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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
51/102

試作品。

 結果。

 紙の試作品は、無事に、作る事が出来た。


「どこが無事だぁ!」

 マスタシュが怒鳴って来るけど、無視だ無視っ!


 試作品の紙に、今回の実験の内容を覚えている限り、書き写すのが先。

 必死で書く僕の横で、館の人達による酷評が始まった。



「全くとんでも無かったよな~」

「道具を貸してって持って行って、紙漉き以外に使えない状態に改造して……」


「火事だと焦らせるほど煙をモウモウと上げるしな……」

「前もって分かっていれば、あんなに焦らなくて良かったのに」


「王宮から、王様が様子を見に来てびっくりしたっ!」

「王子様も、あれから始終覗きに来てるわよ」


「確かに興味は湧くだろうよ。毎日毎日変な事が起こるんだから」

「館の子供達と一緒に、アクスファド先生の授業を受けるのも楽しいらしいわ」


「大分年下だろ? 大丈夫か?」

「ちゃんと面倒見ているっ!」

「すまんすまん、マスタシュ」


「でも、一番の問題はあれだったよなぁ」

「酷かったよなぁ……」


「ここはまだ外でやってたから良かったものの、神殿は街中だろ? 大丈夫だったのか?」

「やっぱり大騒ぎだよ。神官長様が怒る近隣の人達に頭を下げて、何とか落ち着いて貰ったってさ」


「ちゃんと書く。次、失敗しない」


「まだやるのかっ!」

「まあ、子供達は楽しそうだから良いけど」

「異臭騒ぎだけはゴメンだぞ」


「うん」


 桶で水に浸していた材料の中に、粘液が腐りやすく、カビも生えやすい物があるなんて、分からなかったんだよぉ!



「鼻がもげるかと思ったぞ……」

「ごめんなさい」



 異臭騒ぎの時は、館や神殿の皆からブーイングが一斉に上がった。

 だが神官長やパーパスさん、それにケラスィンも味方になってくれ、何とか紙漉きの続行が出来た。


 僕にとっても、始めてのチャレンジ。


 今回、色々な意味で問題が発生し、ギャーギャー大騒ぎになったが、まず紙の試作品が出来た事で、1つ僕的に満足。


 次に繋げなくっちゃなっ!




 それに、マスタシュの仲間達と、一緒にご飯を食べられた。

 神殿から一手間掛かる材料を、館に持ち帰ったのは正解だった。


 館中から持ち出した鍋や桶で、水に浸けられるように入る大きさに解体したり、神殿で行った様な作業をして、子供達はスッカリ汗だく。


 そのまま皆でお風呂に直行。

 そして、続けて晩御飯。


 体はサッパリ、お腹も一杯。

 半日体力を使い、疲れているとなれば、次は眠くなるのが当然。


 ケラスィンを先頭に、館の皆の協力を得て。


「このまま皆、館、泊まる」

「……そこまではぁ」


「明日、いっぱい仕事ある」

「……でも、それはぁ」


「手伝い……」

 どう言葉を繋げれば良いか、悩む僕を見かねた館の人達から、援護射撃を送られた。


「明日、手伝って欲しい仕事があるのは確からしい。しかも今日よりキツイかもな」

「うえ~~~~っ!」

「体力温存の為に、今すぐ寝る事を勧める」


 更にマスタシュも、


「諦めろ」

「マスタシュ~」


「ご飯と寝場所付きの仕事を貰えたと思えば良い」

 これで決まりだった。


「分かった~」

「おやすみ~」

「「おやすみなさい~」」


 前に家族会議やケラスィンと馬車の中で、マスタシュの仲間を連れて来たい事や、青年の家について説明してあったせいか、僕が頼む前に子供部屋の準備も整えられていた。


 重労働で疲れ切り、睡魔で船を漕いでいる子供達が我に帰る前に、騙まし討ちみたいに館に泊めた。


 1泊させてしまえば、後はこっちのものっ。

 済し崩し的に、青年の家の出来上がり~っ!

 僕的に2つ目の満足。




 これまでの日課通り、お昼までアクスファド先生による授業を皆で受ける。

 僕は時折サボって神殿に行き、紙漉きの続きをしている。


 アクスファド先生は、僕とマスタシュ以外の生徒が一気に増えて、何だか嬉しそうにしている。

 僕もなんだかとっても嬉しい。


 しかも毎日いっぱい喋るからか、僕の言葉は少しづつ流暢になっている気がする。 


「そのうち属州言葉、習いたい」

「「はぁっ?」」


「属州、ロウノームス、言葉違う。属州言葉、習いたい」


 子供達は勉強を始めたばっかりだから、キョトンとしている。


 でも、アクスファド先生なら可能なはず。

 元々先生は属州の出身で、ロウケイシャンとケラスィンに、属州の言葉や異文化を教えてたって言うし。


「それで皆、紙漉き、あっちこっち広めてほしい」


「へっ、おれ達が?」

「うわっ。また変人がおかしな事、言い出したぞ、マスタシュ!」


「僕、変人っ? マスタシュっ?」

 僕の事を真っ先に、そう表したに違いないマスタシュを僕は見遣る。


 しかしそれを全く気にせず、マスタシュは仲間に答えた。


「とりあえず馬鹿な変人は放っといて、こっちやろう」

「酷っ」


 僕はいたって本気だし、真面目だぞっ!

 だがそんな僕を尻目に、皆はそれぞれ目の前の課題を始める。


「そうだなっ」

「まず読み書き計算っ」

「え~~~~~っ!」


 まあ、一飛びに応用に行くのは無理だし、まず基礎をきっちり身に付ける方が良い。



 でも、皆に紙漉きを広めて欲しいのは本当。


 考えていたのだが、技術は無償で広めたとしても、紙自体は売っていいと思う。

 材料費も掛かるし。


 定着すれば紙は毎日使う物だけど、毎日紙作りをしていられる人は、紙職人という職業が確立するまでは、そんなに居ないはず。


 読み書き、計算、それから紙漉き技術、覚えておいて損はない。

 犯罪行為を行わずお金を稼ぎ、生活していけるなら、それに越した事はないよ。



 はっ!

 そういえば、紙が出来たって事は……っ。


「凧揚げ、しようっ!」


「何だ何だぁ?」

「今度は分かんない言葉が出た~っ!」


「上げ、は分かる。何を上げるんだ? 凧って何だ?」

「マスタシュ~」

「通訳頼む~」


「凧、遊び道具。紙、使って作る」

「「遊びっ?!」」


 一斉に目を輝かせ、皆が飛びついて来た。

 うん、大満足っ!





異臭騒動


「何だっ、この臭いっ! どこからだっ?!」

「こっちだっ!」


「え……神殿?」

「嘘だろ?!」


「……ここしかない」


「あんたは、向こうの……」

「向こうでもこの異臭だ。ここが一番臭いが強い」


「……我慢も限界に近い。止めてもらうしかない」

「幸い、ここの神官長様は話の分かる方だ。我らの話を聞いてくれるはず」


「……行くぞ」

「「……おう」」




「あの時は、参ったよなぁ」


「うむ。時間が経つにつれて、臭いは我慢出来ないレベルになるしな」

「真面目に悶え死ぬと思ったよ」


「それで、原因は何だったんだ?」


「紙の試作品を作る途中の、失敗だそうだよ」

「紙を作るのに異臭がするなんて、聞いた事無いぞ」


「島の人から新しい作り方を聞いて、ロウノームスにある材料で作ろうとしたら、あっという間に腐る物があって、異臭を放ったんだってさ」


「島の人?」


「ケラスィン様が匿っておられるそうだ。神殿のラスルさんが元老院にバレない様にして欲しいって言ってたよ」


「元老院?!」


「ケラスィン様の為に、少しでも出来る事をって、島の人は動いたそうなんだが、異臭騒ぎになっちゃって、落ち込んでるのを慰めるのは大変だったってさ」


「へぇ~」


「でも何でバレちゃ駄目なんだ?」

「何でも神殿の子供達の噂だと、元老院に捕まると奴隷行きなんだって」


「奴隷っ!?」

「島から来ただけで奴隷は、さすがに気の毒だろ?」


「だから秘密で試作しているんだって。協力してやろうじゃないか」

「協力って何をだ?」


「手が空いた時に、材料集めを手伝って欲しいらしいよ」

「紙は出来たんだろ? 何で材料が必要なんだ?」


「もう異臭騒ぎを起こさない様に、どんどん改良を計ろうって、慰めちゃったんだってさ」

「うはッ」


「助けてやっておくれよ」

「「分かったっ!」」



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