表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
49/102

苦行の時間。

 結局何の進展もない元老院に、しばらく僕は我慢した。

 参加するだけで何の手出しも出来ず、イライラするだけだろうロウケイシャンを残していくのは、気の毒に思ったからだ。


 だが、その苦行の時間もやっと終わった。

 たぶん恐怖の晩餐時間が近付いたのだろう。


「エイブ、晩餐食べて行かないか?」

「神殿式晩餐?」


「宮廷式だ」

「帰るっ!」


 冗談ではない。

 あんな精神苦行の場で、美味しいご飯が食べられるかっ!


「そう言わず、付き合え」

「付き合えないっ! 帰るっ!」


 どうやら、ロウケイシャンも宮廷式晩餐は苦手らしく、僕を引き摺り込もうとしたが、そこまでは付き合えない。


「また来るっ!」

 さっさと僕は館へと逃げだした。




「まずは、パーパスさんだよな」


 王宮から逃げ出した僕は、早速パーパスさんを見つけるべく、街に出ようかと思ったが、今からだと入れ違いになる可能性が大。


 というわけで館の玄関で、パーパスさんが帰って来るのを今か今かと待ち兼ねた。


 あっ!

 帰ってきたっ!


「協力者、欲しいっ。教えてっ。紹介、お願いっ!」


 帰って来たパーパスさんの姿を見つけ、走り寄り、ガシッと捕まえた。


 いきなり僕に捲し立てられたパーパスさんはというと、かなり引き攣って後退り気味。

 そこにマスタシュが割り込んで来た。


「おい、また説明が抜けてるぞ。ちゃんと始めから言えよ。王様には会えたのか?」

「マスタシュ、居た?」


「パーパスさんと一緒に帰って来てたのを、見なかったのか?!」

「気付かなかった」


「……王様はっ?!」


 お~っと、そうでした。


「会えた。国、心配してる。でも情報、全く無し」


「国の情報を王様に知らせるなら、パーパスさんに紹介してもらわなくても、家族会議とかで館の皆が話してる事を、そのまま伝えればいいだろ?」


 うん。

 それも、もちろんする。


「それだけ、足りない。元老院、駄目。なのに王都、復興なった。ちゃんと働いてる人、いるはず。パーパスさん、知ってる? 紹介、お願い」


「……なるほど。言いたい事は分かった」


 どうやら、分かってもらえた様だ。


 しかしパーパスさんは難しい顔をしていて、僕は戸惑った。

 パーパスさんならきっと紹介してくれると、スッカリ思い込んでいたから。



「紹介、無理?」


 僕が問い掛けると、パーパスさんから逆に尋ねられた。


「紹介は出来る。だがエイブ君はそうして会って、どうするつもりだ?」


 それは、もちろん。


「出来る事、探す。手伝い、する。ロウ伝える、忘れない」


「……ロウ?」

「ロウケイシャン、王様」


 な、何かな?

 今度はギョッとしているぞ、ちょっと怖い。


 ロウケイシャンにそう呼んでいいって言われたし、いいんだよなぁ?


「……やっぱり気に入られたんだ、賭けはボクの1人勝ちだな」

「賭け? 何?」


 得意そうなマスタシュに僕は問い掛けたが、その事に対する返事はなかった。


「ケラスィン様だけでなく、ロウケイシャン様までが、エイブ君を信じるというのなら……。分かった、なるべく早く紹介しよう」


 製紙はともかく、国政をまともに動かしている実働部隊に、僕を紹介するのが不安だったって事かな?


 ロウノームスの要である実働部隊が、元老院に目を付けられ、パーパスさんの様に権利を奪われて、奴隷にされるのは、本当にマズイ。


 危惧するパーパスさんの気持ちは分かる。


「ありがとうございますっ!」

 最上級の感謝を込め、僕はパーパスさんに頭を下げた。



「私は王宮にいた時も、遠くからしか拝見した事がないんだが、ロウケイシャン様はお元気だったか? 一体どんな話をしたんだ?」


 ライバル宣言をして、ケラスィンの好みを聞いて……というところから話したら、またパーパスさんにギョギョギョとされた。


 マスタシュまでマジマジ僕を凝視してくる。


 あ、もしかして王様に対するイメージを壊しちゃった?

 まずかったかな?


「本当に気に入られたんだなぁ、エイブ君は」

「良く近衛に捕まらなかったな」


 あれ?

 何で感心されるんだ?

 2人の雰囲気がとっても怪しい。


 ここはロウケイシャンから話を逸らした方が良いかも~?

 何か話は~。



 そう言えば、パーパスさんにもう1つ聞かなきゃいけない事があったんだった。


「紙、材料、見つかった?」

「それなんだがね。色々集めてみたんだが、これっていうのが無いんだよ」


「無い?」

 それは困った。

 紙が作れない。


「1度集めた物を、エイブ君に見てもらいたいんだが?」

「ボクも見せてもらったけど、実物を見た事が無いから分からない」


「分かるかな……」

 何せ、製紙するのは本当に久しぶり。


 だが、動かないと製紙事業でロウノームスを立て直す作戦は始まらない。


「どこ、ある?」


 今すぐ見に行こうと歩き出す僕に、パーパスさんとマスタシュが慌てて僕を引き留めて来た。


「もうすぐ夕餉だよ」

「もう暗くなる。明日にしようぜ」


「む~」


 不満げにする僕の背中を押し、2人は館へと戻ろうとする。


「さ~行こう、エイブ君」

「明日アクスファド先生に言って、一緒に向かえば良いさ」


「アクスファド先生?」


 うわぁ!

 引き込むべき人を引き込むのを忘れてたぞっ!


「先生、付いてくる?」

「来るんじゃないですか?」


「ボクも先生の説得、口添えするから」

「分かった」


 アクスファド先生はマスタシュに甘いからな。

 マスタシュが説得してくれるなら、先生もOKしてくれるはず。


 先生を製紙事業に巻き込めるなら、材料を見に行くのは、今日より明日だ。


「明日、楽しみ」

「さ~、ご飯だ」

「いっぱいあるかな~?!」


 どうやら、僕が納得したのに気付いたらしい。

 背中を押すのを止めた2人は、足早に館へと帰っていく。


 その後を追って、僕も館へと歩いて行った。





賭け


「エイブ君、居るかい?」

「居ないです~」


「あれ? パーパスさん! いらっしゃい!」

「そうか……。あと、何か持って帰れそうなもの残っているかなぁ?」


「ありますよ~! 今包みますね~! 何人でしょう?」

「今日は……5人だね」


「分かりました! 5個頼む!」

「了解! じゃあ出来たのから」


「助かるよ! 今日はありがとうね」


「又声掛けて下さい」

「待ってます」

「依頼、楽しかったです」


「パーパス」


「お疲れ様。マスタシュ、ちょっと待ってね。はい。ありがとう」

「「会えて嬉しかったです」」



「それで、エイブ君はどこに行ったのかな?」

「王宮だ」


「王宮?!」

「王様に会いに突撃していったんだとさ」


「今頃会えなくて、館でしょんぼりしているに俺達は賭けているんだが、パーパスさんは賭けに乗るかい?」

「考えとくよ。じゃあ、マスタシュ借りて行っても良いかな?」


「はい、どうぞ~!」

「マスタシュ、お疲れ様~!」



「それで、マスタシュは、どっちに賭けたんだい?」

「……王様にエイブが気に入られる」


「ほほ~。大穴かい?」

「ボク1人」


「そこまで気に入ったのかい?」

「エイブだから。それで、パーパスの用は?」


「紙の材料を見て欲しいんだよ。ピンと来るのが無くってね」


「ボクが見ても分からないよ」

「まあまあ。見るだけで良いからさ」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ