龍と狼、魔王と鴉、少女と幼女。
※某人間性を捧げるゲームとは一切関係ありません。会話内容は全てフィクションです。うん。
- Good Morning -
リュート一行の泊まる宿〈銀の匙亭〉の酒場は、早朝にもかかわらず賑やかだ。
主な原因はやはりと言ってか、リュート一行である。
「朝一の一杯は最高だぜェーにゃはははははは♪」
「おっさんかっ!いや、おっさんだった!?」
おっさんというが、生身は20代半ばである。
朝から酒をかっくらう阿呆とフェンリルに弄り倒され息も絶え絶えなシャナとツッコミの追いつかないカイト。その様子を気にした様子もなく淡々と朝食を食べるクロウとフィーネ。朝っぱらからシャナの部屋に侵入し、抱えて降りてきたフェンリルは今日もご機嫌である。
「飲むのはいいけど、お話の内容は覚えていようね~。」
「マカ氏時計っ!わーお何語だよwwww」
「この肉朝からはちょっと重いな…。」
「もぐもぐ…ごっくん。もぐもぐもぐもぐ…。」
「(死んだ魚の眼)」
「ダメだこいつら!どうにもならねぇっ!?」
所持金に物言わせ、NPCだろうがプレイヤーだろうがお構いなしに料理を振る舞う辺り、太っ腹なのか何なのか。
〈銀の匙亭〉はタダ飯で賑わう客とリュート一行で大いに賑わうのであった。
「いやー食べたねぇ。」
「お前は飲んでただろうがっ!」
リュートとフェンリル、カイトは食事を終えてのんびり…とはいかないが駄弁っていた。
しかしフィーネは淡々と4杯目のパフェを完食し、追加オーダーをする。
「俺甘いの苦手なんだけどな…。」
「ぱふぇおかわり。」
何故かクロウがそれに付き合わされ、一緒になってつついている。幼女に逆らってはいけないのだ。
「何時から入ろっか?私は何も準備すること無いよ。」
「なんかあったっけ?行けるんじゃない?」
「んー。行けるな。」
フェンの質問にリュートが適当に答え、カイトが僅かに思案した後、肯定した。
甘党幼女と食べ過ぎて具合の悪くなった鴉を引っ張り会計を済ます。普通のプレイヤーなら呆然とするような額をサックっと何でもないように支払って、一行はそこを後にした。
結局話し合いをしていない事に気付いたのはダンジョンには入る直前だった。
- 攻略しますよ -
第90階層〈守り人の牢獄宮〉
「思ったよか狭くないんだねぇ。」
5mと言う幅に狭苦しそうなイメージを抱いて居たものの、一人でカバーするには少し広いような幅であることに、思わずと言った様子で零す。ちなみに高さも5mだ。
「盾を使った集団戦闘なら丁度いいくらいの幅だよね。派手に立ち回るなら10mくらいほしいところだけど。」
「これだと下手に範囲系使うと余波が来るな。」
「誰も範囲攻撃で味方を炙る人なんていないさーhahahaha!」
炙ったのか…と頭を抱えそうになるカイトを尻目に一行はダンジョンを進んでいく。
ダンジョン侵入からわずか五分。幾つかの曲がり角を曲がった所で5体の敵と接触した。
「オークさんきたーw焼き豚ぁっ!」
「狼vs豚!勝敗は決した!」
「アホなこと言わんで構えろ!」
初遭遇に無駄にテンションを上げまくるフェンリルとリュートに軽く氷弾を飛ばしながら支援を掛ける。ちなみにこの時点で四重詠唱である。
編成は三体が長槍で残りが斧槍だ。斧槍持ちが前に出て後ろから長槍で突いてくる。狭い通路での戦いでは十分に有効な戦法だといえる。
「いいなっ!二人は前!フィーネは中間牽制!クロウ!翔べ!」
「了解っ♪」
「おまかせ!」
「あいよ。」
「ん。」
「はぁ…。」
言いながらカイトが無詠唱で直径三センチ程の氷槍を数発放つ。本数は少なく矢面に立ったオークに殆どは弾かれるが、後方にいたオークの一体に二本深く突き立った。
それを追うようにして一つの影と一矢の矢が横を掠める。影はオークを軽く飛び越え槍持ちの一体を真っ黒な槍で刺し貫いき、矢は未だ無傷の槍持ちオークの喉に突き刺さる。
「「レッツ・ショウタイムッ!!!」」
そこで、斧槍の範囲ギリギリに出たリュートとフェンリルが四本の剣をぶつけ合いながら振り抜いた。
脳を揺らすような高い爆音と共に、五体のオークのいる空間が歪み撓みギシギシと目に見えて荒れ狂った。その乱れが真空の刃となって容赦無く範囲を斬り刻む。真空の薄刃の淡いライトエフェクトを斬撃の赤とダメージの朱のライトエフェクトが塗り潰す。
[双刃裂空波]の止んだ後には灰色に崩れる五体のオーク。
中距離牽制技といえど絶対者二人による複合発動の威力にはLv1100程度のオークは耐えられない。
「中位スキルでも一瞬で溶かせるのか。思った程でもないな。」
「いや、うち追加で入れたんだけどね。あと、200m先にオーク4体ね。」
「すまん。普段のパーティー数的に忘れてた。」
頭痛でもするかのように頭に手を当て盛大な溜息を吐くシャナにカイトは苦笑いを返す。普段は3~5人くらいで組んでいるのだ。そこで、横から影が飛び出す。
「シャナちゃんそんな寂しそな顔しないでっ!お姉さんが付いてるからっ♪」
「止めろっ!離せっ何処触ってっっっ!!!…おどら我ぇっ!」
「きゃうんっ!」
フェンリルの抱き付きからの攻撃がR15を過ぎた辺りでシャナの肘鉄が側頭部と横腹に見舞われた。ちなみに、側頭部に飛んだのは紅の風で形作られた豪腕である。
「ダンジョン潜ってんだからちょっと自重したらどうよ!?おらっ!前出ろや前ェ!」
「あ~れ~♪」
フェンリルが蹴飛ばされ、さらに風で追いやられて前に出る。
「つーめたーいっ!」
「髪の毛はホットなのにねーっ!」
「「うぇーいっ!」」
ハイタッチをするリュートとフェンリルに盛大な溜息を吐くシャナ。そのままフッとしゃがんだ頭の上を、黒い槍が唸りを上げて飛んで行く。それに紅の風を纏わせながら立ち上がって前衛二人を睨めつけた。
「来たよ。行け!」
「いえ~す、ま~むっ!」
「焼き豚やっほーぅ!」
さらに飛んで来た黒槍をひらりひらりと躱しながらリュートとフェンリルがオークへ向かって走って行く。と、突然地面が凍結して二人してすっこける。
「あ、すまんすまんw座標間違えたわw」
「.....む。」
「おわっ!?」
ニヤニヤと嘲笑うカイトが背後からフィーネに足を掛けられて頭から落ちる。
颯爽と走り去るフィーネを見てクロウが溜息を吐いた。
「おかしい...攻撃してるの俺だけじゃね?」
「いんや、うちも一応牽制してるけど。」
「前衛働けよ…。」
「仕方無い。馬鹿ばかりだし。」
「「はぁ....」」
クロウとシャナが溜息を吐く。
前衛二人が復帰するより早く、敵中へ走り込んだフィーネの斧槍の乱撃によってあっさりとオークたちが崩れ落ちた。
「流石火力バカ...。」
「あのレベルの火力、俺相当上位のスキルじゃないと出ないんだが。」
「魔法バカの俺でもそこそこのスキルだな。」
「うちは無理だね。」
「「「アレで普通攻撃だもんなぁ...。」」」
未だ何事かを叫びながらわざとらしくのたうち回るリュートとフェンリルに氷撃が容赦無く見舞われたのは余談である。
- トラブルメーカーズ -
「さーどんどん行ってみようっ!」
「そいやーそいやー♪」
「帰りてぇ...。」
やたらとハイテンションで突き進む二人を追い掛けるようにして進んでいく一行。
「リュートくん。コレは何だと思うかね?」
「はいっ!スイッチですっ!」
「どう見たって罠でしょうがっ!おいぃっ!?」
「もう押しちゃった(*´∀`)」
「ちょ、まあああぁぁ........」
シャナのツッコミも虚しく、床全体に広がる魔法陣。あっと言う間に輝きを増したそれはカイトの叫びを飲み込みながら一際強く輝いて、ブツリと消えた。
何も無かったかのように静まり返ったそこに、彼らの姿は無かった。
- 魔王と鴉 -
「で、どうする。」
「転移で帰るかな....使えるし。」
「.....いや、探してやろう。」
一瞬クロウが悩んだことは、リュートやフェンリル当たりの日頃の行いを鑑みるに仕方のないことである。
「そうだな。シャナとフィーを見つけてさっさと帰るか。」
「あぁ。」
...迷いない奴らである。
「探査系なに使える?」
「目視。気配察知。」
「使えねぇ奴だ。」
「五月蝿い。大抵は事足りる。魔力察知も一応は奇襲対策程度には修めているが。お前は?」
「俺か。気配探査、魔力探査、生命探査、意志探査、透視、座標点透視、後は....何だっけな。透視はあるが遠見がないからあまり意味は無いしな。シャナは粗方コンプしてマスターしてる筈だが。」
「風を待つか?」
「適当に歩いてまわりながら補足されるのを待つのがいいか。」
「じゃ、とりあえずコイツら殺っちまうか。」
「おう。こい、氷狼。敵性を排除。周囲を探査。」
空中で次々と凝結する体長2m程の氷の狼が理解を示すように一つ吠えた。
「さてと、メニューはトカゲの氷漬けかい。不味そうだ。」
「真まで凍って跡形も残さないさ。」
カイトが高く杖を掲げる。それを見てクロウが僅かに膝を屈めた時、氷狼の第一陣が周囲を囲い始めていたリザードマンに襲いかかった。
「吹き荒らせや凍風!」
掲げた杖を振り下ろすと同時にクロウが飛び上がり天井に張り付く。振り下ろした杖が床を叩く寸前で、その先から蒼い魔素が吹き荒れる。這うように一瞬にして広がったソレがリザードマン達の脚へ喰らいついた。
身動きを取れなくなったリザードマン達はあっという間に氷狼達に八つ裂きにされ灰に還る。次々と役目を終えた氷狼は、それぞれ一声吠えて幾つかの通路の先へ消えて行った。
- 龍と狼 -
「強制転移かーいwww」
「それもランダムタイプみたいだねぇw」
「どっする~?」
「シャナちゃんがお姉さんたちを見つけてくれるに違いない!」
「違いなくないかもしれないっ!www」
「あははははっその通りっ!」
「どうすんのよw」
「コレが日頃の行いというものかっ(*´ω`*)」
「ナゼその顔wwww」
「ま、いいや。てきとーに進もっか。」
「うん。そーしよー。」
一連の会話を一瞬ですませて、リュートとフェンリルは歩き出した。
- 少女と幼女 -
「......どこ。」
「さぁ?」
沈黙が落ちる。
「.....さがして?」
「あー、はいはい。」
フィーネの上目遣いにたじろぎつつ、適当な探査系スキルと紅の風を広げる。
「遠いわー。」
「.....どこ?」
ちょいっと方向を指さすと、フィーネは拳を振り上げる。
「崩壊したりしないよね?」
「........しらない。んっ!」
とんでもな速度で振り抜かれた拳から衝撃波が放たれる。
凄まじい破砕音と共に壁が穿たれて、1メートルほどで隣の通路に抜けた。
「一発かい。」
「...うん。」
次々壁を打ち抜きながらシャナ達は歩き続けた。
- Dragon&Wolf -
「囲まれたーね。」
「焼払っちゃう?」
「私ごと?」
「あはははははは.....。」
妙に種類豊富な敵達をバッサバッサと切り倒しながら、そんな会話をする二人。片や飛び掛かる狼や猿や蛙を二槍で滅多刺しにし、片やバスタードソードから白焔を迸らせながら手にした武器を振り上げた鬼族や樹人を焼き払う。
「お、察知範囲に風っぽい反応来たよ!」
「シャナちゃ~ん!お姉さんが今行くぜっ!」
「まず倒そうねーっ!」
「おうともよー。」
立ち塞がったオーガの両手斧をリュートがかち上げて、飛び上がったフェンリルが首を叩き斬る。着地と同時に炎波を流し、そこに突っ込むようにリュートが特大剣で薙ぎ払った。
「よく考えると、よく考えなくってもココってモンスタールームだよね!」
「そういえばそうだねっ!何とかなるさ!」
「突撃っ突撃~ぃ!」
派手なエフェクトをぶち撒けながら二人はシャナのいるはずの方へ進み始めた。
- Devil&Craw -
氷柱が無数に突き立ち数十と群れた小鬼を穿っていく。辛うじてそれを逃れた者も宙から降り注ぐ瞬きの様な闇に急所を貫かれ崩れ落ちる。
幾度と無く現れる敵を容赦無く絶命させる。冷たい刃を恐れる事を知らない者達は狂ったようにその身を躍らせた。
「次は300m先、不確定二足トカゲ27体。やっぱシャナでもあるまいし個体までわからん。」
「たとえ目視できても俺はそんなに敵の種類知らないからな。仕方ない。」
アバウトに座標指定で氷嵐を放ちながら弄ぶように杖を廻す。
「まぁ、新種が少ないだけ御の字だ。オレも新種になるとさっぱりわからん。あの魔法関係ほぼ無効はウザかったぞ。」
途中で出て来た錆びた表皮を持つ獅子の防性には溜息が出た。わざわざ環境干渉型の魔法だのさして上げてもいない錬金術だのを応用する必要があった。物理的攻性を持った氷系魔法の数々が無効化されたのは腹が立った。
「あれか。普通に物防も高かったしな。リュートみたいに全種類の攻性を扱えれば早いんだがな。打撃関係はあまり上がってねぇしな。衝撃系は槍だと耐久の問題がなぁ...。」
「魔法特化のオレだと刺突武器以外だとイマイチ火力が出ないし殆どスキルマスター称号用だな。何故か両手剣スキルは上がってるが....。」
一時期魔王様プレイをしていたせいか両手剣が槍の次くらいまで上がっていた。魔王=両手剣ってのは差別だろうか。
いつの間にか近づいた四本腕の蛇人を白氷の杭でで撃ち抜き、残った数体をクロウの黒槍が磔にした。
「お、三時の方角にリュートとフェンリルっぽい気配発見。進行ルートからしてシャナ達を見つけたらしいな。」
「おぉ、追い掛けるか。」
追加召喚した氷狼を先行させながら、カイトとクロウは歩き続けた。
- Girl&LittleGirl -
「全員気付いたみたい。もう少し左向きに進んで。」
「.....うん。んっ。」
面倒になったらしく突進技連発で次々と穴を穿って行くフィーネを、駆け足で追いかけながら指示を出す。通路の形状を確認し、一番効率的なルートを選んで修正をかけていく。
もしかして最初からこれで進めば早かったんじゃ?と思ったりしたが、そう都合よく行かないだろうなーと思い直すことにした。
「フィー、スタミナその他余裕は?」
「....減ってない。」
それだけ連発すればそうとう減るはずなんだけどなーとか思ったが口には出さず、流石防御以外は優秀、と考えることにした。さっきからこんな思考が増えている気がする。
「もう少し進行速度を落として。あと十枚抜いたら合流ね。」
「...わかった。」
幾分落ちた進行速度でも十枚抜くのにさして掛からず最後の壁が打ち抜かれた。
- 合流と戦闘 -
「「とうちゃーく!」」
「着いたぞっと。ボス部屋ってやつだな。」
「あぁ。とりあえず合流成功か。」
「索敵能力不足とか何なんだか。」
「.....ついた。」
例の如く扉を叩き斬りながらリュートとフェンリルが大部屋へ突入する。
それに続くように近くの壁を打ち抜いてフィーネとシャナが来て、最後にカイトとクロウとゼトが転移してきた。おい、一人多いぞ...?
僅かに遅れて部屋に無数の明かりが灯る。宙を漂う燐光が瞬く間に増えて、昼間のような明るさで部屋を照らした。
「さて、何が出るかな?」
シャナの呟きに答えるように床から闇が滲み出た。
闇は胎動するかのような蠢きに合わせて徐々に大きくなり、高さにして3m程の大きさで一際強く蠢くと弾けた。
「うわ、堅そー。」
クロウの言葉にフィーネ以外の皆が思わず頷く。
闇の中から出てきたのはガッチガチの岩のような全身鎧に身を包んだ騎士だった。消えかけて何処のものか判らない紋章を複数箇所に付けており、似たような意匠の両手大剣を手にしている。
「わお。コレなんてハ○ルさんwww」
「そして両手剣が竜○砕きモドキww」
某人間性を捧げるゲームをやったことのあるリュートとシャナが顔を引き攣らせながら突っ込む。
「てゆうか、おい著作権どうしたw」
「イメージこそ被ってるけど全く似てないから大丈夫じゃない?性能は似てそうだけど。」
カイトがもっともなことを言うがシャナが一応補足した。
「っておいぃwww許可とったのかいwwww」
「どうした?」
「ぜひ使えって言われたってw」
秘密裏に許可を取っていた事がリュートから判明してフィーネ以外全員が苦笑いした。
会話が一段落着いたのを見計らってか、岩の騎士が両手大剣を床と打ち鳴らす。打たれた床が簡単に陥没して、その威力をうかがわせた。
「....ふぅ。さて、殺るか。」
「ん?どうした?」
「いやなに、酒が切れただけさ。手持ちも補給を忘れてなぁ。」
「リュートくんwww私だけこのテンションとかつらたんですww」
「........おねーちゃん。」
「む、解せぬw」
酒が切れたら姉呼ばわりかと、思わず笑いながらリュートは盾を掲げて一撃を受け止めた。
「さっさと帰って酒盛りだ!我に続けぃっ!」
「前は酒のんだテンションがデフォだったんだがな。」
「ふっ、若かったのさ。」
コロコロと変わる口調はそのままに僅かに諦観を含んだ声音でカイトへ応答して、リュートは剣を弾き上げた。
「素晴らしく重い一撃だ!気を配れ!」
物理的防御力に重点を置いてカイトが次々に補助をかけていく。それに各々が自己強化スキルを併用して得物を構えた。岩の騎士が弾かれた大剣を横薙ぎに振り払う。
「ゼト!フィー!」
カイトの声に二人は前に出て、大振りな一撃を斜め上へ弾き上げた。そこへ左右からリュート、フェンリル、上下からクロウ、シャナが僅かに干渉し合わないようにしながら次々と襲いかかる。先に出たリュートとフェンリルが片手剣で胴を打ち据え、下を抜けるようにシャナが両手の脇差とショートソードをアキレス腱目掛けて切り払い、頭部へ向かってクロウの黒槍が突出された。さらに追い打つ様にしてカイトが生成した5つの氷塊が正面からぶち当たる。
が、そのどれもが鈍い金属音をたてて弾かれた。岩の騎士は僅かに身動ぎしたものの弾かれた剣を再度振り払らい、それに合わせて一度接近した全員が飛び退いた。
「なまら堅いw衝撃系か加熱かね?」
「見た目通り岩なら雷撃も効果薄そうだな。」
「隙間狙ったが、見事に逸らされたぞ。技量も十分と見ていいな。」
「重いには重いが、俺なら受け止められるだろう。フィーは攻撃へ回ってくれ。」
「...ん。わかった。」
一部の攻守を素早く入れ替えて、まずゼトが前に出る。カイトが防御偏重に補助を掛け直し、自重を増加させる補助魔法と受け能力を補助する特殊な局所結界を張った。基礎防御を上げつつも敵の攻撃を停止させ、手数を強制的に削減する実に贅沢な仕様である。取り扱いの難しい魔法もなんのその、効率とロマンを無駄に贅沢に両立する辺りがカイトクオリティだ。
ガッチガチの壁役仕様と化したゼトが大振りに振り下ろされた剣撃を交差した腕で受け止める。衝撃を吸収するように僅かに停滞した大剣が盛大に打ち上げられた。
そこへフィーが駆け込む。
防御を捨て攻撃のみに特化した補助と一度限りの完全防御に身を包み、自己強化を重ねて、斧槍を振り上げる。振り上げた勢いに反発するように僅かなタメを作って放たれた垂直打ち下ろしが岩の騎士の腹部装甲を木っ端に砕いて床に突き刺さり、その途端床を抉るように爆発を起こして切り返された斧槍が腹部打たれて強制的に俯向かされている岩の騎士の胸部装甲を粉砕する。その勢いと共に飛び上がり、|空踏(エアハイク〉を駆使した立体軌道をもって全身鎧の殆どを破壊した。
高い集中力を要求される術式複合戦技を計11回行い、そのどれもが正確に装甲を粉砕し、ボスクラスの敵にも関わらずHPを半分近く消し飛ばした。
「似たもの親子め。」
「仕方あるまい。そう言うものさ。人なんぞ。」
クククッと品のない笑いを互いに漏らしたカイトとリュートの間にフェンリルが顔を出す。
「リュートく~ん、まじ私だけこのテンションは辛いんですけどどうにかならないのかよぅ。」
「ふむ、まぁ諦めい。さあて、似た物親子の本領発揮と致そうか。私もたまには活躍しないとな。」
ニタリと顔に似合わない悪質な笑みを浮かべて、リュートが愛剣を床と打ち鳴らす。カイトが溜息を吐きながらも補助を掛けた。
無駄に優雅に歩きながら岩の騎士へ近づいて行く。それを確認したゼトが絶妙なタイミングで擦れ違うように後退する。
「まずは受け。」
そう言って両手で持った愛剣でもって、振り下ろされた大剣を受け止める。重量差から容易に折れても疑わしくない一撃を余裕を保った表情で受け、力強く跳ね上げた。まるで大剣そのものが浮かび上がったかのように弾かれた岩の騎士は大きく体勢を崩す。
「そして攻め。」
薄ら寒い嗤いを口角に割り付けて、リュートが掻き消えた。
刹那も無く岩の騎士の膝裏に現れて、断ち切らないまでも半ばまで斬り裂き、また掻き消える。全ての動作が殆ど無音で行われ、字面通りの瞬く間に無数刀傷が出来上がる。
身体を支える筋の殆どを隙間を縫うように切り刻まれた岩の騎士が正座のような形で膝をつく。
その上体が前後どちらかに倒れるよりも先に
「そして終わりだ。」
脇に抱え込むように絞られた剣が閃き、太い首を守る装甲ごと斬り落とした。