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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
23/102

再開。

「ジェイカブ、おかえり~!」


 伝書鳥について、色々な州に残されている話を集めて聞いて回ってくれているジェイカブを、僕は州長室の机の向こうから迎えた。


「そっちもおかえり! 埋もれてるなぁ、エイブ」


「うぅ……。自業自得とはいえ、この事務仕事量は泣ける。でもすっごい助かってる量のはずなんだよ」

「そうなのか」


「大丈夫かどうかの調査とかをしてくれて、関係毎に仕分けしてあって、決済の前段階の書類をそろえておいてくれてて大助かりだよ」


 旅から帰って来てから、そんな風に手伝ってくれるようになって、感謝感激だ。


「う~ん。まぁ、頑張れや」

「おうっ」


 事務仕事の話題はもういいや。

 気が滅入る。


 せっかくジェイカブがいるのだし、そうだな~。


「旅の間にヘイズルとアイリンから聞いたけど、伝書鳥が州間だけじゃなくて、航行先の船の上の人にも届けられるようになったんだって?」


「そうなんだ。凄い発見だって、さすがに驚いた」


 うんうん、ホントに大発見だと思う。

 今でさえ、州間の情報伝達は重要事項だ。


 片道方向だけだと、必ず伝書鳥を戻しに行かなければならないし、場所が固定されていると、移動している人に情報を渡したい時に、実に不便だと思っていたのだ。


「伝書鳥が人の顔を覚えてて、しかもどっちの方向にいるか、気配を追えるって事なのかな……?」


「血筋なのか、環境なのか、それとも餌の配合具合にもよるのか、とか……詳しい原理は分からないけど、そういう事になるんだろうなぁ。成功例が上がったら、そのうちエイブ専用の伝書鳥も出来るぞ」


「え、僕? いやいや、全島くじ引き再開したら、州長は違う人がなるわけだし。その人の伝書鳥を付けた方がいいよね」


「ふむ~」

 ジェイカブは少々思う事ありな顔をしたかと思うと、話題を伝書鳥から変えてきた。



「あ~、ところでエイブ。島都と北西南西の州以外で、権力を握ってる連中をどう軟禁状態にもっていくかの、アイデアが欲しいって頼まれたんだが……」


「へ……?」


「何か、浮かばないか?」

「う~ん。わっしょいで軟禁はもう無理かな?」


「だなぁ。2州の交代劇のせいで、どうも残りの6州の権力者連中が警戒してるらしい」

「なるほど……」


 やっぱり北西南西は、唐突だったから成功したんだな。

 異様な勢いもあったし。


 しかしっ!


 残りの6州を動かさない限りは、今秋にくじ引き再開……くじ引き再開! くじ引き再開があぁぁぁぁぁ!!

 とっても大事な事なので、3回(心の中でだが)言いました。


「……。その警戒心を利用したらどうかな?」

「おっ、何か思いついたか? 利用って?」


「例えば。腰巾着相手に、州長がお呼びです。念の為に丸腰で寄越せという事なので、武器をお預かりしていいですか……とか」


「そっかそっか。不穏な空気が流れているから、しっかりと武器の手入れを鍛冶に頼みませんか、とか?」


「そうそう、そんな感じ! 取り上げて、まず武装解除させてから、軟禁コース。で、どうだろう」


「それじゃ、早速知らせるなっ」

「うん、よろしく!」


 ジェイカブは慌ただしく出て行き、僕は事務仕事に戻った。




 ヘイズルとアイリンが、その後の騒動を書いた手紙を持ってきてくれる。

 結果、残りの6州で、権力を握っていた者達の軟禁が完了したらしい。


 ところが、そうなったらそうなったで、また悩みが生まれたらしい。


「今度は権力を握っていた奴等なしで、州の運営をしようとしたけど、書類がなかなか作れない……だとさ」


「う~ん。僕も始めは苦労したよ。親方達に何度も聞きに行ったりしてさぁ」


 今にして思えば、何度も足を運んだ事もいい結果を生んだわけだけど。

 何だか、懐かしいなぁ。

 そういえば親戚の事も頼んだりしたな~。


 ホント上手くいって、良かった……っ。


「いつまでも軟禁してるのも面倒だし、前州長達を書類整理に駆り出したらどうかな?」

「ふむふむ」


「折れるきっかけを探してたり、意固地になってる人も頼りにされてるって思えば、仕方ないなって、くじ引き再開に向けて懐柔出来るかも?」


「それも伝えとく」

「うん、頼んだ。また何かあったら、教えてくれ」

「了解」



 もし、これでも懐柔されてくれず、くじ引き再開に断固反対する人間がいたら……。

 逆に軟禁だけで、後はお咎めなしだなんて、温過ぎると思う人もいるはずだ。


 最悪、血を流す州が出る可能性はある。


 そうならないよう、権力を握っていた者達の生い立ちや性格を知る、その州の人達が手段を講じてほしい。


 実際、現場に居ない僕に出来る事などほとんどない。


 ただ、流行病で人口が減った今ならまだ、これ以上、しかも誰かの手によって命を失いたくないという思いが強いだろうから、そう酷い事にはならないはずだ。


 権力を握っていた者達が、早く気持ちを変えてくれる事を祈るしかなかった。






 あぁ、やっとこの日が来たっ!

 全島くじ引き再開の日だっ!


 この喜びを海に向けて叫びたい気分だよっ。

 ついに成し遂げたという達成感。


 今回は貸しも作ってないし、州長のくじを押し付けられる心配もない。

 引いたばかりのくじを手に持ち、僕はすっかり満ち足りた気分だった。



 だから。


「あれ、エイブ。木工作業のくじ持ってるじゃん。おい、ダニャル! エイブがお前の欲しがってるくじ、持ってるぞ~っ!」


 周囲に響き渡る盛大な声で、ガーンディがダニャルに呼び掛ける。


「あ~! 待った待った。エイブ、そのまま持っててくれ~っ!」

「おう! もちろんっ」


 ダニャル自身が引いたくじは、よっぽど自分とは相性の悪いものだったのか、大慌てで負けず劣らず声を張り上げ返してきた。


 それじゃあまぁ、しょうがない。

 ダニャルの木工好きは知ってるしと、僕も承知した。



 それなのに、ダニャルはすぐに駆け寄って来なかった。

 しかも、わざわざ誰かとくじを交換した上で、改めて僕のくじと交換する。


「お待たせっ! これからもよろしくなっ、エイブ」

「うん、よろしく……?」


 そのダニャルの不審な行動に、……もしや? と思った時には、既に時遅し。

 今、僕の手にあるくじを広げると……。


「なぜっ! 州長のくじなんだ~~~っ! 誰か交換~~~~~~っっ」


 僕の訴えは当然のごとく無視された。



「海の馬鹿野郎~~~~~~~~~~~~~っ!」

 もちろん後からそう叫んだよ……ふふふ。




 そうして島都へ行ってみれば、案の定僕と同じく何らかの罠にはめられたのだろう、スィーザが新・南の州の州長になっていた。


 基本的に僕は2回のくじでも、自分では州長のくじを引いていないのだから、そうくじ運なら悪くないはず……。

 そう思って引いたのに……。


「いやはや、北の州長殿が新・島長なら安心だ」

「うむ。久々の全島くじ引き再開ですからなぁ」

「これからも北の州には、色々と引っ張っていってもらいたい」


 等々と、他の新・州長方は好き勝手仰っていらっしゃる。


「今回は5年間だけだし、頑張ってくれ」


 スィーザにまで言われた!

 うお~~~~、ちくしょ~~~~~~っ!



「……。まずは技術取得希望者の受け入れの件ですが」


 北の州、今や州都じゃなくて、新・島都へ帰ったら、また海に向かって叫んでやるっ! 僕は心の中で密かに誓った。





くじ引き前


「あんたは、州長のくじは引かないで下さいよ」

「それならお前がくじを引くんだな」


 軟禁もだいぶ前に解除され、州は大分落ち着いたが、まだしこりは解けない。


 州民側には、長い間虐げられてきた恨み、前州長側には、騙され不意打ちされて権力の座から転がり落とされた恨みが、まだ滞っている。


 北の州長は、前州長達を懐柔すれば良いと言い、ちょっと不満はあったものの、我らもそれに従った。


 流行病が猛威を振るう間、我らを助ける為に粉骨砕身してくれた者達だ。

 恨みはあるが、殺したいとまでは思わない。



「隊長、是非州長のくじ引いて下さい」

「そういうお前が引けばいい」


「嫌ですよ。書類仕事が待ってるんでしょ?」

「俺だって嫌だ」


 それだけではない。

 州長になれば、州の未来が自分の肩に掛って来るのだ。


「考えてみれば、北の州長殿が動けなかった訳が分かりますね」


「うむ。北の州の事務仕事は、エイブ殿が一手に引き受けていると聞いている」


 この数年、島の島民のほぼ全員の生活をエイブ殿が背負っていたのだ。


 どれほどの書類が山積みになっていたか考えると、尊敬を越えて崇敬の念を覚える。


「州の書類だけで、俺達はうんざりだったからな。前州長達の助けを借りれば良いって北からの指示がなけりゃ、絶対に州運営ぽしゃってただろう」


「本当に凄いですよね。あの指示のお陰で、どの州も丸く収まったみたいですよ」

「どれだけ先を見据えて指示を出してるんだか」


「島長になって貰えれば、この先安心できるんですけどね」

「その前に北の州の州長だろ?」


「大丈夫じゃないですか? 北の州民達は、どんな手を使っても、きっとエイブ殿を州長にするでしょうよ」

「本人は逃げ回ってそうだがな」


「無理ですよ。噂を聞く限り、付け入る隙は一杯ありそうです」

「確かにな」


 自州も手一杯なのに、他州にまで助けの手を差し伸べるぐらいのお人好しだ。



「だから、隊長も諦めましょうね」

「絶対嫌だ!」



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