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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
58/102

挨拶。

「エイブ殿」

「道中気を付けて。危なくなったらすぐ逃げるんだ。命あっての物種だからね」

「はい」


 神殿に僕が居そうな時間を見計らい、旅の安全祈願を行うという口実の元、行政府から各州へ交渉する使者達が、神官長に挨拶をした後、わざわざ1人ずつ僕に挨拶にくる。


 ちょっと疑問に思ったけど、都合が良いので気にしない事にしている。


「それと、これはアクスファド先生から。州で見込んだ人に渡してくれって言われてる」


「アクスファド先生?」

「僕の先生だよ。ケラスィンやロウの先生でもある」


 今回は場所が神殿だから、勘弁してほしいと逃げられちゃったが、先生は何通もの州の人宛ての手紙を用意してくれた。


 反政府組織の一員である先生が作った手紙だ。

 行政府からの使者を助けてあげて欲しいとの、中身が書かれているのだと僕は考えている。


「まさか……教授!?」


 おや?

 先生、有名人ですか?


「知ってる?」


「州出身でありながら、唯一学者として認められたアクスファド教授ですか?! 余りの有能さに元老院から睨まれ、ロウケイシャン王の相談役から、その座を追われたという?!」


「はいぃ?!」


 先生ぃぃ?

 王の相談役から追われたって、初耳ですよっ!?


「州出身であるアクスファド教授が、ロウケイシャン王の相談役であったなら、ここまで各州と抉れる事は無かったと、裏・行政府では言われています」


 先生なら抉らせる所か、州の地位向上をしてただろうなぁ。


「すべての州と繋がりを持っていると言われています。アクスファド教授にお出まし願い、ご教授頂きながら問題解決するのが一番だったのですが」


 己の保身を考える元老院が認めなかったのですね。


 それにしても、先生の凄い情報を一杯頂いてしまったぞ。

 先生から預かった手紙には、僕が思っている内容と違って、もっと濃い内容が書かれているんだろうか?


「危なくなったら、手紙を信頼できる人に預けるのも良いかもしれないね」

「……はい」


 大事そうに手紙を受け取り、身の内に入れる姿に、大荷物を押し付けた気分になる。


「本当に、まず命大事だからねっ! それは1番に考えてよっ!」

「分かってます!」


 本当に分かってるのかなぁ?

 ちょっと僕は不安になる。


 だが、おばあちゃんが言っていたように、僕は信じて待つしかないのだ。




 そして各州の説得が失敗したとしても、損失が少なくなる様に動くしかない。

 つまり、ロウノームスだけで道の整備が出来る様に。


 それには大きなお金が必要になる。

 旅立っていく人達を見送った後、残りの人達と決算業務といつものちょろまかしに参戦。


「これも行けるね」

「こちらもバレずに減額できそうです」


「良いね。どんどん行こう」

「はいっ!」



 各州からの婿候補が揃った時に、多少なりとも話を詰めやすいように、道の整備計画を煮詰めている。


 その点、クロワサント島では祟り病後の道の整備を、幼馴染に任せっ切りだったので、僕はあまりお役に立てないから、覗き見。


「橋の建て方に、工夫は出来ないの?」

「どういう事です?」


「見ていると、川幅が狭い所まで遠回りしてるみたいだから」

「……広い所に橋を架けるのですか?」


「そうすれば、遠回りしなくて良くなるよ」

「工人の長に聞いてみます」


「長だけじゃなく、工人皆からアイデアを募るのはどう?」

「……工人の長と相談して募ってみましょう」


「良いアイデアが出るといいね」

「……そうですね」



 それからロウケイシャンの所へ顔を出しては、奴隷商人の調査の経過を聞く。

 調べていたら、どうやら大物を釣り上げたらしい。


「良い所に来た。今報告を聞いていた所だ」

「何かあった?」


「うむ。続けろ」

「はい」


 奴隷を一番必要としているのは誰かを考えれば、繋がりがあっても不思議ではない、貴族達がその大物だ。


「それだけでは証拠が弱い。もっと詳しく調べてくれ」


「それより、その奴隷にされる人達、本当に借金背負ってるの?」

「どういう事ですか?」


「だってさ、居なくなった家族が払えなかった租税が元の借金なんでしょ? いくらでもでっち上げる事が出来るんじゃない?」

「確かにな。それも合わせて調べてくれ」


「本当に売りに出されたら、少しでも助けて上げて欲しいな」

「うむ。……これを。今回の調査費だ。本当に身の危険を感じる者が居たら、身柄の買い取りを許可する」


「……感謝します」



 行っても無駄にしかならないだろうけど、前借で給料を貰ってしまってるので、元老院の議会にも足を運ぶ事にした。


 単にロウケイシャンに付き合うだけじゃなくて、参加する者達の顔と名前を一致させようと頑張り中。




 そんな日々をしばらく送った後、そろそろアクスファド先生が撒いてくれた、各州への伝手からの反応が返って来るんじゃないかと、僕は教室へ向かった。


 すると、おや? 知らない顔がある。


「そろそろ来ると思っていましたよ、エイブ君。この子達は私の甥の子供です」


 思わず、先生と紹介された子供達を見比べる。

 そう言われれば、似てるかな程度。


 年齢が違い過ぎて、分かり辛い。

 先生の若い頃を知ってる人が見たら、似てるっ! って思うのかな?



 それよりもっ!

 州から来たって事は、もしかしてケラスィンの婿候補っ?


 ちゃっかり婿候補に割り込んだはいいが、対応策は全く浮かんでいない。


 しかもマスタシュと同じか、少し小さいくらいのこんな子まで婿候補なんて、どれくらい年齢層が広いんだ?

 でもロウノームスには、稚児趣味なるものがあるらしいし……。


「僕はケラスィンが好き、負けないっ!」

 気が付けば、僕はそう宣言していた。


 アクスファド先生の甥の子供達は呆気にとられているし、マスタシュを始めとする、青年の家の子供達は一斉に騒ぎ出した。


「この馬鹿! 婿候補全員に会うたびに言うつもりかっ?」

「やっちまえ~っ! ビシッとかませ~っ!」


「いきなり喧嘩腰とかマズイんじゃ?」

「初対面が大事だろっ」

「紙はどうなるんだっ! 道も作るんだろっ?」


 それを静めたのは、もちろん僕ではなく先生。


「エイブ君、この子達は婿候補ではありませんよ。この教室で一緒に学ばせる事にしたんです」

「そういえば、前に」


 州出身でも教育云々と、先生は言っていたっけ。

 それを早速、実行してるって事か。


「そうです。それから私の故郷や、いくつかの州は道路整備に肯定的です」

「わあっ」


 良かった~。

 それなら話し合いだって、スムーズに進むはずっ。


 そうだよなっ!


 婿候補=道の整備を話し合う為の各州の代表者なんだから、いくら将来が有望だからって、州が子供達を寄越して来るはずがない。


「この子達は違いますが、各州が出してくる婿候補達は、あわよくばケラスィン様と……という思惑を、どうしても捨てられないでしょうがね」


「うぅ……」

 そんなアクスファド先生の言葉で、僕はがっくりと項垂れた。


 ともあれ先生の甥の子供達には、しっかり勘違いしてごめん、と謝っておいた。





「父上様」


 昨日、父上様からお聞きしていた、アクスファド大伯父上様とお会いする事が出来ました。


 これまで過ごしていた部屋とは違い、質素な作りの部屋に連れて行かれ、


「狭い所だが、しばらくここで一緒に暮らす事になる」


 と、大伯父上様は言われ、私達は頷きました。


 ロウノームスに居る間は、大伯父上様の言う通りにするんだよと、父上様に言われた事を守ろうと思ったのです。


 でもどうも、大伯父上様は違うお気持ちで居られる様で、私達に言われます。


「明日は、お前達と一緒に勉強する青年の家の子供達を紹介する。それからどうするかはお前達が決めなさい」



 そして今日、私は連れて行かれた先で、ケラスィン様にお会いしました。

 私達属州を苦しめている、ロウノームスの王族です。


 どれだけ酷い扱いをされるかと内心びくびくしながら、でも属州の王族の子として、恐れは見せられないと、表に出さない様に頑張っていた私に、


「そんなに緊張しなくても大丈夫。青年の家の子は皆良い子よ。すぐ仲良くなれるわ」


 ケラスィン様は、優しい笑顔を私に見せてくれたのです。


 とても綺麗な笑顔でした。

 正直ロウノームスの王族が、目の前にいるこの人だと信じられませんでした。


 ケラスィン様は、祟り病の孤児達を集められ、青年の家と呼び、大伯父上様に教育を頼まれておられました。



 私達は、その孤児達と一緒に勉強をするのです。


 机を並べ、一緒に授業を受けましたが、ほとんどの子達が文字の書き方や計算を習っている中、私達と遜色無い内容の授業を受けている子が1人いました。


 その子、マスタシュが私達に言ってきます。


「ボク達はスラム出身だが、お前達と仲良くしたいと思っている」


 嘘ではないらしく、どんな事にも私達を仲間に入れてくれます。

 でも余りにも今までと違う生活に、一日びっくり続きの連続でした。



「外から見るロウノームスと、中の実情は全く違う。良く見て良く考えるんだよ」


 一日が終わり、部屋に帰り着きホッと息を付いた私達に、大伯父上様はそう仰せられます。


 確かにその通りです。

 ロウノームスの王族なのに、ケラスィン様の館には奴隷は居ません。


 青年の家は、一緒に大伯父上様の授業を受けているマスタシュに言わせると、「ご飯と寝場所付の、ボク達にとってありがたい仕事場」なのだそうです。


 父上様、私は今、本当に混乱しています。


 悪魔の化身と思っていた、ロウノームスの王族は居ないのです。

 では、何故私達は苦しんで居たのでしょうか?


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