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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
33/102

先生。

 朝、目が覚めたら、ちゃんとお腹が空いていた。


 身支度を整えて、食堂へ向かうと既に人がいる。

 食べ終わって、これから出掛けるような格好の人もいる。


 ふむ~。

 やっぱり館の外で仕事をしてる人もいるんだなぁ。



「おはよう(ございます)っ!」

 ロウノームスの言葉で入って行ったので、おやっ? という顔をされた。


 ふふふ。

 昨日の『晩餐』という言葉もそうだけど、僕だってこれくらいなら言えるのだ~。


 しかしっ。


『おはようっ!』


 うぅ……。


 朝食の説明かな?

 それとも天気?

 何か想像もつかない内容か?


 挨拶を返してもらえたのは嬉しい。


 だが、それに続けてどっば~っと話が続いた。

 何を言ってるのか、サッパリだぁ。


「得意げになり過ぎでした、すみませんっ」


 途端にちんぷんかんぷんな僕は、とにかく焦りのジェスチャーをし、周りからのロウノームスの言葉攻撃をかわそうと試みる。


 僕の焦りのジェスチャーが面白かったのか、皆に笑われたけど、ちょうど食堂に入ってきたケラスィンが僕に声を掛けて来た。


『こちらよ、エイブ』

「はい、何ですか?」


 僕の名前を呼ばれたので顔を向けるが、何の事だか分からない。

 結局手招きで呼ばれ、晩餐の時と同じ席に着いた。



 いきなり目の前に、お惣菜のお皿をどんっどんっどんっと置かれた。


 何故っ?!

 まだ食べ始めてもいないし、今は量が足りないなぁと思われる顔だって、してないはずなのに~。


『貴方の朝ご飯だから。残さず食べる事』


 はい?

 目の前のこれを全部、僕が食べなさいという手振りに見えますが?

 思わず、フリーズ。


『痩せ過ぎ、もっと太らなきゃ』


 料理の皿を運んできたナラティブ達は、僕を指し、両手で細い隙間を作って、続けてそれを広くする。


「ひょえ~~~~っ!」


 いくら何でも細過ぎだよ、その初めの手の隙間。

 それじゃ、骨だけになっちゃうじゃないかっ。


「無理ですよぉっ!」

『食べれるだけでも食べる事っ』


 うひゃあ!

 駄目出し手振り来た~っ!


 必死で食べ始めたが、さすがにこれは多すぎだってばっ!


 だが必死で食べる僕を、食堂に居る人達は微笑ましげに見つめてくる。

 これってもしかして、この館の人達は、僕がここに来るまで、ろくにご飯も貰えない様な、酷い目に合わされたと思ってたりするんじゃないだろうか。


 確かに船酔いというエライ目には合ったけど、使者達は一応僕を島の代表者に見せなくてはいけないからと、ちゃんと食事の用意はしてくれていたんだけどなぁ。



「さすがに無理。ギブアップ」


 ともあれ僕は何度も、もうお腹一杯アピールをせねばならなかった。

 これはさっさと食堂から退散した方がいいかも……。


 今度こそ迷子にならないように、探検に行こうかな?


 そう考えて、席を立った僕を見て、


『仕方ないわね』

 ようやく諦めてくれたらしく、ケラスィンが僕を呼ぶ。


 なんだろう~? と思いつつも、僕はその後を付いていく。


 素直にほいほい付いて行き過ぎかなぁという気もするけど、僕に危害を加える気なら、この館には連れて来ないだろうし、まぁ良いよな。


 しばらく、後を付いて行きながら、今度こそ迷子にならないよう道を覚えようと、周りに気を張った。


 むむ?

 僕の後ろから、もう1人付いて来てるな。


 この軽い足音。

 君の正体は振り返らずとも分かっているぞ、マスタシュ。


 今日もまた尾行するなら、僕が迷子になった時、今度は逃げずに道を教えてくれ~。




 そして僕は初老の男性を紹介された。


『エイブ。アクスファド先生よ』

「初めまして。ようこそ、ロウノームスへ」


「!」

 おお、使者に続けて2人目っ!


「島の言葉を話せるんですかっ? いけないっ。初めまして、エイブと言います」

「初めまして、アクスファドと言います」


 何だか、知性溢れる人だなぁ。


「クロワサント島の方と話すのは15年? 振りで、少々心許無いのですが。幼少の頃お教えしていたケラスィン様から、貴方にロウノームスの言葉を教えて欲しいと頼まれました」


「アクスファド先生、よろしくお願いします! うわ~っ! ありがとう、ケラスィンっ!」


 既に色々誤解が生じているみたいだし、言葉を覚えれば、この館の人達との意思疎通が楽になるはず。


 そう考えて居たものの、どうやってロウノームスの言葉を教えて欲しいと頼めば良いか、悩んでいた所だった。

 それが、すでに教えてくれる人を頼んでくれていたなんて。


 すごい嬉しい。


『喜んでもらえて良かったわ。余計なお世話じゃなかったみたいね。勉強部屋として、この部屋を好きに使って頂戴。アクスファド先生、あとはお願いします』

『はい、ケラスィン様』


 頑張って。

 そんな感じで僕を見て、ケラスィンは、ロウノームス語はアクスファド先生に一任してあったらしく、すぐに部屋から去って行った。



 あ、そうだっ。


「先生。いきなり不躾な質問なんですが」

「何でしょうか?」


「先生はどれくらい僕の面倒を見てくれるんでしょうか?」

「どういう事です?」


「この部屋の扉の横に隠れている子、マスタシュっていうんですけど」

「おや、どれどれ……?」


 こそっと覗きに行った先生。


「……居ましたね」


「どうも僕を見張ってるみたいで。もし先生が良ければ、僕にロウノームスの言葉をご教授頂く間、マスタシュにも一緒に勉強教えて貰えませんか?」


「良いですよ。生徒が増えるのは大歓迎です」

「でも僕が近づくと逃げるので、良ければ先生から誘ってもらっていいですか?」


「まずはあの子がどうするか、聞いてきましょう」

「すみません、お願いします」


 快く先生はマスタシュに話し掛けに行ってくれた。



 どうかな~?

 どうかな~?


 ず~っとあそこに立ちっぱなしじゃマスタシュも辛いだろうし、気になって落ち着かないんだよな。


 出来れば、目の届く所で僕の見張りがてら一緒に勉強してくれれば、勉強仲間も増えて、僕は大歓迎なんだけどな。


 どういう返事が返って来るか気になって、扉の方の気配を探る。

 しばらく先生とマスタシュのやり取りが続き、そしてマスタシュは先生に付いて来た。


 でも、僕を見たマスタシュは、ふんってした。


「生徒が増えましたよ。頑張りましょうね」


「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

『何でボクが……』


 勉強仲間ゲット~っ。




勉強仲間


「今回のお話、無かった事にして頂きたいのです」

 この館を訪れたのは、本当はケラスィン様からの依頼を断る為だった。


「待って下さい、もう先生しか心当りがありません。まず会っては頂けませんか?」


 そう言われ、しぶしぶ館を訪れたのだ。



 会った生徒は、本物のクロワサント島の住民だった。


 クロワサント島!

 ロウノームスの裏世界において、クロワサント島は奇跡だ。


 発見されながら、唯一ロウノームスによる支配を免れている島。

 しかも、島長だったはず……。


 上手くすれば、夢の実現が見れるかも知れない。

 一瞬そう考えた。



 だが、


「どうも僕を見張ってるみたいで。もし先生が良ければ、僕にロウノームスの言葉をご教授頂く間、マスタシュにも一緒に勉強教えて貰えませんか?」


 これには、度肝を抜かれた。


 自分を見張る者を傍に寄せる?!

 しかも、教育まで与える?!


 クロワサント島の常識は、自分が持つ常識と違いすぎるのではないかと不安になった。


 だからこそさっき見かけた子供を間に置き、クロワサント島の島長であるエイブを観察しようと思ったのだ。


「良いですよ。生徒が増えるのは大歓迎です」

 何としても子供を引きずり込む為、自分から子供に声を掛けに行った。


「何をしてるんですか?」

「うわぁ」


「バレバレですよ、マスタシュ君」

「だぁぁぁああああ」


「観念して付いて来なさい。一緒に勉強しましょう」

「……一緒じゃ奴が嫌がるだろ?」


 これが常識ですよね。


「それが、エイブ君が一緒にって言ってるんですよ」

「何でぇぇええっ」


「アクスファドと言います。頑張って勉強して、エイブ君の常識を聞いて下さい」


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