新たな試み。
「エイブ……」
ダニャルとフィシャリが困り果てた様に僕を見る。
え~っ?
こちらを見られても困るよ~。
島に帰らないと言ったのに、信じて貰えない現状がキツイ。
だが、いつまでもこうしていたって仕方ないので、子供達に本題を切り出した。
「皆。ダニャルとフィシャリが新しい保存食を教えてくれるんだ」
「新しい?」
よし、子供達が食い付いた。
「うん。それを明日街の人にも広める前に、今から作って予習して、それで教え役になってほしいんだよ」
「材料は?」
「果物と砂糖だよ」
「果物と砂糖?!」
「お菓子っ?!」
おお!
一気に皆の目が輝いた。
「ジャムを作るよ!」
「ジャム?!」
あれ?
ジャムって島の言葉だったっけ?
「すっごい甘くて美味しいってジャムっ?!」
「作れるの?!」
「作り方を知ってて、教えられる人が来たからね」
先程と全く表情が違う。
「よろしくお願いしますっ!!」
皆は一斉に、ダニャルとフィシャリに頭を下げた。
「さすが……」
「助かったわ……」
いや。
肩を叩かれても……。
「じゃあ、頼んだよ」
反対に肩を叩き返してやった。
「火を使うから、台所が良いんだけど、どこにある?」
「台所で作ろうってさ」
「こっち~っ!」
皆は2人を案内し、僕の背中を押し、台所へと直行する。
甘い物が苦手な子供以外は、すっかり乗り気だ。
ジャムは子供達に大人気の保存食だが、正確な分量は分からないし、そもそも砂糖が手に入り辛くて、今まで実験してみる事も出来なかった。
だから、これまで果物は小さい物はそのまま、大きい物は薄く切って、干したり、酢や酒に漬けたりしかしていない。
本に載っていたジャムを、青年の家で見つけた時から、温めていた野望がやっと叶う!
子供達に背は押されたが、僕の足は、自然に喜び勇んで台所へ向かった。
「明日の分の砂糖は、いっぱい島の船にあるらしいから、今日は材料があるだけ作ろう」
「砂糖はあんまり無いの」
「果物も……」
色々ジャムになりそうな果物を子供達が集めて来たが、確かに分量は多くない。
「野菜でもジャムが出来たよな?」
「良く覚えてるわね~。野菜のジャムは魚と一緒に煮ると、意外と美味しいわよ」
「へ~っ」
ちょっと驚きつつ、その事を子供達に伝えると、表情が大分明るくなった。
「それじゃあ、始めるぞ?」
「頼む!」
「おれが果物のジャムだ」
「私が野菜のジャムを担当するわ」
「普通逆じゃないのかい?」
「野菜の方が手間が掛るのよ。私の方が包丁は慣れてるからね」
「ノミや小刀なら、おれの方が慣れてるんだがな」
「だろうねぇ」
フィシャリは、子供の頃から台所の仕事を主にしていたからなぁ。
とにかく2グループに分ければ良いんだなと、日頃よくご飯担当をしてくれている子供達を、手間が掛る野菜ジャムの担当に、残りを果物ジャム担当に振り分けた。
「まず最初は同じよ」
「洗うぞ~! 流しはどこだ~?!」
ダニャルが材料を腕に掻き集め、流しを目指すので、慌てて残った材料を僕達も持ち、ダニャルを追い掛け案内する事から、ジャム作りの作業は始まった。
「果物は傷んでいる……つまり、熟し過ぎているものでもいい」
「1つずつ丁寧に洗ってね。洗いながら、傷みが酷い部分を取り除くの」
「なるほど」
「そうそう。それに捨てる部分は集めて、畑に持って行って肥料にすれば良い。たま~に芽が出て来るから、それを育てれば、また美味い実が食えるぞ」
「マジかっ!?」
頷いたり、驚きつつ、ダニャルとフィシャリの言葉を子供達に伝える。
「分かったっ!」
一生懸命、2人の作業を真似る子供達は楽しそうだ。
ジャム作りを見学しつつ通訳していた僕は、途中まで来た時、作業内容をメモるのを忘れていたのに気が付いた。
慌てて、メモを探しに行こうと動き出したら、
「どこ行くんだ?」
「メモ紙を取りに行こうかと」
「大丈夫っ! ちゃんとメモってるっ!」
余り甘い物が好きじゃない子達が揃って、メモ紙を手にしていた。
「言葉は分かるかい?」
「分からないけど、皆がしてる作業を書いてるよ」
「助かる」
チラッと覗いてみると絵をつけている子や、注意書きを記す子など、各種のメモが作られている。
これなら、纏めればまた作れるな。
「最後まで頼むね」
「うん!」
そのまま僕は通訳に戻った。
そうこう皆で作業している最中に、ケラスィンがやって来た。
「ケラスィン!」
「お帰りなさい、エイブ」
「ただいま。今ジャムを作っているんだよ。ケラスィンも一緒に作る?」
「今回は良いわ。もう作業も中盤の様だから。……あの御2方が今回島から来られた方?」
「そうだよ。僕の幼馴染。ダニャルとフィシャリ」
「そう……」
あれ、ケラスィンも元気がないような……?
僕が島に帰ると寂しい?
聞いてみたいけど……。
でも。
寂しいけど、帰りたいならそうすればいいと、優しいケラスィンなら言うんじゃないかと思う。
とりあえずケラスィンが僕を、必死になって引き止めてくれる図は浮かばない。
という事で。
「僕はケラスィンが好きだから、島には帰らないよっ。ケラスィンが僕をお婿にもらってくれる事、諦めてないからねっ」
と、先手を打って宣言した。
いつもだったら、ありがとうとか何とか、冗談だと思われて、笑ってくれるんだけど、ケラスィンはしばらく僕を見つめた後、そっと視線を外し、思索し始めた。
もしかしてケラスィンも、僕が島に帰ると思い込んでいたのだろうか?
だが僕は本当に、島に帰るつもりはない。
「僕を島に帰らせたいなら、別の誰かと結婚するんだね、ケラスィン。じゃないと僕は君を諦めきれないんだよ」
ケラスィンの思索の邪魔をしないよう、僕は島の言葉で呟いた。
密談
「マスタシュっ! 島の人は?!」
「青年の家。ちょっと聞きたいんだけど、明日は暇?」
「何で明日の話が出て来る?! 問題は、島の人が居なくなるか、ならないかだろ?」
「そのエイブの幼馴染達が、新しい保存食の講習会をするんだ。参加するつもりある?」
「……ある」
「その幼馴染ってのは、どんなのだ?」
「……いい人達っぽい」
「どこがだよ? 島の人を船に問答無用で、引き吊り上げたっていうじゃないか」
「自分の大事な幼馴染が、信用出来ない者達に囲まれてたら、おっちゃんはどうする?」
「引っ捕まえて、一緒に逃げる!」
「それをしただけなんだよ、彼等は。自分達の大事な島長を、無理やり連れて行った者達から、引き離して守ろうとしただけなんだ」
「……そうだったな」
「それなのに一晩経ったら、態度を様子見に変えてくれてたよ」
「様子見?」
「ここに居て、自分達の幼馴染は無事で居られるか、現状把握を務めてくる」
「つまり?」
「ここに居ても、危険に巻き込まれる事は無いと分かったら、彼等はエイブを置いてってくれるだろう。エイブの望みは、ケラスィン様の側にいる事だから」
「島の人だぜっ! 危険に巻き込まれないって、無理だろっ!」
「その点は、ある程度は甘く見てくれる。彼等もエイブを良く知ってるから」
「じゃあ大丈夫なのか?」
「その代わりに、彼等は人を、ボク達を観察して来てる」
「何故だ?!」
「どれだけエイブを守ってくれそうか、だと思う」
「守るって、言ってもっ! 島の人はどんどん危険を顧みず、進んでしまうじゃないっ!」
「彼等はそれをずっと、やってのけていたそうだ。さすが変人の幼馴染」
「島の人の島って一体……」
「その点は、人数でカバーすれば良い。そしてそれを見せれば良い。そうすれば彼等は納得してくれる」
「どうやって見せるの?」
「まずは明日の講習会だ。どれだけの者が集まるかが、彼等の判断材料の1つなはず。だから、なるべく参加してくれないか? 材料を手に持って」
「材料って、何を持って行けばいい?」
「果物に野菜だ。ジャムを作るんだそうだ」
「ジャム?!」
「砂糖は彼等が出してくれる。その対価にエイブを島に持って帰られない様、ボク等は材料を掻き集めよう。傷み始めている物でも良いそうだ」
「おうっ! 勝負は明日だなっ!」