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試される大地  作者: 石達
第2章 発展期
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北見攻防戦2

挿絵(By みてみん)

北見西部 ショッピングセンター内

石津製作所 警備部臨時指揮所


「機動戦闘車2両撃破です。

それと敵歩兵部隊とも接触」


接収したプレゼン用スクリーンに映し出された作戦図を見ながら、エレナは落ち着いて報告を聞いていた。


「よろしい。

第一斑を下げて。

ゲリラ戦に勤めながら所定のポイントに移動」


「了解。

西北見駅近辺まで部隊を下げます」


エレナの命令を部下達が迅速に各部隊に通達する。

電子戦の影響によりネット環境が使えぬため、昔ながらの無線指示ではあるが、それでも作戦図上の部隊配置を見る限り、用兵は問題なく出来ている。

そして地の利はこちらに有り、今の所は受け持た戦線は優勢に推移している。

だが、そんな状況であっても、エレナの表情は不機嫌であった。


「……民間人が邪魔すぎるわ。

避難状況はどうなってるの?」


エレナの不機嫌の原因。

それは住民の避難の遅れである。

既に戦闘地域に取り残された住民に被害が出ており、それがエレナの眉間に皺を作る原因となっているのだ。


「現在、警察・消防及び市が避難を呼びかけてます。

ですが、住民にとって初めての事態な上、自家用車ではなく徒歩で北見駅へ向かい鉄道で疎開するよう指示してますので進捗は遅いようです。

特に高齢化の影響で一人暮らしの老人の非難がネックになっています。

災害の際に公民館へ移動するのとは訳が違いますし……」


「鉄道ねぇ……

まぁそれも全て裏目に出たわね。

市街の主要な通りは既に大渋滞と放置された車で麻痺。

お蔭で郊外へ自力で脱出も満足にできない。

そんな状況で老人に数キロ移動しろなんて言っても、危険を承知で自宅に残る人も出てくるわ」


「現状がまさにそんな感じです」


「これについては引き続き役所に任せましょ。

流石に避難誘導までする人員は私達には無いわ。

私たちは私たちの仕事に専念しましょう。

考えを戦闘だけに向ければ、私たちは作戦通り敵戦力は誘引できている。

これで私たちが敵を誘引して、援軍が突出した敵の退路を断ってくれれば包囲は完成……

あとはどれだけ相手を乗せられるか、前線の部隊の活躍にかかってくるのだけど…… やっぱり警備部の中でも獣人部隊は優秀ね。

ちょっと、アコニーの小隊を呼び出してくれない?」


作戦図を見る限り、アコニーの獣人部隊は効果的な戦果を挙げ、現在はポイント移動中だ。

エレナはそんなアコニー達を激励するため、彼女にコールした。


『第一斑よりコマンドポスト。

何かありました?』


「先程の戦闘よくやったわ。

機動戦闘車2両にその他車両複数食べちゃったなんてやるじゃない。

貴方達は、このまま作戦通り現状のゲリラ戦を維持しつつ押し負けているように見せかけて西北見駅まで移動。

その後、夕陽丘通で突出した敵部隊を食べるわよ。

既に2個小隊が近くの学校に潜んで挟撃に備えてるし、準備が済めば軍も攻勢に出てくれるわ。

同士撃ちに注意して」


『了解。

……ですが、政府軍の奴らを本当に信頼していいんです?

敵と戦意が違いすぎますよ』


この北見の市街戦では2系統の部隊が居る。

一つはエレナ達の傭兵部隊。

そしてもう一つが正規軍の部隊だ。

だが、これには問題があった。

新編の部隊の為、構成員の大多数が先ほどショッピングセンターから移動していったような若者ばかり。

総じて練度が低いのだ。

なので、第二師団の精鋭と対峙した時、押し負けるのは当然。

しかも、構成員が非日本人ばかりと言うこともあり、第二師団側にも容赦は無かった。


「今、北見西部に展開している部隊は練度不足のガキばっかりよ。

ブルっちゃうのも仕方ないわ。

美幌の精鋭は訓子府に拘束されてるし、贅沢は言えないわ。

それに、敵にしてみたら異民族の敵は色々と分かりやすいんでしょ。

そこら辺も戦意の差になってるのよ」


『だからと言って、そんな連中を作戦の根幹に組み込むのはどうかと……』


「うだうだ煩いわよ。

それに攻勢に出て包囲殲滅するのは国後からの増援の役目。

今の部隊は戦線の維持さえできれば御の字だからあまり気にしなくてもいいわ。

だけど、それも援軍が来るまで持ち堪えることが前提だから、今は死ぬ気で働くしかないのよ」


『"死ぬ気で"ですか……

それは大変だなぁ。特別手当は出ます?

例えば、うちの娘を武くんの嫁にしてくれるとか』


「馬鹿言ってんじゃないわよ。

職務規定以外のモノは出ないわよ。

残業代は時間外労働で1.25倍。深夜と休日勤務で1.5倍」


『え~』


「その代り基本給は良いし、福利厚生は厚いでしょ。

それが嫌なら組合でも作る事ね。

だけど、労働組合はコミンテルンの指導が必要だから、コミンテルン=ロシア人=私の指導下でしか存在は許さないわ。

赤旗振るなら当然ね」


『う~ん。なんかそれも本末転倒な気がするけど……

まぁいいや。ちょっと"死ぬ気"で頑張ってみる』


「でも、だからと言って勝手に死ぬんじゃないわよ。

勝手に死んだら職場放棄で懲戒解雇だからね。

退職金も出ないわよ」


『お~怖い怖い。

じゃぁ せいぜい頑張りまザ――』


仲良さげに会話を楽しんでいた二人であったが、突如、会話の途中で雑音と共にアコニーの無線が途切れる。


「?! どうしたの? アリョー?!」


何度かコールを送ってみてもアコニーからの返事は無い。

代わりに建物の外から遠い爆発音が聞こえたが、それがエレナに悪い想像をかきたたせる。


無線の途絶と爆発音の到達時間のずれは、大よそアコニーが居た地点からの距離を音速で割った秒数と大よそ一致する。

そして外部を映すモニターには、西側の空に黒煙が上っているのが見えた。


「まさかやられたんじゃ無いわよね……」


アコニー達が移動していた辺りは最前線より一歩引いた辺り。

多少は安全かとも思ってコールをしていたが、それも絶対ではない。

エレナは唇を噛みしめつつ、顔を左右に振って沸き起こる感情を振り払う。

アコニーが心配なのもあるが、それと同じくらいアコニーの部隊は重要だ。

彼女らがやられれば、作戦の成否にかかわる。

エレナはアコニー達の部隊の安否確認を指示すると共に、作成ん上重要なもう一つのファクターの状況を確認する。


「状況は?

援軍の到着はいつ?」


「現在、国道39号線を西進中。

美幌バイパス近辺を通過」


援軍はまだ時間がかかり、戦線を一緒に維持する友軍は頼りない。

それは特に状況が変わったわけでは無いのだが、それでも戦況を維持する方策はあった。

だが、その作戦には重要なピースが有り、それがアコニー達だった。

歯車が、軋みながら狂い始めた。


そして、アコニーとの通信途絶は敵攻勢の前触れであったのか、悪い知らせは連鎖する。


「副社長!39号線沿いで抗戦している軍部隊が潰走!押し負けています!

軍は本町付近で戦線の再構築をすると言っていますが、それが突破された場合、我々の部隊が孤立します!!」


軍から連絡を繋いでいた要員の切羽詰った声が指揮所に木霊する。

同時に作戦図上に示された軍の配置は予想外の後退を始めた。

じわじわ押し下げられる戦線、このショッピングセンターも間もなく最前線となるだろう。

だが、そうなった場合、挟撃用に待機していた部隊は遊兵化してしまう……


「……軍から何か要請は?」


「今の所ありません」


指揮所の中に沈黙が支配する。

状況は悪く、なおかつあまり時間も無いのは明らかだった……


「……アコニー達の安否が確約できない以上、このまま黙って作戦の推移を見ている事は出来ないわ。

このままアコニーにコールを続けて、もし反応が無いようならば作戦をBプランに変更!

挟撃用に待機していた部隊をこちらに戻して。

本部要員をすべて投入してでも敵戦力を誘引。

ここで防衛戦を行うわ。

援軍が到着さえすればなんとでもなるけど、その前に戦線が崩壊したら元も子もない。

敵攻勢を頓挫させる為に動くわよ」


「でも、軍からは未だ何も……」


「当初の作戦通り敵先鋒をスマートに包囲撃滅できれば良かったんだけど……

軍が潰走し、アコニー達がやられた可能性が排除できない以上、私たちがやるわよ。

それに私達は正規軍でもなく、云わば民兵みたいなもんよ。

古今東西、民兵は多少暴走するもの……そして勝ち残れば英雄よ!

魔術兵も虎の子の戦車も全て出しきって敵を止めるわ」

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