表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
86/102

感謝。

 皆が持ち寄ってくれた材料の内、砂糖が足りなくてジャムに出来なかった物が出た。


「どうする?」


「簡単に保存食に出来そうな物を半分貰って、“輝ける白”の航海中に加工するのはどうだろう? バナ! どれが良い?」


 僕が尋ねると、ダニャルはバナを呼び寄せた。


「この辺貰いたいなぁ。見た事がない葉っぱだもん」

「ほ~お? 根付もあるな! 土を入れられる容器をかき集めて、鉢植えにしてみたいな!」


「根付いたら増やそうよ。これってどうやって食べるの、エイブお兄ちゃん?」


「う~ん。神殿を借りて、残りを全部調理しちゃわないか? そうすれば、料理方法も分かるし、皆も楽しく食べられる。一石二鳥だよ」


 講習会が終わったばかりだけど、このまま材料と一緒に皆で神殿へ移動しちゃえばいい。

 そう思った僕に、マスタシュが待ったを掛けて来る。


「エイブ、ちょっと待て! 神殿にまず確認させろ!」

「マスタシュ、任せた!」


 それをアッサリ切り返し、再びダニャルに質問。


「根付きはみんな貰うんだよね?」

「出来たらな」


「じゃあ、先に貰いたいモノを確保してくれ。残りを料理に回すから」


「あるだけの容器を持って来いっ!」

「「はいっ! 姐御っ!」」


 相変わらず、フィシャリの号令はカッコイイ~っ!

 しっかり統率がとれている。


「土を貰いたいんだが、出来ればこれが植わってた土が」

「育て方を教えて欲しいって言ってるんだけど、教えて貰えるかな~? 貰えませんか~?」


 ダニャルからの要望を受け、僕は手近にいる子供達や街の人達を見回す。


「全部共同畑で取れるモノだ。そいつは調理に回して、土付きのを持って行かないか聞いてみてくれるか?」


「新鮮で土付きなら、長い航海でも生き残るのが出るかもしれないから、助かるよ!」


 尚更ステキな提案をして来てくれた人がいて、僕は喜び勇んで答えた。


「おし。こっちだ」

「育て方も教えるよ!」


「メモと容器頼む!」

「準備済み! よろしくお願いします!」


 通訳を交えつつも、会話がぽんぽん弾んで、そのまま移動かという時、マスタシュが口を挟んで来る。


「あのさぁ。すぐ出港、ない。鉢植え、後日、ダメ? 腹減った」

「マスタシュ」


 しかも僕を止めるのは時間の無駄とでも思ったか、クロワサント語でダニャルとフィシャリに訴えている。


「あ~すまん。もう夕方だな」

「すぐ神殿、手配する。片付け、あと、ゆっくり来て」

「分かったわ」


 ついつい、いつの間にか僕の勢いに乗ってしまったとでも言いたげに、ややバツの悪そうな表情でダニャルとフィシャリが頷いた。


 2人がマスタシュの言葉に納得するなら、まぁいいか?


 じゃあ、お腹を満たすための料理教室に専念だっ! と、僕は島にない葉っぱの件で、協力を申し出てくれた人達に告げる。


「鉢植えは、後日、神殿に預けてほしい。急いで料理教室を準備するから、皆はここの片づけゆっくりして来て」

「「了解」」


 すると談笑しつつ、次から次へと段取りが決まっていく。

 話しながらも、動きは止まっていないんだから全くもって凄い。


「まずは、手早く作れるものを準備だねっ! 馬車を1台使うよ!」

「おう! じゃあ、その馬車使えっ! とりあえず、目についた材料を馬車に入れろっ!」


「うまいものを頼むぞ~!」

「すぐ食えるもん~っ。じゃないのかい?」

「うちのも、帰ってきたらそれ言うわ」


「あははは。ここはのんびり片づけるから、その間に何か作っといてくれや」

「しょ~がないねぇ。マスタシュ・・・・おや、もう居ないね」


「先に馬に乗って行っちゃったわ」

「動きが速いねぇ」


「急いで追いかけましょ」

「じゃあ、後は任せたよ~」

「おう。のんびり追いかける」


 そのテキパキさを思わずぼ~っと眺めてしまっていたが、見ているだけじゃなくて、僕も何かしなくっちゃだよなっ。


「さ~片づけようっ」

「ジャムはここ」

「まだ残っている材料はここ」


「出来るだけ同じ種類ごとに分けて入れてくれ~」


 行動で何をしようとしているのか、言葉が分からなくても理解したらしい。

 何と、ダニャルとフィシャリから本日の重要ポイントがっ!


「ちょっとお湯を作らせてもらうよ」

「お湯? 何で?」


「保管容器を熱湯で洗ってからジャムを入れると、長持ちするのよ」

「へぇ~っ」


 つい感心していると、フィシャリからお叱りが飛んでくる。


「ちょっとエイブ、島でもやってたわよ」

「いやぁ。フィシャリごめん。任せっきりだったから、ぜんぜん覚えてなかった」


「保存食の保存、どうしてたんだよ」

「容器に、そのまま入れてた」

「お~い」


 ついでにダニャルには呆れられてしまった~。


「ごめんダニャル。今度から、熱湯で容器を洗ってから入れるよ」

「そうしてくれ」


 そんな僕達の様子が不思議だったらしい。


「島の人、なんでお湯?」

「保管用の容器を熱湯で洗ってから入れると、保存食が長持ちするんだって」


「ほぉ~」

「うちでもやるか」


 これは後から、ジャムのメモに付け加えとかないとっ!


「まあ、ここ以外のかまどはもう片づけ始めてるから、それぞれ家でやってくれ」

「じゃあ、ジャムは鍋のままでいいな」


「おう。後で皆で分けようぜ」

「とりあえず、この鍋がそっちの取り分だ」


「ありがとう。いただきます」

「こちらこそだ。出来れば鍋は後で返してくれると助かる」


「鍋は、洗って返しますね」

 通じているようで通じてないのが可笑しいなぁ。


「フィシャリ姉~っ! お湯沸けた~っ!」


「ジャムを入れられそうな容器は、洗ってあるわね?」

「はいっ! 姐御っ!」


「お湯をかける柄杓は?」

「まだですっ!」


「さっさと洗ってこいっ!」

「はいっ! 姐御っ!」


 ビシバシ指示を飛ばすフィシャリの姿は、街の人達も感じ入らせてしまうらしい。


「元気なねぇさんだなぁ」

「僕の幼馴染達は皆、特別元気でして」


「俺のかかぁに似てるなぁ」

「それは、家内平和で良いですね」


「全くだっ」

 そんな事を言い合いながら、何とか片付けも無事済ませ、僕達は神殿へと向かった。





悩み


「お邪魔します!」

「マスタシュ?」


「今から神殿の料理部署、使わせてもらいたいんだけど、良い?」


「どうした?」

「今日の料理教室は、港に変更になったんじゃないのか?」


「ジャム作りは終わったんだけど、材料が色々余ったんだ。そのままじゃ悪くなって捨てるしかないから、調理して、皆で食べようってなってさ」


「ちょっと待って」

「ケラスィン様が来られてるんだけれど……」


「ケラスィン様が?」

「でも、様子が……」


「あ~」


「マスタシュ?」

「何でそんな顔?」


「ケラスィン様、難しく考えすぎだと思うんだ……」


「どういう事?」

「ラスルさん」


「声が聞こえてね。出てきたのよ」

「ケラスィン様は? 大丈夫?」


「大丈夫ではないわ。でも、私達じゃ、話をしていても行き詰るのよ」

「行き詰る? 何故?」


「ケラスィン様は、数少ない王族だから」

「何で、王族だと行き詰るんだ?」


「マスタシュ?」

「私も知りたいわ」


「ケラスィン様?」

「どうして? 私は考えすぎ? 何故そう思うのかしら?」


「……結婚は、普通好き合う者同士がするものなんだろ!」

「え?」


「街の人達は、そう言っていたぞ! 好きだから、一緒に居たいから結婚するんだと!」

「……そうね。そうだわね」


「ケラスィン様は、エイブ好き? 一緒に居たい?」

「マスタシュ」


「それが一番大事だと思う!」

「……でも」


「ケラスィン様が、何に悩んでるか分からない。でも、悩みはエイブに言っちゃえばいい!」

「え?」


「何でもない悩みだったって、きっとエイブは言ってくれるよ!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ