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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
27/102

再登場。

 ロウノームスからの使者一行は、子供の頃の記憶と同様に派手だった。

 間近で見た分、記憶以上かもしれない。


「お初にお目に掛かる。若く見えるが、貴殿はこの島の代表者だろうか?」


 前回の使者と違い、全く挙動不審な所がない。

 今回はあの船に、病を積んで来た訳では無いようだ。


「そうです。今は僕がくじ引きで選ばれた、島長に間違いありません」

「伝え聞いた通り、相変わらず奇怪な選ばれ様だ」


 む、くじ引きを馬鹿にしたなっ?

 鼻で笑っただろ、今っ!


 ……落ち着け、落ち着け。

 ここは怒っている場合じゃない。


 伝え聞いたって事は、しばらく、たぶん10年以上クロワサント島はロウノームスでは話題にも上らなかったのだろう。

 そのまま忘れてくれていれば、どんなに良かったか。



 まずは確認しよう。


「そう仰る貴方は、ロウノームスからの正式な使者ですか?」

「そうだ」


「要件は前回と同様でしょうか?」

「分かっているなら、話は早い」


 やっぱり、そうなのか。

 でも、絶対に駄目だ。

 ロウノームスからの話には頷けない。


 そして戦いにする訳にはいかない。

 何とか、ここで使者を諦めさせられないだろうか?


 時間稼ぎでもいい。

 せめて、お祭りが定着するまで、もう一度ロウノームスがこの島の事を忘れて置いてくれれば……。



「その件でしたら、今は無理です。島には人がいません」

「人がいない? 船上からでは、何人か浜に出ていたのが見えたが?」


 くそ~、見てたか。

 ロウノームスの使者達が奴隷として、島の人を連れて行こうとしていた話は、北の州に知れ渡っている。


 だから船に気が付いた途端、皆で一斉に隠れたらしく、現在港には僕と僕を心配して付いて来た、幼馴染達しかいない。


 しかし、こちらがロウノームスの船に気が付く前から、たぶん使者達は島の様子を窺っていたのだろう。



「いえ、本当です。前回の貴方方の使者が運んで来た病で、多くの島民が亡くなりました」


 すると僕と話していた、目の前の使者1人だけが、見るからに動揺した。


 あれ?

 今何て言った?


 たぶん「何だって?」的な、驚いた調子の使者の第一声が理解出来なかった。


 もしかして、ロウノームスとクロワサント島では言葉が違う?


「失礼した。まさかこの島にまで祟り病が届いているとは……」

「祟り?」

「あぁ、いや……何でもない」


 続けて、その驚いた使者が、その反応に対して不思議顔をしている他の使者達に、やはり僕には分からない言葉で、何かを伝え、やや怯えた様子でひそひそ話をし始めた。


 僕の記憶では、前回の使者一行は全員が島の言葉を話せていた気がするが、どうも今回は1人しか話せないらしい。


 後ろに居るエッドに目で確認を取ると、エッドも驚きながらも頷いてくる。


 ロウノームスとクロワサント島じゃ言葉が違うなんて、考えもしなかった。

 前回ロウノームスから来た人々を看病していた場所に、僕達子供は近づけなかったし、その後はそれどころじゃなかったからな。


 しかも流行病をどうやら祟り病と言い、僕達に隠しきれないほど怯えている。

 まだ病が島に残っていると思って怯えているのか、それとも……。


 しかし使者達に動揺を誘えた事には間違いない。

 これは僕にとって、吉か、凶か……。



「全州の島民が、この村に集まって暮らしている状態です」

「そんなのにも……?」


「船漕ぎ奴隷を入れれば、こんな僕達など、貴方方は簡単に制圧してしまえるでしょう。島には今それだけの数しか居りません」


 まるで制圧を勧めるかのような僕の言葉に、使者は疑うような眼差しを向けて来る。


「僕の言葉が本当かどうか、確かめたいと思われるでしょうが、あまり歩き回られない方がよろしいかと」

「何故だ?」


「病で亡くなった者達が少なからず、ロウノームスを恨みに思い、成仏出来ずに彷徨っているのです」

「……」


「ロウノームスの使者である貴方方の存在がその者達を刺激したら、ますます厄介な事になってしまいます」


 僕はロウノームスの使者達の、動揺の激しさを見て、賭けに出た。


 死者が彷徨うなど、世迷言だと平素なら一笑に伏されるだろう。

 しかし使者達はくじ引きの話のように、鼻で笑いもしなかった。


 失笑もない。

 賭けは成功だ、と僕は確信する。


 クロワサント島の言葉が分かる使者が、青ざめつつも、僕の言葉を他の使者達に伝えた。

 そしてまた、ひそひそとやり出す。



 ロウノームスがクロワサント島に求めているのは、奴隷に出来る人間だ。

 きっとロウノームスでも大量の死者が出て、奴隷の数が足りなくなったのだろう。


 どうやら大陸では、流行病は祟りだと思われているようだ。

 それなのに同じ大陸内から、奴隷を集めて来れば、また祟られてしまうかも知れない。


 そこで思い浮かんだのが、クロワサント島だったに違いない。

 こちらは思い浮かべてなんか、欲しく無かったというのに。



 島への手出しに猶予をもらう為に、僕は口を開いた。


「何でしたらクロワサント島には、奴隷と出来るような数がいないと、この島の代表として、僕がロウノームスで証言しても構いません」


「エイブっ! 何言ってるっ! そんなの駄目に決まってるだろっ?」


 当然、今まで僕の言葉の内容に合わせて、神妙に頷いたりしていてくれていた幼馴染達が、一斉に僕を捕まえ、後ろに下がらせようとする。


 だが、使者達にも面子がある。

 このまま手ぶらで帰る訳にいかないはずだ。


 僕は決意を込めて、幼馴染達を見た。


「ここは誰かが行かなきゃ収まらない。それなら島長である僕が一番適任だ」


「エイブ……」

「そんな……」

 一斉に首を横に振って来る。


「大丈夫だ。僕はそう簡単に死なないよ。そのうち迎えに来てくれると助かる」


 もし僕からの案が通ってロウノームスへ行ったら、僕1人を送り届ける為に、船を出してくれる訳がないから、もう帰って来られない可能性が高い。


 そう考え、少々強張りはしたが、僕を心配する幼馴染達の為、何とか笑顔を浮かべる事に成功する。


「「エイブっ!」」

「頼むね」



 僕は使者達に向き直り、更に揺さ振りを掛ける。


「貴方方にとっても、この島を他の土地への足掛かりにするならば、未来に活用する為に今の時点では奴隷にして連れ帰らず、島民を増やしてからの方が得策だと思いますが?」


 ロウノームス側はこれを、帰る為の大義名分が出来たと捉えてくれるだろうか?

 ひそひそとやっている姿を見つめて、僕は使者達からの返事を待つ。


「エイブ……」


 後ろからの声に、僕は使者達に聞こえない様、ボソッと答える。


「大丈夫だ」


「別にお前じゃなくても良いはずだ」

「代わりにぼくが……」


 口々に言って来るが、多分ロウノームスの使者達は変更を認めないだろう。


「クロワサント島にはスィーザがいる。助けてやってくれ」


 全島くじ引き再開でも、僕とあれだけ意気投合したスィーザなら、お祭りも成功させ、そしてロウノームスに対する備えも、きっと着実に行ってくれるはず。


「スィーザに、僕の事は考えなくていい。島の事は任せた、と伝えて欲しい」


「エイブ……っ!」

「何とかして来るから」


 後ろを振り返る気力を何とか振り絞り、僕は幼馴染達ににやりと笑いかけた。





 そうして僕は、使者達と船上の人となった。


 しまった!

 船酔い忘れてた~っ!


 そう僕が思い出すのは、島の影がすっかり見えなくなって、海の波が高くなってからだった。


 そんな訳で一体どこが、ロウノームスとクロワサント島の補給地点なのかも分からないくらい、前後不覚状態。

 まぁ、僕が船に弱いのは周知の事実だし、島の皆も許してくれるだろう。


 ……とりあえず気持ち悪~ぃ。

 そして船はロウノームスに着いたのだった。




目標


「何で引き止めなかったんだよっ!」

「スィーザ……」


「いくらでも代われたはずだろっ?!」

「「……」」


「やめなさいっ! スィーザっ!」

「「前・島長様……」」


「言っても代わるのは無理だったでしょう。それがロウノームスよ」

「何でっ! 俺達にはエイブが必要なのにっ!」


「喚かないのっ!」

「母さんっ!」


「エイブ君はちゃんと、クロワサントの方向を示してくれているじゃないの」

「え?」


「ますは全島祭りの成功。州の交流を活性化させ、結び付きを強化する事。それに迎えに来てくれって言ったんでしょ?」


「「はいっ」」


「後は任せたと。僕の事は気にせず、島を頼むと」

「そして最後に、何とかして来る。と」


「何とかして来る?」

「「はい」」


「じゃあ、する事は決まっているわね」

「「エイブが稼いでくれる猶予を有効に使う事」」


「そうよ。今度こそこんな無理難題など、絶対に認めなくて済む様にするのよっ!」



「でも、俺は腹が立つっ!」


「だからって、何もしなければエイブ君を助ける事も出来ないわよ」

「ちくしょうっ!」


「スィーザ、ぼく達はお前を助ける様言われているんだ」

「力を付けるぞっ! やるぞっ!!」


「そして、エイブを迎えに行こうっ!」

「「おうっ!」」



「……エイブ君って、船に弱いんじゃなかったかしら?」

「「「……」」」


「帰らないって言うかも知れないわねぇ」

「「「……」」」


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