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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
16/102

密馬車します。

 試験的に、次の北西と南西の州の商品取引を帆船ではなく馬車で届け、そのまま島都へ向かうと聞いて、僕はしめた! と思った。


 出発する前に馬車に潜り込んで、そして引き返すのが面倒な位置まで来たら……。



「エイブお兄ちゃんっ!」


 思いっきり妄想に耽っていた僕はビクッとした。


「……どどどうしたんだ、バナ?」


 動揺を隠しきれず、かなり挙動不審だったはずなのだが、それに頓着する事無く、バナが言って来る。


「今度“輝ける白”はバナなしで行くって。バナお休みだし、でもバナも取引に行きたい。島都へも行くっていうしっ!」


 興奮しすぎて分かりにくいが、つまり馬車に乗りたいって事かな?


 まあ、次の航海は新しい帆船を造船している関係上、バナを抜かした航海を経験させ、皆の操船技術向上を目指してるからなぁ。


 お留守番が寂しいのは実に良く分かるんだが……。


「もう島都行きのメンバーは決まってるんだよなぁ」


 ダニャル・エッド・ガーンディと、緊急連絡用伝書鳥のお世話担当でヘイズル&アイリン。



 しかしバナはそんな事関係ないとばかりに仰った。


「でも、エイブお兄ちゃんは潜り込むんだよねっ?」


「……っ?!」

「だ・よ・ねっ!」


 バナの口調は完全に決めつけている。


 何で分かるんだっ?!

 そういえば最近バナは、女性陣でも一番の姐御であるフィシャリと、よく一緒に行動している。


 ……そのせいか?

 なんか雰囲気が女性陣に似てきてるような~。


 いや、確かに潜り込むつもりなのだが。

 今も妄想真っ只中だったし……。



「皆には秘密だよ、バナ」

「うん、黙ってる。だから一緒に密航者ならぬ、密馬車しようよっ」


「……」

 それはつまり、拒否したらバラすって事か。


 ……まぁ、一緒の方が心強いかな?


「1人で帰るのが難しい頃合いまで来たら、2人で同時にワッと出て、驚かそうよっ」


 むっ! そ・それは……。


「1人より2人でする方が楽しそうだなっ!」


「うんっ。やろう~っ!」

「おうっ!」



 意気投合したところで、僕は心配事を持ち出した。


「バナは旅の間の食料をちょろまかして来れそうかな?」

「自分の分だけなら。2人分は無理かも……」


「僕は無理そうなんだよなぁ。でも僕の分くらいなら、みんな分けてくれる……だろう、うん」


 迷惑を掛ける皆には申し訳ないが、もう密馬車計画は思い止まれないのだ!


「楽しみだね~、バナっ!」

「楽しみだね~、エイブお兄ちゃんっ!」


 こうしてバナと僕は密馬車仲間となり、黒い笑顔を浮かべあった。




 バナとコソコソと密談をして計画を練り、密馬車旅行の荷物を作っていった。


「これを持っていくのはどうかな?」


「そういや、船から見た事ないよ」

「おおっ! やったっ!」


「エイブお兄ちゃん、これはどう?」

「いいねっ!」


 実に楽しい。


 ついでに事務仕事もポ~イッとどっかに放り投げたかったのだが、いつもと違う行動をすれば怪しまれる。

 でも後ちょっとで楽しい事が待っていると思えば、ここ最近ちっともペンが進まなかった事務もはかどるし、いつも以上に頑張った。


「うん。やり残しなしっ! ばっちりっ!」


 断じて帰って来てからが怖いとか、性分だからとかじゃないからなっ。





 そして決行日がやって来た。


「エイブお兄ちゃん、これをちょっと動かして」

「うん。いい感じだ」


「エイブお兄ちゃんはいけそう?」

「大丈夫。ばっちりだよ」


 バナと僕は誰もいないのを見計らって、早朝既に商品を積んである荷台に潜り込んだ。



 日が昇ってしばらくしてから、ダニャル・エッド・ガーンディとヘイズル・アイリンがやって来て、めいめい馬車に乗り込んできた。


「じゃあ頼むわよ!」


 馬車の中にフィシャリの声が響く。

 更に周りに大勢の人が見送りに来ている気配がする。


 動かない、動かない……。


 ここで見つかったらこれまでの準備がすべて水の泡だ。

 あとはタイミングを待って、ワッと皆を驚かすのだ。




 ……と思っていたのに。


「お~い、エイブ。もう出てきたらどうだ?」


「密馬車気分も十分堪能出来ただろ」

「せっかくの馬車旅行だ。楽しまなきゃ損するぞ~」


 馬車が動き出し州都が見えなくなった辺りで、声を掛けられた。


 どうやら、見送りに僕の姿がないのに、全く話題にも上らなかったのは、僕の密馬車計画が皆にお見通しだった為らしい。


 まぁ、バナにバレて、幼馴染達にバレないはずがないんだが……。


「……どうしてバレてるんだああああああッ!」

 僕は隠れていた場所から、飛び出した。


「ええっ、バレてたのッ?!」

 違う場所から一緒にバナも飛び出した。



 だが、飛び出て来たバナの姿に、ヘイズルとアイリンが同時に驚いた。


「「わぁっ、バナもいるっ!」」


 僕には驚かなかった幼馴染3人も、バナに関しては同様だった。


「バナ、なんで!」

「マジでバナがいる!」

「なぜバナまで~!」


 おや?

 僕と反応が違うぞ?


「あれ、バナの事はバレてなかった……?」


「当たり前だっ! お前だけだと思ってたよっ!」

「エイブのはあるけど、バナの分の食料はないぞ」

「こっからなら、バナでも歩いて帰……」


「持って来てるから大丈夫だもん! エイブお兄ちゃんの密馬車仲間に、1人で帰れなんて言わないよねっ?」


 幼馴染達は顔を見合わせた。


 うん。

 ダニャル達の負けだ。

 三人とも同じ表情を浮かべている。


「行ってもいいって、バナ! 良かったなぁ」

「うん、やった~!」


 ハイタッチをして喜ぶ僕等に幼馴染達は苦笑いするが、バナを追い帰そうとはしなかった。


「甘いなぁ。オレ達」

「仕方ないかぁ」

「うん……」


 そんな3人に、ヘイズルとアイリンまで、


「相手がエイブお兄ちゃんだからねぇ」

「しょうがないよ」


 何故か納得している。



 それはそうと、今回の密馬車計画がバレバレだったのは置いといて、僕の旅の食料まで馬車に積んでくれてる事が気になって、幼馴染達に問い掛けた。


「本当に僕も堂々と行っていいんだ?」


「最近のエイブはお疲れ気味だったしな」

「これまで頑張ったご褒美だ」

「州の主な面々にも、州長は留守って言ってある」


 驚かすのは失敗してしまったが、後の心配が何もいらないとは……素晴らしいっ!


 何も憂う事なく、旅の間過ごせそうで僕はお礼を言う。


「ありがとうっ!」

「「おう」」


「エイブお兄ちゃん、良かったねっ!」

「うんっ! 楽しもうっ!」


 バナと二人喜び合っている僕に、御者席からエッドが言って来た。


「事務決済は残しとくってさ」

「何で~っ!」


 僕は居ないんだから、皆で決めて処理しといてくれよ~っ!


 そうして旅の終わりに待っている書類の山を想像し、天国から地獄に突き落とされた僕は州都から、そして北の州から初めて旅立った。






密談


「ただいま帰りましたっ」

「お帰りっ」


「どうだった?」

「OKっ! 手に入ったっ!」


「おし。これで通行手形はバッチリだなっ」

「うん。これなら皆、納得してくれるでしょ」


 この所様子のおかしいエイブが安全に旅に出れるよう、思いつく限りの手は打てた。


 エイブも自分が煮詰まっているのが分かっているらしく、黙って島都への旅に付いて行こうと何やら準備している。


 後は難関だが、親方達を説得するだけだ。



「まぁ、しょうがないよなぁ」

「ず~っと出たがっていたものねぇ」


「そんなに良いもんじゃないと思うんだがなぁ」

「一回経験したら分かるさ」


「確かにっ」

 皆でドッと笑いあう。


 最初の時より、旅をし易くしてはある。

 今度の旅が、エイブの気分転換になってくれればそれでいい。



 エイブさえいれば、北の州は何とかなる。


 これは北の州の皆の総意だ。

 いや、今ではクロワサント島の一般島民の総意とも言える。


「どんな事が起こるだろうなぁ」

「楽しみねぇ」


 後はエイブが密馬車してくるのを待つだけだ。


「ちょっとヘイズルとアイリンが気の毒ね」


「バナで慣れてるから大丈夫さ」

「「確かにっ」」



 明るい未来の予感がする。

 この風をずっと感じて来れたのは、エイブのお陰。


「エイブは今度はどんな波を起こすかしら?」

「きっと全島を巻き込むさ」


 海の波頭が白く輝くごとく。


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