確認。
“輝ける白”で南へと帰って行く皆を見送った夜、僕は自分の部屋できちんと睡眠を取った。
しゃっきりした頭でロウケイシャンに結婚します報告をすべきだと思ったのと、ロウノームスの王族の結婚式について現在1番詳しいのはロウだと思ったからだ。
ちょっと話をしただけでも、色々確認事項が出てきている。
それにたぶん確認してる中で、更に確認することが出てくるだろう。
なので次の日の朝、僕は王宮にケラスィンと一緒に向かった。
「エイブ。良く来たな」
「ロウ、ケラスィンが僕と結婚してくれるって。結婚式はすぐ出来る?」
「あほか~っ!」
途端、そんな声と同時に足を蹴られた。
「……痛い、マスタシュ。どっから出たの?」
「後ろから付いてきてたっ!」
「全然気づかなかった。で、どうだろう? 結婚式はすぐ出来るんだろうか?」
痛みと怒鳴り声にめげず、再び質問を僕は繰り返す。
僕だって無理だろうな~とは思うけど、何事にも万が一もしかしたらって事があるじゃないか。
とにかくケラスィンと早く結婚したかったし、ロウの所に行ったら、すぐ出来るかどうかを真っ先に聞こうと、昨日の夜寝る前から決め込んでいたのだ。
「まずはエイブ。ケラスィンと結婚し、ロウノームスに留まる事をよく決断をしてくれた。エイブが王族に加わる事を我は喜んで歓迎する」
「ロウノームスに留まる事は、ケラスィンの望みだからね」
「従妹殿ならそう言うだろう。だが島に帰らなくて良かったのか? 我はエイブが従妹殿を連れて行くかと思っていたぞ」
「……どうやって?」
僕との結婚をケラスィンが受けてくれた。
最愛の人が望み続ける限り、僕はロウノームスに居る。
とっくに決まり切っていた件より、すぐ出来るか出来ないかの答えを聞きたいな~と思いつつ、僕は逆に問い返した。
「船がある。エイブが望めば、いくらでも出来たと思うが」
「……だからロウノームスに留まる事は、ケラスィンの望みだからね」
そうではあるんだろうけどさ~。
ケラスィンと一緒に“輝ける白”に乗せて欲しいだなんて、僕は幼馴染達にチラッとも頼まなかったよ?
「うむ。我はエイブがロウノームスに留まってくれるのを嬉しく思っている」
つまり、ロウは僕がケラスィンを島に連れて帰るだろうと思っていたという事か。
そしてケラスィンが幸せになるなら、クロワサント島で結婚し、生活を紡いでいっても良いとまで思ってくれていたのだろう。
「あ~、……ありがとう」
ロウがそこまで思ってくれていた事を始めて知り、僕は感謝を口にした。
けれど、ロウの話には続きがあった。
「ただ、エイブ。ロウノームスに留まりケラスィンの夫となるという事は、ロウノームスの王族の一員となるという事だ」
「……うん」
「王族の一員になるからには、結婚式も披露宴も義務だと考えてもらいたい。本来ならケラスィンは家柄の釣り合いを考えて行う、政略結婚をする予定だった」
「む」
ロウは口に出さなかったが、つまり王家と家柄の釣り合いの取れる家からって事だな。
「たった2人しか残らなかったロウノームスの王族だからこそ、ケラスィンの結婚は慎重に慎重を重ねられていたのだ。今回各州から婚約者候補を推薦してもらうほどな」
「下手な候補を出せば、州の威信が落ちるから?」
「そうだ。そんなケラスィンをエイブが掻っ攫うのだぞ。ひっそりと結婚するだけでは、これだから平民との結婚は……と、ケラスィンの正式な夫としては見做してもらえんかも知れん」
つまりロウノームスの貴族からだけではなく、ケラスィンの婚約者候補から下りると言ってくれた、テンパリトさんのグリオース州以外の州からも、横槍が入る可能性があるってことか。
「エイブの顔見せは必須だ。ただでさえ今、ロウノームスの王族が主体で行っているといわれている事項のほとんどがエイブ絡みだからな」
「そんな大袈裟な~」
「……とにかくエイブの存在を大々的に周知させるのに、結婚式や披露宴はまたとない機会になる。まあ民に明るい話題の提供をするとでも思えばどうだ?」
やっぱりどうも、結婚式に身内と親しい人達だけ集めて、というわけにはいかない様だ。
大々的に式の飾り物になって、じろじろ見られ続けたくないんだけどなぁ。
残念っ。
「エイブはロウノームスに対し、思う事があるだろう。それなのにケラスィンと結婚すれば、もうクロワサント島のAだとは名乗れなくなるのだぞ」
「……」
幼馴染達と別れたばかりだった僕は咄嗟に返事を返せなかった。
するとロウが続けて来る。
「これまでエイブはケラスィンを生かす為に、ロウノームスの王族を守ろうとし、各州を含むロウノームス全体の存続はオマケの産物でしかなかったはずだ。
だが王族の一員となる以上、エイブはロウノームスの国の存続もその責務に1つにしなければならなくなる」
「……」
僕の生まれ故郷であるクロワサント島は、奴隷探しにやって来たロウノームスからの使者達のせいで、北の大陸と同じく流行病が駆け抜けた。
僕の周り中でバタバタ人が死んでいったのだ。
そんな辛い記憶の象徴であるロウノームスの王族の一員となるのは、辛くないかと心配されたような。
王族には責任が伸し掛かるのだと、釘を刺されたような。
だが愛するケラスィンと結婚したからって、僕がロウノームスだけを愛し、大事にすることはない。
元々クロワサント島の州長や島長でさえ、嫌で嫌で仕方なかったんだ。
ただクロワサント島の皆が好きだったからやっていただけ。
ロウノームスの王族だって同じだ。
ケラスィンと結ばれる為には『王族』になるしかなく、なりたくないのになった地位なんて邪魔で邪魔でしょうがないと思うようになるだろう。
邪魔でしょうがないからとっとと辞めたいけど、辞められない地位。
そんな地位の為に、ただ地位を安定させる為だけに、滅多矢鱈に威張り散らす事など出来るはずもない。
あ~、でももしケラスィンがもうロウムースの事なんか、どうなってもいいと言い出したなら、僕はさっさとロウノームスを見捨てると思う。
それで一般市民として、ケラスィンとのんびり暮らしを営むんだ。
クロワサント島からまた船が来たら、島に帰るのも良いかもな。
けれど、ケラスィンがそんな風に言い出す日は来ないだろう。
「正直、ロウのいう責務を僕は理解出来ていないと思う。これまで通り、じゃ駄目なのかな? ケラスィンに愛想尽かされないように、オマケの産物だって頑張るつもりだよ?」
「そうか。では宮廷式晩餐会にも渋らずに出てもらうぞ、エイブ」
「うっ。それなんだけど、ロウ。北の大陸祭りを開催したいんだ」
僕は昨日の帰り道、ケラスィンとマスタシュと一緒に煮詰めた内容を、ロウにも話す事にした。
悪巧み
「つまりエイブが従妹殿と結婚し、ロウノームスに留まってくれると?」
「はい。馬車の中で島の人が話されていたのは、お祭りの話が主でしたが、最初はケラスィン様との結婚式をどうするかという話でした」
「それは確かで?」
「はい。確かに」
「ご苦労だった。良い報告を届けてくれたことを感謝する」
「はい。失礼いたします」
「……留まってくれたか」
「……ホッといたしました」
「ああ。今エイブに抜けられると明日の先が怖くなるところだったな」
「ケラスィン様に感謝しかありません」
「全くです」
「だがエイブがロウノームスに留まってくれるのだ」
「それでは……」
「ああ。大々的にエイブを表舞台に引き込むぞっ」
「認めぬ者はどうされますか?」
「分かっているだろう? どれだけロウノームスの長い歴史の中で功績の有った家であろうが切り捨てる」
「……元老院は?」
「……分かっていながら2度聞くか?」