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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
ロウノームス
25/102

呼び出し。

「忙しいのに、呼び出しを掛けて済みません」

 集まってもらった親方の面々と幼馴染達に、まず僕は謝った。


「ずっと悩んでたんですが、1人で考えていてもしょうがないと、おばあちゃんが気付かせてくれました」


 今日は大事な要件があると、みんな分かっている様子だった。

 不思議そうな顔をするでもなく、真剣な表情をしている。


 当然かもしれない。

 いつもなら、今回の様に可能な限り時間を作ってもらい、時間調節を掛けてまで集まって貰う事などないからだ。


「ごめん。皆に黙っていた事がある」

 僕は特に一緒に南の州まで付いて来てくれた、幼馴染達を見て謝った。


「ワザと話さなかったんじゃない。どうすれば良いのか、決められなかったんだ」


 皆を信用しなかった訳じゃない。

 話す事で巻き込んでしまうのが怖かった。


「だけど、いつか絶対来るだろう話。皆の知恵を借りたい」

 僕は集まってくれた皆に頭を下げた。


「お前は何を聞いた、エイブ?」

 頭を下げた僕に、ダニャルが問いかけて来た。


「前・島長は何を言ったんだい?」

「さっさと話しちゃいなさいっ」


「……バレバレ?」

「バレバレだな」


 おもむろに頭を動かす親方達や幼馴染達を見て、頭を上げた僕は泣きそうになった。


「……ありがとうございます」


 悩む僕を心配し、見守ってくれていた人達に、伝える内容の情けなさに。 


「聞いて下さい」


 僕は前・島長から、流行病前の使者が人を寄越せと言ってきていた事、そしておばあちゃんと話した後に改めて気付かされた、ノウロームスとの多勢に無勢さを語った。



 さて、これを聞いた皆からはどんな反応が返って来るのだろう……。

 僕は皆からの言葉をじっと待つ。


 ところが皆は顔を見合わせ、呆然としているだけだ。


「予想通り一大事な話のはずなのに、何だか今一つ現実感に欠けるなぁ」

「うん」


「エイブが島長になって良かったかも」

「だな」


「な、なぜっ?」


 何でロウノームスとの話が、僕が島長である事と関係してくるんだ?

 しかも、しみじみとっ。


 納得がいかない僕に、ジェイカブが答えた。


「いや、だってさ。うちの州はともかく、他の州は久々のくじ引き再開で、てんやわんやだろうしな」

「そんな時にロウノームスがどうとか伝えられても……」


「それが今すぐ来るとかじゃないんだから、エイブ以外が言ったら放置されそうだ」

「実際ロウノームスの使者を見たうちだってこうなんだから、他の州なんか尚更だろ」


「う~ん」


 そうかも知れない。

 過大評価されちゃってる今なら、聞いてくれるかも~だなぁ。



「とすると、舟を急いで作るのは了解してくれるとしても、海戦避難訓練なんて言っても、良い反応は返って来なさそうか~」


 どうしようかなぁと、僕は首を捻る。

 島長のくじを引いちゃった事はもう変えようがない。


 でも、クロワサント島の生活を守ろうとするならば、今のままじゃ駄目なのだ。


 本当はロウノームスと対等な関係になれるのが一番だと思う。


 だが、どう対等まで持っていけばいいのかを思い付かない以上、とにかく少しでも差を縮めるべく、話を進めるしかない。



「もっと具体的に考えていこうか。例えば、実際にロウノームスが大船団で来るとしたら……」


「来るとしたらか……。大陸から島に、風が吹きやすい季節に来るんじゃないか?」

「風を利用して、どこを通って来るんだろうな? 大陸へ商売に行って帰って来て、生き残ってる人っているのか?」


 ふむふむ。

 意見が出始めたぞ。


「という事は、注意しなきゃいけない時期と海路を検証しなきゃいけないんだなぁ」


「その海路だけど、大船団に乗っている人の掛かる日数分、食糧が必要になるだろ? どっかで調達するんじゃないか?」


「そっか。クロワサント島に来る前に、そこを叩ければ……」

「叩けるのかな……」

「……」


 途端に空気が重たくなる。


 正面切って、ロウノームスとは戦えない。

 物量の差が大きすぎるのだ。

 人が大勢いるからこそ、手漕ぎ船が航海の主流となっているのだ。


 ロウノームスと戦う事になったら負けると、皆も想像がつくらしい。


 だが、もし抵抗するなら、海の利を生かし、闇に乗じて奇襲等々のゲリラ戦ぐらいしか思いつかない。


「危ない時期に、一の島に人を常駐させた方がいいかもな。もちろん伝書鳥も飼って」


「でもそうなると、誰が行くって話になるわ」

「やっぱりうちの州から?」

「……」


 一度は増えた皆の口数が、どんどん減っていく。


「訓練ついでに、様子見するとか、どうかな?」

 だが、その訓練にどれだけ人が集まってくれるか……。



 う~ん。

 振り出しに戻ってしまった気分だ。


「そもそも訓練っていうのが、そそられる響きじゃないんだよな~」


 思わず吐き出した僕に、同意の声が上がる。


「だよな。そりゃ、誰だって楽しいのがいいに決まってる」

「全島くじ引き再開はおめでたい話だったけど、更にパ~ッと皆で弾けられるのがいいな」


 きっと楽しければ子供・孫の時代になっても、ずっと続いていくだろう。

 その時、誰が島長だろうが、州長だろうが。


「全島対抗競艇大会とか、どう?」


「一の島までだけじゃなくて、短距離のも入れてっ」

「障害物競漕もあると良くない?」


 おおっ。

 何か構想が広がり始めたぞっ。


「それなら、いい舟を作ろうってやる気も出るなっ?」


「訓練終わりました~はい、そこまで。じゃなくて、自州に帰ってからも、舟改良とか、操舵練習とか、それぞれしそう?」


「集まった時に、おっアレいいな! と思ったら、お互い教え合って、お持ち帰りも出来る」


「どうせ集まるなら、各州物産市なんかも開いたり?」

「美味しそう。じゃなくて、楽しそうっ」


 どっと笑いが起こる。

 気分が乗って来た~っ。


 物産市で習いたい技術を見つけられたら、ますます交流も盛んになるだろう。

 それに大勢の人が移動するのに、どれくらいの日数と物が必要かも分かる。


 全島に対する情報伝達も、伝書鳥だけを頼るのではなく、他の手段が見つかれば、情報網の強化も期待できる。


 最悪の事態となり、ロウノームスから大軍で攻められた場合、クロワサント島の指揮系統を1つに絞るより、自主的に動ける多数の指揮系統がある方が、勝てなくても生き残れる確率だけは高い。


 だからこそ、これまで通り州自治は各州ごとでいい。


 でもやっぱり流行病時の様に、州境封鎖なんて事は二度と起きてほしくない。

 州の交流の活性化は、実に望ましい展開だ。


「全島くじ引き再開の次は、全島お祭りだっ!」

「「お~っ!」」


 少し前までの暗い雰囲気が嘘のように、その後も皆であれこれ盛り上がった。




クレーム


「何だと~っ!」

「スィーザ、どうした?」


「全島対抗競艇大会開催のお知らせが来たっ!」

「競艇大会?」


「北の州の独占勝利が目に見えてるな」

「駄目だ駄目だ~っ!」


「スィーザ?」

「競艇だけだと、不公平すぎるっ! 試合方法の変更を希望するっ!」


「それ良いな!」

「陸の移動なら、俺達にも勝ち目があるっ!」


「馬術を入れろっ」

「他にはっ!?」


「走るのはどうかな?」

「馬車は?」


「意外な所で、泳ぐのはっ?!」

「泳ぐ?!」


「北の州の生活を聞いた時に、泳ぎの話は出て来なかっただろ?」

「そうだっけ?」


「そういや、舟の話は出たけど、泳ぎの話は出なかったな」

「意外な盲点だな」


「おしっ! 俺達に勝ち目が付くような競技を募集するぞっ!」

「他州にも考えさせようぜっ」


「良いなっ!」

「伝書鳥を飛ばせっ!」


「近場はオレ達が手分けして知らせに行くわ」

「任せたっ!」


「おっしゃぁっ! 勝つぞ~っ!」

「「お~~~~~っ!」」


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