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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
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座談会。

 逃げてきた人達から他州の話を聞いた僕達は、おばあちゃんに愚痴りに来た。


「どう考えたっておかしい。人口は減ってるのに食べられない人が出るなんて」

「そうだねぇ」


「皆で生産して平等に分ければ絶対平気なはずなのにっ」

「だなぁ」


「お腹一杯食べられないのは辛いものねぇ」

「まったくだ」

「「うんうん」」


 そのまま晩御飯に突入し、青年の家の皆にまで愚痴っていた……。



「だがエイブ、クロワサント島は昔から村ごとの自治が決まりだからねぇ」

「そうですねぇ」


 一見的にちゃんと治まっている他州に手を出す事は出来ない。


 北の州に逃げてくる人は居るが少数だし、大多数の人達は平和に暮らしているからだ。


 でもその平和は抑え付けられているからそう見えるというだけで、しかも権力を握っている一部の人々以外は飢えている。


「え? 援助物資を勝手に流す事は出来ないのか?」

「そうなんだよ。下手すりゃ村自治への干渉って事でこっちが非難されるんだ」


「お腹がすいてる人に対しての炊き出しもダメなの?」

「基本的に炊き出しは、その村の村長が音頭を取ってやるものなんだよ」


 僕はむ~っと呻る。


「変なの~」

「その為の蔵物資だからなぁ」

「なるほど~」


 頷きもするが、また新たな疑問が沸いた。


「あれ? じゃあその村長が本当に変で、村民に助けが必要って時はどうするの?」

「その時は州長だね」


「州長が駄目な時は?」

「島長になる。争い事の最終判断も島長がするんだよ」

「へぇ~」


 基本的には良く作ってある決まりなんだよなぁ。

 ちゃんと動いてればって所が、今回はネックになってるけど。



 でも、どうにかして援助物資を送れないかなぁ。

 お腹一杯食べられない日々が続くのは、どう考えたってキツイ。


「他の州もとりあえず食うに困る状況からは抜け出させたいよなぁ……」


 そう僕がついポロっと零すと、女性陣にニヤリと笑われた。


「やっぱり! そろそろ何かやらかしたいって言い出すと思ったんだっ」


「え~っ。あたしはエイブがまたいきなり全島でくじ引き再開って、唱えると思ってた。ちょっと予想と違ったなぁ」


「ホントだよ~。そしたらタコ殴りに出来たのに~」

「学習能力ないのっ! て、ねぇ」


「……」


 ひぃッ、……言わないで良かった。

 絶対ホントにタコ殴りされてるっ!


「こらこら、お前達」

「「は~いっ」」


 これだからエイブは……男共は……という話にまで発展しそうになったところで、おばあちゃんが止めに入ってくれた。


 う~~~。

 相変わらずグサグサと、胸に刺さる事を言ってくれるよなぁ。

 ホントの事だから、反論出来ないけどさぁ。


 おばあちゃんしか女性陣を止められないし、居なかったらと思うと恐ろしい。

 もう青年の家に足を向けて眠れません!


 そんな僕に、男性陣からは憐みの視線が寄せられている。

 さらには、肩まで叩かれた。


 同情してくれるなら、止めてくれよ……。

 僕でも女性陣の勢いを止めるのは、無理だと思うけどさぁ。

 むしろ何倍返しを食らうのがオチだと、震えが走る。


 ともあれ最終的には全島くじ引きに持って行きたいと僕が思っている事を、絶対一言も言ってないはずなのに、既に女性陣は見抜いているらしい。


 女って凄い……。



「でもさエイブ、簡単に言うけど、北の州だけで全島分の援助物資なんて無理だぞ」

「う~ん、それは分かってる」


 北の州もだいぶ落ち着いては来たが、まだ復興途中なのだ。

 自分達の活力の元である食糧まで他人に分ける余裕はない。


 あくまで我が身第一なのだ。

 僕は父のように命までは懸けられない。


「それに他州の州長を通したんじゃ、そのまま着服されて本末転倒……なんて事になるだろうし」

「そうだよなぁ」


「え~っと、つまり、どこから・どれだけ・どうやってが問題なのか?」

「誰に。も問題だと思うぞ」


「「う~~~~~ん」」


 打って変わって、みんな真剣に考え始めた。

 食えない人を助けたいのは皆も同じなんだなぁ。


 でもすぐに出来るもんでもないし、自分達も一杯一杯の日々を送っているのに。

 ホントにいい奴等だよなぁ。



「逃げて来た人達が頑張って開墾してくれてるおかげで、今年の収穫量は上がると思う」

「うん。これまで州長館で暴利を貪ってた人も、心を入れ替えたみたいだし、その分も浮くかなぁ」


「ハイ。その節は叔父叔母を止められなくて、スミマセンでした」


 ついに訪れた良い機会だったので、口調だけは茶化しつつ速攻僕は手を付いて謝った。


「いえいえ」

「はいはい」


 それに対する幼馴染達の返事も実に御座なりだったが……。

 でもそれで充分だ、お互いに。


「とりあえずその少し余裕が出来る分を、他州に持って行くのはどうかな?」

「ほらぁ、エイブ。メモメモっ!」


「……また僕?」

「「当然」」


 思いっきり不本意を態度で示したのだが、一斉に頷かれて僕の気分は途端にブルーだ。


 僕ってお飾りじゃなくなってるはずなのに、州長ってこんなものなのか?

 流行病前の父はどんな風だったっけ?


 内心ぶつぶつ零しながら、それでもしっかり文字に起こしてしまう僕って頑張ってるよなぁ……。


「佃煮や干物なら日持ちするから、他州に回すのもいいかも」

「それ貰ったっ。海の生き物を食べても大丈夫だって、まだ知らない村があるかもだし?」


 援助物資をどこから工面するかの目途は尽き、話題が変わる。


「離れてる州にまで運ぶのは大変そうだ」

「輸送方法も考えなきゃな」


「他州も舟を直してるかな~?」

「海で他州の舟は見た事がないぞ」


「今度、逃げて来た人達に聞いてみよっ」

「ああ。いいね」


 陸路で馬車の輸送より、先に舟が浮かぶなんて。

 クロワサント島が島である以上、やはり海とは切っても切れない関係なのだと改めて思う。


「その時に信用出来る人も紹介してもらえるといいね」

「そうだよねぇ」


「州境は前より厳しくないみたいだし、連絡さえ取れれば、食糧は渡せそうだもん」



 ふと気が付けば、おばあちゃんが感心したように何度も頷いている。


「おばあちゃん……?」


「みんなしっかりこの10年の経験を生かせているねぇ。そろそろおばあちゃんの知恵袋も必要なくなりそうで、嬉しいよ」


「なっ! おばあちゃんはず~っとず~~~っと必要ですからっ! 寝たきりになっても、口がきけなくなってもですっっ」


 僕にとって、おばあちゃんはその存在自体が癒しなのだ。


 別に幼馴染の暴走だって止められなくなったって、居てさえくれれば構わない。


 ただ褒めて貰えるだけで本当に嬉しい。

 おばあちゃんが居るというだけで落ち着けるのだ。


 おばあちゃんの口調はあくまで穏やかだったが、何だかすぐにでもいなくなってしまいそうな気がして、僕は立ち上がって駆け寄り、その手をぎゅっと握った。


クロワサント島の輸送


 島の東西に山脈がある為、大量輸送をする場合は舟を使う事がほとんどです。


 まず海路で目的地に一番近い港まで運びこみ、そこから川船に移し替え川を遡る。


 ただクロワサント島の川は、山から駆け下りてくる急流が多く、川船を遡らせるために河岸から川上に引っ張っていく方法が良く取られました。


 川がない地域への輸送は、馬車・牛車・驢馬車などに移し替え、陸路を移動します。


 流行病の流行前は、青年の家の技術習得の為の移動による結婚などから、州間の移動も多く物流も盛んでしたが、


 流行防止の為に州境が閉ざされた事により、物流が途絶え、


 エイブが他州への援助を希望し始めた時には、人が通らない為に陸路はどんどん消え、残っていても獣道に近い状態になっています。


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