ぶっちゃける。
会議見学話を持ち出した僕に、男尊女卑なお国柄だから案の定というか、ケラスィンには首を横に振られてしまった。
「ごめんなさい、私でも議場へは入れないのよ」
「うん、いい」
駄目元だったし、ケラスィンが謝る事じゃない。
「それにしても、エイブ。突然どうして、そんな事を言い出したの?」
ケラスィンは訝るどころか、凄く真面目な表情で僕を見つめて来る。
どうしよう、話してしまおうか……?
マスタシュの様に、ちゃんと僕を不審者扱いしてくれる子もいるけど。
簡単に館に入れて、先生を付けてくれるケラスィンもいて。
そしてクロワサント島に、特別な思い入れを持っているアクスファド先生までいる。
島の皆の事を思うと認めたくないけど、ロウノームスに対するイメージが、宮廷からケラスィンに連れ出されてから、完全に変わってしまった。
僕は心を定める。
「僕、反乱起こす、ロウノームス来た」
「うわああああ、やっぱり怪しい奴だったぁ!」
それを聞いたマスタシュは目の色を変えたが、ケラスィンに動揺は見えなかった。
「静かにね、マスタシュ。それで?」
促されて、つたないロウノームスの言葉を使い、気持ちを伝えようと僕は続ける。
「クロワサント、祟り病めちゃくちゃ。使者来る、復興始まる止まる」
「島は復興するのね」
「クロワサント平和。使者いらない」
「当然ね、奴隷を求めたのだもの」
「クロワサント、人少ない。復興、人、最優先」
「そうね。復興の為にロウノームスもクロワサントに人を求めた」
「クロワサント、人出せない。ロウノームス無くなる。使者来ない」
「その通りだわ」
「奴隷、焚き付ける。反乱起きる」
「奴隷? 焚き付け?」
「奴隷、待遇悪い。焚き付け簡単。でもケラスィン会った。だから反乱止めた」
「……それだけ?」
じ~っとケラスィンが見つめて来た。
美人の強い視線など受けた事が無い僕は焦ってしまった。
黙って居る予定だったもう一つの理由を、ぽろっと口から零してしまった。
「僕が何もしなくても、ロウノームスは終わりそうだし……」
「どういう意味だ! それはっ!」
マスタシュが僕に食って掛かってくる。
分からない様に島の言葉で言ったのに、一緒に勉強していたマスタシュは、島の言葉をマスターしていたらしい。
「悪い。でも本当」
「何だと~っ!」
マスタシュが怒るのも、当たり前だろう。
自分の住む国が無くなると、僕は言っているのだから。
「エイブは何て言ったの?」
ちらっと僕とマスタシュはケラスィンを見た。
そして、僕をマスタシュが睨みつけてくる。
「ごめん。つい口から出ちゃって」
僕が島の言葉で謝ると、マスタシュは大きくため息を付き、ケラスィンに伝える。
「ロウノームスが終わると」
「そうね、その通りだと思う。このままだと国は崩壊してしまう、それは私にも分かっているの」
しかも、さすがに気分を悪くされちゃうかなと思っていたのに、ケラスィンは僕の言葉に同意さえしている。
「ケラスィン?」
「これは王も同意見よ」
情けなさそうに、ケラスィンが零す。
その気落ちした様子に僕は焦る。
「僕、ロウノームス守りたい。でも出来る事、分からない。会議、国の先行き決める。見る。出来る事探す」
ケラスィンは僕の言葉を咀嚼するかの様に、ゆっくり何度も頷いた。
「私も同じ。自分に一体何が出来るのか分からなくて、止まってしまっているの。そうねぇ、エイブにも家族会議に参加してもらおうかしら」
そこでついに黙っていられなくなったらしい、マスタシュが割り込んで来る。
「ケラスィン様、こんな不審人物を信用するんですかっ?」
「あら。不審といったら、この家に住んでいるほとんどが、そうだもの」
「だけどコイツは、怪しいを通り越して、反乱なんて考え付く危ない奴なんですよっ!」
「もしエイブが私達の信用を裏切る行動をとったなら、それは私の見る目がなかったというだけの事よ」
「……」
そんな遣り取りがあって、結局マスタシュは黙らされてしまったけど……。
「質問?」
「もちろん」
「家族会議? 不審人物ほとんど?」
ケラスィンはよくぞ聞いてくれました、という表情をする。
ちょっとアクスファド先生を彷彿とさせた。
さすが師弟~っ。
いや、感心している場合じゃないから……。
「私1人では国をどうすればいいのか思い付かないから、皆に考えてもらっているのよ」
「皆? 館? 家族?」
「この館に住んでいる全員、私は家族だと思っているの。といっても血筋大事が染み付いていて、ちっとも壁はなくなってくれないけど」
いやいやいや!
王族に対して、会釈だけとか普通あり得ないよっ。
「ケラスィン、王族? 本物?」
「ええ、そうよ」
思わず僕が尋ねると、ケラスィンは笑った。
「流行病前は数いる王族の、末端でしかなかったのにね。今では絶滅危惧種なの」
「絶滅危惧種?」
「王族が祟り病でごっそり亡くなったのよ。お陰で無理が通るわ。例えば、エイブをここへ連れて来た様にね」
「僕以外?」
「王侯貴族の批判している劇や瓦版屋を援助したり、それで捕まった人を助けたり」
「……ごめん、書いて」
筆談を交えて、再度説明してもらい、僕はアクスファド先生が言っていたケラスィンに関する噂を思い出す。
恋人を取っ換え引っ換え、少々変わったご趣味なんていう噂を。
匿った人は職業が多岐に渡っており、本職は役者・詩人・画家(志望も含む)とか。
事もあろうに主人や上司に悪態を吐いたり、恥を掻かせたり、良くない理由で他の貴族屋敷をクビになった(投獄・辞職・放棄・逃亡)人までいるらしい。
「うは~うは~うっは~~~~」
この館にいる大部分の人間が、ケラスィンに匿われた人間なのが分かったっ!
「通りで、この館変だと思った……」
ちらっと見たマスタシュが、同感だと目配せしてくる。
「後はどんな経歴があったかしら。とにかくイロイロなのっ」
すっごく楽しそうにケラスィンは話して来るし、しかも何だか誇らしげ。
何故っ?!
そんな人達を、よく家族だなんて言えるなぁ……。
「いっそのこと、王族が滅びてもいいと思う事もあるの。もちろん従兄殿も私も、ただでは済まないでしょうけど」
ただで済まないと分かってるんだ。
ちょっと安心、……出来る訳がない。
「でも、その後のロウノームスはどうなるのかしら? 舵取りは一体どこの誰が、どんな風に? それが心残りなのよね……」
「……」
ケラスィンは嘆くでもなく、単に思案気なだけ。
だけど王族が滅びる方向へ持っていくのは、却下だ。
だって僕がロウノームスを守りたいと思う一番の理由は、ケラスィンなんだから。
王と会議
「顔触れが変わらん。全く詰まらん」
「早々人員が変わったら、政が安定しません。良い事であります」
全く良くない。
我の周りの顔触れが変えられないと、我のやりたい事が全く進まないのだ。
「従妹殿を入れては駄目か?」
「女性ではありませんか」
「我のやる気がだいぶ違ってくると思うのだが」
それに従妹殿は周りに多岐に渡る人材を抱えている。
我の耳に入らない情報を、掴んでいるに違いない。
「ロウノームスにおいて、政は男性がするものです。ケラスィン様は女性。数少ない王族でもありますから、王族を増やすという義務がおありです」
「王族なら我が増やしたがな」
「はい。全くありがたい事です。ますますお気張り下さる様お願い致します」
くそう。
我は子供を作る道具じゃないんだが……。
まあ、だからこそ我が王になったんだがな。
大事な従妹殿を子を産む道具になどさせられん。
「男なら良いのか?」
「はい。男である事が最低条件と思われます」
「ふむ。じゃあ、我の助手として1人付けて貰おうか」
「どなたです?」
「我が師の弟子だ。意見を聞きたい事があってな」
「良き政になりますなら、宜しいんじゃないでしょうか」