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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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神殿での生活。

 期せずして告白していた事に気が付いたわけだけど、きっと僕がケラスィンを好きだって気持ちは伝わってないと思う。 


 感謝を表すつもりの中身に、気持ちのこもらない告白だったから、ケラスィンは怒った顔をしていたし、しかもあの時は数日、目を合わせてくれなかった!


 そういや何故ケラスィンに避けられるのか分からず、アクスファド先生に質問したよなぁ、あの時。


「もっとそれなりの表情で言ってくれれば信じてもいい、と仰ってましたが……」


 って、意味不明な返事を貰ったはず。

 え? って事は、やっぱり僕の告白信じられてない?


 まあ、当然っちゃあ当然かぁ。

 僕にとっては、告白じゃなく、感謝の言葉のつもりだったもんなぁ。



 それでも今の台詞、ケラスィンはどう思ったんだろう。

 ついちらっとケラスィンを伺ってしまう。


「……」

 劇に夢中で、とっても楽しそう~。


 僕の告白など全く頭に残ってなさげ~。

 これは、ちょっと悲しいぞ~。


 告白が全然信じられてない上に、ケラスィンにとって僕は恋愛の対象外って事かぁ?


 う~ん。

 いやいや、ここで諦めるのはまだ早い。


 改めて、それなりの表情でちゃんと告白すれば、ケラスィンだって、僕の気持ちを信じて考えてくれるはず。


 でも今は、劇の最中だ……。


「今度こそ、ちゃんと感謝の言葉も伝えなきゃなぁ」


 伝わっていなかった気持ちを伝えるべく機会を見つけようと僕は決め、折角ケラスィンが誘ってくれたんだから、今は集中しようと観劇を続けるべく舞台へと顔を向けた。




「面白かったわね」

「うん。面白かった」


 ちょっと途中上の空になったが、全体的に面白い劇だった。

 劇の余韻に浸っている僕達に、ラスルさんが声を掛けてきた。


「昼餉の支度が出来ております。どうぞこちらへ」

「ラスル?」


「本日は特別に、ちょっと遅めの昼餉となっておりまして。いかがでしょうか?」

 確かにお腹がすいている。


「本日の昼餉は軽めで申し訳ないのですが」

「皆様お待ちなのかしら?」


「そろそろ集まる頃かと」

「分かったわ。ご相伴に預かります」


「はい。どうぞ」

 ラスルさんに案内され、ケラスィンと僕は神殿の奥へ通された。



 食堂に通され、案内してくれたラスルさんや、数人の神殿達、更に集まって来た小さい子供達も一緒のテーブルに着いた。


「揃ったようだな」

「「はいっ!」」


 子供達が返事をする。


「それでは、目の前の糧に感謝して」

「「感謝しますっ!」」


 しばらく、お腹を宥めるべくお惣菜を回してもらって食べていると、あっれぇ?

 追加は出て来ないし、奴隷も居ないっ!

 この食事のとり方は館と同じだ!


 驚いている僕に、ケラスィンが言って来る。


「気が付いた、エイブ? 館の食事方式はこの神殿を真似しているの」

「真似?」


「祟り病が流行っていた頃、従兄殿と私はこの神殿に庇護されていたのよ」


 むむぅ、また王様が出てきた。

 今日は王様の話題が良く出るなぁ。


 じゃなくて。

 どうせ避難するなら、王都からも離れれば良かったのに、何で神殿?

 分からなくて、首を傾げる。


「神殿は聖域だから、祟り病も神殿内にいれば、猛威を振るわないと思われていたの。どう説明すればいいかしら、ラスル」

「そうですね……」


 しばらくラスルさんの説明を受け、なんとなく僕はニュアンスを掴んだ。

 つまり医療頼みではなく、神様頼みだったらしい。



 祟り病の余りの流行り具合に、王侯貴族すべてが恐れをなし、神殿の庇護を求めたそうだ。

 ただ、多くの王侯貴族は神殿においても、その生活スタイルを変える事なく過ごそうとし、庇護された神殿にその実行を求めた。


 神殿の下働き達は扱き使われ、祟り病を跳ね返す体力を削らせていき、少しずつ神殿は祟り病を忍び込ませ、その猛威を振るわれていったそうだ。


 そんな中、この神殿はただ神に祈るだけでなく、例え王族相手でもきちっと指導を入れ、暴飲暴食をさせず、かつ衛生的で規則正しい生活をさせたらしい。


 お陰で王族達が祟り病と恐れられる程亡くなる中、ケラスィンと王様は生き延びる事が出来た。

 もちろん、そんな神殿の生活に耐えきれず、辞職した御付きの人も多く出たそうだ。



「神殿に来たばかりのケラスィン様は大人しくて、ロウケイシャン様かナラティブさんに引っ付いてばかりいましたね」


「小さい頃は人見知りだったもの、それは今もよ」

 ケラスィンがそう言うと、みんな笑った。


 それはそうだ。

 本当に今でも人見知りなら、初対面の僕をいきなり館に連れて帰る訳がない。


「ケラスィン、ラスルさん、幼馴染?」


 どうにも親しげな2人なので疑問に思って聞いてみると、神殿は信者の孤児の内、引き取り手が居ない子供を引き取って面倒を見ているらしく、ラスルさんはその1人なのだそうな。


 神殿に対する寄付が出来ない親を持つ子供が孤児になり、引き取ってくれる人がいないと、下町のストリートチルドレンになるか、奴隷になるかしかない。


 神殿に引き取られた孤児は、神官見習いの身分を持つ。

 神官教育の一種として、読み書き計算を習うらしい。


 そのまま神官の道を進むもよし、見習いのまま下働きになるのも良い。

 寄進をして来る貴族に頼み、行政官になるのも良い。


 ただこの段階で神殿出身の行政官は、推薦してくれた貴族に貸しが出来、頭が上がらない。

 職人や商人に職業の口利きも神殿がしてくれるので、思い切って商売を始める子供もいる様だ。


 ラスルさんは神官の道を進んだのだろう。



「年も近かったものですから、親しくさせて頂いたのです」

「読み書き計算の授業や、ご飯も一緒だったわね」


「さすがに寝室は別ですよ。ケラスィン様は王家からお預かりした方でしたから、ロウケイシャン様と御2人、客間でお過ごしして頂いておりましたの」


「私は皆と一緒の部屋が良かったわ。一緒が良いって言ったのに、全然聞いて貰えなくて寂しかったわ」


「ロウケイシャン様はたまに混じっておられましたね。まあ、あの方は御付の方達が早期に辞職されて行かれて、夜は御1人でいらっしゃいましたからね」


「ずるいわよね。夜は1人で混じり放題。今もたまに神殿の皆に色んな所に連れていって貰っているのよ」


 つまりケラスィンとラスルさんは、何年間か生活を共にした仲という事か。

 道理で親しそうなわけだと思っていると、ラスルさんが気になる事を話し出した。


「ケラスィン様は、ロウケイシャン様の後を付いて回って居られましたものね」

「今もよ。ロウケイシャン従兄殿は大好きだわ」


 その言葉を聞いて、僕は咽そうになった。


 大好き?

 付いて回ってるって何だ?


 ケラスィンは、王様への気持ちで悩んでたりするんだろうか?


 アクスファド先生によると、ケラスィンと王様はそれぞれ別に王族の血筋を残す事を求められている。


 だからって、ケラスィンの王様への気持ちはきっと変えようがないんじゃないか?


 もしそうなら改めて告白する前に、僕は失恋?!

 叶わない恋?!


 そんな事が僕の頭の中でぐるぐる回る。

 ケラスィンとラスルさんが楽しげに話してるが、僕はそれ所じゃない。


 王様が人見知りだったケラスィンの初めてのダンス相手だとか。

 ロウノームスの王族がごろごろいた頃は、王様に街へ引っ張り出されて連れ回されたとか、そんな話はどうでもいいんだ!


「ケラスィンっ! 王様、大好き?!」




シーツ一面の文字


「あれはロウノームスだわ。信じられない」

 部屋に帰り、一息ついた私はつぶやいてしまう。


 壁一面に書かれていた文字。

 ただ文字が書かれただけだと、最初は思ったわ。


「でもあれは違う」

「何がでございますか?」


「ナラティブ」

「お茶をお持ちいたしましたよ」

「ありがとう」


 さすがだわ。

 私を落ち着かせるためのハーブティー。

 ホッとする。


「あのシーツはエイブが処分するまであのままで。もしエイブが処分してくれとシーツを持って来たなら私に頂戴」

「ケラスィン様?」


「従兄殿に確認を……いえ、必要ないわね」

「エイブに新しいシーツを渡し、古いシーツを貰って参りましょうか?」


「そうね……。ナラティブはあれが何か分かる?」

「私には勝手に処分してはならない物である事しか分かりかねました」


「勝手に処分すれば、エイブは私達を切るでしょうね」

「ケラスィン様?!」


「あれはロウノームスについて書かれていたわ。クロワサント島の島長って凄いのね」

「そんなに、でございますか?」


「ええ。それともエイブを教える、アクスファド先生が凄いのかしら」

「言葉が分からないのにですか?」


「そうよね。分からないはずなのにね」

「……」



 見極めなくちゃ。

 エイブがロウノームスをどう思っているか。

 私達を、好きになってくれるのか。


「ナラティブ、エイブの告白覚えてる?」

「あの信じられない台詞ですか?」


「あの台詞を使う劇団を探して欲しいの」

「……分かりました」


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