抜き足差し足忍び足。
ここから先、ますます都合良く。
行き当たりばったり度UP
そんな感じでも、続けていこうと思います(笑)
お付き合い頂ければ、幸いです^^;
抜き足差し足忍び足……。
僕は誰にも見つかりたくなくて、ひっそり島長室(といっても単に呼び名が変わっただけ)を抜け出し、こそこそと青年の家のおばあちゃんの所へ向かった。
完全に不審人物状態で、中を覗く。
誰もいないといいんだけど、……いるよなぁ。
「あれっ、エイブお兄ちゃん」
「違うよ、島長だよ」
「そうだった」
「お兄ちゃんで良いよ。台所が忙しそうだから手伝ってきなよ。僕がおばあちゃんを見てるから」
「え~」
「でも……」
「行っといで」
「「おばあちゃん」」
「エイブに聞きたい事があるからね。2人にしてもらえるかい?」
「うん」
「おばあちゃんがそう言うなら」
しぶしぶ出て行く2人を見送り、おばあちゃんを振り返る。
「ありがとう、おばあちゃん」
「どうしたんだい、エイブ」
僕が呼び掛けると、おばあちゃんはいつものように優しい表情で応えてくれた。
「おばあちゃん」
「うん?」
「……皆には秘密の泣き言を聞いて下さいぃ」
「おや、秘密なのかい。いつもならエイブの秘密は楽しそうだけど、今日はそうじゃないんだね」
僕は頷く。
これから僕はおばあちゃんにも、重荷を背負わせようとしている。
だけど、誰かに話さずにはいられなかった。
州の復興で大変だったとはいえ、島長として何年も心の内に抱え込んできた、スィーザのお母さんは本当に強いと思う。
「はい。ちっとも楽しくないし、まだ起きるかどうかも分からないのに、不安で仕方ないんです」
「そうかいそうかい。とりあえず、こっちにお座り」
その招きに従い椅子に座った僕は、前・島長から聞いた、ロウノームスの使者の話をおばあちゃんにした。
「ロウノームスは、人を寄越せと言ってきたそうです。ロウノームスに人を寄越す件を断って戦いになったら、きっと誰かが怪我をしたり、死ぬかも知れない」
「……」
「反対に島の代表として僕が話を飲んで、皆の命が助かっても、奴隷にされてしまう人が出て来る事には変わりない」
ロウノームスの奴隷に対する扱いは酷い。
僕はロウノームスの船から、担がれて助け出された人達を思い出す。
1つの船の中で、流行病を船漕ぎ奴隷達に留めておきたかったせいもあるのだろうが、自由に歩かせまいと鎖に繋がれていた。
自分の命なのに、自分の好きに出来ないのだ。
「どちらを選んでも、人が死ぬんです。僕はどうすれば良いんだろう?」
だけどクロワサント島だって、流行病が猛威を振るっていた時は、州境を封鎖していたし、無理に越えようとした者は殺された。
もしあの時点で僕が北の州以外の州長だったら、きっと自州での被害は最小限に抑えようと、同じ指揮を執っていただろう……。
「おばあちゃん。僕は、僕が指揮を執ったせいで、誰かが奴隷になったり、死んだりするのが嫌なんです。お前のせいで、死んだって恨まれたくない」
「エイブ……」
「平和に過ごしたいんだ。普通に働いて、食べていければそれで良いんだ。だから頑張って来たんだ」
「そうだねぇ」
「ロウノームスのクソッタレ! そもそもロウノームスの使者が来るまでは、長は単にくじを引いちゃった運の悪い人間だったのに」
「州民への責任はあるけどね」
おばあちゃんはこんな僕を無責任だと責めたり、呆れたり、してこない。
いつものように黙って聞いてくれた。
それも分かっていたから、僕も安心して話せたのだと思う。
「本当は島長なんて、なりたくない。そもそも州長の責任なんて背負いたくない」
「うんうん。お前はよく頑張ってるよ、エイブ。もうずっと北の州はお前に頼り切ってる。それは皆だって、本当はよぉく分かってるんだ」
「おばあちゃん」
本当に情けない。
聞かされた問題から、逃げられないとは分かっているんだ。
僕の力の限り、精一杯やるしかない。
「万が一があって、どんな結果になっても、誰もお前を恨んだりやしないよ。少なくとも、あの世でも恨まれるかも知れないとは心配おしでない」
「……そうでしょうか?」
「あぁ、安心しておいで。私の方がお迎えが早いだろうから、よくよく謝っておくからさ」
「嫌です。おばあちゃんはずっと側に居てくれないと」
「でも皆が聞きたがるのは、島や誰かは無事かとか、せいぜいエイブがロウノームスにちょっとは一杯喰わせてやれたかとか、そういう話だと思うがねぇ」
「そう、かなっ」
何度も頭を撫でられながら、すでに半泣き状態だった僕は笑った。
「あっ、でも。これでまた、おばあちゃんは安心して大往生は出来なくちゃっちゃいましたね」
「それが一番言いたかったのかい、エイブ? ふぉふぉふぉ、まあいいよ」
おばあちゃんも笑ってくれる。
僕の甘えを受け止めて、ゆったり笑ってくれるおばあちゃんが大好きだ。
「だけどね。北の大陸とはいつかは交流を再開するだろう」
「はい」
「エイブの子供か孫の時代か、それは定かじゃないが、ロウノームスがまた同じように人を寄越せと言って来ないとは限らない。皆とも、しっかり相談おし」
「はい、おばあちゃん」
「泣き言くらい、いつでも言っていいからね」
「お願いしますっ!」
よし、元気出たっ!
おばあちゃんに話してみて、改めて思う。
クロワサント島の人が死ぬのは嫌だ。
でも島には軍船なんかないし、特に今はまともな舟すらない。
舟の数を最盛期にまで回復させる事は、皆と相談して急ピッチで進めれば、何年か先には出来るだろう。
だが、船を動かせる人が揃わない。
流行病で余りにも島の人数は減り過ぎた。
船を優先させれば、復興に力を注ぐ事が出来なくなるだろう。
しかも流行病時は殺伐としていたとはいえ、せいぜい何十人の集団で、何十人かの集団を封じ込める位しか行っていない。
平和だったクロワサント島に、何百・何千・何万という大勢を統率して戦った経験者など存在しないし、軍事的資料があろうはずがない。
例え伝書鳥を使い、情報伝達を強化したとしても、それが海上、個々の舟の上に乗って戦う状況なら、尚更指揮は難しいに違いない。
全島を上げての訓練はしておいて損はないだろうけど、まず考慮すべきは避難訓練で、戦闘訓練など、大陸とクロワサント島の余りの物量の差を考えると頭が痛い。
大陸が攻め込んで来るなら、大船団で一気に押し潰しに来るだろう。
クロワサント島の負けは、目に見えている。
大陸が力づくでの征服を考えない様、どんな手を使っても、クロワサント島に大船団を送り付けて来ない様にしなければならない。
最善は、クロワサント島が大陸と対等となる事だ。
しかし、最盛期であったクロワサント島に、堂々と奴隷を要求して来る大陸を相手に、対等を求めるなど、難し過ぎる難問だと言える。
だが、対等こそが、多数の島民を、この島を守る!
何を犠牲にしようが遣り遂げなければ。
僕は決意した。
台所
「「手伝いに来ましたっ!」」
「助かるわっ!」
「そこの野菜鍋の火の番、お願いっ!」
「はいっ!」
「エイブお兄ちゃんが言ってた通りだね」
「うん。大混乱だ」
「エイブですって?!」
「フィシャリ姉?」
「エイブが貴女達に会いに来たの?」
「私達、さっきまでおばあちゃんのお世話をしてて」
「エイブお兄ちゃんが、台所が忙しそうだよって、声を掛けてくれたの」
「自分が、おばあちゃんの世話を変わるからって?」
「「うん」」
「……」
「「フィシャリ姉?」」
「……決まりね」
「ええ。島都で何かあったんだわ」
「エッド達が、思い当たらないって事は、前・島長と対談した時」
「「……」」
「しかも、おばあちゃんに、エイブが内緒で相談なんて」
「近々とんでもない事を聞かされそう」
「覚悟しときましょう」
「「ええ」」