実験開始。
何と紙の材料は、ケラスィンと劇を見た神殿に保管されていた。
ロウケイシャンとケラスィンは祟り病の時に避難していたから分かるけれど、パーパスさんとも繋がりがあるなんて、この神殿は随分顔が広そうだ。
「この神殿は昔から王宮の役人を大勢輩出していて、又、実力者が揃っている事で有名なのさ」
そういえば前に神殿に来た時、神殿に引き取られた孤児が行政官になる事もあるって、言ってたな。
「だが行政官になる為には、貴族の推薦が必要でね。父も、この神殿の出身者で、これはと見込んだ者を何人か推していたんだ。その関係で、私にも良くしてくれる方が多いんだよ」
パーパスさんは苦笑しているが、パーパスさんに変革の力が有ったからこそ、神殿出身の実力者達も力を貸してくれたんだと思う。
「もっとも神殿出身の役人達は、推薦してくれた貴族には頭が上がらない所があってね。私に力を貸してくれていた当時も、大っぴらに動けないと嘆いていたよ」
つまり、自分達が動けないから、代わりにパーパスさんに力を貸して、動いて貰っていたって事か。
パーパスさんが捕まった時、神殿出身の実力ある役人達は、どれだけ嘆いたんだろう。
「私の二の舞にするのを恐れてね。余り動いてくれなくなっているけれど、材料置き場の口利きならって、今回神殿に話を通してくれたんだよ」
それにしても凄い量だ。
マスタシュと散々市場を探し回っても見つから無かったのに、良くこれだけ紙になりそうな材料を集めたなぁ。
頼んでくれたパーパスさんにも、協力してくれた人にも、感謝感謝。
材料置き場として、場所を貸してくれている神殿にも感謝だな!
「どうだろうか?」
パーパスさんにそう尋ねられて、一気に僕はうずうずして来た。
だって、目の前にこれだけの材料がある。
ただ見ているだけじゃ、どれを使えば良い紙が作れるか分からない。
実際に試してみなくっちゃねっ!
「触る、嗅ぐ。使えるの、探すっ。水。それから浸ける入れ物、欲しい」
とりあえず細かくしやすい様に、水に浸けて柔らかくしよう。
「持ってくるっ」
「あるよっ」
僕が最後まで言うのを待たず、神殿に物が持ち込まれた時から、何かが始まると目を付けていたらしい子供達が、わっと駆けて行く。
僕は1つ1つ手に取って、皮の部分、根の部分と調べていった。
繊維の多い物はもちろん、僕が一番に目を付けたのは粘液が出る物。
この樹液の中に、紙を破れ難くしたり、それから繊維が均一に広がる様にする効果のある物があれば、万々歳。
とりあえず全種類、最低一昼夜は浸けてみたいな。
浸けるだけじゃダメそうなのは、蒸さなきゃ駄目だしなぁ。
蒸すのはさすがに街中の神殿じゃマズイかな?
館の庭で、大がかりに蒸させて貰おうかな。
粘液はともかく、繊維が多い物は柔らかくなるまでの日数がそわそわするなぁ。
「次に何するっ?!」
子供達がワクワクとした興味津々な視線を向けてくる。
島で、舟の修繕方法なんかを教えてくれた大人達に、僕や幼馴染達もこんな視線を向けていたんだろうか?
まあ失敗前提なんだし、実験で色々試してみようっと。
始めから上質な紙を作ろうとする必要なんてない。
「もう捨てるだけ、布、縄、欲しい。ある?」
戻って来た子供達が持っている物は、見事にボロボロ。
ついでに当たり前だけど、汚い。
この汚れはそうそう落ちないだろうけど、洗って~。
「細かくする。棍棒・石で打つ。手、気を付けて」
1回、絞って、更に磨り潰す。
「疲れたよ~」
「まだやるの~?」
「まだまだ~」
だけど確かに、単純作業を延々繰り返すのは飽きるよなぁ。
「次行こう。お湯沸かす~」
「お湯~?」
「もうこれしか鍋が無いよ~!」
「桶は~?」
「持って来る~!」
「使う鍋、中身桶入れる~!」
「分かった~!」
「水沸わく。灰入る~。叩いたボロ入る~。夕方まで煮る~」
「夕方まで~?!」
「任せた~!」
「「了解~!」」
こうして紙作りを始めて気付いたが、もっと道具が必要だっ!
鍋の管理を子供達に任せて、僕は手が空いていそうで興味津々な神官達に、紙漉きに必要だと思われる道具を、枠に板にと思い付く限り頼んで、昼を食べに館に戻った。
「エイブ?」
「何だそれ?」
そのついでにパーパスさんの知り合いも動員して、神殿に集めた材料のうち、一手間掛りそうな物を神殿から引き上げる。
引き上げて来た僕達を見た館の人達は、一斉に疑問の声を掛けて来る。
「これ材料。お昼ある?」
「あるが……」
「食べて行って。手伝いありがとう」
手伝いをしてくれた人は材料を下ろしながら、館から出て来た人も交じって、僕を不思議そうに見て来るがそれどころではない。
「エイブ~、俺達は何をすればいいんだ~?」
「仕事したら、飯食わせてくれるんだよな~」
マスタシュの仲間達が館に到着していたからだ。
「僕ご飯食べる。皆、先ご飯食べる。後、仕事」
「先に食って良いの~?」
「仕事大変。先ご飯。あと、使う無い大きい樽、ある?」
「あるけど……。何に使うの?」
「大きい鍋、薪いっぱい欲しい」
「だから、何に使うのよ~!?」
「……お腹空いた」
「……分かったわ」
……数日後。
磨り潰したボロボロと水を、枠が浸けられる入れ物に混ぜてみる。
「……むむ」
もうちょっと、ドロドロにするんだったかなぁ?
怪しいや……。
今回は材料ごとに紙を作ってみているけど、分量や、どの材料の結果がどうだったかと、ちゃんと記録を書きたいぞ~っ!
漉いて、枠から出して、乾燥させる。
さぁ、果たしてこの粘液の中に、当たりはあるでしょうかっ?!
人集め
「アクスファド先生、ボクとこっちで良いのか?」
「もちろんです。……あの神殿は居づらくてね」
「何でだ? 神官長様と親しげだったじゃないか」
「……気にしないで下さい。それで、どうやって集めるんです?」
「簡単さ!」
「簡単?」
「お~~~~~いっ!」
「何だなんだ?」
「おっ! マスタシュっ!」
「帰って来た?!」
「違~うっ! 館に皆来てくれないかっ?」
「何でだよお!」
「王宮なんて嫌だっ」
「エイブに人手が必要だって頼まれたんだっ! お前達しか思いつくのが居ないんだっ」
「「エイブ~?!」」
「エイブ君を知ってるのかい?」
「マスタシュ、これ誰?」
「……ボクの先生」
「「先生?!」」
「アクスファドと言います。マスタシュ君に文字や計算を教えています」
「エイブに言葉も教えてる?」
「教えてます」
「「ふ~~~~~ん」」
「エイブ君に興味が?」
「あいつ、おかしいよっ!」
「館に連れて行こうとするしさっ!」
「ボクと一緒にエイブを監視しないか?」
「「監視?!」」
「あいつ変だろ? 変だから見張ってないと」
「それでマスタシュは見張ってるんだ」
「イラつく事もあるけど、見てると面白いしな」
「「面白い?!」」
「変だからなっ!」
「島の人だからでしょうかねぇ」
「絶対違うと思うっ! 島でも怒られてたらしいしっ!」
「そうなんですか?」
「幼馴染達みたいだって、ボクが突っ込んだ時に呟いてたから」
「「……変人?」」
「その変人が人集めしているんだ。近くで見たいと思わないか?」
「でもなぁ~」
「王宮だろ~?」
「館の人は良い人ばかりですよ」
「「う~~~~~ん」」
「仕事をすれば、飯が腹いっぱい食えるぞっ!」
「「行くっ!!」」