帰航。
「エイブお兄ちゃん、ただいま~っ!」
「バナっ! おかえり~、上手くいった?」
日常だ、日常を継続するんだと、“輝ける白”が帰ってきた事に気が付いたが、そのまま窓の外に気を取られながら、州長館で仕事を継続していた僕。
そんな僕の前に、バナが飛び込んで来てくれた。
「うんっ! バナ、頑張ったんだよっ。……え~っとね、こんな感じだった~」
そう言うとバナは数役こなしながら、エイブに状況説明をし始めた……。
***BGM・スパイ音楽っぽいの
静かな夜の海。
潮や風を読みつつ遥々北の州からやって来て、前もって取引場所と決めた港にあと少しで着くという夜、“輝ける白”の上から陸を見ていたバナは、陸からのランプの光に気付き、フィシャリ姉に目配せした。
「ええ。合図ね」
頷いたフィシャリ姉は、足元に置いていたランプを持ち上げ、ランプの光を布で隠したり取り払ったりをゆっくりと何度か繰り返した。
すると向こうも決められた通りに返してきた。
「間違いない、物資の取引相手だ」
北西の州担当のガーンディ兄も、バナに頷いて来た。
バナが周りを見回すと、仲間は皆頷いてくる。
「よし、明日は“輝ける白”を港に着けよう。くれぐれも気をつけろよ、バナ」
「ええ、分かっているわ」
自分の役目は、今夜はゆっくり休み、明日の入港に備える事。
後の事は夜勤の者に任せ、バナは寝床に入った。
翌朝、“輝ける白”はゆっくりとバナの読み通りに入港した。
「お久しぶりです」
「来てくれてありがとう」
「約束は守りますよ」
ガーンディ兄が、相手の人としっかり握手を交わしている。
しかし顔を合わせても、すぐに物資は渡さない。
ランプの合図以外にも、取引相手の確認手順があるのだ……バナは問い掛ける。
「例のものは?」
「……ここに」
ガーンディ兄と握手していた人が、木彫りの首飾りを出して来た。
「貸してくれっ」
ダニャル兄が引ったくり、手元にある8つの舟形の木彫りから一つを取り出し型を合わせる。
それはぴったりと綺麗に嵌った。
「確かに……。合言葉を」
バナが言った途端、相手は狼狽する。
「そ、そんなの決めていたかっ?」
それを見て、バナはふっと笑った。
「嘘よ。でも、そんなに固くしてて大丈夫なの? これっきりの取引じゃないわ、まだまだ先は長いの。気楽にいきましょう、お互いにね」
「……はぁ」
「ではこちらの物資を収めて頂戴」
バナは帆船に積んであった荷を見せた……。
バナの語りがここまで進んだ所で、バナの後から続々入り、一緒に話を聞いていた幼馴染達が吹き出した。
「ぶははははっ。もう我慢出来ねぇっっ。そんな言い方してないし! バナなんか、めちゃくちゃ緊張してたじゃん!」
「も~~雰囲気壊さないでよ~~っ! ガーンディ兄だって、カチコチだったでしょっ!」
それを聞いてバナは怒っているが、僕も笑う。
「通りで芝居がかってると思ったっ」
「こんな風に報告された方が、エイブお兄ちゃんも楽しいよねっ?」
「うん。何かもうすっかり気分は闇取引!?」
実際、権力を握っている人達にすれば、それ以上の何物でもないのだが……。
「バナ、渡し相手の確認に使った鍋敷きほしいな~。ホントに綺麗だったんだよ~」
「うん。あれは綺麗だったわ。私も欲しいなぁ」
おや、フィシャリからの褒め言葉が出た。
これは凄い。
「お部屋に飾りたいよねっ」
「いいわねっ」
実際に実物を見れなかった僕は、レプリカを作って貰う事にした。
「ご褒美でダニャルに作ってもらうといいよ」
「おいっ!?」
「ご褒美っ!? やった~っっ」
ダニャルは渋るが、バナはもらう気満々である。
「でもダニャル兄ってば、そのままでもバッチリ合ってたのに、州の人が首飾りを出したら、引ったくってさ。さっそく手直し入れるんだよ」
「あれはちょっと邪魔だったわ~」
「荷物運びの手伝いも無視だったね~」
「スミマセンデシタ。オワビに2人に鍋敷きを進呈シマス」
「やったあっ」
「悪いわねぇダニャル」
「イイエ、ヨロコンデ」
弱り切ったダニャルの顔が可笑しくて、つい大爆笑してしまった。
周りの幼馴染達も、ダニャルの肩や背を叩いて大笑いだ。
うん!
今回の航海は大成功!
僕はホッと一息ついた。
後でそれぞれの州に確認に行った幼馴染によると、詳細はそれぞれ違うが、援助物資は無事に南の州を除く各州で開かれた闇市場で売りに出されたそうだ。
次が楽しみになってきたっ!
取引
静かな夜の海。
潮や風を読みつつ遥々北の州からやって来て、前もって取引場所と決めた港にあと少しで着くという夜、バナと皆はもう興奮しまくっていた。
「ある?」
「見えるか?」
「あれっ! あれ違う?!」
「どこだっ!?」
みんな一斉に駆け寄ってくる中、バナは陸からのランプの光に興奮し、フィシャリ姉に飛びついた。
「ええ。合図ねっ」
頷いたフィシャリ姉は、足元に置いていたランプを持ち上げ、ランプの光を布で隠したり取り払ったりを、震える手でゆっくりと何度か繰り返した。
すると向こうも決められた通りに返してきた。
「間違いない、物資の取引相手だっ」
「「うおおおおおおお」」
北西の州担当のガーンディ兄は、バナと一緒に周りの仲間に抱き着かれて押し倒された。
「よし、明日は“輝ける白”を港に着けるぞっ」
「「うおおおおおおお」」
船上はもうお祭り騒ぎだ。
皆で飛んだり跳ねたり、海に飛び込んだりしまくったっ!
「野郎どもっ! 夜勤の者以外全員就寝っ!」
「「はいっ姐御っ」」
フィシャリの号令の元、バナは寝床に入った。
翌朝、“輝ける白”はあっちこっちにヨロヨロしたが、バナの読み通りに入港した。
「お久しぶりです」
「来てくれてありがとう」
「約束は守りますよ」
ガーンディ兄が、相手の人としっかり握手を交わしている。
その後ろの船の上から万歳三唱を行い、口笛、指笛出来るお囃子を飛ばしまくった。
そんな中、目の色変えてたのがダニャル兄だ。
「例のものは?」
「……ここに」
ガーンディ兄と握手していた人が木彫りの首飾りを出して来た。
「貸してくれっ」
ダニャル兄が引ったくり、手元にある8つの舟形の木彫りから一つを取り出し型を合わせ、ぴったりと綺麗に嵌ったのに、さっそく座り込んで手直ししてる……。
そんなダニャル兄に、北西の州の人は引いていたが、浮かれたバナはついふざけて、
「合言葉は?」
「そ、そんなの決めていたかっ?」
「山といえば?」
「川だっ!」
何だか可笑しくて笑っちゃった。
皆もつられて大笑いしてくれた。
「ではこちらの物資を渡すわね」
フィシャリ姉の号令に、慌てて荷物運びに皆で走った……。