カノエの素性1
時は少々遡る。
ニノの犠牲により窮地を脱した拓也達は、未だトンネル内を走っていた。
真っ暗なトンネル。
手に持つライト以外に光源の無い闇の中を拓也達は走った。
残してきたニノの方を振り返らず一心不乱に走つづけた末、ようやく見えた微かな外の明かりに向かって光に導かれる羽虫の如く駆け抜けた。
「社長!
出口ですよ!」
アコニーの叫びと共に、全員がほぼ同時にトンネルの外へと躍り出る。
そこはゴツゴツとした岩の転がる断崖の底。
人っ子一人見えない荒地であった。
そして丁度、時刻は夜明け時。
白み始めた空の中で、朝日が昇り始めたところだった。
「助かったんですかね?」
「そうだと思いたいけど…… でも、出来るだけ距離を稼いだ方が良いわ。
私たちを追っているのはエルフだけじゃない。
サルカヴェロの兵だって探しているんだし」
カノエの言うとおり、追手はエルフだけではない。
安全圏に出るまでは、サルカヴェロ兵に見つかっても駄目なのだ。
「そうだな。
でも、まずはイワンと合流しなきゃいけない。
トンネルの出口付近の位置は教えた筈だから、この近くに居るハズ……って見つけた!」
地上に出た拓也が辺りを見渡してみると、事前に無線で示し合わせた通りにトンネルの出口付近で待っていたイワン達が駆け寄ってきた。
拓也達が地下でグダグダしている間に、彼は地上の出入り口を見つけていたのだ。
此方の無事を確認した事で、口元に笑みを浮かべながら近寄ってくるイワンと、体全体で喜びを表現しながら走り寄って来る盗賊の手下。
彼らはそれぞれに此方の安否を確認してくる。
「全員無事か?」
「姉さんよくぞご無事で。
で、お頭は?」
全員の安否を確認するイワンの横でタマリとイラクリの姿を確認して喜ぶ手下は、キョロキョロとニノの姿を探す。
しかし、いくら周りを見渡してもその姿は無い。
そんな彼女の姿を見て、タマリは悲痛な表情で淡々と事情を説明する。
「母ちゃんは…… あたいらを逃がすために死んだよ」
そこまで言っては見たものの、改めて口に出してみると、その事実はタマリ達の胸をギュッと締め付ける。
ニノの死…… それを平然と受け入れるには余りにも時が足りないのだ。
だが、そんなタマリの様子から、盗賊の女は彼女の心中を察したようだ。
彼女は真顔で俯き、暫く何かを考えた後、俯くタマリを真顔で見詰めて彼女の肩をバンと叩く。
「……そうですか。
なら仕方ねぇ。
この稼業は何時かはそう言う時が来る。
いまからタマリの姉さんがお頭だ。
盗賊団は随分と小さくなっちまいやしたが、あたしらはどこまでも付いてきますぜ」
「あんた……」
タマリは手下の切り替えの早さに己の稼業を思い出した。
母が死んだとはいえ、自分達の稼業は盗賊。
身内がコロっと死ぬのも当然にしてある。
だが、現状はただ母親が死んだだけではない。
仲間の大半は消え、カリスマのあった頭目のニノが死んだことで、盗賊団は解散かと思っていた。
それが、まだ付いてきてくれると言うのだ。
その一言で、先ほどまでの悲しみの涙とは別種の涙がタマリの目に滲む。
「で、どうします?お頭」
ニノが居なくなっても付き従ってくれる手下。
思わず涙が零れそうになるが、タマリはキッとそれを我慢する。
涙を見せてはいけない。
今、自分はニノの跡を継いだ頭なのだ。
そんな思いからタマリは堂々と胸を張る。
「そうだね。
取りあえず、サルカヴェロを出るまではこの兄さん達と一緒に行くことにする。
まぁ どうするも何も逃げるしかないんだけどさ」
とり合えず今は逃げの一手。
そして、暫くは拓也達との協力が必要になる。
そしてそれは、拓也も同意見であった。
「あぁ。そうだな。
悲しんでいる所に悪いが、いつまでものんびりしては居られない。
追手がいるんだ。それも映画のT2みたいにおっかないのが」
「テルミネートルですか?」
拓也の言葉にイワンが眉をしかめる。
テルミネートル……ロシア訛りでいう所のターミネー○ーだ。
そんなバケモノが敵だったのかと彼は半信半疑であった。
「銃も効かない、黒焦げにしてもまだ動いてる液体金属ロボットみたいな奴だ。
この世界のエルフってのは本当にバケモノだよ」
銃を打ち込んでも黒焦げにしても再生するなんて規格外すぎる。
耳がとがっている以外は、元の世界のエルフのイメージとは別物と言ってよかった。
拓也はそんな自分のイメージをありのままイワンに伝える。
恐らく皆も同じように考えていただろうと拓也は思った。
だが、どうやらそれは正しい認識では無いらしい。
拓也の言葉の後に、カノエがそっと補足する。
「社長。
多分、あそこまでバケモノなのはあいつだけだと思いますわ。
昔、私の一族が過去に調べた時は、エルフは身体的には人間よりちょっと強靭なくらいでしたわ。
それに、エルフはもっとも初期に生まれた個体が非常に強力な能力を持ってるそうです。
普通、エルフは身一つで飛べるようなものじゃありませんし……
間違いなく、奴は特別な個体ですわ」
「特別な固体?
じゃぁ他のエルフはもっとマトモなのか?」
「人格面は分かりませんが、身体能力的には常識の範囲内ですね。
少なくとも、黒焦げにすれば死にます」
「そうか……
全体としてはもっとマシなのか。
でも、追って来てるのがバケモノには変わりないな。
既に死んだと祈りたいが、慢心は禁物だ。
今は安全圏に出るまで逃げの一手でいこう。
イワン。エレナ達に連絡は?」
ニノが命を懸けて足止めしたのである。
出来ればあのエルフには死んでいて欲しい。
だが、死んだ姿を見ていない以上、拓也は手放しで安心は出来なかった。
「既に彼女らは此方に向かっている。
何でも内務省からヘリを調達したとか。
あと30時間もすれば帝都はヘリの行動半径内に入りますが、我々も出来るだけ東へ逃げた方が良い。
少しでも船に近づけば、それだけ救出が早まるからな」
それに距離を帝都から距離を取れば取るだけ、エルフ以外の帝国兵に捕まる可能性は減る。
救援のヘリが来るとはいえ、少しでも移動した方がいい状況に変わりは無いのだ。
「そうだね。
だけど、徒歩では速度に限界がある。
なにか移動手段はあったりするか?」
そう言って拓也は地下都市から走りずめだった足をさする。
どうにも荷物を背負って移動し続けるにはそろそろ限界だった。
特別鍛えたわけでもない肉体は休息を求めて悲鳴を上げている。
だが、そんな拓也の希望に対して、イワンの回答は実に優秀だった。
「その点は大丈夫。
この女が速達郵便用の馬車を調達してきた。
全員これに乗って移動する」
そう言うイワンの指差す先には、岩場に隠してあった一代の荷馬車。
盗賊の手下の女が、ちょっと馬車を取ってくると言って何処からともなく盗んできたそうだ。
だが、盗品だとしてもソレはバトゥーミから帝都まで護送される時に乗ったものより数段立派なものだった。
確りした作りで見た目にボロさを感じない。
それでいて車を引く動物も、ロバではなく馬である。
高級感こそ無いもの、その質実剛健とした構えに拓也達は歓声を上げ嬉々として乗り込む。
「じゃぁ さっそく移動だ」
全員を乗せ、拓也の声と共に馬車は動き出す。
パカッパカっと蹄の音に合わせて遠ざかる、風化によって岩の裂け目にしか見えないトンネルの出口。
見送る者も誰もいない寂しい岩肌を背に、拓也達は馬を急かしながら帝都から去るのであった。
馬車での移動を始めて丸一日、荷台の上で脱獄から2回目の朝を向かえる事になった。
目を開けば、辺り一面牛乳をぶちまけた様な乳白色。
拓也達を隠すような朝霧に包まれている。
付近の様子は窺い知ることは出来ないが、馬車の振動から移動のペースは感じ取る事が出来る。
と言っても、ペースを感じたところでやる事は特にない。
それに、まだ早朝という事もあり、御者の席に座るもの以外は二度寝の魔力に囚われて、起きてこようともしない。
拓也は起きてしまった以上、最初は見張りでもしようかと思っていたのだが、濃霧の為に全く役に立てない事を悟ると早々に諦めた。
そもそも警戒は、御者席にイワンと共に座るイラクリが、獣人特有の優れた嗅覚で行っている為、全く持って無駄なのだ。
なので、拓也は懐から取り出した一枚の紙切れを見ながら一人荷台の後端に腰かけていた。
神妙な表情で紙を凝視する拓也。
だが、そうして暫く座っていると、スッと後ろから拓也の手元を覗いてくる気配を感じた。
「何を見ているんです?」
拓也の背後からヌッと現れたカノエは、そのまま拓也の横に腰かける。
「あぁ、コレか?
コレは地図だよ。地下の倉庫から出るときに目に入ったので、つい破いて持ってきた」
そう言って拓也はカノエに紙切れを見せる。
そこにあったのは確かに地図であった。
ガイドブックか何かに付いてたと思われる世界地図。
だが、そこに書かれていた地形や国境は、拓也の知っているモノと微妙に違う。
「ここに北海道があったんだ。
この地図では転移したエリアが綺麗サッパリ消えているけどね」
「へぇ……」
北海道の消えた後の地球……
その後は色々な事が起きたのであろう。
日付から判断して、転移後四半世紀くらいに書かれただろう地図では随分と国の数も少なくなっている。
環太平洋、欧州、中華圏など世界の色分けは単純化しているようだ。
「暇だったからさ……
持ってきた地図を眺めてたんだよ。
そしたら、ふと気付いたんだよね。
2050年の地図で北海道が無いって事は、元の世界ではそれまで北海道が元の世界に戻らなかったって事だよね」
拓也の言葉に、カノエは最初は意味を図りかねたが、拓也の表情をみてカノエは納得した。
だが、納得したからと言って、それからどう言葉をかけたら良いのかは分からなかった。
普段の言葉から、てっきり拓也はこの世界に腰を据えていく決意が固まっていたと思っていたのだが
戻る事が無いという確たる証拠が出てくると、色々と心境にも変化が出てくるのであろう。
どこか吹っ切れたような感じの口調であったが、その目はどことなく寂しさが感じられる。
「それよりどうした?
まだみんな寝てるし、ゆっくり体を休めてても良いんだぞ?」
「休息はもう十分ですわ。
それより、社長にお話ししたい事が……」
「話したい事?」
そう言って、カノエは拓也の手を取ると、伏目がちに頭を下げた。
「社長……
今回の件、色々と迷惑おかけして申し訳ないですわ」
仰々しく、カノエは謝罪を口にする。
だが、謝られた方の拓也は、ぶんぶんと大きく首を横に振る。
「別に謝らなくてもいいよ。
今は早く戻る事だけを考えよう。
みんなカノエの無事を祈ってるし」
「でも、今回の事で色々と会社自体にも損害が出ちゃったんじゃ……」
確かに、カノエの言うとおり今回の件での出費は膨大である。
カノエ救出に動員した人員の工数から、消費した物資・資金を合計すると収支は赤字であった。
「確かに収支は赤字だけど、それはカノエが気に病む必要はないよ。
損失の大半は最初にタマリ達の盗賊団に襲われた時だし」
思い出してみれば、盗賊団に襲撃された際にトラック一台を燃やされたのだ。
その損失に比べれば多少の人工費など取るに足りないし、今回の件でカノエが収支を気に病む必要のない理由が他にもある。
「まぁ、通常の収支は赤だけどさ……
将来的に見たら、そんな損害なんて屁みたいなもんだよ」
「え?どうして?」
カノエの問いに拓也はニヤリと笑うと、荷台に置いてあった荷物の中からエルフと戦った武器の一つを取り出した。
「これだよこれ!
こんなすっごい魔法の銃が手に入ったなら、調査して自分たちの技術にするなり政府に売り払うかしたら大儲けだよ。
それに、カノエが攫われたメリダ村とは結果的には良い関係が結べたし、あそこを大陸における会社の拠点にするんだ。
雨降って地固まるというヤツだね」
ピンチは何度もあったが、それはそれで将来への布石になる。
特に道内はライバル企業の台頭で将来の見通しが不透明になりつつあった時期だけに、このようなチャンスは願っても無い事だった。
そんな話を拓也から聞いて、カノエは目をぱちくりさせていたが、次の瞬間には呆れたように拓也を見た。
「まったく……抜け目がないですね。
まぁ いいですわ。
それはそれとしても、私は私自身でお礼がしたい。
社長、貰ってくださる?」
そう言ってカノエは横に座ったまま拓也にすり寄り、拓也の手の上にそっと自分の手を重ねる。
スタイルでいえば社内一グラマラスなカノエ。
そんなカノエがすり寄って来たのだ。
独身時代であれば、拓也は何も躊躇わなかったであろう。
だが、拓也は接近してくるカノエの頭を手で無理やり制止させた。
「ちょっちょっと!待て!落ち着け!」
「しぃー…… 皆が起きますますわ
小声で話しましょう」
「だけど、俺、既婚者だよ?
それは困るって。
それと、秘密なんてのは、どうせいつかはバレるんだから」
非常に魅力的なカノエの提案もリスクを考えればどうすべきかは明らかだった。
それに周りは寝ている者だらけだが、実際の所本当に寝ているかも疑問である。
カノエの誘いに乗れば、不倫発覚→離婚→破滅のコンボが手に取る様に予想できる。
そんな破滅の未来を予想して慌てた様子の拓也。
それを見て、カノエは悪戯っぽく笑って見せた。
「ん?
社長が何を誤解なさってるのかは解いませんが
私がもらって欲しいのはコレですよ」
そう言って拓也の手に重ねたカノエの手から現れたのは二つのフラッシュメモリであった。
「見た目は北海道の何処にでもあった記憶媒体ですが、中身はティフリスの地下都市の技術をベースに作っていますので容量は別物です。
北海道に帰ったら片方を開いてみてください」
「……中には何が?」
「私たちの一族の技術の微かな断片が入っています。
この魔法が支配する世界では、何かと有効な力になるかもしれません。
まぁ、私たちはそれに失敗してエルフに滅ぼされましたが」
そう言って、カノエは拓也から流れていく景色へと視線を移す。
滅ぼされたと口にした時、テヘっと舌を出しておどけて見せたが、拓也は何て声を掛けようか言葉が見つからない。
ほんの数秒、二人の間に沈黙が流れる。
カノエは冗談として自分たちの一族が滅びたと言っているが、外部の物が一緒になって言って良い物か。
拓也は迷った末、話題を掌にのせられたもう一つの方に持って行くことにした。
「……そうか。
で、もう一つには何が?」
「私自身と一族の全てが」
「カノエと一族?」
「一族が栄えていた頃、ティフリス地下遺跡に眠る電子機器の情報言語については解読されていました。
そして、社長達の世界の情報言語がそれに類するものだと分かると、私は北海道のネットに種を蒔きました。
今頃、色々と芽が出ていると思いますが、これはその仕上げとして流すものだった物です。
北海道で魔導薬を作り出したのと同じように、大気に満ちる魔力を流用して記憶媒体を組上げるのは大変な作業でしたわ
何せエルフにバレない程度の出力で元素の造換作業をやってたんですから」
「すまない。
カノエの言っている事の意味が分からないんだが、コレがどうして君自身なんだ?」
「元々私の中には死んだ仲間の記憶が眠ってるの
そして、その中に入っているのは私の人格と記憶を含めた一族の記憶。
もし、私に何かあったらそれをネットワークに繋げてください。
ネットワークに既にまかれた情報と混ざってしまうけれど、それでも情報の海の中で一族は存続できる」
「なんだそりゃ?
データーベースみたいなものか?
てか、そんな凄い技術があるなら他にやりようはあるんじゃないのか?
例えば義体でも作って仲間の記憶を入れるとか」
こちらの規格に合わせて元素造換等というものが出来るなら
いっそのことボディーを作ってしまえばいい。
拓也はそう思ったが、カノエはそれは出来ないと首を横に振る。
「そこまで行くと私の力の限界を超えます。
なので、私はこれくらいまでしか作れませんでした。
そしてこれは社長に持っていて欲しいんです」
「そうか……
でも、いいのか?
それって凄い大切なものなんだろう?」
「いいんですよ。
何せ、こんなバックアップを作っていたものの、ついこの間まで仮に私が死んだ場合は、こんな過酷な世界に一族を復活させず潔く滅ぼうと思ってましたし。
でも、こんな天涯孤独な私でも危険を承知で助けてくれる人たちを見てガラッと心変わりしたんです。
まだまだこの世界も捨てたモノじゃないなって。
そんな訳で、私に心変わりをさせてくれた人にコレを持っていて貰おうと思ったんです」
そう言って拓也の顔を見つめながら接近してくるカノエ。
心なしか上目使いで拓也の顔の方に向かって。
「あの、カ、カノエ?
ちょっと近くない?」
「固い事言わないでください。
私は、社長にならもしもの際の保険を託しても良いと思ってるんですよ?」
拓也の声を聞き流してゆっくりと近寄るカノエ。
気付けば、彼女はじりじりと息の掛かりそうな距離まで近寄ってきている。
「それは光栄だが、行き過ぎは良くない。
知ってると思うが、俺って結婚してるんだよ。
嫁が見てないとはいえ、こういう関係はマズイ。
まぁ、俺の誤解だったら申し訳ないが」
「ふふん。
知ってますわ。
まぁ これもお礼の内です。
助けてもらったお礼と、大切なものを託させてもらうお礼……
今だけ…… 楽しみましょう?」
そう言ってカノエはゆっくり拓也を押し倒す。
荷台の上は皆寝ているはずだが、それでもいくら声を潜めていようが、こんな状況下ではいつ誰かが起きるか分からない。
こんな状況を見られて、不倫と誤解されればどうなる事か。
拓也は、誰かに見つかる前にこの状況を治めようとするも、押し倒されふと横を見た瞬間、氷の様に固まった。
「あ゛……」
荷台で眠りに落ちていた筈のタマリ。
そんな彼女と目が合ったのだ。
しかも、興奮気味にバッチリとこっちを見ている。
タマリは、凝視しているのが拓也にバレると、咳払いをしながら体を起こした。
「ゴホン!
もう、五月蠅いったらありゃしない!
ヤメロよ!寝てる横で盛られたらこっちも我慢できないだろ!
折角、最近は目覚めた性癖が落ち着いてきたのに……」
荷台からガバっと起き上がったタマリは、カノエを睨んで抗議する。
だが、そんな彼女の抗議に対しても、カノエは全く意に介さない。
「あら?起きてたの?」
「起きてたのじゃないよぅ…… まったく。
横で盛り始めるもんだから目が覚めちゃったじゃないか」
「あら、それはごめんなさいね」
全く悪びれないカノエはケラケラと笑う。
そんなカノエの様子を見て、タマリは一つ溜息を吐くと。
カノエに向かって床に座り直した。
「まぁいい。
だけど、折角目が覚めた事だし。
ここらで聞きたい事を全部聞いておこうかね。
さっき、あんたが旦那にベラベラ喋っていたみたいに、あんたの知っている事、洗いざらい話してもらうよ。」
「知っている事?」
「あんたたちの一族やエルフの事さ。
あたいは母ちゃんを奴に殺されたんだ。
それくらいは喋って貰うさ」
「お、それについては俺も興味があるな。
実際にエルフを見たわけじゃないが、聞きたいぞ」
「ボクも~」
「あたしも聞きたい」
タマリの声を合図に離れた御者席に座っていたイワン、イラクリから寝ていたはずのアコニーまで馬車の全員から声が上がる。
「ちょっ!みんな起きてたのか!」
拓也はこちらを振り返った面々を見て驚愕した。
もし、カノエの誘いに乗っていたら、誰か彼かの口を通じてエレナにばれていた事だろう。
皆、寝たふりをして聞き耳を立てていたのだ。
そして、そんな狸寝入りを決めていた彼等の要求に、カノエも既に隠す気は無いようだ。
「仕方ないですね。
分かりました。
こうなったら全てを包み隠さず話しましょう」




