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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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見張り付き。

「エイブ~、柳の屋敷から西の商人が出て来たよ~!」


 予測通り、人の動きが活発化した。

 次から次へと情報が入って来る。


「3日前から行方知れずでしたが、そんな所に隠れていたとは」


「どこに向かっているか分かるかい?」

「尾行組が後を付いて行ってる。どこに行ったかは、すぐに分かると思う!」


「君達の事だ、大丈夫だと思うが、見つからない様にね」

「うん! 尾行が長引きそうなら、次の組に引き継ぐよう手配するっ!」


「頼むね」

「おうっ!」


 バタバタと次の情報を得る為に、街へと走り去る後ろ姿を僕は眺め、その後ろにしっかり影が付いているのを確認した。



「ありがとうございます」


「とんでもございません。本来なら我々の仕事です。ですが我々は目立ち過ぎ、まともな情報も手に入れられませんでした。喉から手が出るほど欲しい、情報を守るのは当然です」


「だから僕にも、誰かが付いているんですね」

「はい。貴方こそが情報の要ですから」


「この騒ぎが終わったら外して下さいよ」

「……考慮しておきます」

「頼みます」


 考慮かぁ。

 外してくれる気配が無いなぁ。


 僕もロウケイシャンに、行動範囲の把握対象にされたかな?


 まあ平和になったら、今は隙がない彼等にも、ゆとりが出来るだろうし、それから子供達の力を借りて撒けば良いや。


 子供達に僕の行動の把握がされるのは、いつもの事だ。

 僕を見かけた街の人が、店でマスタシュに幾らでも情報を与えてしまう。


 それに今付いている彼等より、子供達がくっついている方が動き易い。

 好奇心で僕と一緒に動いてくれる子が多いしね。


「行政府に行きます」

「お供します」




 次々もたらされる情報を組み立てながら、動いてくれる子供達の無事を気に掛けつつ、行政府の方へ足を向けると、着くなりサラリドさんに捕まった。


「街道を通す件、各州と話がつきそうだ」

「それは良かった」


 各州は街道整備に乗り気だと、アクスファド先生から教えてもらっていたけど、サラリドさんがこう言うなら、もう決定も同然だろう。


「ところが良くないんだよ、島の人」


 一緒に居たのは、工人さん達の親方だ。

 何だか難しい顔をしているな。


「こんな川幅の広い場所に、橋を架けたらどうかって、島の人が提案したそうじゃないか」

 街道の計画図の一点を指差しながら、親方が僕を睨んで来る。


「そうしたら、遠回りしないで済むと思ったので。無理そうですか?」

「……無理、と言いたくはないがなぁ」


 唸る親方さん。

 どこから見ても、腕の良い人望も有りそうな親方だ。


 人望がある親方の元には、普通アイデアが次から次へと飛び込んで来る。

 その人望ある親方であろう彼が唸るって事は、そのお弟子さん達も唸っているはずだ。


 つまり工人全体が行き詰っているって事だ。



 そもそも、どこら辺を無理と感じているんだろう?


「どんな橋にするかの、アイデアが出ない? それとも建設材料や工具、それから人手が集まるか不安?」

「実は形もまだ決まらないんだよ」


「それだと、どれだけの材料や人手がいるか分からないですね」

「そうなんだ。実は工具も不足しててな。その辺は王宮が融通してくれると聞いて、一息付いて居るんだが」


 深々と目の前で親方が吐息を突く。

 そんな親方の隣で、サラリドさんが息を飲む。


「どんな工具をどれだけ揃えれば良いのか、聞いていなかった」

「工人の我々も、どんな工具が必要になるか分から無いのに、王宮が準備出来る訳が無い」


 これはいけない。

 工人の親方だけでなく、サラリドさんまで途方に暮れ始めた。



 少しでも先に進もうと、僕も考え始めたが、良く良く考えると、僕はロウノームスの橋について情報が無い。

 もしかして川に架かるという点では同じでも、島の橋とロウノームスの橋は違うのかも?


 これは聞いてから考える方が良いなと、詳しいはずの親方に質問する事にした。


「ロウノームスではどんな橋が主流? 島ではこんな感じの橋が架かってたけど」


 僕は紙に、南の州への旅の途中で見掛けた、大橋の形を書いて見せた。

 大橋を書いて、紙と実物の大きさは違うよなと、更に僕は矢継ぎ早に尋ねる。


「長さは? 高さは? 横幅は? 荷馬車も通れる? 木? それとも石造り?」


 すると工人さんは、さすがというべきか、1つ1つ詳しく答えてくれた。

 そして現在の問題点を述べ始めてくれる。


「ここらは川幅が広いらしいんだ。この川幅に普通に橋を架けたんじゃ、中央が落ちちまう」

「中央が落ちないように支えるのは?」


 僕は橋の絵の中央に柱を書き足す。


「実際に川を見たわけじゃないが、1本じゃ駄目だろうな。かといって、柱が多過ぎたら、川を詰まらせる」


「僕は石の加工は詳しくありませんが、船は木を曲げたり、上手く組み合わせたりして作ります。橋も同じ様に、建材の組み合わせ方で、中央が落ちないように出来るのでは?」


 僕は帆船の修繕の時に習った、組み合わせ方を思い出しつつ、それも橋の絵とは別に書いていく。


「そうだよな。木を組み合わせて、大きな船が出来るんだ。石を組み合わせて、橋が出来ないはずが無いよな」

「石は木より頑丈ですし、水にも強いです。上手く組み合わせて、永遠の橋を作りましょう」


「永遠。それは重大事だ」


「旅をする者にとって、便利な橋を作れば、大事に愛されますよ」

「旅をする者にとってか」


「貴方にとっての工具の様に、使う者にとって便利な物は、愛着を湧かすでしょうしね」

「なるほどな」


 そこへ親方と僕の遣り取りを、黙って見ていたサラリドさんが口を挟んで来る。


「それなら、近隣の者にとって便利な橋の方が、尚良いんじゃないですか?」

「何故だ?」


「橋の補修をするのは、旅人ではなく近隣の者達です。良い物を長く使う為には、日々の手入れが必要でしょう?」

「う~ん」


 親方が頭を抱えてしまった。


「サラリドさん」

「大丈夫ですよ。親方ですから」


 流石に無理が過ぎるんじゃないかと、制止の意図を込めて名前を呼ぶが、返って来たのは親方に対する、深い信頼の情のみ。

 自力で起き上がる力を持つ親方なんだろう。



 方向性が何かあれば、親方も起き上がりやすくなってくれるはず。


「試しに小さい物を実際に組んでみるのはどうでしょうか?」

「小さい物?」


「模型をまず作ってみて、いけそうなら実際に、川幅の狭い川に架けてみるんです」


 親方の顔が上がったぞ。


「街道整備は何本も橋を架ける事になります。その経験を川幅の広い橋作りに、役立たせれば良いんです」


「橋作りの経験を大物に生かすか」

「橋ごとに新しい創意工夫を行い、活かすんです」


「この紙、全部もらっていいか、島の人。他の工人にも見せたい」

「もちろん」


「各州へは引き続き、遠回りなしの街道で、話を進めます」

 親方のやる気を見たサラリドさんは、そう告げた。





親方達


「船の! 居るか?!」

「街の? 急にどうした?」


「知恵を貸してくれ! これはどんな時に使う?」



 一気に広げられた組立図を見せられた途端、顔が引き攣れるのを感じた。


「誰が書いた?」

「島の人だ」


 ちょっと安心した。

 弟子達が裏切り、技術を流出した訳じゃないのが分かって。


 だが、別の意味で更に顔が引き攣った。


「島の人は人の纏め役であって、技術者じゃ無かったよな」

「本人は書類仕事ばかりしてたって言ってたぞ」


「こいつは船の要の組立個所だ。組立が上手く出来ねば、船は分解する」

「オイッ! 工舎の秘じゃないのか?!」


 さすが判る者にはお見通しか。

 だが我々とっては工舎の奥義でも、島の人にとっては、あっさり教えてしまえる物なのだ。


「もう工舎の秘では無い。表に出てしまったからな」

「船の……」


「しかも見た事も無い組み方まである」

「そうなのか?」


 2人でしばらく組立図を見つめるが、どこにどう使うものかサッパリ分からない。


「お手上げだ」

「船の、木工の天才であるお前でもか」


「石工のお前でも駄目なのか?」

「ああ」


 これはもう決まりだ。

 我々は新しい技術をすぐ目の前にし、手に入れられる現実を目の当たりにしている。


「我々も橋作りに一枚咬ませて貰おうか」

「島の人をアドバイザーで引き釣り込むんだな」


「頼んだぞ」

「任せろ」




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