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白く輝く帆の下で  ー北の州長の奮闘記ー  作者: きいまき
クロワサント
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出航。

 今日の北の州はちょっと違う。

 早朝から皆して浮き足立っている。


 三枚帆の帆船“輝ける白”が、とうとう本格的に遠距離航海に出るのだ。



 他州への援助物資の輸送を船ですると決めたその時から、使う船は援助物資の量からして“輝ける白”しかありえなかった。


 親方には無理を言って、修理を急ピッチで進めてもらい、進水式もそこそこに僕等は練習航海に出港した。


 なのに……船酔いした。

 こんなに船が好きなのに、何でだよおおおおお!


 まぁ、僕だけじゃなかったのは救いだったが、沖に出た途端に吐き気が込み上げ、役に立つ所か、皆に迷惑かけまくってしまった。


 情けない……。


 これは、航海乗員を慎重に決める必要があると、まず船酔いする僕と、同じく船酔いをする仲間がメンバーから外された。


 さらに州民から出た乗船希望者のうち、身軽な者と青年の家のメンバーで、何度か練習航海を行い、その中でも特に海に強そうな年長者をベースに、今回の航海乗員は決定された。


 もっともバナと、相手側の顔確認の為、8州の代表者と契約を交わした幼馴染達は強制乗船だ。



「いいな。危なかったら無理はせず帰ってくるんだぞ」

「行かなくてもいいのよ。陸から皆で運ぶって手もあるんだからね」


 航海乗員の中で最年少なのが、バナ。


 その最年少が一番重要な舵取りをするんだから、北の州の大人達は、もう皆が心配した。


 バナの才能は、北の州の皆が認める所だが、今回の航海にどうしてもバナが必要だった訳じゃない。


 だが、成功率を高める為にはバナが舵を取るのが最適だった。


 まぁ、強制乗船の幼馴染達ならバナの補佐として最強メンバーだし、周りの皆もきっとバナを盛り立ててくれる。

 不意の事故があっても航海乗員の皆なら大丈夫だろう。



 でも大海原を航海かぁ。

 気持ち良さそうだよなぁ。

 船酔い体質が恨めしい……。


 今回の航海乗員の中には、無理矢理に自分の乗船を認めさせた猛者がいる。


「お前等が超ぶっつけ作業させた首飾りが、ちゃんと合うか気になって眠れないんだっ! おれも連れて行け~っ!」


 ダニャルが名乗りを上げたのだ。


「ダニャルも僕と一緒で船酔い体質だろ? 大丈夫?」


「ヤバくなったら“輝ける白”に木彫りして心頭滅却し、船酔いをブッ飛ばすっ!」


「練習航海中もそれで乗り切ったのか?」

 所々に模様が増えている“輝ける白”を見回して僕は尋ねた。


「当たり前だ! それに木彫り模様が合わなかった時に本物かどうか分かるのは、おれぐらいだろ? 修正もしたいから、どうしても行きたい」


 確かに彫った本人なら確認出来る。


 先に他州に渡す分だけ彫って、残りを後から彫ってたし、ちゃんと模様が合うか気になる所だけど、好きな作業で精神統一し、船酔いをぶっ飛ばしちゃうのは凄いよなぁ。



「超タイムトライアル作業を押し付けたのは、ぼく等だしね。 ダニャルは練習航海でも船酔いをホントにぶっ飛ばしてたから大丈夫だよ」


 どうやらエッドが面倒を見てくれるらしい。


「まぁダメでも命綱着けて海に放り投げれば、ダニャルの目も覚めるでしょ」


「「さすがフィシャリ」」

「どういう意味よ」


 睨まないで下さい。

 青年の家出身の姐御達の中でも、一本筋が入っている貴女への賛辞です。


 フィシャリが居てくれれば“輝ける白”は安泰だ。



 ホントに航海乗員はバッチリ。

 後は何事もなく無事に帰って来て欲しい。


「エイブお兄ちゃん~、荷物積み終わった~」

 バナが僕の所に報告に来た。



 とうとう出港だ。


 今回の航海乗員以外はすべて“輝ける白”から降船し、残るは今回の乗員達のみ。


 何故か僕の所に集まってきた乗員達と顔を合わせ、僕は右手の甲を上にして差し出した。


 ババババッとその上に手が乗っていく。

 最後に左手を一番上に乗せた。


「長い船旅になる。安全第一で行ってくれ」

「「おうっ!」」


 僕はギュッと上から押さえ付けられた手を下から跳ね上げ、エールを送る。


「おっしゃぁっ! 出港するぞ~っ!」

「「おーーーーーっ!」」


 一斉に皆がそれそれの担当場所に散っていく。


 “輝ける白”皆を頼む。


 メインマストを撫でてから、僕は後ろ髪を引かれるが振り向かずに地上へと戻る。



「大丈夫だ。いざという時の対処法はしっかり教えた。」

 親方が戻った僕の肩に、手を置いてくれた。


「はい。エッド達もそれぞれの州からの帰り道は覚えたって言ってくれました」


「なら安心だな」

「はい」


 沖へと進んでいく“輝ける白”を、その場からしばらく動けず僕は追い続けた。




「エイブ、いい加減信用してやりなさい」


 珍しく青年の家からおばあちゃんが出て来て、僕に声を掛けてくれた。


“輝ける白”が気になって、ここ数日上の空で仕事をしている僕を見かねたらしい。



「そうは言うけど、おばあちゃん」


「エイブ、お前の仕事は?」

「……北の州の州長」


「そうだ。お前の仕事は、出掛けている者がちゃんと帰ってこれる場所を残す事。今の日常を継続する事だよ」


「だけどっ」


「エイブは、仕事を任された筈なのに、任してくれた相手に心配されてばかりいるのは嬉しいかい?」


 おばあちゃんの指摘に、ハッとした。

 そうだ、僕は皆なら大丈夫だと思ったからこそ任せた筈だ。


「……嬉しくない」


「分かったようだね。気張りどころだ。頑張るんだよ」

「はい」


 久しぶりに僕の頭を撫でてくれるおばあちゃんの手に、青年の家から会いに来てくれる程、僕は心配掛けてしまったんだと気が付いた。


「ありがとう。おばあちゃん」


 もうしばらく頭を撫で続けて欲しくて、僕はおばあちゃんに頭を下げた。



伝令


「伯父さん、お久しぶりです」


「元気そうだな」

「はい」


 久しぶりに会った伯父に会釈し、集まってくれた皆にも頭を下げる。


「北からの伝言を持ってきました」


 場の緊張が一気に高まった。

 今回の話にどれだけ皆の期待が大きいか、ビシビシ伝わってくる。


「物資の荷造りはもうすぐ終わり、間もなく船を出せるそうです」


 伯父は肩を叩いてくるし、周りも皆、腕を叩き合い、握手し、涙を浮かべる者までいる。


 だが、声は出さない。



 北の州との違いをつくづく感じる。


 こんな時、北の州なら口笛指笛お囃子万歳三唱のお祭り騒ぎだ。


 北の州長が若いから?

 いや、ここがそれだけ抑圧されているんだろう。



 あ、伝言思い出した。


「伯父さん、もう1つ北の州長から伝言を預かってました」

「何だ?」


 一斉に皆がこちらを見た。

 ちょっと恥ずかしいんだが……。


「落ち着いたら、こちらに技術取得の希望者を送りたいそうです。お願いしたいと言っておられました」


「裏別名、嫁探しの旅か」

「久しぶりに聞いたなぁ」


 懐かしそうに、皆がざわざわ語り出した。


「嫁探しでなら、一番に北の州長が来そうですけどね」

「そうなのか?」


「ええ。北の州で一番嫁取り出来なそうなのが、州長ですから」


 本人を思い出して、つい吹き出しそうになってしまう。


 もっと聞きたそうな皆に、北の州長とその幼馴染達のエピソードを、その夜知ってる限り延々と語ってしまった。


 州長には悪いけど、楽しかったぁ。


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