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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
22/102

本題。

「エイブ君になら、全てを話していいかも知れない」

「はい」


 僕は気を落ち着けて、背筋を正した。


「まず、スィーザはもうすぐ20歳。今秋にはくじ引き権を持つわ。元々くじ引きは収穫祭に合わせて行われていたでしょう。だからそれまで、くじ引き再開は待ってほしい」


「そうですね。僕の一存で約束は出来ませんが、今秋に全島一斉くじ引き再開を具体的な目標にしたら、意気が上がりそうです」


 しかしスィーザって、今19歳なのか……。

 僕よりも5つ年下なのに、バリバリの実働部隊だし、何か自信なくすなぁ~。


 ハッ。

 しかもバナと、3歳しか違わないって事だよな……。

 女の子の方が早熟なはずなのにっ。


 バナ、しっかりっ!

 僕は心の中で密馬車仲間にエールを送る。



「南の州の為に、スィーザを州長にしたいという気持ちは間違いなく本物。ただ……」


 来た、本題っ。

 権力に固執しない島長が、親子で補佐に回ったっていいのに、くじ引き再開を遅らせてまでそうしかなった理由。


 きっと僕が知らない件だ。


「流行病前に訪れたロウノームスからの使者は、人を寄越せと言って来たわ」


 ロウノームス。

 この話にその名前が出てくるとは……。

 しかも、人、だって?


「つまり、奴隷ですか?」


「そうでしょうね。承知しなければ、戦いになると……もっとも遠回しな言い方をしてはいたけれど」

「……」


 僕はすぐに言葉が出てこなかった。

 当時は、国として正式な商談に来たぐらいにしか思っていなかったのだ。



「北の州にもあれ以来、ロウノームスからの使者は来ていないのよね?」

「はい、全く。正直、病を運んできたぐらいにしか思っていませんでした」


「使者が来た時、エイブ君はまだ10歳くらいでしょう? その後はお互いに自州の事で手一杯だったもの、無理ないわ」


「父は気付いていたんでしょうか?」

「きっと薄々気付いていたでしょう。だからロウノームスの使者を島都に送って来たのよ」


 何だかおかしいぞ。

 あの父が、ロウノームスの思惑に気付きながら島都に使者を送った?


 それは、僕の知っている父じゃない。

 しかも、人を奴隷として送る? 出来る訳がない。


「何故父はロウノームスの使者を島都に送ったんでしょう?」


「送らなければ、下の者じゃ駄目だ、上の者を出せ。女じゃない、男を呼べ。どう責任を取ってくれるんだ。そう文句を付けられたでしょう」


 確かにロウノームスの人間なら、ありえる話かもしれない。

 くじ引きで選ばれた島長だけが、クロワサント島の代表だ。


 頭を下げればいいだけならいくらでも僕なら下げるが、文句を付けて来る相手が北の大陸となると、下手したら文字通り首を取られる。



「その事もスィーザには?」


 僕が尋ねると、島長からは予想通りの答えが返される。


「ええ、言ってない。ろくな舟がないのに、北の大陸の様子を探ってくるって飛び出して、そのまま海の藻屑になられでもしたら……」


「なるほど……」


 探るどころか辿り着けないでは、命の無駄だ。

 しかし行動力の有りすぎるスィーザだと、冗談じゃ済まなくなってくる。


「この事を知っている人は、ほとんど亡くなってしまったし、生きていてもしっかり口止めしてあるわ」

「当然の事だと思います」



「ごめんなさい、話してしまって。これでエイブ君にもロウノームスの件で重荷を背負わせる事になったわ」


「いえ。もしまたロウノームス絡みで何かあるとしたら、まず北の州になる可能性が高いですし。知っておいて助かりました」


「再度使者が来ないのは、多分ロウノームスでも流行病が猛威を振るっているか、いた、のよ。再び使者を出す余力がないくらい」


「ありえますね」


 ロウノームスから使者の船に乗っていた、全ての人が感染していた事を考えると、どれだけ流行病が北の大陸で猛威を振るったのか想像するに恐ろしい。


「まぁ北の大陸とは距離があるそうだし、二度と来ない事を祈るけど、もしかしたらまた来るかも知れない。そうなった時にスィーザが州長、出来れば島長である必要があるの」


「ちょっと待って下さいっ!」


「もう何度も考えたの。ロウノームスの使者達に対応したのは私だわ。その思惑に少しでも対応できるのは、私だと思う」


「でもっ!」


「ロウノームスの使者は、私が島長だと知ると驚いたわ」

「女性だからですか?」


「そうみたい。男の代表を出せ! と最初は言っていたわ」

「ロウノームスも、もったいない事してるんですねぇ」


「そうなの?」

「もちろんです。北の州が元気なのは、女性が元気だからですよ。南の州も同じじゃありませんか?」


「確かにうちの女性陣も元気だわ。私を筆頭に」

「ええ。彼女達が居なければ、北の州は今頃潰れていましたよ」


「あらぁ。それは会ってみたいわね」

「気が合うと思いますよ」


「いつか北の州に遊びに行くわ」

「待ってます」



 ……話がずれた。


 でももう覚悟を決めている島長に、他の誰でもない我が子のスィーザを、ロウノームスへの矢面に立たせていいんですか……とは聞けない。


 島長だって、もう重々考えた末の結論だろうから。


「スィーザは私が言ったのじゃ聞き入れない事でも、エイブ君からなら少しは考えてくれると思う。友達だからかしらね」


 友達!

 何だかとっても嬉しいなぁ。


「もちろん私も補佐するつもりよ。でも親子だからこそっていうのかしら、たまに頑なになってしまうの。だからこれからもスィーザと仲良くしてやって」


 よし!


 とりあえず、ロウノームスの話はこれで心の内に仕舞い込もうっ。

 再度の使者が来るかも分からないのに、悩んでたって仕方ないよなっ。



「仲良くはもちろん、こちらこそっ。お母さんの許可なく、子供同士でとっくにそうですから」

「ふふふ、言うじゃない。今はあんな風でもスィーザは昔ね……」


 それから島長と僕はお茶しつつ、スィーザの恥ずかしい過去話で盛り上がった。




「母さん!」

「「エイブ!」」


 ドカンと扉を開け、スィーザと幼馴染達が飛び込んできた。


「あら、スィーザ」

「あれ? バナ達はどうした?」


「バナ達は、隣の青年の家だ」

「今回の商談の商品について、色々聞いてもらってる」


「へぇ~。楽しそうだなぁ」


 横で、島長とスィーザが喧々諤々とやっている。

 これは止めないと、後で飛ばっちりが来そうだ。


「スィーザって子供の頃さぁ……、……だったんだって?」

「なっ! ……母さんっ! 何、話してたんだよっっ」


「いいでしょ~。島長に内緒で商談を進めた罰よ、ふっふっふ」

「話したら、駄目出ししただろうが……っ」


 お~っと。


「いっぱい聞いちゃったぞ~ふっふっふ。矛先を大事なお母さんに向けちゃいけないよ~、スィーザ」

「だぁっ、どの話だ~っ! こっちは心配してたのにっっ」


 焦るスィーザに、僕はニヤリと笑って見せた。




北の州から


「南の州に入ったと伝書が届いたわ」

「あれ? 予定よりちょっと遅かったわね」


「何でも、州境に捕獲部隊が出てたので、山周りで入ったんですって」

「南の州にも、実働部隊が出てたの?」


「今回エイブを呼んだ相手が、迎えに来てくれたそうよ」

「じゃあ南の州でも無事で居られるわね」


「う~ん。その辺はどうかなぁ」

「北西と南西の州が動いちゃったからねぇ」


「まぁ、奴らが何とかするでしょ」

「無事にエイブを連れて帰って来なかったら、どうしてくれよう」


「大丈夫でしょ。ちゃんと言い含めておいたから」

「「それもそうね」」



「それにしても、エイブ早く帰って来てくれると助かるわ」

「全く。こんなに書類に時間が掛かるって思わなかった」


「昔っから全部任せちゃってたからねぇ」

「ちょっと反省点ね」


「帰ってきたら、手伝い位はしてあげなきゃね」

「手伝いするの?」


「形だけでもね」

「ちょっと手伝うだけで、エイブ喜びそうだしね」


「「それもそうね」」



「これはちょっと私達じゃ無理ね」

「どれ?」


「……会計」


「いける?」

「パス」

「私も」


「じゃあ、これもエイブ待ちっ」


「増えたわねぇ」

「まぁ間違えるよりは良いわよ」


「「それもそうね」」




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