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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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冬が近づく。

 そわそわ。

 そわそわそわ。


 別に僕だって、州の人達の問題をないがしろにして置きたいわけじゃない。

 けど別案も浮かばない今は、2件の再結果待ちをするしかないと思うんだよ、うん。


 ……というわけで、もうケラスィンとの結婚式兼お祭りの話をしてもいいかなぁ?

 僕がロウケイシャンの表情を窺うと、呆れ半分という感じで首を横に振られてしまった。


 えぇ~っ?

 まだ駄目なの?

 不満な僕を他所に、ロウはサラリドさんに話を振った。


「次の件に移りたい。サラリド、備蓄食料の報告を」


「はい。調べましたところ、王都に限らず地方にも貯め込むだけ貯め込んで、それを開放しないまま亡くなられた方々が多数居られました」


「えっ! それって今も貯め込まれたまんまなの?」

 思わず僕は声をあげて、2人の会話を遮ってしまった。


 というか、いつの間に調べてたんだ~っ!

 食料不足の事を前々からロウも気に掛けてたって事だよな。

 さすがロウだ


 確かに、今年の冬をいかに越えるかの話の方が結婚式の話よりも前にするべき内容だ。


 それにしても流行病の前に貯め込んだって事は、きっと随分な量なはず。

 その量を今生きている人達で分けられたら、かなり飢えに苦しむ人が減る。


 つまり命が助かる人が増えるっ。


「亡くなられた方の後継者が、そのまま貯め込んでいます」

「やはりか。ならばその備蓄、この冬に有効に使わせてもらわねばな」


「1度王都に備蓄を集める?」

 会話を遮りついでに、そのまま僕は2人の間に交じってしまう事にした。


「いや、後継者達の考えを見極めるのが先だ。此度の奴隷解放と雇用契約の件に合わせて、食料増産及び食料備蓄の解放の通達も再度出す」


「備蓄されている食料が皆に行き渡れば、冬に王都へと逃げ込んで来る人達は、想定より少なくなりそうだね」


「雇用契約の見届けを行う時に、食料の備蓄をどう動かすかの確認も後継者に問い合わせろ」


「食料の備蓄が春までに残っている状態で周りに餓死者を出すようなら、後継者は処分で良いんだよね?」


 きっちり確認を入れた僕に、ロウからも力強い肯きが返ってくる。


「当然だろう。ロウノームスの貴族を名乗るのなら、守るべき民を守らないなどあってはならない。ロウノームスの精神を汚す行いをしたと言っても良い」


「承知致しました。それと同様の備蓄が、州の代官の館にもされているようです」


 ロウはサラリドさんから州の代表者さん達に視線を移した。


「代官の館にある備蓄食料は、本来州の民への割り当て分だったはずだ。それらの管理を州の方に任せたい」

「あっ!」


「今度はどうした、エイブ?」

「州の方にある備蓄を街道整備の工事をしている親方達にも譲ってほしい、ですっ」


 続けて話の腰を折っちゃって申し訳ないとは思うけど、これも大事な件なのだ。


「ん? 冬にも街道整備を行うのか?」


「天候次第かなと思ってる。親方達より街道整備の工夫達のやる気が凄くてね。前に前に街道をどんどん進ませようとするんだよ」


「聞いてはいるが冬の作業は辛いんじゃないか?」


「その辺は親方達が見極めてくれると思う。それにほとんどの工夫達は冬越しのために王都に戻る気はきっとさらさら無い」


「そうだったな。どうだろうか?」


 ロウが問い掛けると、代表者さん達は顔を見合わせたり、アクスファド先生の方を見たりしている。


「もちろんただで融通しろとは言いません。ですが値段を吹っかけられても無い袖は振れないので、出来れば友好価格で融通していただけると助かるのですが」


「確かにな。ロウノームスの金庫は無限ではないからな」


「まあその辺りについても、後ほど相談させて頂く……というのでは駄目ですか?」

 そう言って来たのは、またもテンパリトさん。


 州にすれば悪い話ではないはずだが、簡単に頷いていいか疑っている様だ。


「かまわん。州の方で話が纏まったら、窓口係を通してでもいいので知らせてほしい」


「あと各州の皆様も今年の冬用に食料の囲い込みを自州で始めているそうですが、少しずつでも融通を効かせて頂けると、物凄く有り難いです」


「……ご存じでしたか」

「まあ今年の冬は何処もぎりぎりの冬になりそうだからな」


 一瞬、北の大陸での冬を思って遠い目になってしまった。

 でも嘆いてばかりじゃ冬は越せないのだからと、僕は提案を投げかける。


「保存食の作り方など、情報提供しあいませんか? 先にこちらからだと思うので、何個か作り方のレシピを後で子供達に頼んで持って行かせますね」


「今教えれば良いだろうが?」


「いやぁ。僕よりケラスィンの館の子供達の方が詳しいからさ。材料等用意してくれれば、料理教室も開きますよ。子供達が」


 子供達は僕よりも立派な実働部隊なのです!


「そうそう。余談だが、エイブ君。王都から持って行った薬草の鉢植えも街道沿いを初め、各地方に根付きそうだ」


「やった! 余談ありがとうございます、サラリドさん」

 聞いた僕は嬉しくなった。


 もちろん薬草を使う様な事態にならない事が1番だけど、薬草が根付けば、いつでも薬が作れるようになるからね。

 非常に喜ばしいことだ。


「薬草の使い方もまとめてあるので、良ければ先生にでも声を掛けてもらえれば」

「私かい?」


「先生の身内の子が率先して纏めてくれてるんですよ」

「それは知らなかったね」


「字の綺麗な子達で本当に助かってます」

「それは良かった」


「「……」」


 う~ん、誰も何も言ってくれな~い。

 各州の代表者さん達から返事はもらえなかった。


 少し残念な気持ちになったけど、まぁ徐々に交流の輪を広げれば良いよねと思い直す。

 お祭りもすることだしっ!


「地方の復興にあたっては食料生産第一を命じてあります。王都の街の者達は率先して家庭菜園を行っていますし、穀類以外の物の保存方法も民の間で次々と広まっています」


 そこで1度言葉を切ったサラリドさんから、またチラッと視線が飛んでくる。


「どなたの発案やら、ケラスィン様の館の子供達が城庭を菜園にしている姿は目を疑いましたが」


 えええぇ~っ?

 だって木とか岩とか退かさなくて良かったんだよ?

 ちょうどいい、だだっ広い土地があったら食べ物を植える一択でしょうっ!


「構わん。そのまま続けさせよう」


 お、ロウからお許しを頂きましたよっ。

 これで王様の御墨付菜園になったねっ!

 良さげな場所はどんどん畑にさせてもらおうっ!





作ってみる


「これでいいと思う?」


「ん~。良いと思うのよね~」

「おかしいと思うところは見つからないわ」


「じゃあ、これで綴っておきましょうか?」

「そうしましょう」


「あ。もしかして、それって保存食のレシピ?」

「そっちは薬のレシピかしら?」


「うん。ちょっと見てもらえないかな?」

「良いわよ」


「あ、代わりにこっちのレシピも見て欲しいのだが」

「うん。了解」


「「……」」


「おかしいと思うところはないなぁ」

「こっちもないわ」


「これなら簡単そうだし、レシピ見ながら作ってみても良いかい?」

「いいかもっ! 私たちもレシピ見ながら作ってみるわ。どれが良いかしら?」


「これなら手間も少ないし、良いと思う」

「「じゃあ、やってみますかっ!」」


「「……」」


「え~、これどういうこと? 入れる量が分からない?!」

「うそ?! このかき混ぜ方がどうとか何っ?!」


「「ちょっと教えてっ!」」




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