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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
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やさぐれて。

「今日も今日とてお留守番~」

 かなりやさぐれ状態で、僕は自虐的に歌なんかを口ずさむ。


「うわっ、エイブが壊れてる……っ?」

「おいおい、エイブ?」


 そこへちょうど帰って来た幼馴染達に、思いっきり引かれた。

 だが、気にしな~い。


「僕も旅に出たい~。う~ら~め~し~や~~~」


 何だか我ながらくじ引きが復活してから、僕の精神年齢は下がっていく一方な気がする……。



 北の州はくじ引きが復活してからも、問題なく復興が進んでいる。


 更に全島でくじ引きが復活すれば、今起こっている問題のほとんどは解消されるはずなので、それは目出度いし、嬉しいに決まっている。


 だが、僕自身としては北の州のくじ引き復活が出来たら州長からお役御免で、一州民として暮らせるのだと思っていたのだ。


 父はどうだったのだろう?

 自州の復興後はどうすると考えていたのだろうか?



 今、北の州は平和だ。

 他州の事は考えず、北の州の復興だけなら達成したと言える。


 まぁ、日常に使う道具類でさえ他州頼りになっている現状は、技術的にも人材的にも色々と問題ではあるが……。


 でも、普通に暮らしていくだけなら何とかなるのだ、北の州だけなら。

 平和な北の州だけなら、僕が州長じゃなくてももう全然問題ない。


 実際僕が他州の事にまで手を伸ばしたから、他州から北の州長である僕が睨まれ始め、僕は州長館からろくに出れなくなっているのである。


 自由に動き回りたい僕にとっては、踏んだり蹴ったりな現状である。


 もう他州なんて考えず、北の州だけで好きなようにやっていけば、僕も幼馴染達みたいに、自由に動き回れる様になれるんじゃないか~なんて、薄情過ぎる考えまで浮かんでしまった。



「エイブ、しっかりしろ! 大丈夫か?」


 どうやら、頭の中で考えるだけでなく、口からも出ちゃっていたらしい。


「大丈夫じゃな~い。だから、州長を代わってくれ~。僕も実働部隊に入りたい~~」


「「それはパス!」」

「……うぅ」


 そんなキッパリハッキリ。

 よよよ~と崩れる僕。


「何で~何でなんだ~。何で僕だけここで缶詰~」


 ぶつぶつ気持ち悪く独り言を呟く僕を気遣いながらも、幼馴染達はいつも通り報告を入れて来る。

 だがまぁ、幼馴染達の様子からするに、今回は大きな問題はなかったのだろう。


 まぁ、何回かの抜き打ち摘発があったり、誰かが無事だったり捕まったり、何とか脱走させて北の州に匿ったりが起こったそうだが……。

 取引も順調そうで何より何より……。



「それでな、エイブ。……おい、聞いてる?」

「……うん、それで?」


 一応聞いてはいる、これは性格だから仕方ない。


「帰りに意外な人物と会ったよ」

「意外?」


 北の州へ一緒に帰って来なかったという事は、どこかの州から逃げてきた人ではないのだろう。

 僕は少し、エッドの言葉に意識を向けた。


「お、ちょっと目の色が戻ったね。……で、南の州の青年の家の代表に会ったんだ」

「南の州の青年の家の代表?」


 僕はおうむ返す。


 南の州といえば島都だ。

 相変わらず島都とは商品取引はない。


 南の州は他の8州より逃げて来る人が少なく、内部の情報もあまり漏れてこない。


 北の州と同様に、流行病により壊滅的な被害を受けたのは分かっているが……。


「そう、しかも山道で」


「山道だって?」

「もしかして待ち伏せされていたのか?」

「怪我はない? 大丈夫?」


「大丈夫。意外と常識的な人だったよ。で、これ手土産兼見本だって」


 ドサドサッと机の上に置いてくる。


「ちょっと~っ! もしかしてチーズっ?!」

「何だって~っ?!」


 幼馴染達が一斉に机の物資に目の色を変えた。


「はちみつまであるっ!」

「うはっ。ちょっと食べてもいいかなっ!」


 南の州から来た手土産に夢中で、碌に話を聞いてない幼馴染達を後目に、エッドは爆弾発言を続けた。


「島都は山の麓にあって、牧畜が盛んな所なんだって。でもコメはあまり取れないらしい。乳製品を売りに出してコメを手に入れたいから、取引してくれって言って来たよ」


「どんな人だった?」


 青年の家の代表となれば、僕等よりちょっと年下だが、大体同じぐらいの年代だ。


 何となく似通った所があるかもと、興味が沸いてエッドに聞いてみたのだが、よく考えてみれば、南の州から北の州に逃げて来た人も少数ながら存在している。


 その青年の家の代表とやらも、権力を握っている側から睨まれているのかも知れない。


 でも、山道で会ったって事は自由に出歩けてるって事だよな~。

 州都に缶詰の僕とは違うよな~はぁ~。


「またエイブが遠い目に! 戻って来いいいい!」


「……あ。あぁ、うん」

「声に覇気がないぞおおお!」


 幼馴染は何とか僕に喝を入れようとして来るが、う~ん。

 机に積まれたチーズを焦点の合わない眼で眺めている僕に、ついに諦めたらしい。


「今日のエイブはマジで駄目そうだから簡単に言うと、島都でも闇市場を開きたいらしい。取引先として考えて欲しいって頼まれた」


「南の州は島都だから、下手に手を出すのはまずいし、州の人の生活は他州ほど切羽詰まってないって聞いてたけどなぁ」


「どうも各州の闇市場を裏から支えてるのが、北の州だって知れ渡ったみたいだなぁ」


「あ~~~」


 まぁ、バレるよなぁ。

 自由に州越え出来る州など、北の州以外どこにもないのだから。


 まぁ闇市場に流れる物資の名目は、北の州に逃げてきた人達が故郷に送っている援助物資であって、北の州は運搬を頼まれただけという事にしてあるけど。


 南の州と取引するなら、援助物資って名目が使えないから、正真正銘な商取引にせざるを得なくなるよなぁ。


「ん~。各州で権力を握っている連中が、北の州に文句を言って来るのも時間の問題って事か? 何かもう面倒だな~」


「お~い、エイブ。対策を練らないと……って、言わないのか?」

「こりゃ、重症だな……」


 無気力に椅子を後ろに倒し、空を見上げて面倒臭がる僕を放って、幼馴染達はヒソヒソとやり出した。


「お手上げだぁ」


 どう考えても援助物資の名目が使えない南の州に突っ込まれない取引方法が浮かばない。

 ガンガン皆で相談し、僕にいい案を捻り出してくれたまえ~。




島都


 俺は、本当に島長を尊敬していた。


 流行病に混乱する島都を纏め、民を守り、生き残る為に力の限りを尽くした島長を。


 島長として忙しいにも関わらず、身内を残らず失った俺が寂しくない様に気を配ってくれた。


 青年の家で孤児達と共に生活出来たのも、俺が寂しくない様考えての事だ。



 だからこそ、俺の目標は島長だった。


 手伝える事は小さいが、青年の家の孤児の兄姉達や仲間達と一緒に、島長が掲げていた食糧増産の為、朝から晩まで駆けずり回った。


 森に分け入り、持ち主が逃がしたっぽい牛や馬や羊や豚や鳥を引っ掴まえ、島都に連れ帰っては仲間達と飼育し数を増やし、少しずつだが保存加工に回していった。


 気が付けば、青年の家の俺達は南の州の食糧確保の中心に、青年の家を卒業した兄姉達は治安確保の中心になっていた。




 だが今の島長はダメだ。


 流行病は落ち着いて、南の州は平和だ。


 青年の家の兄姉達が、憧れを込めて話す元の青年の家に、昔の島のくじ引き制度に今なら戻せるはずだ。


 それなのに、


「まだ駄目。まだ早い」

 それしか島長は言ってくれない。




 どこが駄目なんだ。

 いつになったら戻せるんだっ。


 悶々と鬱屈した日々を送っていた俺に、遠出から帰って来た仲間達が言いに来た。


「森の様子が変なんだ。消えてたはずの道が整備されてるっ!」


 何だと?!

 森の道の整備が出来る余力など、島のどの州にもなかったはずだ。


 しばらく待っていたが、南の州には森の道は繋がらない。


 だが、他州へと日々整備されていく森の道に驚きながら、注意深く仲間達と確認に行き、島都館の兄姉達にも他州の情報を集めてくれるよう頼んだ。




 そんな折、怪我をした伝書鳥を弟妹達が拾ってきた。


 運んでいた伝書の内容は、ありえないはずの南西の州と北の州の闇取引……。


「是非とも、仲間に入れてもらうぞっ!」

「おうっ!」


 俺の力では南の州は変えられない。


 頼む。

 南の州を変える為に、俺達も仲間に入れてくれ……。



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