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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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決行日。

 決行日の夜。

 僕は宴に出席する、ロウケイシャンの後ろを歩いていた。


「本当に良いのか?」


「全ての州は認めております。ロウケイシャン王、どうぞ心が叫ぶ方へお進み下さい」


「制度に無理が来ていたから、問題が発生したのでしょう。リセットして問題が解決出来るのならば、するべきだと存じます」


「先生。パーパス」


 足を止め、後ろを振り向いて来るロウケイシャンに、同意を込めて頷く僕の横で、アクスファド先生とパーパスさんも頷いている。

 後ろで御付の人達やサラリドさんが、頷いている気配もある。


 そんな僕達を見て1つ頷くと、ロウケイシャンは顔を引き締めた。


「行こう」

「はい」


 僕達は宴の席へ向かい、歩き出した。




「待たせたな」


 一声かけて、席に座るロウケイシャンの後ろを見て、宴の出席者が一斉にざわめく。


「何故パーパスが……」

「教授! 教授が表に出られたっ!」


 僕は今回、表に立つ意味は無いので、ロウケイシャンの影に隠れる様に、立ち位置を決める。


「まず皆に言う事がある。その為に宴を開いた」

「はい」


 ロウケイシャンの一言でざわめきが落ち着き、皆が座を整えた。



「まず、奴隷制度の廃止を決めた。そして急に変える事による混乱を避ける為、アクスファドとパーパス、この2人を相談役として起用する事とした」


「聞いておりませんぞっ!」

 元老院を初めとする、貴族達が一斉に騒ぎ出した。


「言っておらんからな。何故言わなかったと問われれば、そなた達の奴隷の扱いの悪さ故」

「奴隷は奴隷でございましょうっ! どう扱おうが所有者の意思次第の筈」


「それは思い違いというもの。奴隷制度は扶助の制度なのです。親を亡くした子供を守り育てる心が、その根本な精神。それに戻そうと言うだけです」


「私の耳にも入って居ります。皆様どれだけ奴隷に逃亡されておられますか? 皆様方の扱いが変わらない限り、奴隷は皆逃げるでしょう。限界なのです」


「だが奴隷が居なければ、家内が回らなくなる」


「雇用すればよろしい。奴隷達に意思確認をし、残留を希望する者と契約を結ぶのです。もちろん、どのような契約が良いかもお教え致します」


「王宮の人間は全て契約を取り結んでおります。そのお膝元に居られる皆様方。不可能ではございません」


 アクスファド先生とパーパスさんが畳み掛ける。


 各州の使者達は喜色満面の表情をしているが、貴族達の表情は様々だ。


 子供達に伝えて、気を付けさせ様と、貴族の中でも怒り狂った表情をして居る者、無表情になった者の、顔と覚えた名前を一致させて記憶しようと頑張った。


「聞きたい事があらば、2人に宴の間に聞くが良い。その為にアクスファドとパーパスを宴に同席させた」

「しかし……」


「これは決定事項である。変更は認めん」

「……はい」



 微妙な雰囲気のまま、宴は始まった。

 各州の使者達は嬉しさの余り浮かれ上り、貴族達はあちらこちらで数人ずつ固まり、小声で話を持っている。


「質問に来る者が居ないな」

「まだ実感が無いのでしょう」


「悪足掻きをする者が、出ないと良いのだがな」

「出たならば、集めた資料を使わせて頂きましょう」

「存分に使うが良い」


「悪足掻きをした時、どれだけ街の人達の人望を失っていたか、気付かせてあげよう」

「エイブ、その顔止めろ」


「何で?」

「ケラスィンが来た時、その顔を見せられるか?」

「見せられないよっ! ケラスィン来て無いよね?!」


「大丈夫だ。それよりお前は宴から退席しておけ。街で問題が起こった時の為に、待機しろ」

「助かる。気になって気になって、しょうがなかったんだ」


 急いで退席する僕の後ろで、ロウケイシャン達がため息を付いている。

 何でだ?





「あれ? エイブ? お帰り~」

「黒いの出して、追い返されたな」


「マスタシュ? 黒いのって?」

「……自覚が無いのか」


 目の前でマスタシュが呆れた顔をするが、それよりも気になる事があるっ!


「街の様子はどう?!」

「今の所、問題無しだ。数日前に神殿に来た者も移動して合流した」


「マスタシュ! 怪我人が出たっ! 神殿に向かってるっ!」

「移動する」


「分かった。ケラスィン様に伝えてくれ」

「了解っ!」




 慌しく神殿に向かった僕を出迎えたのは、酷い折檻を受けた奴隷達。


「どうやって?」


「同じ館で働いてた仲間が、連れ出して来た。これでもましなんだとっ!」

「まだ館に仲間が居ると。自分は足手纏いだ、置いて行けと言われたそうだ」


「どこの屋敷か分かりますか?!」

「分かるが、島の人? どうする気だ?!」


「もちろん連れ出しますっ! 王は奴隷制度の廃止を宣言しました! その屋敷に居るのは奴隷ではなく、ただの怪我人ですっ!」


「連れ出してくれるのか?!」

「案内お願い出来ますか?!」


「もちろんっ! もちろんだっ!」

「人手を集めます。まず集合場所へ。それから何組かに分かれて行動します」


 慌てて街道整備をしてくれる工夫が集まる広場に向かい、事情を話すと皆が動いてくれる事になった。




「開門。開門願いたい」


「怪我をして動けない元奴隷を、引き取りに参りました」

「そんな者は居らんっ」


「居るっ! オレを庇って折檻されたっ! 一緒に故郷に帰るんだっ! 返してくれっ!」

「お前も逃亡奴隷かっ!」


「もう奴隷じゃないっ! 返してくれっ!」

「彼の言う通りだ。王が奴隷制度の廃止を先程発表された」


「バカなっ! そんな事をすればっ!」

「困るのは元老院を始めとした貴族だけだろう」


「島の人?!」

「八つ当たりをされそうな者達を避難させたいんだ。頼む。門を開けてくれ」


「……避難をさせるだけ。宜しいですな」

 咎められるかも知れないのに、門を開けてくれた門番に深く深く頭を下げる。


 門の前で、門番と喧々囂々とやり合っていた者達が、そんな僕に一瞬息を呑むが、同じく頭を下げる気配がする。


「焦っては駄目だ。怪我人をゆっくりシーツに移動させ、シーツの四隅を1人ずつ持って運ぶんだ。ゆっくり慎重に」


 開いて行く門の中に、急いで走り込もうとする者を捕まえて、シーツを預ける。


「足りなければ声を上げてくれ。神殿から追加の便が来てくれるはずだ」

「はい」


「君達も。今夜の事を咎められ、解雇される様なら僕に声を掛けてくれ。次の仕事が見つかる様、出来る限りの協力をする」

「……一緒に連れて行って貰いたいのですが」


「咎められるから?」

「はい。折檻される前に、逃げたいんです」


「彼に付いて行けば良い。彼は王の御付の1人だ。後は頼んでも良いかな?」

「どちらへ?」


「まだ騒ぎが続いている門へ」

「分かりました。お気を付けて」



 次から次へと門を回り、残って居る奴隷達を避難させた。


 それにしても、雇用者にまで人望が無い貴族達に驚かされる。

 門を開けた門番は全員、僕達に付いて来る。


「私もご一緒しても宜しいかしら?」

「主様っ!」


「私はこの子が可愛い。でも私にはこの屋敷に残る、ただ1人の奴隷のこの子を守れる力はございませんの」

 揚げ句に、奥方が旦那を見限り、屋敷まで出てきてしまった。


「どうすりゃ良いんだ、これ」

「エイブ、何とかしろ」





3日前


「3日後だと?」


 確かにエイブから、大掛かりな脱走計画を立てるという話は聞いた。

 だがこんなに早い日程になるとは、一言だって聞いてない。


「王、どうか当日、貴族達の目を奴隷達に向けない様、ご協力をお願い申し上げます」

 御付の者達から、一斉に懇願の言葉が出る。


「何があったっ!?」

「我々が見る限り、限界でして。子供達による食料の持ち込み作戦も、余り効果が上げられず」


「何だそれは?」

「詳しくは島の人からお聞き下さい。島の人が戻られましたら、王に御一報致します」


「……分かった」

 どうやら口を割るつもりの無い者達に、諦めて目の前の書類に気持ちを向けた。




「エイブ、どういう事だ?」

「奴隷達を一斉避難させる。もう保たない」


「どういう事だ?」

「奴隷達だよ。毎日見て居た僕等は彼等の衰弱具合に、鈍感になってしまっていた」


「我々が見る限り、一刻を争います」

「彼等が気付いてくれたんだ」


「馬鹿なっ! 奴隷は今、手に入り辛いのは周知の事実。それなのにか?」

「ますます扱いを悪化させております。情けない限りです」


 信じられん。

 そんな行動を、奴隷を私有する我が国の者が行っていると?!


 だが周りの者達が動くと言う事は、奴隷が虐待されているのは真実なのだ。



「奴隷が居なくなると困るのは?」


「元老院を始めとする、貴族だけでしょうな」

「パーパス」


「各州は諸手を上げて喜びましょう」

「アクスファド先生」


「奴隷が一斉に居なくなれば、焦って下手な動きをする者も出るでしょう。宜しいのでは?」

「サラリド」


「ロウっ! 僕は動くよっ! それに彼等を罰せよって言ってるんじゃない。彼等に国政から身を引いて貰うだけ。それだけでロウノームスは変わるんだっ!」


 国の頭脳という者達が、その意見を一致させている。

 国の力という者達まで。


 それほどまでに限界なのだな。


「奴隷制度を、……廃止する」






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