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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
31/102

風呂と追い駆けっこ=迷子。

 一息ついた後、さすがにケラスィンとナラティブとは別れて、勧められるまま入ったのは湯気風呂だった。

 お湯を掛けて流せはするが、浴槽がなくて浸かれないので、お風呂と呼んで良いのかも不明。


 たぶん教えてあげて欲しいと頼まれたのだろう、男性が身振り手振りで説明してくれる。


「ロウノームスに来てから、初めてのお風呂だよ~」

 それまでは、体を拭く位で済まさざるを得なかったのだ。


「気持ち良いかも~」

 浴室に籠っている熱気で、とにかく汗がどんどん出て来た。


「中に溜まっていた疲れが、汗と一緒に流れ出て行くみたいだ」


 湯気風呂かぁ。

 島の皆にも教えてあげたいなぁ。


 ぼ~っとした時間を、ロウノームスに来てから久しぶりに持った。



 この湯気風呂が終わったら、たぶん恐怖の夕食だよな……。


 夕食ぐらいは豪勢に~という気持ちは、まぁ理解出来なくもない。

 だが朝昼はあまり食べないのに、夕食は見るだけで気持ち悪くなるくらい、とにかく大量。

 絶対、度が過ぎてる。


「一日の締め括りに相応しい」


 数日間、僕を礼儀作法で缶詰にした使者達が、誇らしげに地位が高い者の特権だと言っていたが、ロウノームスの悪習慣だと僕は思う。


 もうちょっとバランス良くした方が、健康に良いと思うんだけどなぁ。


 この館も恐怖の夕食なんだろうか?

 少しうんざりだ。



 ……それにしても、もう駄目だ~のぼせるっ。

 僕は座っていられなくなって、立ち上がった。


『もう出るのか? 外は冷えるぞ~』

 みたいな事を言われた……んだと思う。


 だが、もうこれ以上は無理~っ。


 僕が熱い熱いと、顔を手で仰いで見せたら笑われた。

 ちゃんと通じてるな、うん。



 身振りでも何とかなるけど、やっぱりロウノームスの言葉は覚えないといけないなぁ。


 奴隷になっていたはずの僕を、助けてくれたお礼は言いたい。

 予定を狂わされたが、感謝はしてるんだ。


 汗をかいた体を拭き、用意してくれた新しい服に着替える。


「これも、お礼を言うべき事だよなぁ」


 王の前へ連れて行かれた時に着せられた服より、断然動きやすそうだ。


「島の言葉が分かる人が居れば良いのになぁ」


 もしこの館内に、島の言葉を使える人がいるなら、一番にケラスィンは紹介してくれていたと思う。

 だから紹介が無いって事は、居ないんだろう。


「生活の中で、おいおい覚えていくしかないか~」


 う~~~んっと伸びをし、湯気風呂に入った事で、さっぱり出来た気分を満喫した。




 さ~、部屋に戻ろうかな?

 でも部屋に帰っても何もする事はないし、ぼ~っと座っていたら、恐怖の夕食がますます入らなく……。


 よしっ!

 腹を空かせに館内探検に出発だ!


 湯気風呂に案内された時は右から来たから、とりあえず左に行ってみよ~っ。



 あっちきょろきょろ、こっちきょろきょろしつつ、歩いていた僕だったが、後ろから誰かが付いて来ている事に、すぐ気が付いた。


 そっとそ~っと歩いているらしく、足音は小さい。

 たぶん1人だと思う。


 言葉が分からなくたって、用事があるなら声くらい掛けてくれるはず。


 意味するところは、付けられてる?

 もしくは、監視されてるんだ。

 ど、どうしよう、振り返るべきか?



 まぁね、監視して正解だと思うよ。


 付いて来ている人の独断か、それとも何人かで僕を怪しいと思っていて、その代表で監視して来ているのかは分からないけど……。


 振り返ってみたい気もする。

 それで顔を覚えて、その人の前では猫を被る?


 でも別に、僕はここに居たい訳じゃない。

 じゃあむしろ悪事を働いて、追い出されるように持って行く?


 ……性格的に、それも無理。

 ホント、ど~しようぅ。




 すっかり後ろの人に気を取られていたが、どうするかを決められず、僕は歩き続けていた。

 何も考えずに、角も数回曲がった……気がする。


「……」

 あれ?

 ここ、さっきも来た……ような~。


 あっれ~っ?

 ……迷子になってませんかぁ、僕。


 ……。


 ど~しようかぁ。

 大分歩いたけど、いつまで経っても部屋に帰りつけない。


 出来ればこのまま、尾行されているのは気付かなかった事にして、僕がごくごく普通の人間なんだと館の人が納得してくれるのが、一番良いと思った所だったのに。


 後ろを付いて来てくれる人に、助けを求めるしかないのかなぁ?


 いやいや、ここで振り向いちゃ負けだろ。

 その内、見覚えのある所に着くかもしれないんだ。


 もうちょっと歩いてみよう。

 上手く行けば、部屋に辿り着けるかもしれないと、更に角を何度か曲がる。




 …………。


「駄目だ。諦めよう」


 僕はその場で立ち止まり、認めたくなかったが認める事にするっ!


 本気で迷子だ~~っ!

 僕はくるっと振り向いた。


 なんだ、マスタシュじゃないかっ。

 まだ声を掛けやすいっ。


 ちょっとホッとして、声を掛けようと近づこうとしただけなのに。


 あっ!

 逃げられたっ!


「待ってくれ~、迷子なんだ~っ。マスタシュっ!」

『う、うわぁ~~~~っ?!』


「何で叫ぶんだよ~っ、助けてほしいだけなんだ~~~っ!」


 マスタシュの足は速い。

 だが、ここで置いてけぼりにされたら、干からびるまで同じ所をぐるぐるしそう。


 干物だけは勘弁~っ!

 僕は必死でマスタシュを追い掛けた。


『何だ? どうした?』

『分からないけど、追いかけて来るんだよぉ』



 結局……。


 1着、マスタシュ。

 2着、僕。

 3着、いっぱい。


 ゴールぅうううううううう!



「マスタシュっ、早い、なぁ……っ!」


 途中で声を掛けて来る、幾人かの人達と擦れ違った時、始めはマスタシュに追い付けないのが悔しくて。

 その後は、後ろからの気配が怖くて。

 最後は、この競争する感じが面白くて。


 うん、楽しかったっ。


 だから僕から逃げおおせたマスタシュが、食堂へ飛び込んで叱られるまで、止まらずに走り切ってしまったんだ。


 しかもいつの間にか、マスタシュを先頭にした、団体走? に……っ。

 久々の全力疾走後で苦しくたって、笑うしかない状況だよ、これはっ。


『マスタシュっ! エイブ? 何?? どうしたのっ?!』


 そこにはケラスィンもいた。

 食事の準備をしている所に、団体で走り込んで来た訳だから、さすがに今度は心配顔じゃなくて怒ってるけど。


 ぜーはー。

 説明したいけど、言葉が分からない~。


 というか、何か……体力の衰えを……感じます……。


 でも息切れを起こしてるのは僕だけじゃないや、へへへっ。

 似たような状態に陥っている人を見つけて、僕はその人と苦い照れ笑いを交わし合った。




全島祭り


「楽しかったわね」

「うんっ」


「でもエイブお兄ちゃんが居れば、もっと楽しかったと思う」

「バナ……」


「迎えに行っちゃダメ?」

「行き方分かるのか?」


「分からない」

「だろ?」


「でも、いつかは絶対俺達は行くぞっ!」

「いつ?!」


「分からんが、いつかだっ!」

「何よ~。それ~」


「ロウノームスの奴等が来れたんだ。俺達に行けないはずはないっ!」

「うんっ!」


「航路を探してどんどん北へ行けば、ロウノームスに着くはずだっ!」

「うんっ!」


「協力させてくれっ!」

「俺達もぜひ混ぜてくれっ!」


「わぁっ! 人が一杯っ!」


「今回の全島祭りで、ロウノームスに渡した祭り用の食糧の補完だけでも、ありがたいぐらいです」


「俺達が困っている時に、助けてくれた島長が連れ去られたんだ」

「何もしないで居る方が苦しくて、悔しいんだっ」


「何か出来る事は無い?」

「何でもするわっ!」


「じゃあ皆で手分けして、ロウノームスへの航路を開拓するかっ!」

「スィーザ?!」


「北の州だけで、エイブを助けに行くのはズルイぞっ!」


「じゃあ、来年の全島祭りは、どれだけ北の航路を見つけてるか勝負ねっ?」

「フィシャリっ!」


「負けないもんっ!」

「「バナ~~~っ!」」


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