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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
65/102

前準備。

 大勢の子供達を乗せられる馬車を所持していて、貸し出してくれそうな所など、僕は神殿以外思い付かない。


「またですか……」

「……すみません」


 一瞬マスタシュに顔を向け、何を嗅ぎ取ったのか、僕に渋い顔をしてくるクウィヴァさん。

 何故か頭を下げてしまう。


「何の用です?」

「馬車をお借り出来ないかと。青年の家の子供達と海に行きたいんです」


 無理難題を言うつもりはないんです。

 神殿で使っていない日に、お借り出来れば良いんです。

 そういう気持ちを込めて伝えてみる。


「海?」

「貝や海藻などを取って来て、保存食を作れないかと思いまして」

「……ラスルさんをお呼びしてきます」


 どうやら気持ちが伝わったらしい。

 あっさり睨み顔から僕を開放し、クウィヴァさんはラスルさんを呼びに行ってくれた。



「ようこそ。今日はどうされました?」

 奥から出て来てくれたラスルさんは、いつもの様ににこやかに応対してくれる。


 つい先日クウィヴァさんから釘を刺されたばっかりだけど、仕方ないよな?

 皆で行こうと思うと、どうしても馬車は必需品だもんね。


 僕は海行きの件をラスルさんに話し、馬車と御者を借りられないか尋ねる。


「お話は分かりました」

 反応は悪くなくて、すぐに頷いてくれるかと思ったのだが、ラスルさんからは予想外の言葉が続く。


「それならぜひ、うちの子供達も連れて行ってくれませんか?」

「神殿の子達と青年の家の子供達。う~ん。全員合わせたら、1台の馬車に乗り切れないよなぁ」


「ボクくらいの年長連中だけ行く事にしたらどうだ?」

 マスタシュがそう提案してくれた。


 確かに、年長の子供達だけなら、手も掛からないし進行スピードも断然違う。

 だけど、置いてけぼりは寂しいからなぁ。


 それに年少の子供達だけで、青年の家に残すとなると、何かあった時の対応を、館の大人達にお願いしないといけない。

 独立独歩をモットーにやって来ただろう、子供達の頑張りを僕が無駄にする事になる。


 いっそ1台で行く事に、拘らない方がいいかも知れない。


「他に馬車と御者を借りれなかったら、そうするしかないね」


 もう紙漉きやら、種苗やらで色々助けてもらっている事だし、こうなったら海行きも街の人達を巻き込んじゃえっ。

 各州への紙漉き指導には、大人子供の混合編成で行って貰うんだし、今から顔合わせをして置くのもいいはずだ。


「クウィヴァさん、お願いが…」

「まさか、街の人達に馬車を借りるんじゃないだろうな?」


 ギョッとした顔でクウィヴァさんが僕を見て来るが、それが一番いい方法だ。


「子供達だけで行くより、街の大人達が一緒に行ってくれれば、目も手も増えるし、凄く助かると思いませんか?」


「そうですけど、一緒に行ってくれる方は居るかしら?」

 どうやら、ラスルさん本人も海へ行く気になっているらしい。


「街の皆さんも、そう大きな馬車は持っておられませんよ?」

「大人は皆足があるんだ。交代で歩けば、大丈夫だと思うんだけど」


「チビ達を馬車に乗せて貰えるなら、ボク達年長組も歩き組に回る」

「どなたが馬車を持っていたかしらね?」


 この中で一番街に詳しいクウィヴァさんに、僕達の視線は集まった。


「……案内はしますけど、貸借の話はご自分で付けて下さいよ?」

「もちろんっ! 助かるっ!」



 種苗を頼みに行った時の様に、クウィヴァさんに案内されながら、街のあちこちを動き回り、馬車と御者を借りられないかと声を掛けまくった。


「まあ、その日なら使わないから良いけど、馬車を何に使うんだ?」

「青年の家と神殿の子供達と一緒に海に行こうかと」


「海? 海に何をしに行くんです?」


「ほら。何かすると思われてる。ボクだけじゃない」

「何をって、貝や海藻類を取りに行くだけなんですが」


「保存食ですか?」

「はい。たくさん採って来て、一杯保存食を作ろうかと」


「追加参加はOKですかね?」

「もちろんっ! 賑やかなのは大歓迎ですっ!」


 海行きの参加者を募集し……。




 さらに、館の馬車を借りれないか、ケラスィンにお伺いを立てる。


「もちろん使って頂戴。でも誰かが使っている様なら、その馬車は遠慮して頂戴ね」

「お店に食料を運び込んだ後の馬車は、借りても良い?」


「その辺りは私では分かり兼ねるから、分かる者に聞いて貰えるかしら?」

「分かった。ケラスィンありがとう」


 本当はケラスィンと別れてすぐ、馬車を借りられないか聞きに行くつもりだったが……。


「ケラスィン、元気無い?」


 どう見ても、いつものケラスィンじゃない。

 島の幼馴染達に似たその目の輝きが、今日は全く見られない。


「私は元気よ。ありがとう」


 絶対嘘だ。

 心配になって、ケラスィンの後ろに控えているナラティブさんを伺ったが、どうやら体調を崩している訳では無いらしい。


「ケラスィン、何かあった?」

「何も。海行き、楽しんできて頂戴ね」


 ちらっと、ケラスィンの顔に羨ましそうな表情が出た。

 館から出られない自分に煮詰まって、ケラスィンの元気が無いんだろうか?


「街の人達にも、海行きに声を掛けてみたんだ。本当に賑やかになりそうで楽しみなんだ」

「良かったわね」


 やっぱりおかしい。

 ケラスィンの笑顔が全然見られない。

 いつもなら、ニコッと笑顔がもらえるのに。


「ナラティブさん、お店の馬車の使用状況って分かりますか?」

「私も分かり兼ねますが、分かる方の紹介を致しましょう」

「お願いします」


 ケラスィンから離れて貰える様な口実を作って、ナラティブさんに話し掛ければ、すぐに乗って来てくれる。

 ケラスィンの様子は、ナラティブさんから見ても、やっぱりおかしいらしい。


 ここならケラスィンに声が聞こえないという箇所まで、しばらく2人で歩いて行った。


「ナラティブさん、ちょっとお話いいですか?」

「ええ、構いません。ケラスィン様の事ですね」


 僕はこっそり、ナラティブさんと話し合いをした。




「どうして、こうなったんだ……?」


 そうマスタシュがぼやくくらい、当日は大人数で大移動=キャラバンになった。


「エイブ~っ!」

「今回は僕のせいじゃない~!」

「何とかしろ~!」


 そうマスタシュが喚き立てる気持ちが分かるほど、馬車や人達が目の前に揃っている。


「今日は参加ありがとうございます。海への道が分かる人の後ろを、ちゃんと付いて行くように。はぐれたら各自王都に戻るようお願い致します」


「「おうっ!」」

「「よろしくねっ!」」


「ちなみに僕は分かりませんっ! 道が分かる方、居られたら手を上げて下さい~っ」

「「分かるぞ~!」」


「手を上げている方々の後ろに付いて行きますっ! 本日はよろしくお願い致しますっ!」


「先頭は僕が担当させて頂きます。道が分かる方はそれぞれ距離を置いてばらけて下さい。それでは出発します」


 海行きの道が分かるクウィヴァさんは、パーパスさんに頼んで強制参加にさせて貰った。

 クウィヴァさんは街の人達と顔繋ぎもバッチリだし、伝言役も頼める。


 道行の時間潰しにクウィヴァさんからパーパスさんの武勇伝を聞くのを、僕は非常に楽しみにしていた。





護衛の人


「こんにちは。貴方の王子の次の護衛担当の日はいつですか?」


 それがオレが今ここにいる、そもそもの始まり。


「じゃあ、その日にします。よろしくお願いします」


 意味不明な事を言うと、エイブ殿はさっさとオレの前から離れて行った。

 後ろにいるマスタシュ君が、気の毒そうにオレを一瞬見つめて来たのが非常に気になる。



 街の人達から島の人と慕われているエイブ殿は、全く持って型破りな人だ。

 王宮をずかずかと歩き回り、あらゆる場所に首を突っ込み、助けを必要とする者にその手を差し伸べようとする。


 普通王族や貴族が助けの手を出す時、周りにいる信頼出来る者にやらせ、自分は館から動かないものだ。


 もっとも王族本人が動いてしまうと、護衛の役目をこなすのが非常に大変になるので、その方が我々としてもありがたい。


 だが、エイブ殿はその己の手を差し伸べる。

 その手を払う者にさえ、分からない様に手を回そうとする。


 少し前までパーパス殿が似た様な動きをされていたが、元老院に目を付けられ、ケラスィン様が居なければ、存在ごと抹殺されていた事だろう。


 あの方が居たから、王都は王都として存在出来た。

 そうでなければ、今頃王都は貴族と奴隷だけが住む街になっていた事だろう。




「だが、これは無いよなぁ」


 朝早くに寝床から抜け出す王子達を追いかけ、そのまま見守って館まで行くと、


「任せたよ」

 にっこり笑って、エイブ殿から馬車の御者を任された。


 これまで館に向かっていく王子を、見守るだけで止めなかったのが悪かったのか?

 それとも一緒に、紙漉きや畑仕事をこなしてしまったのが悪かったのだろうか?


 オレが御者役を任された馬車に、青年の家の子供達がどんどんと乗り込んでくる。


「王子? どちらへ?」

「海だよっ! よろしくねっ!」


「はぁ~っ?!」

「あれ? エイブに何も聞いてない?」


「何も聞いておりませんがっ?!」


「今日は、青年の家と神殿と街の人達合同で海に行くんだよっ!」

「貝とか海藻とか一杯集めて、保存食を作るんだってっ! 楽しみだねっ!」


 楽しそうにしゃべる王子達の笑顔を見て、オレは色々諦めた。


「減給で済めば良いんだけどなぁ」


「その分保存食回すから、元気出せ」

「馬車の動かし方、教えてね」


 エイブ殿を止めないのか、青年の家の年長組。


 それから、イベント事は、前もって教えといてくれ。

 準備と覚悟を決めとくから。


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