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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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囲い込み。

 奴隷として売りに出されたところを、助け出された人達の中には、帰る先がない人や、元老院の件が落ち着くまでは、帰りたくても帰れず、身を隠した方がいい人もいた。


 王宮や、1人でも2人でも余裕がある行政官の家で、何とか雇ってもらったが、小さな子供は難しい。


「親が居る子は、親と一緒に預かって貰えたが」

「問題は、親が居ない子供達だよね」


 当然、売りに出されていたのは大人だけではない。

 親に売り飛ばされた子供や、中には労働力にならない為、親から引き離された子供もいた。


「館の青年の家でお預かり致しますわ」

「ケラスィン?!」


「子供達も仲間が増えると喜んでおります」


 元老院に聞かれるとマズい秘密の話し合いを、たまに館の庭でロウケイシャンと繰り広げていたが、そこにケラスィンが入って来たのは始めてだった。


 しかもラスルさんまで一緒だ。


「年長の子供達については、希望がありましたら、街の職人や商人に弟子の口利きをすると、神殿長が申し入れております」

「住み込みで?」


 中には、不安がる幼い弟妹と離れるのは嫌だと言う子も出るはずだ。


「さすがに住み込みの引き受けは、各親方ごとに1人か2人が限度だそうです。ですが通って来られるのならば、後1人2人ぐらいは、引き受けようと言って下さって居るそうです」


「本当に!?」


「街に通うなら、神殿が子供達の住まいを提供します」

「ラスル。神殿は、もう子供達で手いっぱいだろうが」


「その子供達が受け入れを望んでおります。すでに街の廃材で別棟を建て始めております」

「子供達が建てているの?」


 いつの間にか話がついていたらしい、ただ僕は驚くばかりだ。


「こちらの館の子供達も協力してくれて、一緒に。街の棟梁に指導を受けながら、楽しそうに働いております」

「中にはそのまま、弟子入りが決まった子も居るのではないか?」


「神殿からの通い第1号に、1人の子供が決まりました。小屋が建ち終わったら、通い始める予定です。あとこちらの館からもう1人、住み込み弟子の内定が決まりました」


「聞いてないよ?!」

 何だって?!


「本日決まったばかりですから。その報告も兼ねて館に参りました」

「1人立ちを目指し、頑張る子が出てきたのだな。喜ばしい事だ」


「まだ早いよ!」


 だってようやく青年の家で、子供達同士で協力しあったり、意見を出し合ったりして、気持ちに余裕が生まれたところなんだよ?


 それなのに、もう弟子入りするだって?



「エイブ、そなたはいつ長の地位に就いた?」

「……15の時」


「我と同じか。なら分かるであろう。大事な人を守りたいのに、その力が足りなくて、悔しく嘆き。それでも前に進もうと足掻き、自分に出来る事を見つけ出そうとする気持ち」


「分かるよっ! 分かるけどっ!」


「分かるなら祝福してやれ。その子は新しい道を作る。それがどれほど青年の家の、後輩達の力になるか、分からないエイブではなかろう」


 元々青年の家自体、ロウノームスにとって先例が無いのだ。

 その先例が無い青年の家からの弟子入門。


 先に進む事の困難さを、全く気付かず居れる子供は皆無だろう。

 それでも、前に進む事を選んだ子だ。


 まだ早いと囲い込みたいけど、応援する方がその子は喜ぶだろう。

 顔を空に向け、ぽつり呟く。


「分かった」


「遠く離れて行く訳じゃない。本当に辛いとその子が悲鳴を上げた時、助ける力を持てる様に我等が勤めれば良い」


「そうだね」


 青年の家出身の子供達が理不尽な目に合わぬ様、街の監視を強化すれば良いだけだ。


「エイブ? 棟梁の御好意から出た話なのですからね」

「弟子入りする子供達の気持ちを無視して、足を引っ張る真似はしないで下さいよ」


 どうやら、僕は相当不穏な空気を纏って居たらしい。


「分かってる。もちろんだって」

 ケラスィンとラスルさんから、釘を刺す様な言葉が発せられ、慌てて僕は否定する。


 海行きを同行した頃から、ケラスィンとラスルさんには僕がどう動くか、推測が付くらしく、今回の援助発言の様に、先回りした行動が目立つ様になってきた。


 その彼女達に情報を伝えるのは、その後ろに居る子供達。

 その情報網も全く侮れない。



「助けて貰う事は可能かな?」


 現状の僕は本当に力不足だし、目が届く範囲で動いてくれる方が、好き勝手に動かれるより、まだ安心出来るはず。

 子供達の行動範囲を決めてしまおうと即断し、後ろの子供達に声を掛ける。


「何をすれば良い?!」

 力一杯、喜び勇んだ返事が返って来る。


「ロウ。そろそろ新しい奴隷が入って来ないって、おかしいと勘付く奴隷商や元老院議員が居るかもよ。調査して終わり、じゃなくて、監視を強化した方が良いんじゃないかな?」


「そうだな。逃げられては元も子もない。逃げた先で同じ事を仕出かされては堪らん」

「彼等が監視の強化を手伝ってくれそうだ」


「子供達を動員するのか?」

「彼等もロウノームスの一員なんだよ。力になりたくて仕方ないんだ」


 更に、ロウケイシャンに近づき耳元で囁く。


「子供達に元老院の手が伸びたら現状では助けられない。動きの把握が必要だよ」

「あとケラスィンもその中に入れ込むとしよう」


 どうやら、ロウもその行動範囲に監視の必要性を感じたらしい。

 僕達は早速共同戦線を張る事にした。


「何人か1組で、色々な館の監視や尾行を頼む事になるけど、お願い出来るかな?」

「「もちろんっ!」」


「ケラスィンにラスル、子供達の位置確認の把握と、情報の連絡を頼めるか?」

「「お任せ下さい」」


「君達なら、どの大人が味方か分かるだろう? その手助けをお願いしたいんだ」

「人手が足りなくてな。今が踏ん張りどころだ。協力を頼む」


 目の前の彼女達は、自分にも出来る事があると大喜びだ。


「王?!」

「エイブ殿ッ!」


 一緒に話し合っていたロウケイシャンの御付の人達が、慌てた様に制止の声を上げて来るが、彼等にはやって貰わなければならない事がある。


「そなた達は彼等が情報を運ぶ時間を、稼ぐ盾になって貰わねばならぬ」

「君達から素早く届く情報が、僕達の力になるだろう。足と知恵を振り絞ってくれ」


「いかに元老院達に気付かれない様に動けるかで、ロウノームスの未来は決まる」

「彼等の手助けは、君達が思うより強力だと思うよ」


 つまり子供達の身の安全は、現場に居る彼等に掛っている。

 言葉の中に込められたニュアンスを、しっかり受け止めてくれた御付の人々、ロウケイシャンとそれから僕は、深く頷き合った。





 神殿ではこのところ、よく料理教室が開かれている。

 もちろん情報の遣り取りも兼ねているが、それだけじゃない。


 料理教室にはケラスィンもよく参加していて、ラスルさんを始め、子供達や街の人達とのおしゃべりがいい気晴らしになっているのだ。


 教室に持ち寄られる材料は、海の物だけではなく、次々と採れるようになった畑からの収穫物も混ざるようになった。

 神殿や王宮の畑だけではなくて、いつの間にか街の人達も畑を広げていて、料理教室のたびに集められる収穫物は結構な量だ。


 畑には全部食料を植えようかとも思ったが、薬草も手掛け出した。



 だが、ただの料理教室だけじゃ、ケラスィンがしばしば神殿の通う口実には弱いかもしれない。

 元老院が怪しまない様な口実がどうしても必要だ。


 そこでちょっとした企画という事で、グループ対抗料理対決をする事にした。


 小さい子や新しく入った子、それから青年の家と神殿の子達が、極力ばらける様なくじを作って、おかみさん達にそれぞれのグループの監督に入ってもらう。

 味、見た目? それから保存性にも、点を付ける。


 審査員はケラスィンとラスルさんと神殿長。

 それからパーパスさんだったり、クウィヴァさんだったり、街の職人さん達だったり、その日によって違う。


「酒のつまみになる様な物も頼むっ」


「子供達も一緒に作るのに、そんな物作れるかいっ」

「旅している間だって、子供達も一緒なんだよ。子供達の前でどんだけ呑む気だよっ」


 あ、職人さんがつい漏らした本音に、おかみさん達の非難の嵐が。



 そんなハプニングが頻発したりして、毎回賑やかに行われる様になった。


 作ったら、食べたくなるのは当たり前。

 という訳で、料理教室・料理対決の後は、皆で料理を美味しく頂くのも、楽しみの1つとなりました。





気になる……


「姫様?」

「あ、つい……」


「姫様も、エイブが気になる?」

「貴方達も?」


「気になってしょうがないから、ここに居るって仲間までいるよ」

「そうなの?」


「1番はマスタシュだな」

「え~? 前は1番だったけど、今はそれほどじゃないんじゃ?」


「甘いな。マスタシュが居るのは店だ。変人の情報はバッチリ入る」

「確かにっ! 今変人が動いてるのは街だもんなっ!」



「あの、……変人って?」

「……島の人」


「エイブ?!」

「姫様にとって、エイブは変人じゃない?」


「変人って、どういう意味なの?」


「おせっかい、首を突っ込む、突っ走る、巻き込む、見ぬ振り出来ない」

「諦め悪い、先を見過ぎ、説明不足、猪突猛進、頭でっかち」



「マスタシュ、お帰り~!」



「変人の動きがおかしい」

「何やってるんだ?!」


「街のあちこちを動き回っているらしい。それも元老院関係だ」


「そういえば、奴隷にされそうだった人達の、身の振り方を考えないとって、王様達と相談していたよ」


「奴隷?」

「州の人?」


「今の州が、奴隷を出すのを認める訳無い」

「どういう事だ?」


「調べましょう。それをエイブは調べているのかも」

「「了解っ!」」





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