魔術を使う彼女にとって信仰は現状で利益の有る物なのだ。


「ふむ……お嬢ちゃんも色々と大変なようじゃの……」


「しがらみの多い世の中ですので……

でも、教皇庁の魔術学校に行ってなければ、今頃は親の借金を肩代わりする為にチビデブハゲの成金親父の妾にされてたかもしれないし、それを考えればイグニス様のお蔭で助かってるともいえます」


ペレイラは改めて今の境遇を考えてみる。

確かにイグニス教の魔術を学んだお蔭で、自分の想像する最悪な結果は回避できたと言える。

普段それほど信仰心の熱くはない彼女だが、その事実を回想してみれば素直に神様に感謝していいと彼女は思った。

ペレイラは胸の前で手を組み、神に感謝の祈りをささげる。


「……なるほど。

お嬢ちゃんにとってはイグニス様は救いを下さったか」


「といっても神様は試練を超えた者を救うと言われてますので、私の試練はまだまだこれからかもしれませんけどね」


彼女の言うとおり、伝承のイグニスは戦神の為、自己を鍛え、聖戦に備えるものを導くとされる。

戦い、試練に打ち勝った者だけが救われるのだ。

だが、鍛錬の神の試練は、どこまでが区切りかは誰もわからない。

信者の生ある限り試練は続くと思ってもあながち間違いではない。

ペレイラは頬を掻きながらその事を語るが、そんな彼女に対して老人はどこか冷めた目でペレイラを見た。


「そうか。

お嬢ちゃんは強いな」


苦笑を浮かべつつ老人はペレイラに言葉を返す。

そして、その後にペレイラに聞こえないような小声で言葉を続けた。


「……だが、そんな神の与える試練に対して、乗り越える力の無いモノは一体どうしたら良いんだろうな」


力なく漏れる老人の言葉。

それは誰にも聞こえる事もなく、静かに海上の風にと消えていくのであった。

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