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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
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謁見。

「ま~だ~揺~れ~る~~~~」

 足は地面に着いてるのに、まだ波間を漂ってるみたいにぐらぐらする~っ!


「何故だ~?!」

 ふらふらと、その場に僕はしゃがみ込んだ。


 風が掴み難くて時間は掛かるわ、ともかく行きは良い良い、帰りは怖い……な船旅ではあったらしいが。


 先刻に、北の大陸が、ロウノームスが見え出したと知って、1番に船から降りようと頼み込み、何とか早めに降りたのに、さっきと変わらない~っ!


「気持ち悪……いぃ」


 そんな僕を後目に、船からどんどん人が下りてくる。

 邪魔なのは分かっているが、動くと……リバースしそう。


 幼馴染達の痛そうな顔を少しでも和らげたくて、迎えに来てくれなんて言ったけど、正直もう当分船に乗りたくない!

 迎えなんていらない!


 僕はロウノームスじゃなくて、船酔いにノックダウンだっ!



 クロワサント島と違って、風が冷たい。

 しばらく潮風に吹かれながら、ジッとして居た僕に、島の言葉を喋る使者が声を掛けて来た。


「そろそろ王都に出発するが、動けるか?」

「……はい」


 行けるかな?

 僕は顔を上げ、1つ大きく深呼吸した。


 吐き気は……大丈夫そうだ。

 使者達に周りを囲まれながら、僕は馬車へゆっくりと歩き出した。




 馬車から見るロウノームスは、別世界だった。


 これで人が少ない? と首を傾げてしまうくらい、大勢の人が居る。

 皮膚の色も、髪の色も、目の色も、色とりどりだ。


「凄いなぁ」


 街も石が多用されるなど、材料自体から建物の規模や存在感が大きく違い、見慣れない物で溢れ返っていた。


「馬車を止めて見学するか?」


 そう聞かれたが、見るだけで一杯一杯な僕は断った。

 それにまぁ、土壇場で僕が逃げ出さない様にと、見張り付きだろうし。


 それでも船酔いが残ってなければ、どんどん入って行けたのにと、残念に思う。


 船の中でもほんの少しは自然と言葉を覚えていっていたが、船酔いが治まると、僕は王に非礼が無い様、改めてロウノームス風の礼の取り方や、言葉を習わされた。


 すぐに証言させる為に、王の前へ連れて行かれると思っていた僕は、ちょっと拍子抜けだ。


 どうやら、ロウノームスの王に会う為の、順番待ちがあるらしい。

 この間になるたけ、ロウノームスの言葉を覚えようと、僕は必死になった。



 だが、何かの拍子に不意に考え事をしている自分に気付く。


 証言が終わると、僕は用済みになる。

 いつまでもお客様扱いしてくれるわけがないし、きっと奴隷になるはずだ。


 奴隷になった僕は、思う事になる。


 何故、ロウノームスの為に働くのか?

 何故、ロウノームスの為の物を作るのか?


 例えば、ロウノームスの船だってそうだ。

 漕ぐばかりではなく、作っているのもきっと奴隷の人達に違いない。


 僕の船酔いっぷりだと、船漕ぎ奴隷には回されないだろうが、奴隷同士どこかに接点があるはずだ。


 その接点を使い、抑圧された奴隷の人々に反乱を起こさせ、例え始めは小規模でも、あちこちで勃発したならば、ロウノームスといえど放っておけないだろう。


 行く先々でロウノームスの思い通りに動いてなるかという気運を高めれば、必ず反乱は勃発する。

 小さな火種を、周りを燃やし尽くすほど大きくするのだ。


 ただ……。

 反乱が起きれば、多くの血が流れてしまう。


 僕を含めた奴隷達は、ロウノームスにとって害ある話をしている・実際に手抜きをしたと、取り調べなどせず、問答無用で切り殺されたりするかも知れない。


 手抜き工事が重なれば、建物は崩壊し、船も沈んで、全く関係ない奴隷の人達だって巻き込まれるだろう。



 それでも。

 成功すれば、確実にロウノームスはクロワサント島の事など忘れる。


 僕は何を犠牲にしても、ロウノームスの手が島へ伸びるのを遅らせたい。

 そうでなければ、ロウノームスに来た意味がない。


 それが僕の覚悟だ。

 だが、決意はしても、正直とにかく楽しそうでない。


 せめてお祭りの終わった後に、使者達に到着して欲しかったなぁ。

 思いっきりはしゃいだ後なら、もう少し気分が違ったかも……?


 今頃、僕が島の責任を丸投げしたスィーザは怒ってるだろうなぁ。

 北の州の皆は、落ち着いただろうか。


 何度も何度も初心を振り返り、僕しかいないのだと現状を再確認する。

 そうしないと僕の気力が萎えそうだった。




 そんな日々を数日過ごしていた朝、久しぶりに僕の前に使者達が勢揃いした。


「今から宮廷に伺候する事になった」

 王の御臨席を賜った、謁見の順番が来たらしい。


 クロワサント島の代表に見えるようにと、僕はそれなりの服を着る。


 毛織物かな?

 分厚いし、長袖長ズボンは寒いから当然として、かなりゆとりがある。


 そのゆとりがダブつかない様に縛るだなんて、どれだけ布を使ってるんだ~?

 普通に寸法通りのを作ればいいのに、勿体無い!


 ちなみに使者達の服には、金銀の刺繍が入っている。

 肩口袖口裾口には毛皮~。


 ダニャルが見たら、その刺繍の模様が面白いとか言い出すだろうか?


 しかし馬子にも衣装とはいかず、航海の間ずっと船酔いが続いてた僕は、大分体重が戻ったとはいえ、自分でも可笑しいくらいげっそりしていた。


 まさに死霊が彷徨う島から来たに相応しい外見だなっ。



 

 使者に連れられて、宮廷へ。


 行く先々で、僕はぽか~んと口を開けてしまう。

 あっちでも、こっちでも、キョロキョロのぽっか~ん。


 青年の家よりも、比べるのが間違ってるくらい大きい~~っ。

 広い!

 でっかい!!


 王に会う謁見の間とやらに、いつまで経っても辿り着く気配がない。

 おまけに、枝道に分かれ道に曲がり角がいっぱい過ぎるっ!


 お願いですから、奴隷集団に放り込むまで、誰か僕の道案内をして下さい。

 内心、僕は使者達にお願い! する。


 じゃないと迷子確実です、これは!




 控室を経て、謁見の間。


 朝来たのに、ず~っと待ちぼうけを食らわされていた。

 長かった~。


 今日まで学んできた中で、ロウノームスの一番偉い人=王は、くじ引きではなく血筋であり、そして直接会えるのに、残念ながら顔を見るなと言われてしまっていた。


 そこで僕の言葉は使者を通し、更に偉そうな人を介して、王に伝えられる。


 それが終わると、僕を見る目は途端に軽くなった。

 たぶん僕の処遇をどうするか、話しているのだろう。


 もう興味なしな、適当な感じで、すっかり聞き慣れた奴隷という単語を聞き取る。


 ついに、戦いの時が来たっ!

 ……そう思った。



 俄かに背後が騒がしくなり、そうかと思いきや。


 何でしょう?

 この、僕の真正面に立っている女の人は?


 じろじろ見られてますがっ?

 あ、視線を合わせちゃいけないんだっけ?


 でも、こんなに至近距離でもなのか?

 ししししかも、下顎を掴まれて、あっちを向かされこっちを向かされ。


 何だ?

 何なんだ~?!



 更にその後、その女の人はロウノームスの王と直接話を始めた。

 男尊女卑だと思っていたロウノームスに、こんな女の人が居るのかと、ついまじまじと見つめてしまう。


 前に居る使者達の様子を窺うと、驚いているというより、苦い表情を浮かべていた。


 女性の身で誰も介さずに王と話せるという事は、相当偉い人?

 すごく興味があったのだが、ロウノームスについての知識がない僕には、彼女が誰なのかさっぱり分からない。


 しばらく王と話していたが、どうやら話が付いたらしく、再びその人が振り返った。



 あれあれあれ~っ?!


 僕は王と話していた女の人に腕を掴まれ、謁見の間から引っ張り出されていく。

 どこに連れて行かれるんだ~~~~~っ?!




王様


 その日の謁見はずっとつまらなかった。

 同じ様な顔触れに、同じ様な内容、同じ様な口振り。


 我は王。

 ゆえに王の義務として、つまらないが聞く態度を保つ。



「……クロワサント島の島長です」


 何だと?!

 話にだけは聞いていた、あのクロワサント島か。


 本当に連れ帰って来るとは……っ。

 しかも島長だって?!


 だが、ここで身を乗り出せば、我は譲歩をせねばならなくなる。


 興味を持っている事を知られては、クロワサントの島長の身柄を得る為に、遣わした使者達へ何か褒賞を与えなければならなくなるからだ。


 我慢だっ!

 片言で挨拶をしてくる島長を、表情に出さぬよう興味深く眺める。



「島でも病が広まり、人口が激減したとの事。その証人として連れて参りました」


 おい……。

 頭を下げていて島長の表情は見えないが、やつれて見える様なのだが……。


 そんな我の焦りを後目に、淡々とクロワサント島の報告がなされる。



「では、これは奴隷市場に流すという事で」


 無理やり連れて来られた者がたどる道を示されたその時、クロワサントの島長が、ピクリと一瞬顔を上げた。


 マズイ……。

 何かを決意している目だ。


 無理やり連れて来たなら、我が国に良い感情を持つはずがない。

 彼に自由に動かれては、滅亡へ向いている我が国の足取りが、加速する予感がするっ!


 慌ててクロワサントの島長を手元に残すべく知恵を捻るが、こんな時に何も出ない。



「お久しぶり、従兄殿」


 その流れを変えてくれたのは、我の可愛い従妹殿。


 久しぶりのじゃれ合いを楽しむ我は、いつもと違う視線を感じた。

 気付かれないよう見回すと、クロワサントの島長の表情が先程とは全く違う。


 ふ~~~~ん。

 楽しい事が起きそうだ。


 従妹殿の希望通り、クロワサントの島長を引き取って貰おう。

 引き締めようとする口元が、緩んでしまうのを自覚した。


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