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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
71/102

工舎の秘。

「島の人、ちょっと良いか?」


 神殿の料理対決の場で、楽しそうにラスルさんや子供達と、しゃべっているケラスィンを見つめて居た僕に声が掛けられた。


「あれ? 親方? 貴方が本日の批評者でしたか」

「何でも珍しくて、美味いもんが食えるそうで」


「皆さん工夫を凝らして来ますから。僕も毎回楽しみにしてるんです」

「そりゃあ楽しみだ」


 親方の斜め後ろから、更に僕に声が掛けられた。


「始めまして。ですよね?」

「島の人にはお初にお目に掛かる。船の工舎の棟梁をしております」


「どうしても島の人に会いたいと言うので、連れてきました」

「僕に?」


「貴方に」

「何でしょう?」


「貴方がこの石の工舎の棟梁に預けた組立を、ご教授願いたい」

「はい?」


「我々が工舎の秘としてきた組立のみならず、全く知らない新しい組立方を、貴方はご存知だ。是非ご指導頂ければと」


「は?」


 一瞬呆気に取られるが、視線を感じ周りを見渡すと、こちらを向いている顔の多さに僕は引き攣った。


「ちょっとこっちへ」

 慌てて親方達を引っ張って、庭に出る。




「一体どういう事です?」

「それがなぁ」


 親方達の話をよくよく聞き込むと、僕が行政府で渡した組立図の中に、ロウノームスには無い組み方があったらしい。


 僕が船の組み方だと言ったので、船の親方に見せてみたが、2人して頭を捻る羽目になったそうだ。

 どうにも分からず、本人に聞くのが早いと、今日僕に会いに来たらしい。



 どうやら僕が島で教えられた技術の中には、色々とロウノームスでも有用なものがある様だ。


 クロワサント島の現状じゃ、ロウノームスに商売に来れるのは、まだまだ先だろうが、島の技術を上手く売り込めば、ロウノームスも島を隷属化しようとは、思わないんじゃないだろうか?


 もっとも僕がロウノームスに居る間は、島へ再々の使者を送らせたりはしないけどね?

 引き延ばせば延ばすだけ、クロワサント島は復興するはずだから。



 さらに意外だったのが、工舎ごとに秘密の組立方がある事だ。

 秘密にすると、どんな良い事があったのだろう?


「技術はどの様に伝えているんです?」

「基本的に親方が弟子に教える。弟子によって、教える内容は異なるな」


「何故異なるんです?」

「その弟子の持つ力量次第で、順に教えるからな。途中で弟子が独り立ちすれば、そこまでだ」


「じゃあ、途中で技術の継承が途切れるんじゃ?」

「大体の親方は、自分の子供に全ての技術を教え込む」


「子が居ない時は?」

「腕の良い信頼出来る弟子にだな」


「島はどうだったんだ?」

「島はくじ引きで職業を決めますから、技術はどんどん広めます」


 くじで決まった訳でもない、押し掛けた子供だった僕達に、親方は懇切丁寧に教えてくれたくらいだ。

 島では技術は秘め事じゃなかったはず。


「だが個々人はそれぞれ能力が異なるだろう?」

「特定の者しか出来ない技術もあったはずだ」


「そうなんですか?」


「島の人は自分が知る全ての技術を、身に付けているのか?」

「全く身に付いてません」


 技術を教えた子供達の方が、僕より断然上手く使いこなしている程だ。


 そう考えると棟梁が教える技術が個々人で、それぞれ違うのも納得だな。

 出来ない技術を教え込む事に意味は無い。


 ふと思い出したのは、島の青年の家に残されていた技術書の数々。

 青年の家に残されていた船の本は、分かる人間なら分かる、という程度にしか書かれていなかった。


「もしかしたら、あれがそうだったのかも?」

「あれ?」


「島の青年の家には、技術書が残されて居るんです。伝え切れなかった技術を書物として残していたのかなぁ?」


「そんな物が?!」

「島の人、何故疑問系で喋っている?」


「クロワサント島は余りに人を失い過ぎました。技術もまた然り。僕に技術を教えてくれた親方は、疫病の後、遺せるものは全て伝えなくてはという意識があって、教えてくれていたのかも知れない」


 となると、工舎ごとの秘密としていたロウノームスの技術は、知識を持つ者の死によって消えた物が多そうだ。


 棟梁達も思い当たる事があるのだろう。

 深刻な顔をして、黙り込んでしまった。



 そんな棟梁達の後ろから、大工の棟梁が声を掛けて来た。


「島の人、身に付いていない技術を何故覚えている?」


「僕は子供の時から、書類作成係だったんです。一度で覚えられない技術を書き残し、復習する時に、使える様にするのが僕の役割でした」


「書いてある物を見るだけで作れるのか?」


「簡単な物なら。書類を見て、技術の基礎を身に付ける事が出来れば、復興で忙しい親方を、基礎講習で煩わせなくて済みますから」


「基礎技術の書類作成、頼んで良いか?」

「勘弁して下さい~! 流石に詳しい記憶は残ってません~!」


「じゃあ、どの辺までなら残っている?」

「棟梁! 何か勘違いしてませんか? 僕は船に関する事だけしか、書類作成した事が無いんです!」


「それ以外は?!」

「門外漢です!」


 3人の棟梁が座り込み頭を突き合わす。


「いやだから」

「するしかない」

「しかし」


 そんな声が洩れてくる。



「エイブ、何やった?!」

「そういやマスタシュの字って綺麗だったよね。店の会計、時々誰かに代わる事出来る?」


「こいつなら」

 神殿の子供達の中で、ピカ1計算が得意な子を引っ張り出した。


「マスタシュを借りたいんだ。時々店番代わって貰える?」


 何度も首を縦に振ってくる。

 どうやら大丈夫っぽい。


「他に字の綺麗な子、居ない?」

「こいつ達だ」


 西の州から来た2人を引っ張り出した。

 おや、ちょうど良い。


 各州に技術を流して貰い、ロウノームスが手にしてない、新たな技術をフィードバックして貰おう。


 後は奴隷として、強制労働させられている技術者達に、その持つ技術を何とか快く、提示して貰える様にしないとな。



「決まりましたか?」


「とりあえず街道について、技術共有をする事で話は纏まった」

「ついては島の人にも入って貰うぞ」


「書記として、この子達も一緒に良いです?」

「は?」


「今回は僕だけじゃ、書類の作成が間に合わないと思うんです。個々の橋を書類に残して、次の作成に生かすのなら」


「個々の橋を書類に残す?!」

「あれ? 残さないんですか?」


「残してどうする?」


「次の橋の参考になりますよ? ここで使ったこの技術が使えそうだとか、これは手直しが必要だとか、図面を見ながら意見交換が出来る様になります」


「なるほど」


「僕達だけじゃ図面は無理なんで、誰か技術に詳しい人を付けて貰えると助かります」


「弟子を1人ずつだな」

「お願いします」




結び目


 1番弟子を、大分出来る様になった弟子候補2人に付けて、神殿の増築を任せていた。


 大方出来たと報告を聞き、確認の為、久しぶりに神殿まで来た。

 報告の際、おかしな事を言ってたが、1番弟子の見間違いだろう。


「良いな。この調子ならすぐ完成だ」

 ふっと顔を上げると、増築の補助に作っていた、足場の結び目が目に付いた。


「む?」

「どうしたんですか?」


「この結び目は誰が?」

「ボクです」


「これはどうやって結んでいる?」

 通り掛った弟子候補に、腰に結び付けていたロープを手渡しながら、問い掛ける。


「え~っと、右を上で左を潜らせてこうやるんです!」

「ほお~」


 始めて見る結び目だ。

 確認の為、引っ張ったりしてみるが、堅く結ばれていて外れない。


「ちょっと教えて貰って良いか?」

 教えて貰う為に、結んだロープの端から解こうとすると、


「ここを引っ張るんです!」


「……?!」

 さっと結び目が解けた?!


「どうなっているっ?」


「エイブに、島の人に教わった結び方の1つです。これなら足場を崩す時、手早くロープを回収出来るだろうと思って」


「島の人?」


「紙漉きの手伝いをしている時に、手元がもたもたで。見てられなかったので色々教わって、代わりに作業してました」


「覚えてる限りの結び目を、結んで見せてくれないか?」

「はいっ!」


 次から次へと、結ばれては解かれていくロープの結び目。

 日常に使っている結び目もあったのだが、全く始めて見る結び方も何個か出て来た。


「棟梁?」

「ああ……。島の人は今どこに?」


「今日は料理教室の日だから、神殿に来ますよ? ……あれ? 船と石の棟梁と? やばいかも。マスタシュ呼んで来なくっちゃ」


 奴等も気付いたのか。

 我々も加えて貰わねばな。




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