連絡手段。
「どう? 元気かな?」
ここ最近の僕は、青年の家へちょくちょく様子を見に行く。
「うん! 大丈夫!」
「みんな元気だよ! 任せてっ!」
主に世話をしてくれているヘイズルとアイリンが返事をしてくれる。
良かった。
取引先の8州から預かった大事な伝書鳥だ。
亡くしてしまったら、緊急連絡用として伝書鳥を僕等に預けてくれた他州の人達に申し訳が立たない。
でも、最初は大騒ぎだった。
「お兄ちゃ~んっ! コレ何~?」
輸送の船旅から帰ってきたバナが州長館に飛び込んできて、僕に鳥籠を差し出した。
「……鳥?」
「緊急連絡がある時に使ってくれって渡されたっ!」
「緊急連絡?」
いや、確かに他の州長達の動きがおかしいって聞いたから、取引場所も何ヵ所か候補を挙げてもらい、それにともないその日の取引場所も、ランプの合図で指定出来るように、何種類か用意してほしいと頼みはした。
後は譲ってもらった馬を使って、連絡を取り合えば大丈夫だと思ってたんだが、緊急連絡用の鳥?
「これを与えてくれって渡されたんだけど、もう残り少ないの。エイブお兄ちゃんどうしよう?」
「……雑穀?」
バナが見せてくれた餌には、分かる範囲でだが何種類かの草や木の実らしき物が混ざっていた。
「とりあえず、おばあちゃんだっ! 持っていくぞっ!」
「うん! エイブお兄ちゃんっ!」
分からない事は、北の賢者っ!
バナと僕は鳥籠を持ち、慌てて青年の家に向かった。
「伝書鳥だねぇ。うん。元気そうだ」
「「伝書鳥?」」
きょとんとした僕らにおばあちゃんは説明してくれる。
「伝書を託して放つと、相手に伝書鳥が届けてくれるのさ。もっとも一方通行が多いね」
「「一方通行?」」
「放すとこの子等が巣だと思う場所に帰るんだよ。バナ、この子はどこで預かったんだい?」
「北東の州で」
「うん。じゃあ北東の州に帰るだろう。北東の州に伝言がある時、伝書鳥に託して放てば届けてくれるさ」
「「へぇ~~~~~」」
さすが北の賢者。
おばあちゃんが居なかったら、せっかく預けてくれた伝書鳥も、有効活用出来なくて宝の持ち腐れになる所だった。
「おばあちゃん、この子はどうすればいい?」
「逃げないようにして、大きな鳥籠の中で飼うんだね。病の前は北の州でも飼ってたし、どこかに飼い方の本があるはずさ」
「分かったっ」
バナが頷くと、横から2つの声が割って入る。
「「バナ、手伝うよ」」
「ヘイズル、アイリン、助かるっ。皆も本探し手伝ってっ」
「「うんっ」」
こうして青年の家に残されていた伝書鳥の飼育法の、本頼りな試行錯誤の飼育が始まった。
伝書鳥について覚えていそうな人達に聞いてみると、流行病が猛威を振るっている間に、食糧にされたり逃げられたりしたそうだ。
詳しい飼育の仕方が分かる者が亡くなっていた事もあり、この10年程、北の州で伝書鳥は姿を消した。
「野生の伝書鳥を捕まえて、伝書を運ぶように出来るかな?」
「おお。いいな。やってみようぜ」
そうと決まれば準備だっ!
ジェイカブと一緒に青年の家の前で餌を撒き、その上に籠を置き棒で支え、棒に紐を付け、その紐の先を持って青年の家の陰に隠れた。
「来ないね」
「来ないな」
「エイブお兄ちゃん……」
「ジェイカブ兄……」
「何だい?」
後ろからヘイズルとアイリンが声を掛けてきた。
「そこはめったに伝書鳥来ないよ」
「捕まえるなら、林の手前とか良いと思うよ」
しかも2人は手に何羽かの伝書鳥を入れた鳥籠を手にしている。
「お前等行動早いなぁ」
「もう捕まえて来たんだ」
ジェイカブと僕がすっかり感心して言うと、ヘイズルとアイリンはだってね~っと捕まえたわけを教えてくれた。
「一羽だけじゃ、さみしいし」
「野生の伝書鳥を捕まえて、卵を産んでくれたら増えるかなって思って」
その答えに、当然伝書鳥に関して新たな疑問が沸く。
「増やせるか?」
「ジェイカブ兄、聞いてきてよ」
「北東の州の人にか?」
「うんっ」
「分かった。今度聞いてきてやる」
「やったぁ!」
「ジェイカブ兄、よろしくね~!」
楽しそうに、ヘイズルとアイリンは青年の家に戻っていった。
「大変だねぇ。頑張ってっ」
僕はジェイカブの肩を叩く。
「伝書鳩は使えそうなんだろ。ちゃんと聞いてくるさ。任せろ」
ジェイカブも僕の肩を叩き去っていく。
確かに僕は伝書鳥を使えそうだと思ってたけど、何で皆分かるんだろう……。
不思議だ……。
最初に伝書鳥を預けてくれた北東の州の人に、担当のジェイカブが色々聞いて来たり、取引先すべての州から伝書鳥を預かってきたり預けたりして、取引のある8州との緊急連絡用として、伝書鳥を使うようになった。
まだ伝書に使える鳥の数が少ないので、あくまで緊急だけで使うに越した事はなかったのだが、少し前から懸念していた通り、州長・またはその周りの腰巾着達による、闇市場の摘発が行われ始めてしまったらしい。
「案の定来ちゃったか~」
僕は唸ったが、今はまだそれほど悪い事態にはなっていないらしい。
「闇市場はもう生活していく上で欠かせない。だから摘発してくる連中を快く思っていないけど仕方なくお勤めしてる人が、こっそり日時を教えてくれるって」
「あと、船に対しての摘発日も知らせる……って書いてあるよ」
「うん。ヘイズル、アイリン、ありがとう。また着たら教えてくれるかな?」
「分かった~」
「エイブお兄ちゃん頑張ってね~」
「おうっ」
「この子達は、北西の州の子達だよね」
「うん。今度ガーンディ兄に、預けないとね」
遠くから知らせを届けてくれた伝書鳥の、世話をしながらしゃべるヘイズルとアイリンの声を背にして、州長館へ僕は戻った。
伝書鳥に手紙を付けて送って来てくれた誰かが、気遣い無用を伝えてくれる。
それにしても、すでに内通者を作ってあるとは思わなかった。
ちゃんと摘発対策を考えてくれていたんだなぁ。
「そか。なら北の州としては傍観?」
「とりあえず、こっちが出来る事は今のところなし。後はバナ達により一層気を付けるように伝えるだけだな」
「そうだな」
あと念の為、摘発日には他州での接触禁止の徹底かな。
北の州にえらく恩を感じてくれているらしい取引先の州の人は、僕達を危ない目に合わせないよう、最大限に努力してくれている。
その思いに応えないといけないと、僕は気を引き締めた。
夜勤
今日は私が夜勤の日。
しっかり陸の合図を見逃さないよう、ランプの明かりをじっくり探す。
「フィシャリ、これが新しいランプの合図だから、覚えて皆に伝えてくれ」
前回航海から帰った時に、エイブから渡されたランプの暗号。
3つの部分から構成されている。
まず最初は受取そのものが出来るか。
次に、どこの港で受取出来るか。
そして最後が、安全な航海が出来るか。
「今回は候補に挙がっている港をちゃんと見ておかなきゃね」
静かに一人心地る。
昔私達が恐れたのは食事抜きの罰。
それさえも恐ろしくて小さくなっていた。
エイブが居なければ、守ってくれる者が居ない私達の生活は耐え難い物になっていたに違いないとよく思う。
そんなエイブは、私達だけでなく他州の人達まで助けようと動き出した。
他州の人達は、そんなエイブに恩を感じてくれるのか、私達が危険な目に合う事ないよう、正確な情報を集め伝えてくれる。
情報を流している事がバレた時、彼等の場合は、自分達の命が危ないのに……。
「私に出来る事は、物資をきっちり届ける事」
しっかり心に刻んでおかなければならない。
彼等の思いに応えるには、それしかないのだから。