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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
30/102

僕の部屋。

 馬車は宮廷を取り囲んでいる塀の外へは出ずに止まった。

 という事は、ここはまだ宮廷の敷地内?


「……、ケラスィン様」

「……、ナラティブ」


 また知らない言葉が出た。

 状況的には、お帰りなさい・ただいまだと思うんだけど。


 それにケラスィンのお母さんだろうか?

 声音が子供を迎え出たお母さん、という感じだった。


 でも名前に、たぶん「様」が付いてたなぁ。

 宮廷に行ったから、ケラスィンがおめかししている可能性もあるけど、着ている物が親子にしては差があり過ぎる……。


 お母さんじゃないなら、ナラティブがたぶん名前だよな。


 そういえば馬車の中で、ケラスィンに「様」を表す言葉を付けるのを忘れてた~。

 ケラスィンは笑っていたから、良しとしよう……。



 2人は僕の方をちらちら見つつ、会話を続けている。

 明らかに僕の事を話しているようなのに、見事に聞き取れない。


 ちんぷんかんぷんだっ。

 それでも頑張って聞き耳を立てていたが、結局奴隷という言葉は一度も出てこなかった。


 う~ん、途中からそうじゃないかとは思っていたが、どう見てもここは奴隷達が集められていそうな建物じゃない。


 白いキラキラした石が使われた外壁。


 宮廷よりは狭いだろうけど、これも青年の家の広さはあるだろうなぁ。

 偉い人が住んでいる場所だと、さすがに分かる。



「エイブ」


 おや、お呼びが掛かった。

 僕が建物の外見を見ていた間に、2人は中に入ろうとしている。


 これは僕も、中に入れって事だよな?

 ここで奴隷として働きなさいって風でもない。


 いいのかな~?

 自分でいうもの何だが、僕は見知らぬ土地からやって来た、不審人物だぞっ?


 そんなにアッサリ迎え入れちゃっていいのか?

 少なくとも僕は、ロウノームスの使者達にクロワサント島を歩き回って欲しくなかったから、港から一歩も島都へは入れなかった。


 ちらっと、僕を呼ぶケラスィンの横に居るナラティブの方を窺う。

 大歓迎している目じゃないけど、かといって嫌がってる風でもない。


「エイブっ」


 立ち止まったまま動こうとしない僕に焦れたらしい、ケラスィンから再び呼ばれた。


 仕方ない、入るか~。

 僕は2人に駆け寄った。




 入ってみると、中は宮廷よりも重苦しい感じがなくて、思っていたより明るくて驚いた。

 どうやら建物内部の壁が、窓からの光を受け、更に反射しているかららしい。


「おかえりなさい、ケラスィン様っ!」

「ただいま、マスタシュ」


 うわっ、何だか綺麗な子が出て来たな~!


 そして……。

 これぞ、まともな反応だ!


 言葉は分からないけど、マスタシュは指をさして僕を睨んで来た。



 この反応に、ホッとするのは何故だろう……。

 それは僕がロウノームスに、混乱をもたらそうとしているから。


 奴隷達に混ざって反乱を唆そうとしている理由が、ひたすらクロワサント島の為で、ロウノームスにとっては悪でしかないから。


 だけど反乱を起こす以外に、長い間ロウノームスの目を島から逸らす方法が思い付かないんだ。

 仲良くなればなるほど、計画を実行に移す時に辛くなるだけ。


「名乗るんじゃなかった」

 相手に言葉が分からないのを良い事に、僕は後悔が押し寄せるまま呟いた。



 どうやら僕は自分で思う以上に、暗い顔をしてしまったらしい。


「マスタシュ、……」


 これは叱るんじゃなくて、諭している声だ。

 僕はおばあちゃんを思い出す。


 独断で僕が1人でロウノームスに来た事を、おばあちゃんは怒っていないだろう。


 でも一言も挨拶すら出来なかったから、きっと物凄く心配してくれていると思う。

 心配し過ぎて、体調に響かないと良いんだが……。



 おばあちゃんを思い出し、ちょっとしんみりしたのだが、島の事を思うなら、まず現状把握だよなっ!


 ゆっくり意識を自分の周りに切り替え、目を張り巡らす。

 ……おっと、いけない。


 マスタシュが、まだお説教されていた。

 このままじゃ、マスタシュに悪いよなっ。


 しかも始めは女の子に指差され、睨まれる男という図が可笑しかったのか、笑っていたはずのケラスィンまで、心配そうな顔になってしまっている。


「何とも思ってないよ。マスタシュが何を言ってたか分からないし、大丈夫~っ」


 もちろんロウノームスの言葉は分からないので、島の言葉で言って、マスタシュの頭を撫でた。

 ちゃんと伝わってるといいんだけど。



 一瞬その体を硬直させたマスタシュは、僕の手を払い除けたかと思うと、ダダッと奥へ駆け出した。


 こちらを振り返りついでに、あっかんべーっ!


 ぶっ!

 あんなに綺麗な子なのに、あっかんべーっ! だよっ!

 間違いないよなっ?!


 ロウノームスでもやるんだと、何故か僕は大ウケしてしまった。




 何とか僕が笑い納めるのを待っていたかのように、ケラスィンは館の奥へと再び歩き出したのだが、宮廷よりも人が少ない。

 ついでに途中擦れ違っても、会釈するだけで隅に寄って跪いたりが全くなかった。


 ケラスィンは偉い人なんだよな?

 謁見の間に上がるまでの間、何度も僕は隅に寄ったり、跪いたりさせられたんだが、ここではしなくてもいいのか?


 む~、僕を連れて来た理由といい、とにかく不思議だ。

 そのうち、理由が分かればいいなぁ。


 それとも分かる前に追い出されて、初めの行き場所通り、奴隷の仲間入りを果たすのかな?


「予定が狂ったなぁ」

 ぽそっと一人心地る。


 ちらっとナラティブが僕を見つめて来るが、大丈夫だと小さく手を振った。


 う~~~~~ん。

 ここを逃げ出して、自分から奴隷にして下さいって言うのは、何か企んでるんじゃないかって、怪しさ満点だろうしな~?


 そもそも、どこに奴隷達が集められているのかも知らない……。


 さすがに自分から、奴隷という辛い立場になりたくないし、実際予定していた奴隷の反乱は、気が重かったしで、言い訳みたく、僕は内心つらつらとここに留まる理由を並べる。



「ここがエイブの部屋よ」

 分かる? と、部屋と僕とを交互に指差して、ケラスィンが言って来る。


 うん、分かる。

 分かるけど……。


 不審人物なのに、部屋までもらっちゃったよ?

 この館の人はマスタシュ以外の人に警戒心がないのか?


 何だか、僕は館の人が逆に心配になった。





マスタシュ


「だぁぁぁ! 信じられない~! 何であんな怪しい奴を、館に入れるんだよおおおおお!」


「マスタシュ、お前が言うなって」

「お前も怪しい奴だぞ」


「分かってるけどさ~! 言わせてくれよおおおおお~っ!」


「どんどん言え~っ!」

「見張りは任せたぞ~っ!」


「え~~~~~~っ?!」


「奴は俺達を信用してないし、俺達も奴を信用してないんだ」

「だから奴は俺達を傍に寄せないだろう」


「寄せるとしたら、少し気を緩めた姫様かお前だ」

「姫様を寄せられる訳ないわ」


「つまり傍に行けるのは、お前しか居らん」

「よろしく頼みます」


「ぎゃああああ。いつの間にか人が増えてる~!!」


「マスタシュ、館での役目が出来たな」

「まあ、八つ当たりはされるかもしれん」


「それぐらいは、我慢だな」

「無理やりで無いだろうが、無理に連れて来たに違いないだろうしさ」


「だが彼が島の民に好かれた、強力な指導者である事は確かだ。島へ行った船員達が言っていた」

「俺も聞いた。使者達が命じて船に食糧の積み込みをさせた時、顔を出したあらゆる島民が、睨みながら頭を下げて来たと」


「「……」」

「「任せたぞっ」」


「い~や~だ~~っ!!」



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