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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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披露宴の夢。

 そういえば、結婚式とか披露宴についてケラスィンの希望を全く聞いてない。


 ロウノームス式にするなら神殿で結婚式を行うみたいだけど、島でのお披露目が宮廷式晩餐会やパレードって事なのかな?


 ケラスィンは、結婚について夢があったりしないのだろうか?

 島の女性陣は、あ~が良い、こ~が良かったと、挙式を含む結婚前後について声高に盛り上がってた気がする。


「ケラスィンは? 結婚についての夢とか、これは譲れないみたいなのはないの?」

「結婚するのなら、ロウノームスの事を思ってくれる方と決めていたけれど。それ以外の事は全く」


 少し考える様な素振りをした後、ケラスィンは続ける。


「でも、そうね。義務で参列して下さる方々にも、少しでも楽しんで頂けたらと思うわ」

「……」


 う~ん。

 楽しんで、か~。


 楽しむなら、お祭りがやっぱり打ってつけじゃないか?


 マスタシュに止められたばかりだけど、全島ならぬ北の大陸祭りの開催を考えて、皆が楽しめるようなものにするべきなんじゃないかなぁ?


 正式に王都で雇用された人達以外は、自分達の故郷である各州に帰りがてら、後から故郷に向かうであろう仲間のために街道整備を行ってくれている。


 つまり、これまで宮廷式晩餐会を支えてくれていた、奴隷だった人達はもう既に王都内にはいないのだ。

 何日も続けて、宮廷式晩餐会を接客出来る様な人数を王都内で集める事からして、難しいと思う。


 ロウノームスの王族が行っていた、おもてなしの宮廷式晩餐会やパレードも当時は楽しかっただろうが、今は顰蹙を買うだろう。

 別に何か、皆が楽しめるものを開く必要がある。


 そもそも全島祭りも、再びロウノームスが攻めて来た時の訓練っていうだけじゃ、他州からの参加者も意欲も集まらなさそうで。

 もっと楽しいのにしようって事で、お祭りになったんだ。


 ロウノームス式の披露宴とパレードをお祭りにすれば、皆楽しめるんじゃないか?

 でもお祭りを開くならば、結婚式はただの添え物になる。


 僕としては宮廷式晩餐会もパレードもない結婚式は大歓迎だが、ロウノームスの王族としてケラスィンは寂しく感じないだろうか?


「もし、だけど。結婚式がメインじゃなくなっても、それでも皆が楽しければケラスィンは構わない?」

「もちろん」


 すぐに返って来たケラスィンからの答えは、僕の背を強く押してくれた。

 そこで僕はケラスィンとマスタシュに、全島祭りの内容をあれやこれやと話す事にした。


「まず、結婚パレードと宮廷式晩餐会の披露宴を今回は無しにする。その代わり、あっちこっちで開かれてるお祭り&競技会場を全部ケラスィンと見て回る。そこでお祝いを受けるなんて、どう?」


 馬車の中とか、どこかの部屋の一カ所に座ったまま、お祝いを言いに来てくれるのを待っているくらいなら、こっちから向かう。


 つまり、それを口実にお祭りに参加だっ。


 パレードと晩餐会なんかでじっと飾り物になっているより、ずっと楽しいし、ケラスィンにも楽しんでもらえるはずっ!


「お祭りっていうのは、ロウノームス内だけじゃなくて、各州の物産を集めたり、食べたりする。

 それから競技は水泳や馬術、長短距離走、それに凧揚げっ! あとロウノームスで受け入れられそうなのは、釣り大会かな?」


 元々はロウノームスとの海戦避難訓練の為に競技を考えたというのは口に出さず、僕はお祭りの物産展&競技の説明を続ける。


 島では帆船競技も行ったがロウノームスでは無理だろうな~。

 でも近い将来に期待したい。


 制限時間内の、火起こし競争や、薬草や天然食材探しは、大人達より子供達の方が盛り上がりそう。


「それからさっ。結婚式にもらうお祝い品は高価な物はダメだと希望するんだっ。食えない高価な物をもらったって腹の足しにはならないからね」


 あっ、もちろん。


「何も農産品の現品じゃなくていい。こんな物が作れます。こんな食べ方もありますって、見本市の方が皆も楽しめる。そんな屋台がいっぱいあれば、色んな物の食べ比べも出来て楽しいよ」


 それからそれから~っ。


「可能なら医療や建築の技術や知識が欲しいと、希望も出したい」


 妥協して豪華な装飾品の作り方、図と解説付きでもいいや。


 最悪、昔はこんな物を作っていた、という見本。

 もしくは、将来こんな物を作りたいという展望図や模型とか?


 幼馴染達は島へ植物を持って帰ったけど、良い手だよね。

 うまく育てられれば、食べられる物の種類が増やせるんだから。


 お祭りで各州の物や知識が集まれば、ロウノームスだけじゃなく、各州にどれくらいの技術や知識が残り、そして逆に失われたかを知るきっかけにもなる。


 ロウノームス内でも、口伝として残っているものがあれば、この際、全部紙に残していくんだ。


 そう。

 島の青年の家にあった資料部屋の様にっ!



 僕が内心うんうんと頷いていると、マスタシュから制止が入った。


「待て。待て、エイブ」

「ん? どうしたの?」


 思わず開いてみたいお祭りの内容を熱弁してしまったが、マスタシュどころかケラスィンまで、ぽか~んとした顔をしている。


「あ~、ごめん。ちょっと盛り込み過ぎちゃったかな?」

「それもあるけど、そんなの王族の結婚式じゃないだろ。ですよね、ケラスィン様?」


「そうね。パレードや披露宴の無い結婚式のイメージは全くなかったわ」

「え~っ? パレードや晩餐会無しじゃ駄目、ケラスィン?」


 そうなのか~。

 ケラスィンのイメージから外れてるなら、全く無しは止めよう。

 なんたって結婚式は花嫁さんが主役だしなぁ。


「でもさぁ。宮廷式晩餐会やパレードは、開くのを支えてくれる人が大勢必要だと思うんだよね。

 今、王都は人が少ないだろ? いかに労力を掛けずに楽しめるかが、大事だと思うんだけどなぁ」


「エイブは宮廷式晩餐会やパレードが嫌なだけだろうがっ!」

「え~っ」


 まあそれもある。

 違うとは言えないよなぁ。


「ケラスィン様っ! 王都にはケラスィン様と、ついでにエイブの結婚を、涙を呑みつつ祝福する奴はいっぱい居ます。皆、嫌々どころか進んで準備だってしますよ」


「ええ、マスタシュ。本当にありがたい事だわ」


 むむ~。

 ケラスィンは王都で人気者だからなぁ。


 でもパレードは諦めるから、真面目に宮廷式晩餐会は勘弁してほしい。

 それじゃなくても、王都にはこの冬生き残るので精一杯の物しか残ってない。


 それなのに宮廷式晩餐会など開いたら、絶対誰かが餓死する事になるだろう。

 そんな恨みをひきそうな事など絶対開きたくなどない。


 あとせめて結婚式会場は、ラスルさんも居るお馴染みの神殿にしたい。

 知らないキンキンキラキラな神殿で結婚式なんて、落ち着く気がしなくてごめんだ。


 あ、でもロウノームスの王族の結婚式会場が、もしかして固定の決まっている神殿しかダメとかはないだろうか?

 これは、ロウに確認が必要だな。





内緒話


「ねぇねぇ。王族とか貴族とかの結婚式ってどんな風?」

「う~ん。僕らは結婚式に出たことがないから、どんな風なのか分からない」


「当然かもね」

「うん。1番直近にあった大きな結婚式が王の結婚式ですものねぇ」


「父上の結婚式か。どんなのだったんだろう?」


「私たちも知らないわ。王城で宴はあったと思うけど」

「そうだよねぇ。今でも何かあれば晩餐会が開かれるしねぇ」


「そういえばオシウェストは? どんな感じ?」


「……2種類あります」

「2種類?」


「ロウノームス式と内輪的な結婚式と」

「ロウノームス式って晩餐会?」


「あとは、ちょっとしたパレードですね。大々的に警護を付けた中、代官所まで花嫁が馬車で向かいます」

「内輪的って?」


「神殿で身内に見守られながら、結婚を誓います」

「私はこちらの結婚式の方が好きですね」


「……変人もそっち派だな」

「「うん」」




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