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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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求む協力者っ。

 そういえば密馬車した時、バナはお菓子ばっかり持って来て、怒られたよな~。

 でも、甘いものを食べると疲れは吹っ飛ぶし、旅に持って来いだったよ!


 甘いもので、日持ちするのは何だったかなぁ?


 砂糖や蜂蜜、水飴をそのまま持って行っても良いとは思う。

 味付けなどに色々使えるから、料理の種類にバリエーションが増えるだろう。


 だが、やっぱりすぐに食べられる甘いものも持って行きたいよなぁ。


 そうすると、ドライフルーツ?

 固く焼き締めたクッキーもいけるだろうか?



 ……あれ?


 そういえば、僕はろくに料理がした事がないような~?

 ケラスィンの館でも、お店でも、出してもらった物を食べているし。


 島でも、何か使えるものは無いかと頼まれて、本から調べはしたけど、実際に火を使い料理をした事があっただろうか?


「エイブ、お疲れ様~」

 って感じで。

 僕が調べた内容を使って幼馴染達が作ってきた差し入れを、味実験も兼ねて美味しく頂いたり、そうじゃなくても、日々の食事は青年の家に入り浸りだった。


 あれれ?

 もしかしなくても、ホントにないっ?


 これは、マズイ。

 調理に火は付きものだ。

 だけど、僕は紙製造で小火騒ぎを起こしちゃったし、火の扱いに自信が無い。


 碌に料理をして来なかったツケが回って来てるんだろうか?


 味覚が死んでるなとは、これまで言われた事がないし、味オンチではないはずだけど、異臭騒ぎを起こすほど、材料に対する基本的な知識が乏しい。

 根菜は、煮れば柔らかくなるという事は知ってるんだけど。


 でも作った事がない現実は、これから保存食を作ろうとしている僕にとって致命的。


 火加減?

 包丁捌き??

 はてさて???



 作りたい物は何となく固まってきた。

 だけど、それを作る為の食材をどこで調達するかも問題だ。


 やはり、まずは……求む協力者っ!


 ロウケイシャンから食料を貰う事は無理だろう。

 神殿で紙漉きの手伝いをしてくれる、街の人達に配る食糧として、ロウケイシャンの相談役の報酬をもう当ててしまっている。


 お店も、商売をしている以上、変な物は作れない。

 保存食を作る為の過程で、店で異臭騒ぎなど起こしたら、営業妨害どころか大顰蹙だ。


 後の心当りは、神殿に、それから館。

 どっちも無駄にする食糧は無いだろう。


 特に神殿は、溢れ返るほど育ち盛りの子供達が居るんだ。

 目の前に食料が有ったら、すべて子供達に食べ尽くされているはずだ。




 う~ん……。

 そうして僕がやって来たのは、結局のところ青年の家。


「エイブ、今度は何の話を持って来やがったっ?」

 途端にマスタシュが僕を睨みつけてくる。


「変人がまた何か企んでるぞっ!」

「何々~?! 今度は何をするんだ~?!」


「わははっ」

 わぁっと皆して寄って来るが、人の顔を見るなり、酷い言われようだなぁ。


「笑って誤魔化そうとしても無駄だぞ、きりきり吐けっ!」

「……はい」


 大人しく返事をして、各州へ紙を広めに行ってほしいと、もう1回子供達に話してから、旅の食料の話をする。


「街の職人達に紙漉きの指導員として、各州に行ってくれないか頼んでみたら、旅の食料事情の貧しさを上げて、皆悩むんだ」



「エイブの頼みだからじゃないのか?」

「あるかも…って! マスタシュ、ヒドイっ!」


「誰だって悩むよ~。特に街のおっちゃん達は家族持ちなんだし~」


「それに行き先は、元属州だろ? 今なら大丈夫かもしれないけど、いやロウノームスの力が落ちた今なら、何かされそうでもあるしなぁ」


 皆、周囲の状態が良く分かってるな~。


 周囲を察せられるというのは、自分達が生きていくだけで手一杯という状態から、ちゃんと抜け出している証だと思うけど。


 うんうん、実に頼もしい。


 各州行きに不安を示す意見に対し、密かに僕が感心していると、マスタシュが助け船を出してくれる。


「まあその辺は大丈夫だろ? エイブが紙の話をすると、喰い付きが良いからな」

「そうなのか?」


「各州の代表達の様子を見る限り、州の実力者達は紙に興味を持っているから、ボク達が紙漉きの指導をしている限り、守ってくれるはずだ」


「へぇ~。じゃあオレ行ってみようかなぁ」

「お前が行ったら、向こうも困るっての」

「違いないっ」


 一斉に笑い出した子供達の様子を見る限り、子供達はそれぞれ州に技術指導へ行く事に、忌避感が無くなったらしい。



 おしっ!

 紙漉きの指導員は確保できたっ!


 後は、旅の食料事情だ。


「ご飯が不味いと、旅の楽しさが半減するからなぁ」

「ご飯の良し悪しってそんなに重要か?」


 マスタシュが不思議そうに僕を見て来るが、とっても重要に決まっている。


「マスタシュだって、館に来て美味しいもの食べてるから分かるだろ? どうせ食べるなら不味いものより美味しいものだよっ!」


「確かに、自分達で作るご飯も美味しいけど、館で食べさせてもらってたご飯の方が美味しかったもんなぁ」


「また今度、食料を分けて貰う時に、コツを教えて貰おうよ」

「いいね~!」


 つい最近、館の青年の家は、少しでも島での青年の家の状態に近づけようと、館から食料を別に分けてもらって、子供達で自炊し始めているのだ。


「ついでに新しい料理も教えて貰おう?」

「今度分けて貰う食材を使った料理が良いよね」

「すぐに作って食べれるもんね」


 その食料に僕は目を付けたのである。


「ついでに保存食の作り方も聞いといて貰える?」

「保存食? 何で~?」


「もちろん、旅の食料事情の改善さっ!」

「おいっ! ここでやる気かっ!」


「もちろんっ!」

「エイブ~っ!」


「技術指導に皆行ってくれるんでしょ? じゃあ食料事情の改善も手伝ってくれるよねっ!」

「お前なぁ~!」


 マスタシュが目くじらを立てるが、そんなの構っちゃいられないのだ。



「ついでに食料増産も図ろうよっ! 家庭菜園作ろうよっ!」

「食料増産?!」


「浜辺に行って、貝や海藻を取ったりさっ!」

「海?! 海に食えるもんあるのか?!」


「もちろんだよっ! 教えるからさぁ!」

「行く~! 楽しそう~!」


 周りはお祭り騒ぎだ。

 ただ一人、マスタシュを抜かして。

 そちらを見ない様に、僕はうんうんと満足~。



「……エイブ?」

「……はい」


 マスタシュが怖い~!


「言うまいと思ってたんだが、技術指導は自分で行け~っ!」

「嫌だよ~! 今度旅をするなら、ケラスィンと一緒が良い~!」


「はぁ? そんなの無理に決まってるだろ?!」

「何でだよ~! ケラスィン、外に行きたがってるのに~!」

「当たり前だろう?! 王族だぞっ!」


 そんな当たり前なんて、おかしすぎるっ。


「今は治安が怪しいから無理だけど、平和になったら良いじゃないかぁ! 街へはケラスィンが勧めてくれたから行ってるけど、旅はケラスィンと一緒に出られるまで我慢するんだっ!」


「そもそもケラスィン様が、旅に出たいと思っているかも分からないじゃないかっ」

「見てると分かるよ。僕もずっと外に出たいと思ってたから」


 島が変わっていく様子を、ずっと僕はこの目で直に見て、感じたかった。


 北の州に事務仕事で缶詰していた僕と、王宮から出られないケラスィン。

 生まれや立場は違うけど、この気持ちはきっと同じだ。


「エイブ?」

「僕は2度旅に出たけど、初めての旅は本当に楽しかった。だからケラスィンと一緒なら、もっと楽しいんじゃないかと思うんだ」


「2度目の旅はどうだったんだ?」

「ロウノームスに向かう旅だったよ。もう船酔いが酷くって、思い出したくもない」


「……」

「だから協力して下さい。お願いします」





落ち着かない心


「お忙しそうね、ロウケイシャンお従兄様」

「ケラスィン? どうした?」


 自分の心の在り様が掴めなくて。


 そう相談をしたかったのだが、忙しそうに動き回っている、ロウケイシャンお従兄様を見かけてしまったものだから、口から外に出せなくなった。


「本当に、どうした?」


 心配そうにロウケイシャンお従兄様が頬に手を当ててくる。

 そのぬくもりが嬉しくて、一瞬目を瞑ってしまった。


「何だか置いて行かれているみたいで、ちょっと寂しかったの」

「分かってないんだな。今のロウノームスはケラスィンが全ての動きの中心だぞ」


「何の事?」

「ロウノームスの未来は、ケラスィン次第という事だよ」



「そんなの有り得ないわ」

「ケラスィン」


 ロウケイシャンお従兄様がエイブと一緒に、連日街へ御忍びに行っているのを知っていた私は、つい癇癪を起してしまう。


「王宮から一歩も動けない私が、ロウノームスの未来を握って居るなんてっ」


 ロウノームスの変化に、王族でありながら私は何もする事が出来ない。

 その苛立ちも日々あったから。


「ケラスィン」

 頬の手を外し、今度は私の頭を撫でてくる。


「もう子供ではないのですがっ!」

 ふんっ! っと、顔を背けてしまった。


 それでも、ロウケイシャンお従兄様の手は頭から外れず、優しく撫で続けてくれる。



「ロウノームスは今、急激に変わろうとしている。分かるな?」

「はい」


「今の流れを手放す訳にはいかん。我等が生き残れるだろう唯一の道故な」

「お従兄様」


「大丈夫だ、ケラスィン。そなたが居てくれる。その安心感は何物にも代えがたい物だ」

「私は何も。何も出来ていないのです」


 それ所か、自分の心が全く分からず、不安定に落ち着かない日々を送るのみ。


「これまでそなたが行って来た事。それこそが我等の大きな力だ。誇りに思って良い」

「ロウケイシャンお従兄様」


「大丈夫だ。安心して今まで通り過ごすが良い」

「はい」


 でも、やはり心は落ち着かないまま。

 私はどうしたというのだろう?





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