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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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変化の兆し。

 また王宮内でも変化が見られた。

 まだ一応は裏が付く行政府で、各州の代表者さんが違和感なく業務に参加する姿を見るようになったのだ。


「パーパスさん、オシウェストのボルジウムさんを行政府で見かけましたけど?」

「アクスファド先生と一緒に問い合わせに来られたんだよ、エイブ君」


「問い合わせ?」

 どんな内容だったのだろうと更に尋ねた僕に、パーパスさんが答えてくれる。


「代官が本来はどんな風な仕事をするはずだったのかとか、どこまでの権限があったのかという問い合わせが州から送られてきたらしい」

「へぇ~、代官の権限かぁ。僕も知りたいです」


「州においては元老院と同じぐらいの権限が、代官には与えられていたよ。しかも代官単独に」

「そりゃすごい。でもストッパーがあったはずですよね?」


「州の行政府がそのストッパー役を期待されていたんだろうけど、行政府の代表には敗戦国の王族がなることが多くてね……」


 流行病があって島は敗戦国になっていないから、もしかしたら各州の立場とか状況を僕は実感出来ていないかもしれないけど、結果は火を見るよりも明らかじゃないか。


「無理難題が言いやすかったと」

「あぁ。言うことを聞かないなら首を切ると、実力行使も最初は行われていたそうだよ」


「そりゃあ、ストッパー役は無理でしょう」

「そうなんだ、エイブ君。それでどんどん代官は増長して、州で好き勝手するようになったらしい」


 なるほどな~。

 州での代官がそんな感じだったから、元老院へと繋がっていったのかと僕は理解した。


「そこを元老院が目を付けて、代官の任命権を自分達の権力強化に使い始めた?」

「そうみたいだよ……」


 あ~これは元老院、見捨てられたかなぁ?

 自分の不幸の素に対し、寛大な対応など僕にも出来ない。


「元老院に入りたい州の人が居なくなりました?」

「それどころか元老院を潰したいそうだ」


「元老院自体を? それとも元老院のメンバーを?」

「どうやら元老院自体みたいだね」


 おお、見捨てるどころか元老院自体を潰したい方向か~。

 正直、州の人達の気持ちが凄くよく分かる。


「まあ良いんじゃないですか?」

「良い? エイブ君なら、メンバーチェンジで手を打つかと思っていたよ?」


「だって、パーパスさん。元老院がなくなってもロウノームスは健在でしょう?」

「……確かに」


「はっきり言って、元老院は今のロウノームスにとってお荷物になってるじゃないですか」

「本当にはっきり言ったねぇ」


 パーパスさんも口ではそう言って肩を竦めて見せているが、反論はない。

 そういえばパーパスさんは高位貴族に口答えして、一族郎党奴隷にされそうになった所をケラスィンに助けられた人だった。


 その高位貴族もきっと元老院関係なんだろうな~と思ったが、僕は話を戻す事にした。


「それで州の人達が行政府の方に入ってるんですね」

「初めは忙しそうな行政府を見かねて、オシウェストの方が手伝いを買って出て下さるようになってね」


「へぇ? 他の州の人達は?」

「同じく、それぞれ州からの問い合わせの答えを求めて行政府に来られたんだけど、ここ最近の行政府は元奴隷の方達の契約関係でバタバタすることが多くてね」


「手伝ってくれるようになったと。良かったですね、パーパスさん」

「あぁ。各州の皆様は優秀な方が多くて本当に助かった」


 少しずつロウノームスの行政府と、各州の行政府代表の交流が進んでいっているみたい。


「じゃあ、契約関係は話が早くまとまるようになったんじゃないですか?」

「いや、まだそこまでは……。神殿の方が入って下さって、やっとだね」


 そうだよな~。

 州の人達の後押しが入った事で一気に全部が丸く収まるっていうのは、さすがに難しいよな~。


「その神殿の方は信頼出来る方です?」

「ええ。行政府の中には神殿出身の者もまだ居るので、その伝手も使って」


「解決は何とかなりそうですか?」

「何とかして見せるよ」

「はい。お任せします」


 各州の代表者さん達との会談の時よりも、パーパスさんの表情は明るい。

 この調子なら、雇用契約の再度通告もいずれは上手く事が運びそうな気がする。




 ロウノームスを含む北の大陸の各地で、着実に冬への準備も行われていた。

 そんな中、各州から街道整備の現場に対し、食材や資材提供が行われ始めた。


 もともと各州は、州の方からも街道整備に動きだしていた。


 同州の人が同じ街道整備を担っているのに、担当が王都からの街道の整備だからと食料を配らないなんて話は、誰が考えてもおかしいと言われだしたのだ。

 王都からの街道を整備している仲間は、故郷へ帰る道を作る為に働いているのだから、助けるべきだと。


 その話がやがて、どこが出身だろうが関係ない、街道を整備している者は皆仲間だという風に変化していった。

 このおかげで街道整備を冬の間も続けて行うことが出来るようになった。



 また街道の交通量は更に増えた。


 青年の家と神殿の子供達の間で、保存食のやりとりをしていることを知った州の代表者さん達が、それぞれの州の特産品の保存食を交換することが増えたのだ。

 これにより冬の保存食の種類も増え、冬の間の楽しみも増えた。


 これは州に住む一般市民にも、街道の重要性を知らせる出来事だった。

 街道が繋がっている方が、お互いに素早く的確に助け合えるし、情報も伝えやすいと。


 大雪になった時、雪で身動きがとれずに餓死する者が出ないよう考えてくれたのだろう。

 街道近くに住む人達が街道の雪掻きを、率先して行ってくれるようになったと聞いた。



 そのうち北の大陸の雪も溶け始めると、各州方面へは保存食だけではなく、元老院の事やら、お祭りの事やらで、頻繁に使者達が往来するようになっていた。

 託されたレシピをまた違う地に届け、また次の地に……が繰り返し行われるのを隠れ蓑に、各州で頻繁に情報交換が行われているみたいだ。




 本格的な春になる頃には、僕の元に北の大陸祭りに各州から参加の申し出が来るようになった。


「我が州は、この技術に関して展示をさせてもらいたいと思っております」

「うちの州は、魚釣り競技に参加をさせてもらいたい」


 等々、色んな申し出を受けることになった。

 最終的に各州すべてが北の大陸祭りへの参加を決めたことから、僕は本格的にお祭りの開催へ動き出した。


「展示なのですが、もっと深く情報を掘り下げたり、見本を行程ごとに作るなど分かりやすく展示してもらいたいです」

「掘り下げる?」


「こんな時に使うと良いという情報や、他のやり方もあるよとかですね」

「なるほど。調べてみます」


「競技に参加するメンバーが分かったら、参加メンバーの一覧を見せてもらえると」

「参加メンバーの一覧ですね」


 僕は北の大陸祭りの参加について聞いてくる人には、きちんとした対応を心がけた。

 北の大陸祭りを通じて、僕自身も各州の代表者さん達との交流が進んだと思っている。


 州に残る技術や知識を集めてもらったり、それらをどんな風に展示するか等々、気になったことはどんどん調べてもらう。


 でも、どうしても調べられない箇所は出てくるだろう。

 失われた技術や知識の大きさに、クロワサント島で僕がおののいたように。


 それでもその調べられない箇所を、新たに作り出せる雰囲気も今の北の大陸にはある。

 王都で紙に絵を描いてもらい、可愛い便箋を作り出したように。


 新しく作り出される技術は進歩の可能性の1つ。

 北の大陸祭りではどんな物や人達が集まって来るだろう? 僕は期待で胸を膨らませる。


 祭りが近づくにつれて、誰がどの競技に参加するか等々の遣り取りも声高に話されるようになり、そわそわとした空気がロウノームスの王都中に広まっていった。




契約更新


「この貴族家はまだ奴隷の扱いが優しい方だという話だったんだがな」

「駄目だ。全く取り付く島もない」


「食べ物はもらえているのでしょうか?」

「姫様の館の子供達によれば、毎日食事は出されているそうです」


「それは良かった」

「ただ朝から晩まで仕事をして、寝たと思ったら叩き起こされまた仕事だそうで……」


「奴隷扱いではない、雇われ人の雇用状態は?」

「「「え? エイブ殿?」」」


「その人達を参考にさせてもらって就労契約を作るんだよ。あと見習いとして雇われるのが普通らしいから、見習いを基準にして雇用年数が増えるほど条件を上げるような契約を締結する」


「……なるほど。確かに待遇改善なら受け入れる貴族家も出てくるかも」


「あと、それぞれの家で昵懇にしている神殿はある?」

「神殿ですか?」


「うん。昵懇にしている神殿の、信頼できる神官の方に取り持ちをお願いする」

「昵懇にしている神殿ですか?」


「昵懇にしている神殿なら、貴族家の方も信頼があると思う」

「……話を聞いてくれるかも」


「昵懇にしているなら貴族家の中にも入りやすいだろうし、自分が取り持った案件だから継続的に契約状況の確認もしてくれると思うよ」

「きちんと雇用年数による条件アップがされているか見てもらえる……」


「まず契約内容をきちんと纏めることが大事だよ」

「はいっ!」


「契約内容を取り持ちしてくれそうな神官様のところに持って行って、確認してもらうのが大事」

「信頼できる方を探しますっ!」


「神官様が取り持ちを了承してくれた契約内容は、神官様が同席の中でなければ絶対に変えないこと」

「どうしてですか?」


「勝手に内容を変えられた契約状況など誰も責任持ってくれないよ」

「……確かに」


「あとこれ。街の人達から聞き取りした王都民の雇用状況」

「えっ?」


「参考に使えると良いんだけど」

「ありがとうございますっ!」



 後日、ある貴族家で1つの就労契約がまとまった。


「ではこれでよろしいですな」

「神官様に言われては仕方ありませんな」




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