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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
14/102

摘発。

 それから数ヵ月後。

 闇市場の主催者が見つからない事に、業を煮やした権力を握る連中が、少人数で抜き打ちの摘発を行ったらしい。


「エイブお兄ちゃん大変っ」

「何人かが捕まってしまったってっ」


 ヘイズルとアイリンが伝書鳥を手に州長館に飛び込んできた。


「なッ! すぐに助けに行かなくちゃッ!」


 そこまで聞いた僕は訴えたのだが、伝書にはまだ続きがあった。


「落ち着け、エイブ。脱獄は向こうの州がやってくれるから、こっちは逃げてきた人を受け入れるだけでいいみたいだぞ」


「え、そうなのか……?」


 いざとなったら&熱烈大歓迎と言ってあるし、それは構わないのだが、取引相手が危ない目に合っているのに、自分だけこうしてのうのうとしているなんて……。


「じゃあ、州境まで迎えに行くよ! 着の身着のまま逃げて来てるだろうし、もしかしたら北の州の州都への道もよく分かってないかも……っ」


「ばか~っ」

「エイブは動くなっ。俺達が行くっ」

「「うんうん」」


 しかし打てば響くぐらいの勢いで、皆から駄目出しを食らった。

 なぜ……っ?



「大丈夫だ。こんな事もあろうかと、ちゃんと道は整備してある」

「馬車の準備もばっちりだ。後は迎えに行くだけだ」


「北西の州かららしいから、オレが行くよ」

「うん。頼む」


 確かに担当のガーンディなら、何回も陸から北と北西の州を行き来してて、州境の地理も詳しい。

 それに北西の州では一番顔が知られてるし、たぶん面識もあって、逃げてくる人にしたら安心だろうけど~。


 非常に僕は不服だ。


「僕はまたお留守番ですか……」


「「その通り」」

「……」


 僕はいつになったら、州都から出掛けられるんだろう……。

 もしかして州長でいる間は、ずっと州都に缶詰?

 ややや、諦めないぞ~ッ!


 が、今は緊急事態だし、今回はおとなしく引き下がるとしよう。


「分かった。じゃあ任せる。気を付けて行ってきてくれ」


「おう」

 ガーンディは早速旅支度をするのだろう、部屋から出て行った。


「じゃあおれも行くな」

 ダニャルも僕に声を掛けてきた。


 どうやら一緒に行くらしい。

 まぁダニャルが僕等の中で一番馬車に慣れてるし適任かなぁ。


「危なかったら無理せず戻って来てくれ」

「おう」


 ガーンディの後を追うダニャルの背を見つめながら、何事も起こらない事を願った。




「すみません、本当にお世話になる事になってしまって……」

 北西の州から逃げてきた人達は恐縮しきっていた。


 僕は首を横に振った。


「僕の方こそ、ちっとも動かなくてすみません。お疲れでしょう、今日は州長館でゆっくり休んで下さい」


 ご飯とお風呂の準備はばっちり。

 後は明日隣村に連れて行って、落ち着いて貰うだけだ。


「無事に皆さんが北の州に着いているって、知らせておきますね。何か一筆添えますか?」


 ヘイズルとアイリンが連れて来てくれた、北西の州の伝書鳥に預ける伝書を書きながら聞いてみた。


 少し考えた末に、答えが返される。


「逃げて来たばかりの癖になんだ、と思われるでしょうが……。ほとぼりが冷めたら自州に帰りたいと」


 う~ん……残念。

 残ってくれて僕等が失った技術を色々教えて貰えれば、本当に助かるんだけどなぁ。


「そうですか、それは残念です。ご自分で書かれますか?」


「いえ、お願いします」

「はい。分かりました」


 僕は、皆無事に北の州に着いた事。

 ほとぼりが冷めたら戻りたいと言う旨を伝え、受け入れ準備をお願いしたいと記載した。



「こんな書き方でいいでしょうか? でも故郷が一番っていう気持ちは分かります」


 しかもこの人達は覚悟の末ではなく、突然に逃げざるを得なくなった状態で北の州に来たのだし、尚更だろう。


 同感を表した僕に、その人は意外な事を言い出した。


「もちろんそうですが、ガーンディ君の話や、特産品の売り買いをしているうちに、自州でもくじ引きを復活させたいと思うようになりました」


「うっわぁっ! いい事ですっっ」


 くじ引き万歳!!

 思わず僕が叫ぶと、一斉にその場にいた幼馴染が吹き出した。


「見ろよ、このエイブの顔っ」

「ホント嬉しそうねぇ」


「悪かったなぁ~、いいだろ別にっ」


 他州の人達の前で恥ずかしかったが、僕は頬が緩むのを止められなかった。


 どう考えても今クロワサント島がおかしいのは、くじ引きが実施されないからだ。


 流行病が流行している時ならともかく、落ち着いている今くじ引きが実施されていれば、他州へ逃げなきゃいけない人が出る訳がない。


「北の州はこうなんだ、と自分自身で周囲に訴えに帰りたいんです」

「はい?」


 北の州を目標にしてどうするんだ?

 ろくな技術は残ってないし、人もいない。

 いつもギリギリの生活なんだが?



 そんな僕を後目に、幼馴染達は大興奮している。


「いやあ。良く分かってる~」

「うん。どんどん見て行って。案内するわっ」

「一緒にエイブで遊ぼうぜ~」


「……おい」

 目の前の現状に全然ついていけない僕で遊ぶって、何だそれっ!


「まぁまぁまぁ」

「じゃあ、後は任せてエイブ」

「部屋はこっちだよ。落ち着いたらご飯にしない?」


「お~いっ」

 完璧に僕を無視して、皆が部屋から出て行く……。



 まあ逃げてきた人達を幼馴染達は気に入ったみたいだし、皆が一緒なら北の州での受け入れも早いだろう。


 何とか騒ぎにならずに落ち着きそうで良かったなぁ。



 その頃から、全島くじ引き復活の動きが広がっていったらしい。

 らしい、というのはつまり僕の場合又聞きばっかりだからだ……ちくしょう!




脱走


「身代わりを袋に入れろ」

「おう。ついでに手紙を入れとくか?」

「うん、これを……」


 豚の死体に、手足らしいのを付けた物が入っている死体袋の中へと、手紙を入れる。


 この死体袋はそのまま家族の元に届けられるはずだ。

 自分達が無事でいると、家族に分かるといいが……。


「大丈夫だ。ちゃんと家に届けられる」

「お前達の家族は、皆で守る」

「「頼みます……」」


「こっちだ」

「「はい」」


 見て見ぬふりをしてくれる治安部隊の人達に深く頭を下げ、指示される方向に音を立てないよう移動する。


 自分達を助ける為に先導する彼等が、どれだけ危険な橋を渡っているのか、ちょっと考えれば分かる事だ。


 それに、州長館の情報を流してくれる彼等まで州長達に捕まってしまうと、危険を承知しながら物資を届けてくれる北の州への義理が果たせない。


 ここで絶対に捕まる訳にはいかない。

 耳を澄まし、息を殺しながら音が出ないように先に進んだ。



「この辺だと思うんだが」

「誰も居ないって事はもしかして」


 意味不明な事を先導してくれる二人が言い合っている。



 そんな村の背にある森まで来た時、馬の足踏みの音がした。


「馬?」

 こんな夜中の森の中に、馬なんている訳がない。


 訳が分からなくて、ここまで連れて来てくれた仲間の顔を見比べる。


「来てくれたんだな……良かった」

「行ってくれ。北の州長に感謝を伝えてくれ」


 自分達の背中を押してから、治安部隊の仲間は急いで戻っていった。



 訝しみながら馬の足踏みが聞こえた方向に、藪を掻き分けて先に進んだ。


「……ガーンディ君」

「オレは迎えです。歓迎しますよ。北の州まで馬車で行きます」


 自分の緊張は、一気に抜けた。

 助かったんだ……。



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