感謝。
皆が持ち寄ってくれた材料の内、砂糖が足りなくてジャムに出来なかった物が出た。
「どうする?」
「簡単に保存食に出来そうな物を半分貰って、“輝ける白”の航海中に加工するのはどうだろう? バナ! どれが良い?」
僕が尋ねると、ダニャルはバナを呼び寄せた。
「この辺貰いたいなぁ。見た事がない葉っぱだもん」
「ほ~お? 根付もあるな! 土を入れられる容器をかき集めて、鉢植えにしてみたいな!」
「根付いたら増やそうよ。これってどうやって食べるの、エイブお兄ちゃん?」
「う~ん。神殿を借りて、残りを全部調理しちゃわないか? そうすれば、料理方法も分かるし、皆も楽しく食べられる。一石二鳥だよ」
講習会が終わったばかりだけど、このまま材料と一緒に皆で神殿へ移動しちゃえばいい。
そう思った僕に、マスタシュが待ったを掛けて来る。
「エイブ、ちょっと待て! 神殿にまず確認させろ!」
「マスタシュ、任せた!」
それをアッサリ切り返し、再びダニャルに質問。
「根付きはみんな貰うんだよね?」
「出来たらな」
「じゃあ、先に貰いたいモノを確保してくれ。残りを料理に回すから」
「あるだけの容器を持って来いっ!」
「「はいっ! 姐御っ!」」
相変わらず、フィシャリの号令はカッコイイ~っ!
しっかり統率がとれている。
「土を貰いたいんだが、出来ればこれが植わってた土が」
「育て方を教えて欲しいって言ってるんだけど、教えて貰えるかな~? 貰えませんか~?」
ダニャルからの要望を受け、僕は手近にいる子供達や街の人達を見回す。
「全部共同畑で取れるモノだ。そいつは調理に回して、土付きのを持って行かないか聞いてみてくれるか?」
「新鮮で土付きなら、長い航海でも生き残るのが出るかもしれないから、助かるよ!」
尚更ステキな提案をして来てくれた人がいて、僕は喜び勇んで答えた。
「おし。こっちだ」
「育て方も教えるよ!」
「メモと容器頼む!」
「準備済み! よろしくお願いします!」
通訳を交えつつも、会話がぽんぽん弾んで、そのまま移動かという時、マスタシュが口を挟んで来る。
「あのさぁ。すぐ出港、ない。鉢植え、後日、ダメ? 腹減った」
「マスタシュ」
しかも僕を止めるのは時間の無駄とでも思ったか、クロワサント語でダニャルとフィシャリに訴えている。
「あ~すまん。もう夕方だな」
「すぐ神殿、手配する。片付け、あと、ゆっくり来て」
「分かったわ」
ついつい、いつの間にか僕の勢いに乗ってしまったとでも言いたげに、ややバツの悪そうな表情でダニャルとフィシャリが頷いた。
2人がマスタシュの言葉に納得するなら、まぁいいか?
じゃあ、お腹を満たすための料理教室に専念だっ! と、僕は島にない葉っぱの件で、協力を申し出てくれた人達に告げる。
「鉢植えは、後日、神殿に預けてほしい。急いで料理教室を準備するから、皆はここの片づけゆっくりして来て」
「「了解」」
すると談笑しつつ、次から次へと段取りが決まっていく。
話しながらも、動きは止まっていないんだから全くもって凄い。
「まずは、手早く作れるものを準備だねっ! 馬車を1台使うよ!」
「おう! じゃあ、その馬車使えっ! とりあえず、目についた材料を馬車に入れろっ!」
「うまいものを頼むぞ~!」
「すぐ食えるもん~っ。じゃないのかい?」
「うちのも、帰ってきたらそれ言うわ」
「あははは。ここはのんびり片づけるから、その間に何か作っといてくれや」
「しょ~がないねぇ。マスタシュ・・・・おや、もう居ないね」
「先に馬に乗って行っちゃったわ」
「動きが速いねぇ」
「急いで追いかけましょ」
「じゃあ、後は任せたよ~」
「おう。のんびり追いかける」
そのテキパキさを思わずぼ~っと眺めてしまっていたが、見ているだけじゃなくて、僕も何かしなくっちゃだよなっ。
「さ~片づけようっ」
「ジャムはここ」
「まだ残っている材料はここ」
「出来るだけ同じ種類ごとに分けて入れてくれ~」
行動で何をしようとしているのか、言葉が分からなくても理解したらしい。
何と、ダニャルとフィシャリから本日の重要ポイントがっ!
「ちょっとお湯を作らせてもらうよ」
「お湯? 何で?」
「保管容器を熱湯で洗ってからジャムを入れると、長持ちするのよ」
「へぇ~っ」
つい感心していると、フィシャリからお叱りが飛んでくる。
「ちょっとエイブ、島でもやってたわよ」
「いやぁ。フィシャリごめん。任せっきりだったから、ぜんぜん覚えてなかった」
「保存食の保存、どうしてたんだよ」
「容器に、そのまま入れてた」
「お~い」
ついでにダニャルには呆れられてしまった~。
「ごめんダニャル。今度から、熱湯で容器を洗ってから入れるよ」
「そうしてくれ」
そんな僕達の様子が不思議だったらしい。
「島の人、なんでお湯?」
「保管用の容器を熱湯で洗ってから入れると、保存食が長持ちするんだって」
「ほぉ~」
「うちでもやるか」
これは後から、ジャムのメモに付け加えとかないとっ!
「まあ、ここ以外のかまどはもう片づけ始めてるから、それぞれ家でやってくれ」
「じゃあ、ジャムは鍋のままでいいな」
「おう。後で皆で分けようぜ」
「とりあえず、この鍋がそっちの取り分だ」
「ありがとう。いただきます」
「こちらこそだ。出来れば鍋は後で返してくれると助かる」
「鍋は、洗って返しますね」
通じているようで通じてないのが可笑しいなぁ。
「フィシャリ姉~っ! お湯沸けた~っ!」
「ジャムを入れられそうな容器は、洗ってあるわね?」
「はいっ! 姐御っ!」
「お湯をかける柄杓は?」
「まだですっ!」
「さっさと洗ってこいっ!」
「はいっ! 姐御っ!」
ビシバシ指示を飛ばすフィシャリの姿は、街の人達も感じ入らせてしまうらしい。
「元気なねぇさんだなぁ」
「僕の幼馴染達は皆、特別元気でして」
「俺のかかぁに似てるなぁ」
「それは、家内平和で良いですね」
「全くだっ」
そんな事を言い合いながら、何とか片付けも無事済ませ、僕達は神殿へと向かった。
悩み
「お邪魔します!」
「マスタシュ?」
「今から神殿の料理部署、使わせてもらいたいんだけど、良い?」
「どうした?」
「今日の料理教室は、港に変更になったんじゃないのか?」
「ジャム作りは終わったんだけど、材料が色々余ったんだ。そのままじゃ悪くなって捨てるしかないから、調理して、皆で食べようってなってさ」
「ちょっと待って」
「ケラスィン様が来られてるんだけれど……」
「ケラスィン様が?」
「でも、様子が……」
「あ~」
「マスタシュ?」
「何でそんな顔?」
「ケラスィン様、難しく考えすぎだと思うんだ……」
「どういう事?」
「ラスルさん」
「声が聞こえてね。出てきたのよ」
「ケラスィン様は? 大丈夫?」
「大丈夫ではないわ。でも、私達じゃ、話をしていても行き詰るのよ」
「行き詰る? 何故?」
「ケラスィン様は、数少ない王族だから」
「何で、王族だと行き詰るんだ?」
「マスタシュ?」
「私も知りたいわ」
「ケラスィン様?」
「どうして? 私は考えすぎ? 何故そう思うのかしら?」
「……結婚は、普通好き合う者同士がするものなんだろ!」
「え?」
「街の人達は、そう言っていたぞ! 好きだから、一緒に居たいから結婚するんだと!」
「……そうね。そうだわね」
「ケラスィン様は、エイブ好き? 一緒に居たい?」
「マスタシュ」
「それが一番大事だと思う!」
「……でも」
「ケラスィン様が、何に悩んでるか分からない。でも、悩みはエイブに言っちゃえばいい!」
「え?」
「何でもない悩みだったって、きっとエイブは言ってくれるよ!」