突撃。
議会に参加する前に一度、王様と顔合わせする事になった。
もちろん始めはケラスィンやナラティブも一緒に、館で会う予定だったのだが、王様が僕と2人きりで話してみたいと言い出したらしい。
そこで僕は、ケラスィンから王様の空いている時間を聞き、王宮へと突撃した。
いつもなら行方を遮る衛兵達が、僕を先へと通してくれる。
どうやら王様は僕が突撃して来るのを、予想していたらしい。
「ありがとう」
「はっ!」
僕をスンナリ通す衛兵達の態度から、王様から前もって伝達が来ていたのだろうと気が付いた。
さすがは王様。
「ケラスィンが慕うだけはある」
滅びの道を突き進むロウノームスが崩壊していないのは、王様が国の手綱を掴んでいるからか。
それに、周りの衛兵達が王様の命令を聞くのはプラス評価だ。
王様が、強制力の1つである軍事力を、握っているという事なのだから。
下手をしたら四六時中、王宮ではいつ刺されるかと、気を張り詰めなくちゃいけないなぁと思っていた僕は、内心ホッとした。
「身近な兵達の反乱は、しばらく考えなくて良いな」
衛兵達の真面目な対応ぶりに、少し気を緩めながら、更に奥へと僕は進んだ。
だが、相手が大国ロウノームスの王様だろうが、これだけは言っておくぞ!
「ケラスィン、好き。負けない!」
王様とは島に来た使者と王宮に来て以来、会っていない。
だからこそ、ちゃんと宣戦布告しなくちゃっ!
王様が2人きりで会いたがってくれて、これ幸い。
僕の意思表示する良い機会だと、第1声からぶっちゃける。
すると、王様が吹き出した。
余裕だなっ。
王様にしたら、僕なんかケラスィンを取り合う恋敵に、なり得ないって事かっ?
恋敵の余裕のある態度に、さすがに、ムッとくる。
「何故笑う?」
すると王様が言った。
「いや、すまぬ。あまりに直球だったので、笑ってしまった」
「直球、ケラスィン気付かない」
求婚しても、ケラスィンには本気にして貰えなかった事を思い出して落ち込む僕に、さすがに悪いと思ったのか、王様が宥めて来た。
「まぁエイブ、そう落ち込むな。だが、勘違いをしている」
「勘違い? 何?」
「我が従妹殿は美人で優しく、勇敢で行動力がある。エイブが惚れるのも当たり前だ。だが、我と従妹殿は結婚しない。そもそも恋仲ではない」
「でも」
祟り病がなければ、結婚していたはずだ。
少なくとも、周りは皆お似合いだと思っているのだ。
ケラスィンも王様を慕っている。
僕の考えを読み取ったのか、王様は頷く。
「確かにお互い親愛の情を持ち続ける我らは、夫婦となれば、それなりに上手く過ごせていたに違いない」
「親愛?」
「そうだ。恋愛ではない。それは従妹殿も同じだ」
王様は仮定ではなく、断定してきた。
「ライバル、違う?」
恋敵であったはずの王様のその言葉に、どこか僕は安心する。
そんな僕の表情を見て、王様にまた笑われた。
むむぅ。
しょうがないだろうっ!
強力な恋敵だと思っていたんだからっ!
「気にいった。ロウケイシャンと呼べ」
「ロウケイシャン? 名前?」
「我の名前だ。王様ではなく、名前を呼んでもらいたい。我もエイブと呼ぶ」
「名前……」
身分制度の厳しいロウノームスで、王様の名前を呼ぶ?
今日は宣戦布告のつもりで直接話してしまっているが、本来なら顔を見る事も禁じられているのにか?
「代わりにといっては何だが、従妹殿が喜びそうなプレゼント品を教えよう。笑ってしまった詫びも兼ねてな」
僕は当然それに食い付く。
「聞くっ」
「菓子ならば市場に売っている小さい物。花ならば野に咲く野花一輪。従妹殿が片手で持てる物が好ましい」
「小さい? 片手?」
仮にも、王族に対するプレゼントがそれでいいのか?
普通は、豪華で大きいプレゼントの方が目立つし、喜ばれると思うんだけど。
疑問が顔に出てしまったらしく、王様が更に付け加える。
「1袋に1束でも十分過ぎる。豪華に走り、多く大きい物に対して、我らは贈り主の思惑を探ってしまう」
「賄賂?」
「うむ」
なるほどなぁ。
普段の様子も、王族らしからぬケラスィンだ。
賄賂の忌避という理由も、納得出来る。
だけど、お互いに分かり合っている2人の様子に、疎外感を覚える。
ケラスィンと王様が恋仲じゃないと分かって安心したが、良好な仲である2人の様子に疑問が沸く。
「何故、教えた?」
「エイブは、我らを、ではないな。従妹殿を使おうという気はないのだろう?」
「使う?」
「ノウロームスにおける、立身出世の道具としてだ」
「立身出世?」
ケラスィンに会わなければ、ロウノームスなど潰す気だった僕が?
「そんなエイブだからこそ、従妹殿からこの国を救ってくれるやもと期待され、信じ頼って良い存在だと認識されたのだ」
えっ?
そうなのかっ?
この前、神殿でケラスィンに対して告白した時の反応を考えると、望みは薄そうだと思っていたのに、それってイイ線いってるって事っ?
僕は思わず、頬を緩ませる。
「従妹殿にすれば、兄が増えたという感じだけだろうがな」
「……う」
がっくり。
あ~、そうでしょうとも~。
気分が浮上した所を、落とされた気分~。
そんな僕を見て、王様が再び笑った。
「ケラスィンは、島の話をすると喜ぶのではないかな。我と従妹殿はアクスファド先生の思想に影響を受けているから」
「島」
何を話せばいいんだ?
僕が詳しいのは、島の事務仕事ぐらいなんだが。
いやいや、事務仕事など、どこでやっても似たり寄ったりだし、それ以外だよなぁ。
「エイブは我の兄弟弟子として、議会で我の補佐を勤めてもらう」
「補佐」
「もっとも議会で我の意見などほぼ通らない。それゆえ実際の勤めは、議会の様子を従妹殿や従妹殿が抱えている人材に伝え、得ている情報を我にも回してもらえれば助かる」
ふむふむ。
つまり僕はケラスィンと王様を繋ぐ役目をすればいいんだな?
「今の議会は実のある論議をするでもないし、エイブが我らを繋げてくれ。ロウノームスの現状を打開する策が見つかれば、尚良いのだが……」
言葉は難しかったが、王様の希望を僕は察する事が出来た。
とりあえず、議会を見てからだな。
舞台裏
「そうか。受けてくれたか」
「王。反対でございます」
「私もです」
「ではお前達は、ロウノームスの現状を打破する手段を思い付くか?」
「それは……」
「……」
「我1人ではもう思い付かんのだ。だが彼が自由に王宮に入れれば、従妹殿との連絡係が手に入る。それは大きな利点ではないか?」
「連絡係……」
「確かに……」
「従妹殿の周りには、ありとあらゆるロウノームスの情報が入って来ると聞く。その情報の早さと正確さは我の比ではない」
「元老院より早いと、聞いた事がございます」
「凄い……」
「それに従妹殿の周りには、元老院の息が掛って居ない知恵者が多い。今のノウロームスに、元老院の息が掛って居ない知恵者は貴重だ」
「「はい」」
「我はその頂点に立つのが、島の人だと考えている」
「え?」
「王?」
「我は島の人がその気になったら、今のロウノームスなどあっという間に切り崩されると考えておる」
「「まさかっ!」」
「お前達は、クロワサント島の島長を何だと考えている。権限を全て握るロウノームスの王と同じ位置に居た方だぞ」
「あの若さですぞっ!」
「そんな事はっ!」
「あの若さで、ロウノームスに1人で乗り込んで来たのだ。そしてクロワサント島の者達も、島長なら何とかすると信じたから、1人で送り出したはず」
「そんな……」
「王……」
「ロウノームスがボロボロだったのは、幸運だったのやも知れぬ。すぐに島に手を出せないと知ったからこそ、島の人は行動を起こさなかっただけだろうからな」
「「……」」