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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
53/102

裏・行政府。

 そのままその人に付いて、僕は1つの部屋に入った。


「ようこそ、裏・行政府へ」

「裏? 何故、裏?」


 ここが書類仕事をする行政府の一室なのは、山積みされている決裁書類を見れば分かる。

 だけど、何故そこに裏という言葉がつくんだろう?


「まず、挨拶させて貰おう。サラリドという」

「エイブです」


 これは手強そう。

 初対面の事だし、まず手始めは基本からと言わんばかりに、挨拶をされてしまった。


 絶対に、何か言いたい事が有るに違いない。


「実はエイブ君の噂は結構聞いている。君のその見掛けは、本当に拍子抜けだったけどね」

「拍子抜け?」


 僕は本当にごくごく一般的な普通な容姿だし、ロウノームスにおいてもそれは変わらないはずなんだけどなぁ。


 それに気になるのがもう1つ。


「……噂」

 どんな噂なのやら……。


 小火か?

 異臭騒ぎか?


 後は噂になる様な事は何にもやらかしてない、よな?


「始めは、パーパス殿との繋ぎが強く出来るならと思って、君を紹介してもらうのも良いかなって考えて居たんだよ」


「パーパス殿?」

 どうやら、パーパスさんが紹介してくれる予定だった人みたいだ。


 でも、パーパスさんに『殿』を付けるとなると、後ろめたく思っている1人って事か。

 パーパスさんが聞いたら、また苦笑しそうだなぁ。


「ケラスィン様の御名で、これまでロウノームスにはなかった新たな紙を作り上げたと聞いた。だが、そのケラスィン様の館に、孤児を集めてもいるそうじゃないか」


 紙については高評価をもらえているっぽいが、即席青年の家については賛成致しかねる的な空気。

 でも子供達が来た事で、館が騒がしく明るく楽しくなったのは、確かだと思うんだけどな~。


「子供達が、お腹いっぱい食べて、勉強して、仕事技術を身につけて、遊ぶ……が、ロウノームスの将来の為、必要だと思う。もう神殿は、孤児の受け入れ無理」


 サラリドさんは、王族であるケラスィンの身を案じて言っているのだろう。 


 だが、即席青年の家は、街の治安を良くする為、ケラスィンの毎日を明るくする為、そして将来のロウノームスの為にも絶対的に必要なのだ。


 それを理解せず、解散しろと言われてはたまらない。

 裏の行政府だという意味ありげな気になる言葉はあるものの、今は即席青年の家へ理解を求めて、僕は捲し立てた。



 さらに言葉を続けようとしていた僕を見て、


「あ~っ!」

「あ~っ?」


 違う人が部屋に入って来るなり、指差して来た。


 知ってる人だっけ?

 

 このところ紙関係で、色んな人に助けてもらってるからなぁ。

 僕が覚え切れてない可能性がある。


「見て下さい、これ」

「あっ!」


 そ、それはさっき、僕が計算間違いを発見した書類っ!


「いきなり現れたと思ったら、彼があっという間に直して。こっちが呆然としてる間に消えちゃって」

「どれ」


 2人で書類を見ながら、僕が言った事も含めて、一部始終説明されてしまった。


 そんな説明の最中、次から次へと書類を手にし、人が部屋に入って来た。

 入って来るなり、じ~っと僕を見つめて来る。


「……何か?」

 非常に居心地が悪い。


 話が終わった2人からも、じろじろと視線が向かって来る。


 だが、僕は悪い事なんてしてないし、言ってないぞっ?


 パーパスさんの名前が出たから、大人しく付いて来ちゃったけど、警戒不足だったかもしれないと心配になって来る。


 これは、早々にこの部屋からお暇した方がいいかなぁ。

 そう考え始め、じりじり逃げだそうとしていた僕に、


「行政官は民の為にあるべきである。そう思う者達がここ裏・行政府に集まっている」

「はい?」


 何を言っている?

 行政とは、民の生活を潤滑に過ごせるようにするのがその仕事だ。


 民の為にというなら、僕だって同じ様に働いて来た。

 州長になった時からず~っと、出来ない事は多いけど、皆が楽しく暮らせるよう、自分なりに頑張って来た。


 今だって、ケラスィンが明るく過ごせる様、ロウノームスで生活する人々が楽しく生活出来れば良いと、自分なりに考えて行動しているつもりだ。



 なのに何だろう、このビリビリ痺れる緊張感は?


 その緊張に僕が我慢出来なくなり、部屋から一気に出ようと行動するその一歩手前で、やっとサラリドさんが話し掛けて来る。


「元老院の言いなりになって下手に出つつ、さっき君がやってくれた様に間違いを見つけ、それを私達は王都復興に宛てて来た」


 見つけたっ!

 パーパスさんの資金源の人っ!


 どうやら、1人じゃなく大勢で協力し合っている様だ。

 この人達の地道な努力があったから、まだ王都は今のまともな状態を保てているんだよっ。


 僕が探していたのはこの人達だと、喜びたいのに声が出ない。

 目の前の御仁は、それくらい鬼気迫る表情で、僕を見据えて来る。


「今しがた行った元老院の部屋で、これだけの予算をいつも通りに使い込んでおく様にと言われて来た」


「……えっ? えええっ?!」

 余りのびっくりさに、しばらく頭が回らなかった。



 だが、何とかその言葉の意味を飲み込んだ僕は、飛び上がる嬉しさと共に言い放つ。


「なら、もっと喜びましょうよっ!」


 だって、そうだ。

 幾らでも使い放題な、監査もされない資金が、ど~んと目の前にあるのだからっ!


「元老院をここまで油断させるなんてっ! 皆さんを尊敬しますっ!」

 自分達の言いなりだと考えるほど、行政府の彼らが今まで下手に出てたって事だ。


 どれだけ、悔しかった事だろう。

 彼らはどれほど、やりたい事が出来ない事に、涙を流したのだろう。


 だが、その甲斐が実って、元老院の油断が生まれた。

 その証拠が目の前の予算。


「僕らが好きに使える予算ですっ! さぁ、何をしましょうかっ?!」


 やっと理解が回って来たらしい人達の様子が、少しずつ嬉々としたものに変わっていく。


「今なら何でも出来ますよっ! やりたい事をやろうじゃありませんかっ!」


 揚げ足取り放題の現状を作り出したのは、元老院の方だ。

 この機会を掴んで、更に楽しく過ごせる国へとロウノームスを押し進めて行けば良い。


 元老院の思う、いつも通り。

 裏・行政府が思う、いつも通り。

 その2つが同じである必要なんか、全くない。





湧き立つ


「違うだろ~。こうやるんだっ!」

「「そっか~っ!」」


「そうそう。上手いじゃない」

「えへへ~」


 窓の外から今日も賑やかな声がする。


「とっても楽しそうね」

「賑やか過ぎて、付いていけませんわ」


「神殿に居た時みたい」

「そうですか?」


 多分館の子供達は孤児院の延長であって、エイブの言う青年の家ではないのだろう。

 島の子供達は、大人の力を殆ど借りず、自分達だけで自給自足していると聞く。



 だが食いはぐれ、犯罪に走る子供達が、街から居なくなった事による影響は大きい。


「街の治安がだいぶ良くなったと聞いております。ケラスィン様」


 家族会議の席上、パーパスからエイブが居ないのを見計らった様に報告があった。


「あとクウィヴァが、街が活気づいていると言っておりました」

「何故?」


「多分、エイブ君は欲しい物を頼んでいるだけなのでしょうが、それがロウノームスの職人達に新たな想像力を掻き立てるみたいで。気付けば、職人街が湧き立ってました」


「凄いわねぇ」


「この流れを更に大きくする必要が有ります。ケラスィン様、お願い出来ますでしょうか?」

「どれぐらい資金は必要かしら?」


「食料を渡す際に、クウィヴァに聞いて貰う様伝えます」

「お願いするわ」


 先日の家族会議でも思ったが、まるで明るい風が吹き抜けていく様。


 エイブ本人を見ていると、凄い事をしている様に見えないのに、気が付くと周りに笑顔が広がっている。



「お従兄(にい)様にも笑顔が戻るかしら?」


 顔合わせには付いて行こうと思ってたのに、ロウケイシャンお従兄様は、エイブと1対1で相対する事を望まれた。


「お2人の顔合わせが、和やかなものであります様に」


 ロウケイシャンお従兄様。

 エイブなら王宮で辛い思いをされているお従兄様の助けに、きっとなってくれます。



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