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試される大地  作者: 石達
第1章 邂逅期
52/88

別れ、そして託されたモノ2

機内でエルフの凶手がカノエを襲っている頃。

ヘリから落とされた3人は、慣性のまま緑の草原の上を転げ回っていた。


「ふぎゃぁぁ!!」


ヘリが減速し、降下したと言っても、その勢いは相当なものだ。

潰れたカエルの様な叫び声を上げるアコニ―と共に、拓也達は慣性のままにゴロゴロと地上を転がる。

そうして、何回転かした末にようやく止まったのは、着陸から十数m離れた地点であった。


「いててて…… 皆、大丈夫か?」


草原に寝転がった体制のまま拓也が皆の安否を確認する。

勢いが結構なものであった為、何か障害物にぶつかれば大けがしかねない。

だが、幸いにして、ここは帝都ティフリスからバトゥーミの間に広がる低木の森林地帯の中でも周りに木々の少ない草原であった。

ヘリのパイロットが機転を利かせてそちらに降ろしてくれたようだ。


「うぅぅ……」


付近より聞こえる二人のうめき声。

暫く二人は唸った後、一番対地高度の低かったエレナのほうがムクりと起き上がり返事をする。


「こっちは大丈夫……って、拓也!?」


エレナ頭を上げて周りを見れば、遠巻きに大勢の人間がこちらを見ていた。

そもそもが、森林地帯のなかの限られた空地。

それもティフリスとバトゥーミを最短距離で結ぶルートを飛行していたため、近くに街道もあったのだろう。

街道沿いの空き地となれば、大所帯の集団が偶然野営していてもおかしくはない。

偶然いして居合わせた人々。

そのどの顔も急に空から現れた拓也達に対して、驚きを隠せないようであった。

だが、そんな偶然出会った彼等の正体は、拓也達にとっては最悪に近いものであった。

騒ぎを聞いてわらわらと集まってくる人間。

それは帝都で何度も見た服装に身を包んでいる。

黒い軍装、彼らはサルカヴェロ兵であった。


「サルカヴェロ兵!? いやでも、何か違う……」


装備こそ帝都で見たサルカヴェロ兵。

だが、それを着ている兵士が違う。


「獣人……とうか狐か。

あの監獄にいたのと同じ部族だな。

でも、装備はサカルトヴェロ…… でも何かおかしいな」


拓也は知らなかったが、拓也らの周りを囲うのは、属州の民の徴募により編成されたサテュマ人による第二師団である。

常日頃から戦闘意欲旺盛にして乱取り上等な獣人の精鋭兵団だったのだが、拓也が疑問を感じたのはそう言ったところではない。

主な疑問点は兵士たちの格好による物が大きかった。

武器も持たぬ負傷者の山。

よしんば武器を持っている者が居ても、その表情には恐怖の色がある。

拓也の周りにいたのは、そんな敗残兵のような集団だった。


「一体何があったのかは知らないけど、歓迎されてないのはよく分かるわね。

拓也……、早くヘリに戻らないと非常にマズイわよ」


「あぁ……

だが、その前に……

下手に刺激しない様に逃げるぞ」


そう言って拓也はジリジリと距離を取る。

上空では、一度拓也らを降ろして飛び去ったヘリが大きく旋回して戻ってくるのが見える。

このまま変に彼等と衝突せず、飛び去る事が出来ればそれに越したことはないのだ。

だが、それは余りにも過ぎた願いであった。

ボロボロとはいえ、戦闘集団であるサテュマ兵を前にして明らかに怪しげな人間が素通りすることは出来ない。


「拓也!あそこを見て!」


エレナの指差す先。

拓也らを囲う一般の兵とは別に、サテュマ人の集団の奥に動きがあった。

何組かの兵達が旧式な形状の砲を空に向け始めたのだ。

それもヘリが飛んでくる方角に向けて。


「危ない!」


拓也の叫びと大砲の咆哮は、ほぼ同時であった。

ドォンという発砲音を背に、拓也は有らん限りの声を使って無線でヘリに危険を伝える。

一拍の間を挟んで、空中で砲弾が爆発。

ポンと小さな花火の様な破裂音。

砲弾はヘリからは離れた所で炸裂したが、悲鳴は誰しも予想しないところから巻き起こった。


「あっちぃ!」


「熱っ!」


「ぎにゃぁ!」


悲鳴の発生源は拓也ら3人。

彼等は突如として白煙を吹いた無線機を投げ捨てる。

見れば携帯していた無線機の中から白煙が上がっている。


「いったい何?」


「分からん。

だが、無線が焼けたみたいだ」


拓也は白煙の上がった無線機を恐る恐る手に取り、スイッチを入れてみるが

壊れた無線は何の反応も示さない。


「内部が焼けてる……」


不思議そうに無線を投げ捨てた無線を見るエレナ。

その脇で拓也は他の装備を点検する。

無線を始め電子機器は全滅、他の装備にはさして損害はない。


「電子機器だけを焼き切るとか……

EMPか?でも、なんでそんなものを……」


転移前の世界ならば、電子機器を焼き切る兵器を拓也は知っている。

強力な電磁波を発して電子機器の回路を焼き切るEMP兵器だ。

なぜ電子機器も無いこの世界でそんな物があるのか、作動原理は魔法やら魔導具やらで実現できたとしても、それは何のために。

拓也の頭にそんな疑問が渦巻くが、この世界の電磁波との組み合わせから、拓也は一つの噂を思い出した。


「あぁ あの兵器はそういう事か」


「何か分かったの?拓也」


「前に、北海道沖の航空戦でドラゴンたちが電波を発していたという話をネットで見たんだけどね。

たぶん、さっきの砲弾は対ドラゴン用の兵器だ。

電波を知覚出来るなら、至近距離で強力な電磁波を食らえばスタングレネードでも喰らったような効果があるんじゃないかな」


「えっと、それってドラゴン用の目つぶしって事?」


拓也の説明にエレナは首をかしげながら拓也に聞く。


「多分だけどね。

まぁ、そのせいで民生品の無線は焼かれたけど、効果はそれだけだ。

核戦争も考慮されて作られたヘリは電磁パルスに備えた設計になっているし、多分向こうの被害も民生品を焼かれたくらいのはずだよ。

連絡は取れなくなったけど、しばらくすれば降りてくるはず」


ヘリとの通信は出来なくなったが、此方の位置と状況は向こうも分かっているし、待っていれば救援に降りてくるだろう。

ヘリの火力は圧倒的。

脅威を制圧した後、悠々と拾ってもらえるはず。

そして、そんな拓也の想像は、ある意味で正しかった。

体勢を立て直したヘリは、撃ってきた砲兵の集団に向かい機首の23mm連装機関砲から機関砲弾の雨をサテュマ人に降らせた。

大地を震動させる発砲音の連続と共に、砲共々サテュマ人の兵達が物言わぬ挽肉に変わっていく。

潰走する兵士たち。

勝負あった。

そう思える拓也達であったが、それは一瞬だけであった。

サテュマ兵が挽肉に変わったのは、集団の真ん中であった。

組織的な連携も取れず四方八方に潰走するサテュマ兵。

そのなかでも、一部の兵士たちが拓也達の方に向かって逃げてきたのだ。


「社長!こっちに逃げて来ますよ!」


「懐に入られたらどうしようもない……

絶対に近寄らせるな。

こっちに向かって来るやつは撃て!」


その言葉と共に、エレナとアコニーの小銃が火を放つ。

此方に向かってくる兵士だけを淡々と撃つ二人。

それに混じって拓也も拳銃にて応戦する。

時折、散発的にマスケットにて打ち返してくる兵が要るものの、大抵が銃を構えた瞬間にエレナ達に撃たれてゆく。

混乱した敵相手の一方的な攻撃。

はたから見ればそう見れるかもしれないが、双方は必死であった。

片や接近させない様に応戦し、型や逃走の為に血路を切り開こうとする。

そしてそれらの試みは、最終的には物量のある方が徐々にと有利になっていった。

幾ら撃っても、頭数が違う。

必然的に対応の遅れが出始める。

そして、その遅れは時に重大なものに発展する。


「危ない!エレナ!!」


拓也が気付いた時、既に振りかぶっていた敵の擲弾は、敵兵の手を離れていた。

擲弾の放物線は、エレナに向かって弧を描く。

これはヤバい。

そう感じた拓也は、咄嗟にエレナに覆いかぶさるように押し倒した。


「きゃ!」


エレナの短い叫びの直後に巻き起こる、耳を劈く様な爆発音と熱。

意識が途切れていない為、死んではいないなと拓也は思った。

だが、立ち上がろうとしたその瞬間、拓也の左手に焼き鏝を当てられたかのような痛みが走る。


「ぐぅ!」


見れば破片の当たり方が悪かったのか、人差し指と親指を残して左手の指が消えている。

経験のない痛みに拓也は蹲るが、同時にエレナは無事かと拓也は彼女の方を見た。


「うぅん……」


頭を振って起き上がるエレナ。

どうやら彼女は無事だったらしい。

左の頬を破片で切ったのか、血が流れ出しているが、それでも五体満足なようであった。


「ありがとう……拓也って、あなた!?その手は!!」


起き上がったエレナは、近づく敵兵を撃ち、マガジンを交換しながら拓也を見た。

そして、瞬間その顔色が変わった。


「すまん。結婚指輪ごと弾け飛んだ」


「え、って…… そんな事より!?

その手……」


エレナは、左手の指の半数以上が無くなった拓也の手を見て青ざめる。

自分のせいか?

そんな自責の念からトリガーにかけた指が止まってしまう。


「あぁぁぁ…… あなた…… 指が」


ただ切っただけとは違う。

弾け飛んだ指は元には戻らない。

敵や名も知らぬ人間とは違う、親しい人間の負傷はエレナの頭から急速に熱を奪い去っていった。

呆然となるエレナ。

だが、状況はそんな彼女に時間的な猶予を与えない。


「社長!エレナさん!

ボーっとしてないで撃ってください!

ヘリが降りて来ますよ!!!」


アコニーの嘆願にも似た絶叫。

彼女の言うとおり、サテュマ人集団を掃討していたヘリは、その照準を拓也達に迫る集団に変え

眼前に迫る敵兵を挽肉にしながら降下してくる。


「社長!

行きますよ!!走れますか?!」


「あぁ。

走るのには問題ない」


「エレナさんは!?」


「大丈夫よ」


「じゃぁ行きますよ!!」


そんなアコニーの合図と共に拓也達は走った。

弾幕を張るつもりで交換した最後のマガジンの弾をばら撒きつつ、着陸したヘリの側面から滑り込むように機内に飛び乗る。

そして、ヘリの側も拓也、エレナ、アコニーの順でヘリに戻ったのを確認すると、強烈なダウンバーストと共に中空に向かって浮き上がり、急速に離脱を開始した。

猛烈な風と鉄の雨がサテュマ人の頭の上を過ぎ去り、ヘリは戦場から飛び去ってゆく。

地上に残されたのは、呆然と飛び去ったヘリを眺める敗残兵とその死骸、それに草の中に埋もれた拓也の指だけが残された。

突然の邂逅と惨劇。

それはサテュマ兵にとっては悪夢と言ってよかった。

しかし、彼らにとってのそれは戦闘の終了で一応の終止符は打たれた。

だが、それに対して拓也達の方は違う。

まだ、彼らの悪夢はクライマックスを迎えてはいない。

拓也は、ヘリに戻るや布で指の吹き飛んだ左手を止血しながら機内を見渡した。

地上での負傷者は拓也とエレナの二人だけ。

ヘリの方はエルフの姿が見えない為、撃退に成功したのかと拓也は漫然と思っていた。

だが、その想像は悪い方へと裏切られたのだった。


「なんだよ。

これは……」


ヘリに戻った拓也達の目に入ったのは、床に横たえられたカノエの姿であった。

腹部を中心に赤い染みが広がり、一応は止血がなされているものの、流れ出た血の量を見れば最早長くなさそうなのは明らかであった。


「お前らが降りた直後にエルフにやられたんだ。

長くは持つまい……」


エドワルドは目を伏せ、小さく顔を横に振る。

だが、そうは言われてもヘリに戻った拓也達は戸惑うばかり。

感情が、目の前の事態を拒否するのだ。


「そんな!? カノエ!」


アコニーは横たわるカノエの手を両手でつかむとその顔を覗き込む。

有らん限りの声での呼びかけに、この世界から旅立とうとしていたカノエはうっすらと目を開けてアコニーを見る。


「ん…… アコニー?」


「カノエ!」


弱弱しくもアコニーの顔を見て微笑むカノエ。

彼女は血の付いた手でアコニーの頬を優しく撫でる。


「そんな大きな声を出さなくても聞こえてるわ。

それより、社長は居る?

最後に社長に頼みが……」


「何?やめてよ最後なんて言い方!!」


最後と言う言葉を聞いて、両目から涙を滲ませながら嫌だと首を左右に振るアコニー。

だが、カノエはそんな彼女の顔に手を添えながら、アコニーの後ろに立つ拓也へと視線を移した。。


「前にも説明した通り、メモリの中にある私の人格の中には仲間の記憶も眠っている……

一族復活の最後の希望……

北海道に帰ったら、それをネットワークに繋げて欲しいの……

自動でアップロードが始まるから……」


カノエの最後の希望。

それを聞いて拓也は首を縦に振って頷いた。


「あぁ…… わかった……

後の事はすべて任せろ」


本来であれば、最後の頼みと言うカノエの言葉を遮ってでも、アコニーの様に死ぬなと叫びたい。

だが、目の前に横たわるカノエの容態を見て、それが本当に最後の頼みになる事を悟った。

胸に風穴が開いているのだ。

恐らく、残された時間は本当に長くない。

仲間の臨終の時を前にして、拓也は唇を噛みしめながらカノエの願いを承諾する。

カノエは悲痛な面持ちをした拓也が、自らの願いを聞き届けた事を確認すると、今度は周りに集まった面々の顔を見渡し、ゆっくりと口を開いた。


「これで、例え情報だけになろうとも一族は存続する……

私の役目はココで終わり……

あと…… 一つだけ…… みんゴホッ!」


「カノエ!!」


俯いて血の咳を吐くカノエの手をアコニーが握る。

手当をしようにも手の施しようがないのだ。

最早、手を握り励ますくらいしかこの場の人間に出来ることはない。

それに対し、カノエは二、三度咳をして喉に溜まった血を出し切ると、再び微笑を皆に向けた。


「この場に居ない人もいるけれど……

みんなに……伝えたい事が、あるの……」


呼吸の間隔と共に間延びする声。

それは、先ほど血を吐いて以降、カノエの力が急速に薄らいでいく印象を受ける。


「この1年と…………ちょっとは………………

この……数……十年で………………一番……………………楽し………………」


言葉の途中でカノエの声が途切れる。

よく見れば、カノエの目は焦点が合っていない。

既にカノエの力は限界なのだ。

アコニーの頬に当てていた彼女の手も既に落ちようとしている。

だが、アコニーはそんなカノエの手を自分のてで支えると、有らん限りの声でカノエに叫ぶ。


「なんだよ!聞こえないぞ!死ぬなカノエ!」


声を張り上げるアコニー。

既に彼女の目からは大粒の涙が滝の様に流れている。

その涙は、彼女は頬に当てられたカノエの手に伝っている。

手に染みわたる暖かい涙の感覚。

その感触はカノエの意識をわずか数秒保たせる。


最後の瞬間、カノエは微笑と共に最後の言葉を呟いた。



あ・り・が・と・う



それは、声になっていない唇だけの動きであったが、それでもその真意はその場の皆に伝わった。

そして、それをもって、カノエは全ての仕事が終わったかのように安らかに事切れたのだった。


「!!?」


「カノエーーーー!!!」


笑ったまま事切れた彼女を前にアコニーの叫びが東方大陸の空にと響き渡る。

悲しみと嗚咽が響く機内。

暫くは誰もが何も言葉を発せなかった。

それは数分のことであったが、当事者たちにとっては数十分の様にも感じる。

そんな悲しみの中、最初に区切りをつけたのは、拓也の横で悲痛な顔をしていたエレナであった。


「ファック!

なんでカノエが死ななきゃならないのよ」


ドン!


エレナの拳がヘリの壁を叩く!

悲しみが過ぎた後、仲間を殺された事への怒りが湧いてきたのだ。

そして、怒りは伝播する。

何故?カノエが死んだ?

そんな疑問から、怒りの矛先がカタキに向かうのに時間は要らない。


「……エルフ」


涙で濡れた顔のまま、アコニーは俯きながら呟やいたかと思うと、自分の銃を拾って立ち上がった。


「今から逃げたエルフを追ってください!

あの野郎!ハラワタ食いちぎってやる!!」


アコニーは憎しみの炎を瞳に宿し、怒りのままに銃を振り回す。


「やめろアコニー!暴れるな!!」


「でも、エドワルドさん!

仲間が殺されたんですよ!?それも、友達のカノエを!!」


「それでも落ち着け!

奴の速度に

ヘリでは追い付けん!」


「でも、でも、奴らの勝手な言い分でカノエは!カノエは!!

何が悪魔ですか!?カノエはすっごい良い娘だったのに!!」


ヘリの中で暴れるアコニー。

それは、エドワルドが手を離せば、すぐにでもヘリを飛び出していきそうな勢いであった。

周りの皆は必死になって彼女を止めるも、拓也はそれに加わらない。

彼は、カノエの遺体をじっと見下ろしていた。


「……そうだな。

勝手な言い分だ。

奴らにとってはどうかは知らないが、俺らにとっては大事な仲間でしかなかった。

それが、一方的な理屈で殺されたんだ」


カノエの遺体を降ろしながらポツリと拓也は呟く。

心の痛み、指を失った体の痛み。

全てが拓也の黒い感情を増幅していく。


「拓也?」


「まぁ、はたから見れば、危険地帯に居て死んだのだから、駄々を捏ねているのは俺たちだと思う奴もいるだろう。

だが、そんな言葉にハイそうですかと言えるほど、憎しみを飲み込むのは簡単じゃない。

どんな言葉を浴びせられようと、仲間が死んで、怒りが芽生えた。

それが全てだ」


俯き加減から、淡々と言葉を紡ぐ拓也。

冷静に語る彼の言葉が徐々に徐々にと感情に囚われていく。

だが、それでも拓也はアコニーの様に憎しみのままに飛び出していこうというそぶりはない。

理性がそのまま負の感情に飲まれ、系統立てて復讐を考えているのだ。



「確かに奴らは強い。

でもそれ以上の力が有れば、奴らとておいそれとカノエを殺せはしなかっただろう。

……力をつけよう。

どんな手を使っても、強くなって力をつけて……

例え、国やどんな種族が相手でも迂闊に手が出せない位に」


「社長……」


アコニーがドス黒い炎を瞳に込め、拓也の言葉にうなずいた。


「その過程で、仕事の中で危険に晒されることもあるだろう。

でも、力さえあれば舐められない。

一方的な殺惨に会う事も無い。

それが、最終的な皆の安全になるなら、俺は心を修羅にする」





この日。


拓也はある意味で生まれ変わった。


それは、後年、彼の事を記した書物の中で記されている。

左手の指の半数と仲間を失ったこの騒動。

それまで温厚とされた人物が変わっていくターニングポイントはココだと。

後に続く戦乱の時代、社員という仲間の為、どこまでも非情に徹した人物の物語はここから始まったのだった。

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