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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
17/102

馬車の旅。

 やっぱり外の空気は美味しいな~。

 普段州長館に引き籠ってるわけじゃないけど、やっぱり初めて出た州都の外の空気、旅の空の下の空気は一味違う気がする。


「エイブ、ちょっと御者代わってくれないか?」

「喜んで~っ」


 馬はちょこちょこ乗っていたが、馬車を動かすのは初めてだ。

 これぞ旅の醍醐味!

 急いで僕は御者席に向かった。


「道なりに馬を歩かせればいいから。手綱を絶対離すなよ」

「了解!」


 隣で見させてもらったり、触らせてもらった事はあるから何とかなるだろう。


 エッドもそう思うから、変わってくれたんだろうし。

 いつもダメ出しを出すエッドが出したお許しだ。

 こんな機会逃せるかっ。


 やっぱり旅に出ると違うよなぁ!



「エイブお兄ちゃん、いいなぁ」

「バナも来るかい?」


「いや、バナはダメ。ちょっとこっちにおいで」

「エッド兄、何~?」


 僕と入れ違いに荷台へと戻ったエッドが、バナに向かって手招きする。


 何だろう?

 気になるが、後ろを見続けると馬車が道から逸れてしまう。

 前に集中するしかない。


「食糧の分配について、考えないといけないからね。ちょっとバナの持ってきた食糧を見せて貰えるかい?」


「わかった~。これだよ~」

 バラバラっと物が落ちる音がする。



「……バナ?」


「うわっちゃぁ~」

 背後に幼馴染達の怒気を僕は感じた。


「どこが食糧だっ! おやつと遊び道具ばっかり持ってきやがってぇっ!」

「痛いイタイいたいっ!」


 どうやらお仕置き真っ最中らしい……。

 ごめんバナ、庇い切れない……。


「バナだけじゃないもんっ! エイブお兄ちゃんもそうだもんっ!」

「ばらすなぁあああ!」


 背中に突き刺さる皆からの視線が痛い!


「エイブ、帰ったらお仕置き決定な!」

「うぎゃああああああ!」


 ワザとじゃないんだよ~っ!

 食糧を持ってこれない分、旅の間の暇つぶしや、他州の人達とのコミュニケーションツールと思ってさぁ~っ!


 はい。

 もちろん無視されました。

 寂しく御者台で御者ですよ……。



「北西の州と南西の州で、少し分けてもらうしかないな」

「迷惑かける事になるけど、しょうがない」

「おう……」


「「……ごめんなさい」」


 落ち込む幼馴染達を救う為か、ヘイズルとアイリンがアイデアを出してくれた。


「道々何かを収穫していくのは?」

「木の実とかキノコとか山菜とか」


「それ貰ったっ! 見つけたら教えてくれっ」

「「は~いっ」」

 もちろん僕も返事した。




 旅は実に……予想外だったっ!



 まず、道が思ってたより綺麗。


「馬車が通れない所はないようにした」

 との報告は確かに受けてたけど、此処まで整備してあるとは思わなかった。


「道の整備は大変だっただろ?」

 御者台から道を見ながら、ダニャルに聞いた。


「たぶんエイブが思ってるより楽だったぞ。元々道があったからかな? 通りやすいように枝を掃ったら道が蘇った感じだった」


「もっとも、ここはまだ北の州だから、他より手が入ってるよ」

 横からエッドも混ざってきた。


「北の州から外れると、道は厳しい?」


「今はそうだね。北の州に近いほど通行量が多いから」

「おれ達が通るたびに手を入れるからな」


「そうか。今回馬車で旅が出来るのは皆のお陰だな。ありがとう」

「恩に着てくれ」


「うん。でも貸しにはしないぞ」

 貸しを作ったら、また州長のくじを押し付けられそうで怖い……。


「ちぇっ」


 あ~、やっぱりか……。

 これからも、貸しを作らない様に頑張らねばと、心に刻む僕だった。



 馬車の荷台は結構ガタガタ揺れるんだと知ってはいたが、長時間ガタガタ揺れ続けるのは結構きつい。


 でも、馬車内で出来る手遊びやゲームをしたり、歌を歌ったり、(仕事以外の!)話をしたりするのはとっても楽しい。


「この辺でちょっと休憩取ろうよ~!」

「ちょっと待てっ。さっき取ったばかりだっ」


 御者台からガーンディが言って来たが、ヘイズルとアイリンは、僕の味方!


「靴が落ちた!」

「ガーンディ兄、馬車止めて~!」


 荷車の後ろから足をぷらぷらさせていた、2人がタイミング良く声を上げる。


「君達も甘いねぇ」

 2人の頭をエッドが撫でて来た。


「エッド兄程じゃないもん」

「そうだもんっ」


 2人は急いで靴を拾いに向かいながら、エッドに言い返している。



 しかし、ばれる早かったなぁ。


 先ほどから、僕が休憩を求めると、「雲だ~鳥だ~花だ~靴だ~」と、ヘイズルとアイリンが声を上げ、馬車を止めてくれたからなぁ。


 ちなみにバナは、おやつが零れた! と、僕とはまた違うタイミングで馬車を止めてくれていた。


 まぁ、これはわざとじゃなくて、本当に零してるんだけど……。



 地面に凸凹があると、結構大きく揺れるからなぁ。


 その内、馬車の揺れにも慣れるってガーンディは言うけど、僕はまだ慣れない。

 腰やらおしりやら、荷台をギュッとつかむ腕やら手やらが、僕に痛みを訴えてくる。


 でも、ずっと夢見ていた待望の旅なんだよ。

 目的地に行って帰るだけなんて、つまらな過ぎる。


 どうせなら色々見て行きたい。


 あ! 木の実が生ってる。キノコだっ。動物が見えたっ!


 陳腐でも、使えるモノは利用せねばっ!

 当然それからも馬車を止める口実に、僕は食糧調達を使いまくった。




 僕の旅はのどかに続く。

 取引物資を受け渡ししつつ、ずっと小さな事できゃあきゃあ騒ぎ、のんきに楽しく馬車を進め、何事もなく州都に帰るのだろうと、この時の僕は思っていた。




噂話


「北の州長がここに来るって?」

「ホントか?」

「何で?」


「何でも、島都に行くらしいよ」

「「島都?!」」


 一斉に皆で口を閉じる合図を行っていた。


「……おかしいっ」

「みんな揃って同じポーズっ」


 今度は大声で笑ってしまわないよう、皆で急いで口を塞ぎ合った。


「船で来られるの?」

「それがさ。北の州長なのに、船酔いするから馬車だってっ」


「……ぷっ」

 駄目! 駄目だ! 皆でまた口を塞ぎ合う。


「ダメだわ! 詳しい話はまた今度聞かせて!」

「俺もだ!」


 今にも吹き出しそうな顔のまま肩を震わせ、皆一斉に散っていった。



 それを横目で聞いていた南西の州の親方が、ぼくに聞いてきた。


「エッド君、今の噂は本当かね?」

「……何でばれるんでしょうか?」


「それだけ期待が大きいって事だろう。いつも州境など無視な君達が、通行手形を手に入れようと動いている事から出た噂らしい」


「……まいったなぁ」

 ぼくは肩を竦める。


「本当なのかっ!」


「ええ。今回エイブは動くでしょう。ぼく達はその安全を図る為なら、何でもします。通行手形もその為になら手に入れてみせる」


「ここにある。持って行ってくれ」

「……親方っ?!」


「無事に来られる事を祈っている」

「はい。全力を尽くします」


 初めて契約を交わした時と同じく、ぼくは親方と固く握手を交わした。



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