提案。
州の代表者さん達からすると、ロウノームスの王都中でアクスファド先生が1番信用出来て、頼れる人だと僕は思う。
だから薬草の使い方の纏めの取り扱いは先生を通すことにした。
そうすれば纏めをきっと見ようと動いてくれるはず。
でも北の大陸の皆で今年の冬を越す為には薬草と同様に保存食も、大切だと思う。
保存食を作ることで、冬に皆が食いつなげられる食料を少しでも確保する為に。
だからもう1度、僕は提案を繰り返してみる事にした。
「さっき話していた保存食の作り方に関しては、ケラスィンの館の子供達だけではなく、神殿の子供達が纏めたものもあります。1度目を通して、もし知らない方法があれば書き写して自州に送りませんか?」
ロウノームスの王族の関係先に借りを作るほど、州の人達はロウノームスを信用していないのだろう。
だがそれなら、ロウノームスの王族関係じゃなければ州の人達も動いてくれるかも?
そう期待を込めて声をかけてみた。
「「……」」
州の代表者さん達は顔を見合わせてはいるものの、一言も声を発しない。
これは州の代表者さん達からは返事がないままになるかな?
そう思っていたところで、意を決した様にテンパリトさんが声を上げてくれた。
「グリオース州はぜひ見せて頂きたいと思います」
テンパリトさんは海行きに一緒したし、子供達とも関わりがある。
その子供達が纏めた物ならと考えてくれたんだろうな。
「じゃあ、後で館までご一緒しませんか?」
「……他の州の人達と相談しなければいけない案件があるので、また後日のご連絡でよろしいですか?」
ただ、他の州の代表者さん達の雰囲気が悪い。
テンパリトさんが返事をするたび、足並みを乱したっ! みたいに睨んでいる……。
もしかして今回の会談が始まる前に、全州一丸となって事に当たろうっ的な、意見交換があったのかも知れない。
会談後、テンパリトさんは大丈夫だろうかと心配になる。
すると今度はアクスファド先生が助け船を出してくれた。
「旨い話には裏があると疑いたくなるのは尤もですが、エイブ君の裏はそう州には悪く働かないと思いますよ」
「先生。一応僕にだって裏はあるんですよ」
「おや? そうなんですか?」
「ただ好意だけで全て動く人なんてそう居ませんって。でも纏めを書写したからって、代わりに何かを寄越せってわけでもないんです」
わけじゃないんですけど……。
「皆で今年の冬を無事に越せないと、皆が心配だからとケラスィンが結婚を止めるって言うかもしれないんです~っ。
ついでに余力も残ってないと、ケラスィンのことだから皆に無理をさせたくないからって、結婚式を延ばしそうなんです~っっ」
「なるほど、そうでしたか。それはエイブ君にとっては一大事ですねぇ」
「先生っ、全く他人事ですねっ?!」
「他人事ですからねぇ」
「アクスファド先生~っ!」
先生の表情からは、僕の切羽詰まった一大事感がいまひとつ伝わって来ない。
「ケラスィン様の結婚は、ケラスィン様のお気持ち次第なところがありますからねぇ」
「だからこそ、ケラスィンに安心してもらわないとっ」
「まあ、ゆっくり結婚への準備をすれば良いじゃないですか」
「嫌ですよっ! やっとケラスィンが結婚に合意してくれたのにっ! のんびりしてたらケラスィンを誰かに取られちゃうじゃないですかっ」
「ケラスィン様のお相手候補はいくらでも居りますからねぇ」
「先生~っ!」
完全に先生に遊ばれているっ!
今度こそケラスィンとの結婚を確たるものにする為にも、お祭りの話をしていいよねっ? と、僕はロウケイシャンに目で訴えた。
すると、ロウから小さな頷きが。
やったっ! GOサインがもらえたっ!
まあロウの表情は相変わらず、やれやれ仕方ないと言わんばかりの呆れ顔だったが……。
それでもGOサインには違いない。
という事でっ!
「僕から1つ、話をさせて下さい」
「ケラスィン様との結婚式についてですか?」
「はいっ! ここに居る皆さんはたぶん、僕とケラスィンの結婚式と披露宴に強制参加だと思うんです。
そこで相談なんですが、僕は結婚式と同時に北の大陸祭りを開きたいと思っています」
「「北の大陸祭り?」」
お祭りの物産展や見本市、競技の内容を僕は懸命に説明した。
「お互いに知識や技術を共有して、健闘を称え合いながらご飯も一緒に食べて。州の皆さんとロウノームスの皆が関わりを持てば、
皆の認識はロウノームスだろうが州だろうが、感じることに人はそう違いが無いのだと改める事にも繋がると思うんです」
一気にそう言い終わると、テンパリトさんから質問が来た。
「つまり州から物産市や見本市を出せと?」
「駄目でしょうか? 州の特産品を売り込むのに、ちょうど良い場所じゃないかと思うのですが」
「……確かに」
「うむ。お祭りなら財布の口も緩むしな」
「ですが……」
考え込む州の代表者さん達の表情を見る限り、いまいちやる気は感じられない。
何か、州の人達を引っ張り込めるようなものは王都にないだろうか?
そういやほぼ全ての州の皆さんは、紙の作り方に興味をしてしていたなぁ。
「紙もお祭り会場で一斉に見てもらうって、どうですか?」
今思い付いたばかりの案を、結局僕は口に乗せる。
「それで各州への街道整備が終わったら、紙の作り方を広めに子供達に各州へ行ってもらう予定だったんですが、ただ広めるだけじゃもったいないと思っているんです」
「他にもあるんですか?」
よくぞ聞いてくれましたっ。
「子供達には州の皆さんとの交流に、旅に出た先で技術の取得もしてきて欲しいんです」
「「……は?」」
「技術の習得には時間がかかりますから、長期にそれぞれの各州に滞在させてもらえればと」
「「はぁ……」」
「交流する中でお付き合いが生まれたりがあっても、良いんじゃないかなぁと思ったりもしているんです」
つまり島でいう別名・嫁探しの旅ですね。
それも、ちらっと説明に急遽追加して~。
でもだからこそ。
「子供達があちこち交流出来るように、各州、余裕が出来れば村ごとに青年の家を作って欲しいですね。
そうすれば北の大陸中の全ての子供達に教育をっていう、いつか言っていた先生の望みも叶いますし」
話が結婚式やお祭りよりも、更に大きくなった事は自覚している。
だけど、どうかな?
僕は周囲を窺った。
情報交換をしていけばきっと多くの人達に、失われた人材の多さから、奴隷制度は悪制なのだという気付きの機会に、きっとなる。
奴隷制度が悪制なのだと北の大陸中に知れ渡れば、きっとロウノームスはクロワサント島に奴隷を求めようとは思わなくなるに違いない。
「僕はロウノームスはもちろん、北の大陸全体をより良くしていきたい。ぜひ、参加して頂けないでしょうかっ? お願いしますっ!」
「「……」」
頑張って力説したが、やっぱり返事はない。
何だか呆気にとられた表情で僕を見つめてくる人までいる。
話をでかくしすぎたかなぁ。
おかしい人
「今回は問題解決の糸口を見つけるための会合かと」
「最近は現状報告で終始していたから」
「同じく。苦しむ同郷の者達を助ける手があればと」
「下手に動けば同郷の者をさらなる苦境に落としそうで」
「なのに今回はあの人が話し始めた途端……」
「思いも付かなかった切り口だった」
「じゃあ、再度貴族達に雇用契約の見直しを警告することでよろしいですか?」
「はい。今回だけはこちらの落ち度もありますし」
「契約内容を確かめなかった」
「では神殿の方の助力も願いながら進めるということで」
「「「はい」」」
「ところで教授、あの人おかしくないですか?」
「はい。おかしいです。ロウノームスの者達もそう思っていますよ」
「教授?!」
「でも問題解決の糸口を全てもらえている」
「そうですね」
「基本的にお人好しですよ。特にケラスィン様にはね」
「……教授、保存食の件お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あと、ちょっと調べたいことがありましてご助力願いたいのですが」