祭りの前。
「それじゃあ、第1回目の全島祭りは、北の州で開くという事で」
「「よろしくお願いします」」
「こちらこそよろしく」
準備が大変な事になりそうだが、みんな楽しみにしているし、頑張ろうっ。
まぁ、島都でもあるし、言い出しっぺだからな。
「それで競技についてだけど、変更無しで良いのかな?」
「それなんだが」
おもむろにスィーザが懐から紙を出して来た。
「何だい?」
「南の州で考えた競技内容だ。これも入れてくれないか?」
「私達も考えてきました」
一斉に他州の州長から紙が出された。
うわぁ!
みんな盛り上がってるっ!
「どんな競技が上がってる?」
僕は、わくわくしながら回ってきた紙を見つめた。
「良いねっ! 面白そうだっ!」
僕は、回って来たものを纏めて書き出した。
「追加する競技はこれで良いかな?」
他州の州長達に回覧してもらう。
「これなんだが、こうした方が良くないか?」
回す紙にアイデアを書き足し、更に次へと回していく。
「これとこれ、一緒はどうだろう?」
続々とアイデア追加が入る。
「でもさぁ、これじゃあ体力バカが楽しいだけなのよねぇ。こんなのはどう?」
おおっと! 新アイデアまで出てきました。
しばらくあれやこれやと僕達は話し合い、全島祭りの競技内容を詰めて行く。
「じゃあ、第1回目の全島祭りは、これで行くよっ」
「「はいっ」」
室内の皆は、うきうきと楽しそうだ。
僕も、このまま楽しんでいたい。
でも全島祭りの主旨は、ちゃんと伝えておかねばと、僕は心を奮い立たせる。
「最後に皆さんに聞いてほしい事がある」
一斉にこちらを見つめて来た他州の州長達を見つめ返し、僕は口を開いた。
「ロウノームスの事なんだ」
「飾り付け用の材料、これで足りるのかな?」
「長さ、もう1回図っとこうよ」
「今回、岩場を通るコースは外した方がいいんじゃない?」
「ここらは急に流れが速くなるところだ」
「中間地点にも誰かいた方がいいって」
等々、島都のあっちこっちから、お祭り準備に関する会話が聞こえて来る。
季節は農閑期である、秋の終わり頃から冬の初め予定。
動物相手をしている人には、冬だろうが関係なかったが、あちらもこちらも立てるのは限りがなくて、さすがに無理だった。
クロワサント島の海は、高い山の方にある小川や湖と違って、例え冬になっても落っこちようが凍える事はない。
前回、ロウノームスからの使者が来たのも、冬になる少し前だった。
北の州では親方を通して、ほぼ全員に前回来たロウノームスの使者は、島の人間を奴隷にして連れて行こうとしていた事を知らせてある。
南の州ではスィーザが前・島長から、その話を聞いているだろう。
北と南が知っているのに、他の州が知らないのはおかしいという事で、全島祭りについての話し合いで全州の州長が揃った時に、ロウノームスとの一件を伝えておいた。
州長が、親方達や州民全体に知らせるかどうかは、各州の判断に任せてある。
どうやら全州とも州民全体に知らせたらしい。
「騒ぎにならなくて良かったよ」
「オレ達と同じで実感が沸かないんだろ」
「パニックが起きないのは、安心要素ね」
報告に来た幼馴染達と、ちらっと会話に上らせた。
「早々来られたら、僕がパニックだっ!」
「「ありえな~いっ」」
一斉に笑われた……。
本当なんだけどなぁ……。
「今回のお祭りは、北の州だけど、次回はどうなるかな?」
「エイブが島長をしている間は、たぶん北の州だと思うなぁ」
「何でだよっ!」
「エイブが居るからさ」
「これからもよろしくなっ」
皆が一斉に肩を叩いてくるが、その期待は重いんだよっ!
冗談じゃなく、勘弁して下さい……。
「集まる州長の中で、一番忙しいのは島長だからでしょ」
フィシャリが納得のいく正論を述べてくれ、やっと僕は人心地が付けれた。
早く、晩秋の時期以外にも、他の州で全島祭りを開いてくれないかな~。
島都から出られる、絶好の理由になるし。
僕が次に島都から出れるのは、一体いつになるやら……。
いや、深くは考えまい!
今度開かれる、北の州での全島祭りで弾ければいいだけの事だ~っ。
帆船競技だけでなく、他州からの意見も、もちろん採用した。
水泳、馬術、長短距離走、それぞれと、全部合わせた複合競技。
火起こし競争に、釣り大会。
制限時間内に、どれだけ薬草や天然食材を探し出せるかの、ゲーム。
というのも各州から集まった人々の、宿泊施設や食事を提供なんて出来るはずがないので、釣ったり集めたりした物は、ご飯のおかずにしてもらうのだ。
なんといっても凧揚げは欠かせないよ、うん!
島長が参加してはいけないなんて決まりは、もちろん作ってない。
何が面白かったか、美味しかったかの、自由参加投票もある。
記念すべき第1回目とはいえ、当たり前だがくじ引きを再開したからといって、人口が突然急激に増えたわけじゃないので、お互いに無理のない範囲で。
無理したら、続かない。
このお祭りが、遠い将来くじ引きと同じくらいの伝統となるように、僕はしたい。
盛り上がるといいな~。
役決めを始めとして、準備だって大変な今はわくわくしっ放しだが、お祭り当日の僕は皆の反応が気になって仕方なくなるんじゃないかなっ。
第1回目の全島祭り開催まで、いよいよ後1ヵ月。
「エイブ、大変だ!」
「予算はもうないぞっ!」
僕はもう条件反射、速攻で答えた。
それでも大概、「え~っ!」とか「そこを何とか~」と返される。
しかしどんな態度を取られようが、今回からばかりは、ないものはない! と思いっきり身構えたのだが、次の言葉は僕の想像を突き抜けていた。
「いや、祭りの話じゃないっ。奴等が来たっ!」
「奴等……って、まさか?」
「あぁ。あの船の形は間違いない、ロウノームスだ!」
遠距離競艇の準備で近々誰かが行く予定ではあるが、まだ一の島には誰もいない。
浜辺から見える状態まで、ロウノームスの船に来させてしまった。
「数は?」
「一艘だっ!」
「それなら、まだ……」
大船団じゃないなら、いきなり戦いにはならないだろう。
たぶん前回同様、使者が送られて来ただけに違いない。
「もう遅いかも知れないけど、皆にはなるべく外に出ないように伝えてくれっ!」
僕は港へと走り出した。
伝える
「……という事だ」
「「……」」
「すぐって話ではないらしい。我らの世代ではなく、子や孫の世代になるかも知れない。でも準備だけは怠らない様にして欲しい。それがエイブ殿の望みだ」
「その準備として考えたのが、全島祭りですか?」
「そうだ」
「何故、全島戦闘準備もしくは避難訓練じゃないんでしょう?」
「訓練だと、全然楽しそうじゃなかったからだそうだ」
「楽しそう?」
「すぐにロウノームスが来ると決まっていない為、警戒を継続して続けさせるには、祭りの一環にして楽しめるようにすれば、ずっと続いていくと考えたそうだ」
「続けていく?」
「ロウノームスへの警戒をな」
「警戒」
「海から来るロウノームスへの見張りを兼ねた、全州対抗競艇だったそうだ」
「「……」」
「ワシは今この時、エイブ殿が島長を引き受けてくれている事に感謝している」
「「はいっ!」」
「エイブ殿が居れば、クロワサント島は何とかなるっ!」
「「はいっ!」」
「まずは、第1回目全島祭りを成功させる事だっ! それがワシらの勝利に繋がるっ!」
「「はいっ!」」
「全力で盛り上げるぞ~っ!」
「「お~~~~っ!!」」