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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
19/102

スィーザ。

 南西の州でも無事に商品取引を終え、馬車に乗り込んだ。

 いよいよ島都へ向かうのだと、バナが好奇心を隠し切れない様子で尋ねる。


「ダニャル兄、島都へはどう行くの?」

「商人達が通る平野部の道があるから、そこを通る予定だ」


 初めて行く島都とはいえ、道はちゃんと把握済みらしい。


「そんな道があるんだぁ」

「森の道は島都に繋がってないからな。でも、森の道より馬車の乗り心地は良いと思うぞ」


「そうなの?」

「木の根がないからな」

「なるほど~」


 それは助かるなぁ。

 大分馬車の旅にも慣れてきたが、木の根があると荷台が跳ねて揺れるからなぁ。



 な~んておしゃべりしながら、のんびり僕達は馬車を進ませていた。


 ところが、もう少し進めば、南西と南の州の州境が見えてくるという所に来て、御者席に座っていたエッドが不審そうな声を上げる。


「おや? スィーザだ」

「スィーザって、誰だっけ?」


「前に山道であった、南の州の青年の家の代表者だよ」

「あ~~」


 そういえば、そんな名前だったなぁ。

 スィーザとエッドが出会ったから、今回の島都へ乗り込む話が出て来たのだ。


 エッドの声の雰囲気からして、待ち合わせをしていた訳ではなさそうだし、わざわざここまで出迎えに来てくれたのだろうか?

 それとも何かあったかな?


 そう僕がつらつら考えていると、少しずつスピードを落とした馬車は止まった。


「どうしたんだ、スィーザ」

「すみません。州境で北の州長捕縛命令が出てまして、この道を逆戻りして、裏道を通って島都へ入ってもらいたいんです。俺が案内します」


 問題発生らしい。


 今、な~んか物騒な単語が聞こえたな~。

 気のせいかな~。


「そうなのか、じゃあ頼む」

「まぁ、乗って乗って」

「お邪魔しますっ」


 伝えられた言葉の内容に僕が衝撃を受けている間に、勧められたスィーザが馬車に乗り込んできた。



 僕は初顔合わせになるし、まずは自己紹介だよなっ。


「はじめまして、一応北の州長のエイブです」

「……一応?」


「こら、エイブ。一応って何だ、スィーザが困ってるだろ!」

「そーだそーだ。ただでさえ、貫録ないのにっ」


「うぅ……」


 北西と南西であったくじ引き復活の代表者さん達に比べたら、若さで僕は取っ付きやすいと思う。


 けど、州長なんて肩書持ってるし、青年の家代表って事は僕より年下だろうし、親しみやすくしようと、ちょっとだけ砕けた物言いをしただけなのに。

 酷い。


「スィーザ、それが本物の北の州長だから」

「……それ扱いか、僕っ」


 ……しくしく。

 やっぱ、一応を付けて正解じゃないかぁ。


「はじめまして、スィーザです」


 南の州では青年の家が何歳までなのかは知らないが、礼儀がしっかり身に着いてて、何だかそんなに年下という感じがしない。


「わざわざ知らせに来てくれて、ありがとう」


「いえ。こちらこそこんな事になって、申し訳ない。本当なら俺の方が北の州へ行くべきなのに、あんまり島都を留守には出来なくて……」


 スィーザは言葉を濁す。


「そりゃあ代表だし、子供達を置いて遠出は難しいよなぁ」

「……それだけじゃなくて」


 あれ?

 ちょっと言い辛そう。

 何か訳ありっぽいけど、その内話してくれるだろう。



「それで、その~? 早速だけど、捕縛命令っていうのは何で?」


「北西と南西の州の権力者達が、北の州長が行った途端に軟禁状態になった。しかも北の州長はそのまま島都へ向かってるっていう情報が、こちらに伝わって来たので」


「何なんだ、その情報! 端折り過ぎだろ!!」


 僕は北西の州では子供達と凧揚げしてたし、南西の州では着いた時には、既に事は終わってたんだ!!

 断固、訂正したい!!


 憤慨する僕に、スィーザは更に続けた。


「それで同じ事になったら困るんで、北の州長を島都に入れるな! と……」

「僕が行こうが行くまいが関係ないのに~、そういう流れなだけなのに~~っ」


 しかしそれを聞いた幼馴染達は、僕とは違い、ウケて大笑いだ。


「情報なんだ、噂じゃなくてっ」

「危険人物認定おめっとさん、エイブ!」


「エイブお兄ちゃん、お尋ね者なのっ? 何か、カッコイイっ!」

「……こらこら、バナっ」


 目を輝かせるところじゃないから、ここはっ。



 そんな僕達に目を白黒させながらも、スィーザは更に迎えに来た経緯を話してくる。


「青年の家の先輩達が何人も治安部隊に回されてて、その関係で今回の命令もすぐに教えてもらえたので、捕縛される前にと……」


「僕は一般人だぁあっ!」

 僕ほど島民Aと呼ばれるに相応しい、どこにでもいるありふれた一般人はいないっていうのに~っ!


「まぁまぁ」

「元々ヤバい橋を渡ってたんだ」


「こうなるかも知れないと思ってたから、エイブは島都には手を出さなかったんだろ?」


 確かにその通りですが、いつもの事ながら僕、見抜かれ過ぎ……。

 もう疲れました……。



「はぁ~」

 ぐったりと、馬車の幌を見上げてしまった。


「お菓子いる?」

 そんな僕を慰めようとか、バナが差し出して来た。


「……ありがとう」

 僕が受け取るその横で、スィーザもヘイズルからお菓子を受け取り、頬張っている。


「おいしいねぇ」

「うん。おいしいね」


 にこにこ言って来るバナにつられて、本当に気分が浮上する僕。


「……単純」

「いいだろっ。僕らしくてっ」

「まぁな」



 そんな僕達を見ていたスィーザが問いかけて来た。


「ちょっと聞いてもいいですか?」


「いいけど、年も近いし敬語止めてね」

「はい」


 お?

 ちょっと顔つき変わった?

 ビシッと引き締まっている。


「北の州で、すでにくじ引き制度が復活してるって本当なのかっ?」

「本当だな」


「青年の家も流行病蔓延前の状態に戻ってるっていうのは?」

「うん。それも本当だ」


 ちょっとびっくりして答えられなかった僕に代わり、ダニャルが答えている。


「くじ引きは州民合意で復活させた。青年の家にまだ孤児達は残ってるけど、保護者がいる子供達も通って来たり、集団生活してる」


「今の島都は、青年の家は北の州と同じだ。でも、くじ引きの復活がまだなんだっ!」

「お……っ」


 一番に尋ねられたのが、闇市場とか商品取引の話じゃない!

 それどころか今僕が目指す事を、猛烈に目を輝かせ、勢い込んで語ってくるっ!


「俺は一刻も早く、島都がくじ引きの行われる状態になればいいと願ってるんだっ」

「うんっ! その為の協力は惜しまないよっ」


 目指す所が同じ目線の仲間が島都に居たなんてっ!


 僕はスィーザをしっかりと見つめた。

 スィーザも気づいたらしく頷き返してきた。


「「そして、全島くじ引き再開っ!!」」


 スィーザと僕は改めて、ガシッと握手を交わした。


 いや~スィーザとは気が合いそうだ。

 まさに意気投合っ!


 全島くじ引き復活の夢を語り合いつつ、馬車を島都へと進めた。




州境


 ヒヒーン! ブルブルブル。


 南西の州都との州境に、南の州の治安維持隊の1隊で辿り着いた。


 ちゃんとスィーザに先回りで知らせたし、バレないほどゆっくり目で馬を走らせてきた。


「どうだ?」

「誰も居ない」


「検問所が撤去されてる」

「見事に人が居ないな。この前と大違いだ」


「南西の州の治安部隊維持隊がもう来ないなら、誰か近づけばすぐに分かるね」

「う~ん……」


 恩ある島長の命令とはいえ、余り北の州長の捕縛は実行したくない。


「スィーザが合流出来てればいいな」


「大丈夫さ」

「おう」




 それにしても、未だに今回の騒動が信じられない。


「北の州長が動くと思わなかった」


「スィーザと違って、指示だけ出す人かと思ってたよ」

「俺もだ。でも動かない人が動くと凄い」


「あっという間に2州が州長交代だ」

「全島に広がるね」

「そうだな」


 他州の動きは少しずつ商人を通して情報を仕入れていたが、寝耳に水の出来事だ。


 聞いていたのは、北の州長が北西・南西の州を経由して、南の州に来るという噂話だけ。


 交代劇の準備など、誰も全く気付かなかった。



 でも、南の州的にはいい時期なのかもしれない。


「今度の秋、正式にスィーザにくじ引き権が出来る」

「やっとかっ!」


「他州みたいに、くじなしで州長に押し上げても良かったのにな」


「だが島長としては出来なかったんだろう」


 今は全く機能していないが、我等南の州の長だけが、正当なくじ引き制度における島長なのだ。


「待ちに待った収穫祭だ」

「ああ。楽しみだ」


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