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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
9/102

抜け道と前契約。

「じゃあ、この道なら通れそうですか?」

「ああ。確か俺達はこの道を通ってきたはずだ」


 クロワサント島の地図を覗き込み、僕らは話し合いを続けた。


 まず陸路での輸送が消えた。

 他州から来た人達からの情報で、この10年、人がほとんど通らなくなった為に道が消えていたのだ。


 残っている道も獣道に近いらしい。

 獣道では馬車を仕立てる事も出来ない。


 食糧は嵩張るし重い。

 人力のみでは輸送は厳しい。


「そうなると、輸送は船だな」

「でもそうすると……」

「港だな」


 話し合いを続ける中、さらに別の問題が出た。


「うん。港の現状はどうなってますか?」


「州都以外の港は、ほぼ使われてないと思う」

「まず人が居ないしな」


「でも州都の港はダメよ。見張りが多すぎるわ」

「「う~~~~~ん」」


 州都以外の港の現状が分からないとなると、座礁しない様に舟を動かすには、船頭の腕だけが頼りになる。


 だが実際の所、北の州もやっと数年前に舟を扱い出した所だ。

 皆そこまで操船に熟練していないのだ。


 そうなると、思い当たるのは……。


「バナに頼むしかないか」

「ああ。だがバナに頼むとなると、ちゃんと話は詰めとかないとまずいぞ」


 帆船の船長=舵を取る人=航海の指揮者=バナ という図式が頭に浮かぶ。


「うん。一度向こうの人に会って、ちゃんとお願いするしかないな」


 自然の流れで僕は口に出したのだが、なぜか幼馴染達からストップが入った。


「おい! エイブが行くのか?!」

「当然っ!」


「うがぁ!」

「何考えてんだバカっ! お前州長だろうがぁ!」

「俺らが行くっ」


 そして一斉に、幼馴染達が僕の頭を押さえ付けてくる。

 う、動けない……。


「何でだよ~。お願いするなら、州長の僕が動いた方がいいだろ~」


 押さえ付けられながらも、僕は言うのだが……。


「アホかっ!」

「お前が動いて何かあったら、北の州はどうなるんだよっ!」


「え~。親方達もいるし。北の州は落ち着いてるし、大丈夫だろ~」


 何かあったら……なんて事を考えたらキリがないし、実際に僕の代わりなんていくらでもいると思う。

 なのに~なのに~~。


「もう喋るなっ」


「案内お願いできますか?」

「ああ。任せてくれ」


 僕の頭の上で、話がどんどん纏まっていく。


「じゃあ、南西の州は」

「おう。オレが案内する」


「北東の州は?」

「おれだ。よろしく頼む」


 どうやら島都がある南の州以外の、8州に物資を送る事に決まりそうだ。

 島都がある南の州へ下手に手を出すのは、時期尚早だろうという判断から8州になった。


「大勢で行くと、見張りに見つかる可能性が高くなるんじゃない?」

「州境を越えるんだ。少人数で行くしかないな」


「じゃあ、コメの収穫までに戻ってこなきゃだし、8組送ってそれぞれ話を決める方が早くていいんじゃない?」


「いいね。各州にはそれぞれ案内役とボク等の1人でどう?」


「まあ、途中までは一緒に行けるだろ。それぞれの州に近くなったら分かれて行けばいい」


「いいですね。じゃあどこの州に行くか、こっちも決めときます」

「分かった」


 ちくしょ~押さえ付けられてる間に、どんどん話が決まっていく~。

 釣り舟の時と一緒だよ。

 また仲間外れかよ~っ。


「エイブ、次行くぞ」

「お前が北の州にいるから、俺達は自由に動けるんだ」

「そうそう。しっかり州長よろしくね」


「うう~~~」

 やっと頭の上の重しをどけてくれた。


 恨めしそうに幼馴染達を睨んでやったが、相手は笑って返しやがる……。

 くっそ~っ!

 いつか絶対出かけてやる~~!!


 いやいや、落ち着け僕。

 このままだと今日の話し合いから絶対追い出される。


 深く深呼吸し、次に話し合わなければならない事に頭を切り替えた。


「相手の当てはありますか?」


「ああ。ある」

「それは任せといてくれ。絶対変なのは紹介しない」


「はい。お任せします。あと援助物資ですが、貴方達が収穫した物を当てようと思ってます」


「おれ達の?!」

「ええ。貴方達の」


 一斉にざわつきが起こった。


「北の州の者の中には、自分達にゆとりがある訳じゃないのに、援助物資を出すのはおかしいと考える者もいます」


「おい、エイブ」

 確かに本当の事だが、なぜそれをわざわざ言う必要があるんだと幼馴染達は訝る。


 それに対し、安心させるように微笑んで、僕は続けた。


「でも、貴方達は違う。貴方達にとって、他州の人達は仲間です。仲間に対する援助なら納得出来るし、それぞれの州長も目くじらは立てられません」


 さらにざわめきが増えたが、無視して先に進めた。


「もちろん北の州の皆からの合意済みですが、こちらも無断で援助物資は送れないんです。なので今回は皆さんからの援助物資という事で、輸送費のみを支払いして頂く形になります」


「村自治か」


「うん。そう。ちょっとした抜け道だね」

「考えたなぁ」


 北の州として援助をしたくない人もやはりいたので、その点も配慮した結果である。


 ホントに考えたよ~。

 考えすぎて頭の中がしばらく動かなかったぐらいだ。


「え? 干物とかは今回なし?」

「干物は今回僕ら輸送は初めてだから、初めての契約者に対するオマケだね」


「オマケ!」

「それイイっ!」


 一斉に場が沸いた。


「輸送費の代金は出来た時にお支払頂くという事で、僕等は皆さんの希望先に物資を運ぶ。受け取った皆さんは州都まで運び、闇市場を開いて物資を捌く。という感じでどうでしょうか?」


 僕は持ってきた流行病前の輸送に関する書類を見せ、さらに作ってきた書類をそれぞれに渡した。


「いいんじゃないか?」

「うん。ありがたいぐらいだ」


 どうやら8等分した輸送費の請求書についても、避難して来た皆さん納得してくれたらしい。


「あれ? これ物資を渡した後はどうなるんだ?」


 ああ、気づかれたか。


「そこから先は、それぞれの州の皆さんにお任せします」


 また一斉にざわめきが起こった。


「タダで配るのも良いとは思うんですが、輸送費の支払いがありますからね。こちらの輸送費分と、州都までの輸送を頼む分。あと保管についても考えて、良心的なお値段にして貰えると嬉しいです」


「こちらで値段設定できるのか?」


「ええ。皆さんの方が他州については詳しいですから。いくらでなら購入出来るか、その辺はそちらで相談して下さい」


 書類を見直して値段についての相談が始まった。



 ほっと一息ついてると、横から。


「なぁ、引き渡しなんだけど、間違った人に物資を渡すとまずくないか?」


「バナだしねぇ。ちゃんと決めといた方が良いって」

「「うんうん」」


「……」

 お~い、バナ~。


 お転婆でおっちょこちょいなのは知ってたけど、青年の家の兄姉にここまで信用ないのはまずいんじゃないか~?


 つい胸の中で突っ込んじゃったが、今回はバナよりも、間違いを出さない方が重要だ。


 8州それぞれの担当になった人達が船に乗り込む予定なので、バナだけが物資を引き取りに来た人達と相対すると決まったわけではない。


 しかし港の現状が分かるまで、海の状態を知る才能を持つバナは毎回参加する事になるだろう。


「どうする?」

「「う~~~~ん」」


 すぐにはいいアイデアが浮かばなくて、つい腕組みして悩んでいると幼馴染の1人が、


「あれはどう?」


 壁に掛かっている鍋敷を指さして言って来た。


「鍋敷?」

「うん。あんな感じで模様を木彫りして、半分に割って、絵が合ったら引き渡しをする」


「きれいだし、いいわね」

「きれいな物はバナも好きだし、早々無くさないだろ」


「「だな」」

 決まりだ。


「8つ任せたっ」

「「任せたっ」」


「おれっ?!」


 木工仕事が得意なダニャルに押し付けて、


「や~無事に決まって良かったね~」

「「うんうん」」


「ちょっと待て~っ」

 1人涙目なダニャルを置いて、僕は幼馴染達とほのぼの笑った。


挿絵(By みてみん)


本契約


「じゃあ、これで決まりという事で」

「よろしく頼む」


 しっかり握手をぼく達はした。



 ここまで来るのが、まず大変だった。


 なんでこんなに道が寂れてるんだよおおおおおおお!!

 疲れてなかったら、絶対大声で叫んでたっっ!!


 村で親方達から、


「エッド。お前達にばかり実行部隊を頼んでしまってスマン。だがお前達が動かなければ、エイブが動くだろう。今エイブを北の州は失う訳にはいかないんだ」


 真剣にぼくを見つめ頼まれちゃった手前、途中で絶対へばれなかったしな……。


 それに親方の言う事はとてもよく分かった。


 初めにエイブがくじ引きを言い出した時には、皆で一蹴したが、今では他の誰でもないエイブが先頭に立っているからこそ、ぼく達はこうして意見を交し合い、実際に動けているのだ。



「物資はコメの収穫が終わってから此方に持って来る事になります」

「頼むっ」


「……あと、これなんですが」


 ぼくは胸元から木彫りのペンダントヘッドが付いた首飾りを引き出した。



「とりあえず、こっちは終わらせた。後は寝てからやるっ!」


 ぼく等に1個ずつ押し付けるとぶっ倒れた、三晩完徹の超特急仕事をしたダニャルの力作である。



 ちょっとしみじみ見てから手渡した。


「これが物資の引換替わりです。物資受け取りの時には持って来て下さい」

「引換ですか?」


「はい。これがないと物資を渡せませんので必ず持って来て下さい」

「分かりました」


「ぼくがこの州の担当になっています。今だけじゃなく、平和になってからも末永くお付き合い頂けると嬉しいです」


 エイブだったら絶対言ってるだろう事を付け加え、契約書を持ってぼくは意気揚々と北の州に帰った。


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