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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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辞退。

「あれ? 島の人?」

「久しぶり~! 何か面白い話ない~?」


 王都に帰って来て、留守にしていた間の事を、街の人達に聞いて回っていると、マスタシュが僕を呼びに来た。


「店に、エイブと話をしたいって人が来た」

「心当たりが無いんだけど。誰かな?」


「エイブが連れて来た客の1人だ」

「客?」


 どうやら婿候補さんの1人が、店で僕が来るのを待っているらしい。


「王宮で良く会うのに、わざわざ店に?」

「とにかく来てるんだよっ! 早く来い!」


 何だろう? 内密な話かな?

 疑問は溢れそうだが、深く考えてる余裕は無い。


「そんなに引っ張ったらコケる~!」

「さっさと歩け~!」


 マスタシュがどんどん、僕を引っ張っていくからだ。


 店に入ると一斉に視線が向かって来たが、ほとんどの視線はすぐに僕から外された。

 最後まで残った視線の主が、婿候補さんだった。


「行かなきゃ本当に駄目かなぁ?」

「とっとと行け」


 王宮の宴で、よく僕が向けられる目に似ている気がする。

 どうやって王に取り入ったのかと、探って来る目。



「こんにちは。毎日お忙しそうですね、エイブさん」

「どうも、こんにちは。何か僕に御用でしたか?」


 本当に何の用なんだろう?

 ただの世間話なら、王宮で話しても全然問題ない筈だ。


「先日、姫君の1本目の大橋の視察に、ご一緒したそうですね」

「残念な事に、橋の開通式を一緒に参加しただけです。お茶1杯だけの短い時間でした」


 行き帰りも別々だったし、ご一緒という程ケラスィンと一緒に居れなかった。


 街道整備の監査をこなした、ご褒美にしては短すぎる!

 そう僕は言いたいっ!


「そうなんですか? てっきり、ご一緒に行動されたんだと思ってました」


「それが僕は大橋の建設前から、現場に引っ張っていかれてまして。大橋の建設の間は、親方達の仲裁役ですよ」


「仲裁役?」


「職人である親方達は、自分の仕事の進め方にプライドがあり、擦れ違いが起きやすい自覚があったんです。問題無く大橋建設を進める為に、仲裁役として僕に白羽の矢を立てました」



 その口実が作業効率の悪さの原因だった。


 自分達が現場で、喧嘩をせずに済む様に作業を区分けし、1人の親方が区分けした作業を終わらせてから、次の親方が作業に入るというやり方をしていた為だ。


 でもさ。

 僕入らなくても自分達で、その内何とかしたんじゃないの?


 親方達が自分のやり方を、変える為の口実にする為に、僕を引っ張って行ったんだと、今では心からそう思っている。



「それでどうなったんです?」

「親方達の仲裁は、親方達に自覚があったおかげで順調でした。お陰で予定より早く、工事が終わりましたよ」


「そうなんですか?」

「ありがたい事に、天候に恵まれまして。今では現場に行って、良かったと思ってます。王都に居ては、分からない事もありましたから」


「王都に居ては分からない事?」

「現場の工夫達は喜んでくれました。後は進める様に頑張るだけです」


 何せ言い出しっぺだ。

 責任を取って何とかしろと、言われてもおかしく無い。


「本当に盲点で、早く気付けて良かったなぁと思ってるんです」


 彼等の故郷はそれぞれ違うと現場に行き、親しく話をするまで全く思い至らなかった。

 気付いたからには修正し、滞りなく進む様に動くのが最善だ。



「北の大陸は広いんですねぇ。今回つくづく感じました」

「現場の工夫達が喜ぶ話は、同郷の者としてありがたいばかりです」


「そうなんですか?」


「このところ王都で解放されている奴隷の中に、亡くしたと思っていた私の親友がいました。先日再び逢いまみえる事が出来、お互い奇跡だと思ったものです」


 何故だろう? また探る様な視線を感じる。


「その友が言うには、エイブさんが奴隷の解放の指揮を執っている、と」


「僕は同じ人なのに、虐げられるのを見てられないと、子供達が動き出した手助けをしただけで、そんな風に言われる事はしていませんが……」


 首を傾げると、婿候補さんは苦笑する。


「友の人を見る目は確かでしてね。私達がまだロウノームスの代官を信頼していた頃、彼だけが違和感を訴えた。だからこそ友は代官に目を付けられ、奴隷に落とされました」


「それは……」


「私達もすぐに、代官が信用ならない事に気付かされましたが、気付くのが手遅れ過ぎたのです。私達は友の家族を助けるだけで、精一杯になってしまった」


 すぐに婿候補さんは真剣な表情を浮かべる。


「貴方は自分では無いと言うが、友は貴方のお陰だと言う。そして私は友と再会させてくれたのが誰であろうと、感謝しているのです」


 そして表情を一転させ、晴れやかに婿候補さんは、僕に笑い掛けて来た。


「エイブさんに、心からの感謝を」

「だからそれは子供達が」


「その当の子供達が、自分を動かしたのは貴方だと、口を揃えるのです。ならば私の感謝は当然貴方に向きます」


 居心地悪い……。

 そんなに盛大に感謝の念を向けられても、自分は何もしてないのに困るだけだ。


「個人的に感謝の念を示したいのですが、何をすればエイブさんが喜んで貰えるか、全く分からず悩んでいる時、街の人が言ったのです」


「……何を?」


 何だか嫌な予感がするなぁ。


「姫君の婿候補を辞退すれば良い。と」

「はい?」


 呆気に取られ、ポカンとしてしまった。


「友はロウノームスで。友の一族は故郷で。エイブさんに恩を返そうと、街道整備に全力を注いでいます」

「それは、ありがたいです!」


 街道が繋がるのが早いほど、故郷に帰りたがっている人達を、早く返す事が出来る。


 僕が理由なのは首を捻りまくりだが、理由がどうであれ、街道整備を率先して進めてくれる人は多いほどいい。


「私も1人の姫君の婿の座を、争い続けるのは早々に止めて、エイブさんと仲良くした方が良さそうだ」


 嫌な予感は大ハズレっ。

 どうやら本当に、ライバルから降りるって、言いに来てくれたらしいぞっ。


「えっ? いいんですかっ?!」

 つい声を大にし、念を押してしまった僕に、婿候補さんは笑う。


「今日お会いしてから始めて、嬉しげなエイブさんを見れました。どうやら街の人は真理を私に教えてくれたらしい」


 ぐわ~! 照れる~!

 嬉し過ぎて、その気持ちが表に駄々漏れみたいだ。


「本当にエイブさんは、姫君にベタ惚れなんですねぇ」

「釣り合わないのは重々分かってるんですが、一目惚れなんです~」


「エイブさんがロウノームスに居てくれて良かった。貴方がロウノームスに来なければ、全てが違っていたでしょうから」


 そうして、僕に手を差し出してくれた。

 僕も差し出された手を、ぐっと握り返した。


「しかし間近で見ても、一角の人に見えないな」

「当然です。僕は平凡な普通の人なんですから」


「外見だけなら、ここに居る誰もが認めるでしょうがね。行動力に関しては、誰もが疑問を呈すると思いますよ」

「そうかなぁ?」


「いい加減自覚しろ」

 ボソッと呟くマスタシュの言葉に、店中が大爆笑した。





先の予定


「そろそろ帰路の途に着くお時間です」

 姫様がお茶を1杯飲み終わったのを見計らって、儂は声を掛けた。


 本当ならもっと、のんびりして頂きたかったのだが、姫様と久しぶりに会えた島の人が、どう動くか見当も付かない事から、お茶の時間を短くする事に儂等は決めた。



「分かったわ。エイブはどうするの?」

 姫様は立ち上がられ、島の人に声を掛けられたが、既に予定が決まっている。


「島の人はもうしばらく、こちらに残って頂く事になっております」

「え? そうなの?」


 姫様に釣られて、立ち上がった島の人が、不思議そうに儂に聞いて来る。


「これからどうするかの、話し合いがまだ残ってるだろうが」

「え~?!」


 嫌そうな顔をされるが、この先を決めて貰わない事には、島の人を王都に返せない。


「ケラスィン、こっち!」

「エイブ?!」

「畑を案内するよっ! 薬草茶の元も見せたいし」


 姫様を引っ張って、居住地に向かう島の人を追い越し、護衛官が安全確認に走る。



「島の人の名を出せば、居住地の者は皆従う」


 そう前もって、護衛官とは打ち合わせ済みだし、安全はすぐに確保されるだろう。

 好奇心は抑えきれなかったらしいが。




 工夫達が物影から様子を眺める中、畑見学を終わらせた2人は、あっさり別れの挨拶を交わされた。


「楽しかったわ」

「王都でね」


 姫様の姿が見えなくなるまでを見送った、島の人がこちらを振り向く。



「それじゃあ話し合いを始めようか」

 ガラッと島の人の顔付が変わっている。


 姫様と一緒に王都に帰れなかった不満が、少し表に出ている島の人だが、この顔を出した時の、島の人の指導力は半端ないと、この工事中に儂達はつくづく感じさせられている。


「まず僕の希望を言うよ。街道整備を3組に分ける。そして優先的にグリオース、オリエースト、オシウェストの州に向かって街道整備を進める」


「何故3組に分けるんだ?」


「ここで働いてくれている人達の半分以上が、この3州出身だからだ。好意で街道整備を手伝ってくれているんだよ。彼等の帰郷を優先させてあげたいと、僕は考えている」


 食堂に集まった、工夫達のざわつき具合を見ると、どうやら島の人の言う通りらしい。


「3組に分ける事が出来るのか?」


「人員が足りなければ、工事現場の近隣の村に協力を仰げば良い。給金をきちんと出す事が分かれば、協力してくれるだろう」


「だから監査だけでなく、書類の作成をしていたのか?」


「給金の額が決まっていれば、雇われやすいだろうしね。もっとも出せる上限があるから、その辺の調整は親方達に任せるよ」


「ちょっと相談させてくれ」

「うん、その為に食堂に皆を集めたんだ。話し合おうか」





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